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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  それぞれの戦い

 「人間如きがこのぼくに1人で挑もうって?」

 手筈通り単身で向き合ったシルフの第一声は僕を嘲るようなセリフだった。 リンさんがもたらしてくれた事前情報では戦闘スタイルが僕と似通っていると言っていたけど、どうやらその性格まで似通っているらしい。
 つまり、性格が悪い、と。
 それにしても、ヴェルンドさんやジル・ガルニエに対しても抱いた感想だけど、《龍皇の遺産》に連なるクエストに登場する人たちはどう言うわけか妙に人間臭い。 それもこれも今考えることではないけど、それでも一応気に留めておいて損はなさそうだ。

 さて、風の精霊からとびっきりの嘲笑を頂いたんだ。 こっちも挑発で返してあげよう。

 「風の精霊如き、僕1人でも十分だよ。 僕としてはあっちのお姉さん(サラマンダー)とかそっちのお姉さん(ウンディーネ)とやりたかったんだけどね」
 「へえ、奇遇だね。 ぼくもあっちのお姉さんたちを刻みたかったよ。 あんたみたいなガキを刻んでもつまんなそうだし」
 「いやいや、それはそのままこっちのセリフだよ。 君みたいな雑魚はさっさと片付けて終わらせないとね。 うちのリーダーはおっかないから」
 「そんなにリーダーがおっかないなら動かないでよ。 そしたらサクッと刻んでリーダーに会えないようにしてあげるからさ」
 「なるほど、僕が動いたら刻めないから動かないでくださいって言うわけだ。 気づいてあげられなくてごめんね」
 「……オッケー、決めたよ。 まずはそのよく回る舌を切り刻む」
 「じゃあ僕はその背中の羽を広げて標本みたいに地面に縫い付けてあげるよ。 虫けら風情にはお似合いの死に様でしょ?」

 にこやかに言葉のドッジボールを繰り広げていた僕たちは、特に合図もないまま互いに動き出す。
 羽を震わせて僕に迫るシルフ。 その飛行進路に鋭く尖ったピックをばら撒く僕。
 シルフはシステムアシストが働いていないピックに当たるわけもなく、その悉くを回避して僕との距離を詰める。 さすがは風の精霊だと、適当な称賛を脳内で贈っていた僕はーーーー

 「わっと」

 ーーーー声を出しつつも余裕を持って首を反らす。
 一瞬前まで僕の口があった空間を刻む白刃の残像に肝を冷やしながら、頭上から振り下ろされる銀閃を雪丸の刃で逸らした。 それと殆ど同時に放った左拳によるジャブはアッサリと首の動きだけで躱されるけど、それはどうせ捨て石の攻撃なので落胆はない。
 ジャブに僅かでも意識のリソースを割いたシルフの顎を目掛けて僕の右膝が飛ぶ。 けれど対するシルフは羽を大きく羽ばたかせて後退。 スレスレで交錯した僕の右膝の向こうで微妙に焦り顏で笑いながら、右手の白刃を再度振るう。
 繰り出される3連の斬撃を地面に雪丸を突き立てた勢いで回避しつつ、空中で体勢を整えてかかと落としを叩き込もうとして、既にこちらの攻撃範囲からシルフが脱していたので諦めた。

 これまでの間、僅か2秒。

 「ふーん、驚いたよ。 まさか人間如きにぼくの攻撃が避けられちゃうなんてさ」
 「あの程度で驚けるなんて羨ましいね。 僕はまだまだ全然本気じゃないんだけど?」
 「ぼくだってまだまだ全然本気じゃないって」
 「ならさっさと本気でかかって来れば?」
 「ぼくが本気でやったらあんたが地べたを這いずり回って命乞いする様子を観察できないからね。 特別に本気は出さないであげるよ」
 「あはは、負け惜しみの準備に余念がないね。 じゃあ、そろそろ殺っちゃっていいかな?」
 「うん。 タイミングはバッチリだからね」

 ニイっと持ち上がった口角に嫌な予感がした瞬間、視界の端がキラリと光った。
 その正体を確かめる間もなく、僕は殆ど反射でその場から飛び退る。 と、極太のレーザーのような紅蓮の光の筋がその場を蹂躙した。

