| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第107話:逃げるも戦略の一つ。そうさせないのが優秀な策士。

(グランバニア城・娯楽室)
ピエッサSIDE

マリーちゃんが練習に来るまでの間、城内の娯楽室で一人ピアノの練習をしてると、突然ウルフ閣下が入室してきて手近な椅子に腰掛け見学を始めた。
何か用件があるのだろうけど、こちらから聞いて巻き込まれるのは不本意なので、絶対に聞こうとは思わない。

でも別件では気になる事があったので、序手でにそちらは聞いておくことに……
「あの閣下……最近マリーちゃんが何か悩んでるような感じがするんですけど。お心当たりはありますか?」
無きゃ無いで良いのだが、練習に身が入ってない時があるから困る事もある。

「あぁ、それね」
「やはり何かお心当たりがあるのですね?」
何とかなるのならそれに越したことはないので、何があるのか聞いておきたいわね。

「あんまり深く踏み入らない方が良いよ……アイツの男の事で色々問題があるみたいだから」
「男!? 男というと彼氏の事ですか?」
「他に表現があるかな?」
「いいえ、ありません。ですがマリーちゃんに彼氏が居るなんて驚きです」

「彼女が居るよりかは驚かないけども……」
「そうですか? あの性格で彼氏が居るんですよ! 普通驚きません?」
「性格はアレだけど、容姿と体付きはピカイチだから……」
「容姿と体付きを差し引いても、その男の女の趣味に疑問が残ります」

「趣味は人それぞれだろ……口を挟むなよ」
「まぁそうですけど……」
何だか珍しく歯切れが悪いわね。

「その彼氏さんはマリーちゃんの家柄を存じ上げてるんですか?」
「存じ上げてますよ」
なるほど……つまり“容姿と体付き”にプラスして“家柄”が、その彼氏の心を縛り付けてるのね。

「あ……もしかしてレッ君はマリーちゃんの彼氏の事は知ってるのですか?」
「うわ……お前レクルトの事を『レッ君』って呼んでるの? クールに見えて本当は家でラブラブしてんだ(ニヤリ)」
くっ、しまったわ……ついクセで何時もの呼び方をしてしまった。

「ほ、放って置いてください! そ、それよりレクルト閣下は存じてるんですか!!」
「レッ君閣下も存じておりますよ。ベッドで聞いた事は無いのですかぁ?」
ムカつく。ニタニタ笑いながら私と彼の事をからかってくる。

「聞いた事はありません。レクルト閣下は忠誠心も高く口が堅いですから!」
「裸で抱き付き、耳元でいやらしく聞けば、きっと教えてくれるよ。それでダメなら『教えてくれなきゃエッチは無しよ、レッ君(プンプン)』って脅せばベラベラ喋るよ」

ホント失敗した……
この男に話しかけるんじゃなかったわ。
マリーちゃんの事であれば、もっと真剣に相談に乗ってくれると思ってたのに……

「あれ? ウルフが居る……大丈夫なの?」
視線で人を殺せるならウルフ宰相は私に惨殺されるほど睨んでいると、マリーちゃんが何時もよりは大人しい感じで入室してきた。

「お……どうした?」
「お客が来てるわよ……知らなかったの?」
マリーちゃんの声を聞きながら、一旦目を閉じて落ち着いてから振り返ると、彼女(マリーちゃん)の後ろには隠れるかのようにデイジーちゃんが控えていた。

「ルドマンさんが来たか」
「うん。先刻(さっき)ユニが探してたわよ、ウルフの事……彼女もルドマンさんが来る事を知らなかったみたいだし」
商業都市連合を統括する大商人が、訪れる事を黙っていたとは思えないわね……

「彼女(ユニさん)は知らなかったけど、俺は来る事知ってたよ」
「じゃぁ何でこんな所に居るのよ!? ポピー姉さん(ラインハット一行)もテルパドールの女王も来てるのよ!」
き、近隣諸国の代表が勢揃いじゃないの!?

「だからここに逃げてたんだろ」
「国家のナンバー2が仕事サボって逃げるって如何いう事よ!?」
まったくだ……政務を何だと思ってるんだ?

