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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  全てを破壊し尽くす暴力

 (ジル・ガルニエ・ザ・ルー・ガルー・ロード)
 (レベル89)
 (HPバーは3本)
 (目算で10メートル超)
 (二足歩行)
 (爪は鋭利)
 (牙は長大)
 (足が短く腕が長い)
 (体表を銀の毛によって保護)
 (武器はなし)
 (ただし、爪の鋭さや腕の太さから攻撃力は相当量と予測)
 (戦闘力および危険度は未知数)
 (ウルフ・ザ・アルファ)
 (レベル85)
 (HPバーは2本)
 (目算で7メートル程度と推察)
 (鋭利な爪牙を保有)
 (体毛は黒)
 (武器はなし)
 (そのフォルムから、過去のモンスターの傾向を元に敏捷値特化と予測)
 (戦闘力および危険度は未知数)

 「とりあえず時間を稼いでくるよ」

 思考を高速で構築した僕は、あまりの事態に固まったまま指示を出せないクーネさんに言い残して2体のボスに向かって駆け出した。

 接近する僕に対して、まず反応したのはアルファ。
 その巨躯に似合わない俊敏な動きで急速に間合いを詰めると、とんでもないスピードのまま体当たりを仕掛けてきた。

 もっとも、そんな見え見えの攻撃に当たるほど間抜けではないので、跳躍して回避する。 交錯の瞬間にアルファの背を雪丸で切り裂くおまけ付きだ。
 ソードスキルを使わない上に遠心力を使ったブーストもない状態の一撃だけど、それだけで1本目のHPバーが1割ほど減少する。 アルファの突進の勢いで威力が上乗せされているとは言え、どうやら防御力は低いらしい。

 分析しながら着地した僕に、今度は変身したジルが迫る。
 体長が軽く2倍は伸びた影響なのか、変身前の機動力はなりを潜めてはいるものの、それでも十分に速い。 大きく振りかぶってすくい上げるように繰り出された横薙ぎを、あえてこちらから間合いを詰めることで回避してから、がら空きの両足を同時に斬りつける。
 こちらは防御力がかなりパワーアップされているようで、ダメージは微々たるものだ。

 「アルファはスピード特化! 火力は未知数だけど防御が薄い! ジルは多分パワー型! スピードが落ちた分、防御が硬い!」

 ファーストアタックによって完全に僕をターゲットした2体の猛攻が僕に降り注ぐけど、それらを全て躱しながら僕は叫んだ。

 あいにくアルファとジルの猛攻を回避しながらなので細かい指示は出せない。 でも、そもそもそれは僕の仕事ではない。
 今の僕の仕事は2体の注意をこちらに向けて時間を稼ぐ囮。 作戦立案と指示はどちらもクーネさんの仕事だ。 あいにく囮になっている僕にまでは指示が届かないけど、どんな内容かは大体の予測が可能だ。

 直後、アルファの横っ腹に矢が突き刺さった。
 予想通りの展開にほくそ笑みつつ、僕は滑るようにジルの股下を再び潜り、抜けざまに右脚を切り裂き、そのままジルに背を向けて走る。 そうなれば当然ジルは僕を追ってくるし、矢をその身に受けたアルファは僕からティルネルさんにターゲットを移すことになる。

 複数体のボス戦では基本中の基本。 敵戦力の分断だ。

 防御の薄いアルファを先に叩き、それから全員でジルを叩く。 それまで僕はひたすら攻撃を回避しながらも向こうにターゲットが移らないようジルに張り付きつづけないといけないけど、グリームアイズと戦った時を思えば楽な仕事だ。 軍の一団とは違い、向こうのメンバーは最前線に身を置く猛者。 足手纏いどころか頼れる戦力であり、アルファを仕留めるまでにそう時間はかからないだろう。
 自ら買って出た囮の仕事を全うしつつ、僕は4人によるアルファの戦闘に目を向ける。

 ティルネルさんを狙った突進はハイパー幼女のニオちゃんが止める。 7メートルほどの巨体が突っ込んでくれば恐ろしい衝撃になるだろうに、ニオちゃんの身体は僅かに後退しただけでそれ以上揺らぐことはない。
 この位置からだとよく見えないけど、涙目になっているのはきっと気のせいだろう、うん。

 突進を完全に防がれたことでスタンに陥ったアルファの左右から白と白銀の天使が肉薄し、そして同時にソードスキルを発動させる。 《リニアー》と《ヴォーパルストライク》による挟撃。
 絶対にこの身で受けたくないそれ(冗談ではなく死んでしまう)は、アルファのHPバーを殆ど丸々1本分削り取った。