 何が起こったとか、誰がやったのかなんて考える暇は当然ない。
 少年の色が強く残る無邪気な顔に一杯の凶相を浮かべながらシルフが僕に迫っているのだ。

 (迎撃)
 (間に合わない)
 (回避)
 (間に合わない)
 (防御)
 (間に合わない)
 (だったら……っ)

 「ぐっ……」
 「じっ……」

 迎撃も回避も防御も間に合わないと判断した僕は、それらの安全策を完全に捨てて雪丸を振り抜いた。
 僕の身に突き立てられる白刃と銀閃の衝撃を確かに感じるけど、雪丸の刃がシルフの身を裂く手応えも感じる。 相打ちに近い形に無理矢理持っていった成果を確認することもできず、軽量の僕は吹き飛ばされてしまう。
 それでもHPバーの減少はそれほどでもないし、シルフからの追撃もない。 急場凌ぎの行き当たりばったり以下の行動にしては割と成功だったらしい。

 「フォラっーーちっ」

 着地の直後に聞き慣れていない、それでも聞き覚えのある声が聞こえた。
 ふと視線を巡らせてみると、ウンディーネの爪を捌いているリンさんの後姿が見える。 どうやら吹き飛ばされた先はリンさんとウンディーネとの鉄火場だったようだ。

 「ねえ、もしかしなくても苦戦中だったりする?」
 「そっちもか?」
 「いやー、まさか極太レーザーが打ち込まれるとか予想外だったしね。 しかも話しに聞いてた以上に敵が強いし」
 「確かに俺が戦った時より強くなってるな。 ちっ……足止めに徹していればなんとかなるが……」

 ウンディーネの爪の乱舞を叩き落としながら言うリンさんの表情はいつも以上に険しい。 恐らく離れた位置で戦っている仲間たちの安否が気がかりなのだろう。
 シルフとウンディーネの強さが明らかに増しているらしい現状で、ノームとサラマンダーが強化されていないわけがない。 ノームには2人、サラマンダーには5人もの戦力を割いているのだから僕たちほどに苦戦していないはずだけど、仲間のこととなるとそんな計算も吹き飛んでしまうようだ。 全く以ってお優しい限りである。

 「リンさん。 クーネさんからの指示に反する提案があるんだけど、どうする?」
 「俺も今、お前に提案しようと思っていたところだ」
 「気が合うね。 じゃあ、肉壁は任せたよ」
 「……他に言いようはなかったのか?」
 「残念だけどそこまで語彙は豊富じゃなくてね、っと、ほら、1名様追加だよ」
 「ちっ……」

 緊張感のない僕の声に対してか、あるいは鉄火場に飛び込んでこようとしているシルフに対してか、リンさんは苦い舌打ちを響かせる。

 そんなリンさんの口元目掛けて封を切った特製ポーションを放ると、それだけで僕の意図を察してくれたのかウンディーネの爪を捌きながら口に咥えて飲み下す。 HP回復に加えて5秒間で最大HPの13%を回復させる高性能ポーションの恩恵を受けたリンさんは、多少のダメージを覚悟でシルフに肉薄した。

 左右の手に握られた短剣が凄まじい速度を以ってリンさんの身体を刻むけど、致命傷になりかねない箇所に絞って防御をすることでそこまで大きなダメージはもらっていない。 いくらポーションの自動回復とスキルによる自動回復とが重複している状況だとは言え即座にそれを実行できる度胸はさすがの一言に尽きる。 その様はまさに肉壁だろう。

 「さて……」

 リンさんばかりにかっこいいところを攫われるわけにもいかないし、そろそろ僕も本気を出そうかな。

 ニコリと笑みを浮かべて逆手に持った雪丸を掲げ、切っ先をリンさんに足止めされているシルフへと向ける。 ウンディーネもシルフも意識をリンさんに集中させているので、僕もまた邪魔を気にしないで意識を集中することができる。

 (風はなし)
 (視界良好)
 (攻撃パターンの解析終了)
 (行動パターンの解析終了)
 (回避パターンの解析終了)
 (後はタイミングだけ)
 (3)
 (2)
 (1)
 (ーーーー今っ!)

