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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第15話 津田久美子と囲碁まつり

H13年夏休み side-Kumiko

 囲碁まつりのイベントにやって来た。イベントは夏休みを利用して一週間に渡って開催されている。
 
 あかりは家の用事があって来れないので今日は独り。進藤君もいるのに残念。
 
 囲碁の大きなイベントに来るのは初めてで緊張するけど、奈瀬女流に会いたい一心で勇気を振り絞ってやってきた。手渡されたパンフレットでタイムテーブルを確認する。

 わ、初日に100面打ちなんてあったんだ。見てみたかったな。

 メインはプロも出場して賞金も出る大会がある。棋戦以外にもプロが出て賞金が貰える大会って結構あるのかな?他にも団体戦や女性大会やペア碁、リレー碁、こども大会があるらしい。トークショーの他に囲碁術語の英語講座なんていうのもある。

 プロの指導碁は事前受付で応募者多数の場合は抽選ってあったけど、たぶん応募はいっぱいあったと思う。

 世間では今ちょっとした囲碁ブームが起こっている。

 私が奈瀬女流のファンになったのは今年の1月だけど、その頃は殆どの人は奈瀬女流のことを知らなかった。

 まず春に塔矢行洋五冠が突然引退を表明してワイドショーで取り上げられた。

 テレビでも過去の活躍を振り返るとか引退特集とかが組まれて囲碁界がメディアが注目した。

 弟子で二冠になった緒方先生とか女性誌にグラビアっぽい写真が載っててクラスの女子にカッコいいって言われてた。

 そして若獅子戦での奈瀬女流の優勝。奈瀬女流がテレビで取り上げられた。

 普通は若手棋戦なんて一般には注目されないんだけど息子の塔矢アキラ君が出場するってことで注目されていた。

 その後は女流棋戦を勝ち進み今や最強の女流と呼ばれるようになっている。

 また七大タイトルの一つ天元戦にいたっては本戦トーナメントを勝ち上がって女流初のタイトル挑戦の期待がかかっている。。

 今や中学生で本因坊リーグ入りを果たした塔矢君と並び日本囲碁界の新しい波として大きく知られる存在になった。

 またプロとアマが対戦する全日本早碁オープン戦でアマチュアの女の子が最終予選を突破して本戦出場を果たした。アマの本戦出場は大会初でテレビでも大きく取り上げられて連日メディアに話題を提供する囲碁の人気が高まってきている。

 ほら、すごい人だかり。あ、倉田七段だ! いっぱいサインを求められてる。

「もうすぐ名人、そのうち棋聖、つぎこそ本因坊っと!」

 そんなサインでいいんだ。でも貴重かもしれない。

「へー、だったら天元は私が先に頂いちゃいますね」

「お、話題の女流最強じゃん」「って、その呼び方は止めてくださいよ」

「ま、奈瀬二段? 強いよね。序盤、中盤、終盤の打ち回し隙がないと思うよ。だけど……俺は負けないよ」

 周りから歓声があがる。奈瀬女流だ!!私もサインお願いしてもいいのかな??

 でも、いきなり声をかけるのは恥ずかしい。指導碁もあるし、その後に様子を見ながら……。

 二人の会話に新藤君が加わってる。塔矢君と進藤君が戦えるのは倉田七段のお陰らしい。というか奈瀬女流とも普通に会話してて羨ましい。プロの同期だもんね。いいなー。

 囲碁まつりに来て本当に良かった。指導碁は3面打ちだったけど憧れの奈瀬女流と打つことができた。奈瀬女流は指導碁の後は予定がなかったらしく少しお話することもできた。私は友達に誘われて中学で囲碁を始めたこと、その友達が進藤君の幼馴染だというと奈瀬女流が食いついて来た。