 天を仰いで悲鳴の咆哮を上げたアルファの剥き出しになった喉元を、さっきまでのポンコツ……失礼、穏やかさからは想像もつかないほど容赦のないティルネルさんの矢が射抜く。
 彼女は元とは言え軍属。 たとえ薬師ではあっても、戦闘に情けを持ち込むほど甘くはないだろう。 それに何より、『血が流れるなら殺せる』なんて言う苛烈極まるスタンスだったらしい(これはキリトから聞いた。 ちなみに情報の出所はティルネルさんのお姉さん)ので、そこに違和感はない。

 「ん、っと……」

 頭上を掠めたジルの攻撃に首を竦めるけど、まあ、この程度なら問題にはならない。 仕返しに跳び上がって更に疾空を使い、高い位置にあるジルの顔面を殴ってから僕は笑う。











 いやはや、さすがにあの4人は強い。
 《ロマン盾》が完全に攻撃を防ぎ、《騎士姫》と《流星》が手数と火力で穿ち、《黒の射手》が正確に射抜く。
 この連携を前に高々ボス1体、しかも扱いは中ボスだろう狼さんに何ができようか。 折角ジルに呼ばれて来てくれたところで悪いけど、相手が悪かったと諦めてもらうしかない。

 それから数分後に爆散したアルファに少しだけ同情して、それからクーネさんとアイコンタクトを取る。
 アルファを仕留めるまでの間、ひたすらジルの猛攻を回避し続けた僕に苦笑いを零してから、クーネさんが高らかに指示を出した。

 「ジルの攻撃パターンは腕による振り下ろしと横薙ぎがメインよ! 爪に警戒しつつ接近戦に持ち込めば倒せるわ! ニオはいつも通り前衛! ティルネルさんは後方からバックアップ! フォラス君は私と一緒に攻撃に専念! ヒヨリちゃんは隙があり次第、ソードスキルをお願い!」
 「は、はい!」
 「承知しました!」
 「うんっ」

 指示の後に続いた返事が誰のものかは言うまでもないだろう。
 アルファを殺した感慨に耽る間もなく、4人はジルを標的に躍り出る。

 今もまだ僕をターゲットにしているジルが両手を組んで野太い腕を振り下ろす。 先程まで戦っていたアルファとは比べものにならないほど重いはずの攻撃を、しかし、僕とジルとの間に割り込んできたニオちゃんが盾を翳して受け止めた。 この分だと、アマリの攻撃すら防いでしまいそうだ。 全く以って恐ろしい。

 ニオちゃんがジルの攻撃を防いでくれている隙に後退して、僕はクーネさんと合流した。

 「アルファとの戦闘中にジルの攻撃パターンを解析するなんて、ずいぶん余裕だったんだね」
 「ジルの攻撃を避けながら観戦していたフォラス君にだけは言われたくないわ」
 「バレてた?」
 「当然です。 あ、ニオ、頑張ってー」
 「は、話してないでこっちに来てくださいよぉ……」

 ボス戦の最中だと言うのに緊張感のない会話。
 確かに2体同時に現れた時は肝を冷やしたけど、そうは言っても所詮は中ボスクラス。 侮るつもりも油断するつもりもないけど、このくらいなら変に緊張する理由にはならない。 肩の力を抜いて、あくまでいつも通りに。

 「ねえ、クーネさん。 ()()、やってもいい?」
 「……フォラス君は変なところで子供よね」
 「ん、そうかな?」
 「だって、新しい玩具を使いたくてウズウズしてるって感じよ。 今のフォラス君は」
 「あはは、そっちもバレてたんだ」
 「まったくもう……。 いいわよ。 好きにしていいわ」
 「さすがはクーネさん。 じゃあ、いこっか? そろそろニオちゃんが泣いちゃいそうだし」
 「そうね」

 同時にニコリと笑って、僕とクーネさんは並んで駆け出した。

 敏捷値の都合上、僕が先行してジルに接敵する。

 前線で攻撃を防ぎ続けてくれていたニオちゃんに内心で詫びを入れつつ、その背を飛び越えるようにして跳躍。 疾空スキルを使ってジルの頭上すらも飛び越えて背後に回ってから、空中にいながらソードスキルを発動させる。

 薙刀ソードスキル『春風』

 単発でありながらノックバック効果を欠片も持たない異色のソードスキルだけど、その地味な一撃は薙刀ソードスキルの中でも最速かつ高威力。 限界まで捻った身体から繰り出される梅色の一撃は遠心力を追加して、音もなくジルの背に横一文字を刻む。 短くない硬直が解けると、僕は再び空中を足場にして跳んだ。
 空中戦であれば味方を攻撃に巻き込む心配がないので、心置きなく雪丸を振れる。 軽やかな着地音でジルの肩に降り立った僕は、真横からその野太い首を一閃。 反撃が届く前にまた宙空に身を躍らせ、何もない空間を足場にして縦横無尽に跳び回る。