 「リンさんっ!」

 溜め込んでいた力の解放と同時に僕は声を張り上げた。
 普通の人相手では難しすぎる要求を、けれどリンさんならば実行してしまうだろうと信じて……

 「そこから12cm右に飛んで!」

 僕の絶大な敏捷値となけなしの筋力値によって放たれた雪丸の投擲と、その進路を知らせる短く単純でありながら瞬時に反応するには足りない指示とが同時になされ、そしてーー

 「ーーーーっ!」
 「じぁっ⁉︎」

 ーー進路を開けたリンさんの身体スレスレを通過して、シルフの身に雪丸が深々と突き刺さった。

 投剣系のスキルを習得していない僕の一撃ではそこまで有効なダメージは与えられない。 そうでなくとも雪丸の数値的な火力は鋭さを除けば最底辺なのだ。 たとえスキルによるアシストがあろうと大したダメージにはならないだろう。
 けれど、僕の攻撃は何もそれだけではない。
 スキルを使わない素の攻撃であるが故に技後硬直はなく、僕は瞬時に腰に差した二振りの相棒を抜き放ちながら疾走して飛び上がる。 3度空を蹴る頃にはシルフの直上に辿り着いた僕の視界には、未だ雪丸の投擲によるノックバックから脱せていないシルフがいた。

 「やれやれ……」

 短いため息と同時に左手のマレスペーロを一閃。

 「結局、本気は見れなかったね」

 空中に浮いたまま身体を捻って右手のエスペーラスで更に二閃。

 「でも、あの世で言い訳ができるからラッキーだったかな?」

 殺意と恥辱と悔恨とで歪むシルフの顔面へとマレスペーロを突き立てる。

 雪丸とは違って数値的火力が恐ろしく高いエスペーラスとマレスペーロによる連撃は、同様にシステムアシストがない状況でもシルフのHPの5割を喰らう。
 そして弾けるライトエフェクトは、先ほどまで防御に徹していたリンさんによるソードスキルの合図だ。

 残酷で無慈悲な一撃がシルフの腹部を容赦なく穿ち、そのまま頭上に高々と掲げられる。 その頃には既にマレスペーロを引き抜いて次の獲物(ウンディーネ)に視線を移し、突貫を仕掛け始めた僕の耳に《ドン》と言うシルフを地面に叩きつけただろう音と、《バシャッ》と言うシルフがポリゴン片へと姿を変えた時の音が届く。

 普段の立ち回りで言えば時間稼ぎがメインで止めに向かないリンさんだけど、だからと言って火力が低いなんてことはない。 殆ど即興だった連携に対応して見せた適応力と判断力、そしてこちらの意図を完全に理解してくれる読解力まで有していて、おまけに仕事はきちんとこなしてくれるなんて本当に有能な人だ。 是非とも一家に一台は欲しいとか、とてつもなくくだらないことを考えながら、僕はウンディーネとの距離を更に詰める。

 どうやらウンディーネは他のモンスターとは違う法則で敵を選定しているらしく、今まで確実にリンさんに向かっていた敵意が僕へと注がれ、同時に鋭い爪が殺到してきた。 大方、最も近くにいる敵に対して優先的に攻撃を仕掛けるんだろうと結論を出しつつ、僕は最小限の動作だけで爪の乱撃を悉く回避する。
 リンさんとの戦闘時にそれらの攻撃パターンは既に見終わっている。 解析を済ませた攻撃なら目を瞑っていようとも回避が可能なのだ。
 これでリンさんがこちらに合流してくれればウンディーネを殺すのも時間の問題だろう。

 さてはて、クーネさんたちは果たして大丈夫なのだろうか?
 え? アマリのことが心配じゃないのかって? それなら心配はいらないよ。 だってほら、アマリだし、ね。 
 

 
後書き
 シルフさん爆散回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 気がつけば1ヶ月以上振りの更新です。 いやはや、社会人って大変ですね(言い訳2回目

 さて、ようやく今回のクエストボスの第1ラウンドが始まりました。 戦闘描写が苦手だと言う残念極まる低スペックさを有するこの私にかかるとどうしても戦闘が淡々としてしまいますね。 精進しなくては……

 次はアマリちゃんとニオさんの共闘パートになるわけですが、ここで少し冷静になると、『そもそもアマリちゃんって共闘できるの?』とか『最悪、ニオさんを巻き込むんじゃない?』とか色々と考えてしまいます。 まあきっと大丈夫でしょう。 私、ニオさん大好きですし←おい
 では、次回は不安だらけの共闘パートになりますので、お楽しみに。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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