「へー、意外と進藤も隅に置けないのね」

 新初段シリーズの奈瀬女流の戦いを見てファンになったこと。それから囲碁が以前より好きになって本気で強くなりたいって思うようになったことを話した。

 タイミングを図って奈瀬女流に「どうしたら強くなれますか?って思い切って聞いてみた。

「私の場合は憧れかな? 憧れに辿り着くまで諦めないことが大事だと思うの」

「憧れですか?」

「うん。私の場合は憧れ。私もね。伸び悩んでた時期があるの。プロになれるのかなって……」

「そうなんですか?」

「そんなときに出会ったのが今良くも悪くも話題になってる和-Ai-ね。彼女の碁に心から惹かれたの」

 奈瀬女流がプロになったときから公言してる正体不明のネット棋士が和-Ai-だ。
 5万ドルもの賞金が懸けられて韓国のプロ棋士とのネット碁での三番勝負がニュースになっている。

「ま、本当に憧れてる女性は別にいるんだけどね。あと諦めきれない人も」「えっ?」

「あ、ごめん。ごめん。えーっと、ちょっと関係ない話になっちゃったかも」「い、いえ……」

「久美子ちゃんは高校を囲碁部で選んだんでしょ?」「は、はい。強くなりたいと思って……」

「だったら高校で日本一を目指しなさいよ」

「え?ええええ!日本一ですか?」「うん。そうよ!」

「だって目標があった方が間違いなく強くなれるわよ」「それは……たしかに進藤君とか見てるとそう思います」

「でしょ? あとは自分を信じて諦めないこと。高校で日本一になったらプロも目指せるわ」「え?プロですか」

「そうそう。ちょっとだけ憧れの話に戻るわね。テレビに映るアイドルやスポーツがいるでしょ?」「はい」

「そういう存在に憧れる人はいっぱいいる。普通は憧れだけで満足する人が大半かな?」「そうですね」

「けど久美子ちゃんは自分も強くなりたいと思った。強くなればなるほど囲碁が楽しくなることを知っている」「はい!」

「だったら強くなって自分も憧れられる存在になれば良いと私は思うの。
 諦めなければ同じ舞台に立って輝けるんだって自分を信じて……ね」

「倉田先生が自分にとって本当に怖い奴は下から来るって言ってたけど……私ね。
 ライバルが欲しいんだ」

「え? ライバルですか?」

「そう。同じ世代の女の子のライバル。進藤とか見てると羨ましいなって思うもん。
 だから久美子ちゃんみたいに囲碁が強くなりたいって言ってくれる女の子がいるのが嬉しいの」

「私が……ライバルになれますか?」

「なれるよ。だって久美子ちゃんは“上手くなりたい”じゃなくって“強くなりたい”って思ってるでしょ?」

 指摘されて気づいた。そういえば昔は何となく上手くなれたら良いなと思って囲碁を打っていた。
 いつからだろう明確に「強くなりたい」って思うようになったのは……。
 ただ上手に打つんじゃない。私は勝ちたい。勝つことで強くなりたい。夏の大会のときも海王中が相手だって私は勝ちたいって思っていた。

 私は奈瀬女流と約束した。高校で日本一になること。そして日本一になって私もプロになりたいと思った。

 途中で解説の仕事が終わった進藤君が会話に加わった。進藤君は私を見てビックリしてた。

「よ、よう。あかりも来てるの?」「ううん。今日は私一人だよ」

「進藤、残念ねー。幼馴染が来てくれなくってー」「えええっ?奈瀬!?」

「うふふふ。久美子ちゃんに色々教えてもらちゃった」「だーーーーっ。よけーなーことをー」

「ごめんっ。でも、あかりも進藤君に会いたがってたよ」

「そうよ。囲碁が打てる彼女がいるなら。時々は打ってあげなさいよ」「彼女じゃねーし」

「はいはい。久美子ちゃんも言ってあげなよ」

「受験で囲碁部で集まることもないから少しは打ってあげてよ。あかりは進藤君のことホントに心配してたんだから」

 高校はあかりとは別になってしまう可能性だってある。
 けど、あかりにも囲碁を続けて欲しいから進藤君にお願いした。

「うーん。分かったよ」「よろしくね」

「久美子ちゃん、今度は藤崎さんと一緒にイベントに来てね」「わかりました!」

 私が憧れた奈瀬女流は実際に会ってみて、やっぱり素敵な人だった。 
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