 眼下ではクーネさんとヒヨリさんが弾けさせるソードスキルの光芒が煌めき、遠方から飛来するティルネルさんの矢がどうやら弱点らしい喉元を抉り、続く反撃をニオちゃんが涙目になりながらも防ぎ、宙空を跳び回る僕が肩や首を執拗に斬る。
 余裕はあるけど油断はしない。 1本目のHPバーを完全に削ったところでみんながそれぞれ大きく跳躍して距離を取った。

 HPバーを1本削ると攻撃パターンが変化するのはお約束なので、それに対応するためのセオリーだ。

 全員が手早く後退を完了したと同時にジルが咆哮。
 瞬間、実にグロテスクな音と共にジルの背から新たな腕が伸びる。 その数は2本。 これでジルの腕は計4本になったわけだけど、そこまでの脅威は感じない。

 「ねえ、フォラスくん。 あれって私が知ってる狼男さんと全然違うよ?」
 「いやー、僕もあんな狼男は知らないよ。 とりあえず、手数が単純に倍だから気をつけてね」
 「はーい」

 たまたま隣にいたヒヨリさんと短く言葉を交わして、腕の増えたジルに向かって突撃。 この辺りは事前に頂戴していたクーネさんからの指示だ。
 今いるメンバーの中では僕が最も高い回避能力を持っているので、それは妥当な指示だろう。 つまり、実際に攻撃を避けながらパターンを割り出してこい、と言うあれである。 そして、パターンをある程度見た後、他の4人が攻撃に打って出ることになっている。

 それからは戦闘と言うより作業に近い。
 僕がその身を囮にして割り出した攻撃パターンを元にクーネさんが作戦を指示。 それを確実に全うしながらジルのHPを削り、瞬く間に2本目も吹き飛ばして3本目も半分まで喰らった。

 「ヴォオォアアアアァァ!」

 ここでおそらく最後の攻撃パターン変更。
 耳を劈く大音声の咆哮は僕らの耳朶を打ち、これまでよりも更に異形へと変化する。

 HPバー1本目で腕が4本に。 2本で腕が6本になったジルの背に、新たなそれが生える。

 「ねえねえ、フォラスくん。 やっぱりあれ、私の知ってる狼男さんじゃないよ」
 「まさか狼男の特性にあんなものまであるのかしら?」
 「いやいや、あれはさすがにないと思うよ。 あそこまでいったらもう、狼男じゃないね、うん」

 その変化に呆気にとられるヒヨリさんとクーネさんと僕。

 そう。 ジルの背に左右一対の翼が生えたのだ。
 10メートルを超える巨躯。 鋭利な爪を備えた野太い6本の腕。 背に生えた大きな翼。

 最早、狼男とは言えない異形に苦笑いを零しながら、僕の脳内にひとつの単語が浮かぶ。
 《キメラ》
 それはいわゆる合成獣。 様々な獣を掛け合わせた空想上の魔獣を前に、僕は再び突撃を開始しようとしてーー

 「ーーーーっ!」

 ーー背を走った悪寒を頼りに急制動。
 その瞬間にジルは翼を羽ばたかせて空を舞った。

 飛翔。
 僕が疾空スキルを以ってして行う跳躍とは完全に別種の行動に警戒していると、僕たちを見下ろすジルの口内に白い閃光が迸る。 あれが何かなんて、この場にいる誰もが瞬時に理解しただろう。

 ブレス攻撃の予備動作。 しかも、あの色は雷ブレスのそれだ。
 そうと認識してからそれぞれが取る行動は早かった。

 ニオちゃんが大盾を上空に向けて掲げ、その下にクーネさんが飛び込む。 ヒヨリさんは有り余る敏捷値にものを言わせて部屋の隅まで後退。 ティルネルさんは既に後退していた。 そして僕は……

 「フォラス君⁉︎」「フォラスさん⁉︎」

 驚愕に彩られたクーネさんとニオちゃんの声を地に置き去りにして、今までよりも更に速く空を駆ける。
 跳躍に跳躍を重ね、グングンとジルに接近する僕だけど、何も妨害が間に合うとは思っていない。 ジルがブレスを吐き出す直前、ヒヨリさんたちがいる方向とは逆方向に大きく跳んだ。

