| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

真田十勇士

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

巻ノ百三 霧を極めその四

「だからこそな」
「それがしにですな」
「術を授ける」
 そうするというのだ。
「奥義も全てな」
「霧の術の」
「わしが備えておるな」
 まさにというのだ。
「その全てをな」
「授けて頂いて」
「そうしてな」
 そのうえでというのだ。
「さらに修行に励んでもらいじゃ」
「強くなり」
「ことを為せ、真田殿にお仕えしてな」
「はい、しかし」
「しかし。何じゃ」
「師匠はそれがしが殿を裏切るとは」
「それは絶対にないわ」
 百地は笑って霧隠の今の言葉を否定した。
「絶対にな」
「そう言われますか」
「うむ」
 返事は明瞭だった。
「御主の目を見ればわかる」
「目ですか」
「よい具合に澄んでおる、その目ならばな」 
 強くそのうえで一途な光をたたえた目だ、その目ならというのだ。百地は霧隠にさらに言った。
「それはない」
「十勇士の他の者達も」
「そうした目だから今も共にいるな」
「二十年以上になります」
 それぞれ幸村と会い共にいる様になってだ。
「最早」
「そうじゃな、その間真田殿に二心を抱いたことはないな」
「一度も」
 まさにという返事だった。
「ありませぬ」
「そこまで想いが強いならな」
「殿を裏切ることはですか」
「ないわ」
 笑っての言葉だった、またしても。
「それはな、それにな」
「さらにありますか」
「真田殿は御主達を裏切らぬ」 
 幸村、彼もというのだ。
「それもまたない」
「殿が我等を裏切るなぞ」
 霧隠は百地に即座に答えた、それも全力で。
「天地がひっくり返ろうともです」
「ないな」
「はい」
 断言だった。
「それは絶対にありませぬ」
「そうじゃ、真田殿も御主を裏切らぬ」
「それならばですか」
「御主達も裏切らぬしな」
 このこともあってというのだ。
「共にそうであればな」
「裏切ることはですか」
「ない」
 そうだというのだ。
「共にそうであればな」
「だからですか」
「うむ、御主達と真田殿は決してじゃ」
「共に裏切らず」
「道を進む、この度の修行ではっきりとわかった」 
 彼等の絆の強さもというのだ、腕が立つという意味での強さだけでなく。そうしたこともわかったというのだ。
「よくな」
「そうですか」
「だからこそじゃ」
「備えた術で、ですな」
「戦うのじゃ、よいな」
「わかり申した」
「さらに強くなってな」 
 こう言ってだ、百地は霧隠を鍛え続けた。霧隠は主の教えた術を次から次に身に着けていった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