 初見のブレス攻撃は攻撃範囲が予測できない。 故に、部屋の隅に行ったからと言って安全とは限らないのだ。
 ニオちゃんの盾であれば大体の攻撃は防げるだろうし、ジルのブレスだって防げるだろう。 けど、軽装のヒヨリさんとティルネルさんが攻撃範囲に入っていた場合、彼女たちにそれを防ぐ手段はない。 僕特性の耐毒ポーションを飲んでいるので一撃で麻痺するとは思わないけど、そうなれば大ダメージを被る可能性はある。 だからこそ、そのブレス攻撃の方向をなんとか逸らそうとしたのだ。

 僕に照準を合わせたブレス攻撃が発動する。
 それと同時に何もない空中ではなく、壁を足場にして静止。 行動を始めた時点で回避は諦めているので、僕は薙刀を回転させて武器防御スキルの《スピニングシールド》を発動させた。

 視界が白の閃光に塗りつぶされるよりもギリギリ早く完成した光の円盾とブレスが衝突する。 壁を足場に、と言うより壁にめり込むような勢いで固定されている僕のHPは緩やかに減少するけどそれを無視。

 思いの外早く終わったブレス攻撃にホッと一息吐くと、楽々な体勢で地面に着地した。 この時点で僕のHPは6割を切っている。

 「僕がジルを叩き落とすから準備して! ティルネルさんは()()を!」

 手早く回復用のポーションを口に含んでから叫び、またも跳び上がる僕。
 みんなが殆どノーダメージだったらしいことに安心しつつ、ブレス攻撃による硬直中のジルに最速で到達した。

 「悪いけど……」

 トンと宙空を蹴ってジルの背後に回った僕は、雪丸から手を離してウインドウを開き、クイックチェンジのアイコンをクリック。
 直後に腰に出現したエスペーラスとマレスペーロを引き抜き、ソードスキルを発動した。

 「堕ちてもらうよ!」

 気合と共に打ち出した純白の光芒を弾けさせる24の剣戟は、ジルの翼を徹底的に切り刻み、その巨躯を地に堕とす。
 ジルの墜落地点に先回りしていたヒヨリさんが、無邪気な笑顔で追撃の準備に入っているのが見えた。

 「いっくよー!」

 場に似合わない笑顔と同時にソードスキルが発動。
 上空に向けて繰り出される突進技は確か《ゲイルピアース》 淡いグリーンの色調を纏った突きは正確にジルの身を穿ち、6本あった内の1本の腕を吹き飛ばす。
 火力の低い細剣にあるまじき暴力に苦笑すると、エスペーラスとマレスペーロを鞘に納めてから雪丸を回収して、ティルネルさんの真横に着地した。

 「さて、さっきも言ったけど()()をやるよ」
 「はい。 準備は万端です」
 「さすがはティルネルさん。 じゃあ、まずは僕が突っ込むから、後はお願い」
 「ご武運を」

 コクリと頷いた僕は、新しく作った薬品が満たされた小瓶を4本、指に挟む。 見ればティルネルさんも弓を背にかけて、空いた両手に8本もの試験管を挟んでいた。

 「クーネさん!」

 僕の声を聞いたクーネさんが、ジルと斬り結びながら左手を小さく振る。 それは了解のジェスチャーだ。
 確認すると同時に駆け出した僕は、ある程度ジルに近づいたところで小瓶をばら撒いて、その全てを雪丸で斬り砕く。 それを合図に、ジルの拳を片手剣の共振で弾いたクーネさんがその場から飛び退く。

 瞬間、僕は跳躍を開始した。

 3回空を蹴り、ジルの頭と同じ高さまで跳んで、両手で保持した雪丸を水平に構える。 そのモーションをシステムが検知して、SAOで唯一、僕だけが使えるソードスキルが発動した。

 雪丸が纏うは、アマリの髪色を彷彿とさせる鮮やかな桜色。
 水平に構え、ギリリと引き絞った雪丸を真一文字に振るう。 高速の横薙ぎはジルの鼻頭を斬り裂き、次いで左手を離して右手だけで掴んだ雪丸が同一軌道を辿り、再び鼻頭を斬り裂いた。
 ジルの絶叫を聞きながら、空中を踏みしめて距離を詰め、空いている左拳による軽いジャブ。 そこから更に間合いを殺して繰り出す左肘の一撃はジルの巨体を揺さぶるけど、僕の攻撃はまだ終わらない。
 そこからもう一度跳ぶ。 今度は二度斬りつけた鼻頭に両足を揃えたドロップキックを見舞い、その衝撃で距離を取りつつ空中で逆さまになった体勢のまま、雪丸の柄尻を持って横に振るった。
 この時点で6連撃。 それでもまだ桜色の輝きは消えていない。
 雪丸を振った勢いを利用して体勢を整えた僕は空中に着地(表現がおかしいけど気にしない)すると、グッと身を沈めて、次の瞬間にはジルに再度の突撃を仕掛ける。
 僕の身の丈ほどもある大きな顔を支える野太い首の横をすり抜けると同時に斬り払い、ジルの後方に抜ける。 そして、仕上げの一撃は、振り返り状に限界まで反らした上体を戻す勢いでの袈裟斬り。

 《薙刀》と《体術》、それから《疾空》までを習得してようやく使えるそれは、僕が使用可能なソードスキルの中で最大火力を有する、必殺の8連撃。
 名を《八重桜》

 高火力の八重桜を使えば、当然のように僕は硬直に囚われる。 最大火力の代償は最長硬直。
 絶対に逆らえないシステムの縛めをその身に受けながら、僕は笑った。

 直後に視界に映った、ジルの頭上を舞う8本の試験管。
 言葉では表現不可能なほど妖しい色彩の液体が詰まった試験管の全てを、更に上空から飛来した8本の矢が貫き、そしてその矢が全てジルの頭部に、あるいは肩に突き刺さる。

 矢自体は大したダメージを与えていない。 けれど、ジルの身体は大きく揺らいだ。 そう。 最初に遭遇した時のヒヨリさんのように……

 それは麻痺。
 僕とティルネルさんと言う、アインクラッド中で最も組んではいけないペアが協力して生み出した毒による麻痺。

 八重桜の直前に斬り砕いた小瓶に詰まっていたのは、高確率で《レベル8の麻痺毒》を発生させる悪夢の猛毒。
 上空より飛来した矢によって貫かれた試験管に詰まっていたのは、《レベル8の麻痺毒》と《レベル7のダメージ毒》を同時に発生させる凶悪な猛毒。
 それらがたっぷり付着したそれぞれの凶器に何度も傷つけられたジルは、ボスクラスのモンスターが保有する毒物耐性ですら対応仕切れずに麻痺したのだ。

 グラリと揺らいだジルだけど、そのHPはまだ僅かに残っている。

 それでも、僕は仕留めきれなかったことを嘆かない。 なぜなら、このメンバーの中で最高の火力を持った一撃を準備している幼女が、僕の眼下で待ち受けているのだから……

 「う、おぉおおおおおぉぉぉぉぉぉっ‼︎」

 何度か使っていた《威嚇》の時とは比べものにならないほど気合の篭った雄叫び。
 普段の気弱で怯え症な彼女が出しているとは思えないほど猛々しい咆哮の直後に打ち出されるのは、全てを破壊し尽くす絶対の暴力。

 ズンッ、と言う踏み込みの音が上空にいる僕にまで届いた。
 そして繰り出される、鈍い灰色のライトエフェクトを伴った巨大で重厚な()()()()()()は、僅かに残っていたジルのHPを余さず喰らい尽くし、その身を細かなガラス片へと変換させる。

 そんな恐ろしい光景を見た僕は、硬直が解けずに落下するままの状態で笑った。

 一言だけ感想を言おう。

 ニオちゃんマジカッケー! 
 

 
後書き
(仲間が繋いでくれたチャンスに盾で応える系少女)ニオさんがマジカッケー《ジル・ガルニエ》戦終了回。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 ニオさんマジカッケー、です。

 実は、と言うほど隠しているつもりもありませんが、最後のあれこれは今回のコラボ元である《黒の幻影》に出てくるワンシーンを再現したものです。 もっとも、やはり本家本元の方が断然カッケーですが……
 これを読んだ方は是非そちらを(ダイレクトマーケティング返し)
 さてさて、このままニオさんについて熱く語りたいところですが、とりあえずは今回の総括を。

 今回のコラボで登場した初回のボス、《ジル・ガルニエ》と《ウルフ・ザ・アルファ》については既に語っていますが、しかし、今回はアルファさんが不憫でならない扱いでしたね。
 先輩(ジルさん)に呼ばれて飛び出たアルファさんですが、全く活躍することなく、それどころか爆散する瞬間すら描写されないと言う仕打ち。 いやはや、実に気の毒です。
 まあ、呼び出した張本人も、5人を前に手も足も出なかったので、それで溜飲を下げてもらいましょう。

 クーネさんの指揮と、ヒヨリさんの高機動高火力、そしてマッド化したティルネルさんの毒薬も大活躍。 そしてそれらを全て飲み込むニオさんの恐ろしい暴力が書けたので私としては満足です。

 次は別ルートにいる4人のストーリーになりますので、そちらをどうかお楽しみに。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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