「俺がちゃんと仕事してて、連中がグランバニアに来たら……先ずは俺のとこに案内されるだろ。そうすると情報を聞きつけた王様が不穏な雰囲気を感じて逃げ出すんだ。でも俺が居なければ、ユニさん等が慌てて王様に直接報告するだろ。それから逃げたとするとユニさん等が凄く困る状況に陥る訳だ。俺に迷惑をかけても良いと思ってるリュカさんも、ユニさん等に迷惑をかけるのは気が引ける……つまり逃げ出さなくなるワケなんだよ」

「流石は性格悪い男の弟子ね……リュカに引けを取らない性悪っぷりよ」
「あれ……デボラさんはルドマンさん等と一緒に、我が国の新兵器を見学しないのですか?」
ウルフ閣下が性格の悪さを見せ付けてると、デイジーちゃんのお母様がド派手な格好で入室してきた。

この人も結構な年齢だと思うんだけど、ド派手な衣装が未だに似合う凄い美女だわ。
因みに、更に後ろからはルディー君も入室してきた。
彼はデボラさんの妹のフローラさんと旦那様のアンディーさんの息子さんです。

「そろそろ行った方が良いわよ……お父さん、怒ってたから」
「計画通りリュカさんが対応したんだ……じゃぁ行こうかな」
行った方が良いと思う……私もコイツの相手をするのはイヤだから。

ピエッサSIDE END



(グランバニア城・謁見の間)
ティミーSIDE

「お待たせしました皆さん。勢揃いでご苦労様ッス」
以前サラボナに行った時に、我が国の新兵器について色々打合せをしていたハズなのに、何故だか父さんに報告して居らず、(国王的に)突然の訪問を受ける事になった。

「『ご苦労様ッス』じゃねーよ……てめぇ~何で報告して無いんだよ!?」
「それはこの連中が来る事ですか? それとも連中が新兵器の事に興味を持ってるって事ですか?」
多分……両方だと思う。

「どっちもだよ! アサルトライフルが関係する事なら最重要な案件じゃねーか!」
「そうですよグランバニアにとって最重要案件ですよ。でもリュカさん……事前に知ってたら、この連中がくる前に逃げてたでしょ?」
……う~ん、その可能性は大きいな。

「……………」
「リュカさん。逃げてましたよね……貴方は!」
ウルフ君の問いに何も答えない父さん。それを見た諸国の方々も「うん。逃げてたな」「流石ウルフ宰相だ……的確な判断」と声が上がる。

「皆様、そんな事よりもグランバニアの新兵器を見学させて貰いましょうよ」
この中で唯一父さんの味方なポピーが、国王バッシングを押さえて本来の目的を遂行させる。だが兵器の話題になるのも父さんには苦痛だろう……

「やだ……見せたくない」
凄い返答だ。
一国の王様が言う台詞じゃないと思う。

「ええ~……凄い答えが返ってきた……」
流石に驚く我が妹。
唯一の味方だろうに……

「ウルフ宰相……話しが違うではないか! 新兵器に関して交渉の場を設けてくれると言ってたではないか!!」
「交渉の場は設けたではないですか。我が国の新兵器を視察するも購入するも、その是非を交渉する場を今ここに設けてるではないですか!!」

「な……し、視察に関する事までも我々に交渉する責任がのし掛かるのか!?」
「そうですよ。以前(まえ)にも言いましたが、『陛下への説得以外の手はずは私が承ります』との事です。先程皆様も認めてくださいましたよね……私が陛下に何も報告しなかったからこそ、この交渉の場を設ける事が出来たのです。事前に報告してたら、リュカ陛下は逃げておりましたからね」

酷いペテンだ。
「あ、あの会合の流れでは、視察後の兵器購入に関する交渉を指してると思うであろう!」
「如何思うかは皆様方の自由ですが、私は一言も『視察の有無は任せてくれ』とは言ってません。ねぇ殿下……貴方も聞いてたでしょ?」

「な、何だお前!? お前もコイツ等が来る事を事前に知ってて黙ってたのか?」
「な、何て嫌な男なんだ君は?」
確かにウルフ君の言う事は正しいけど、ルドマンさんが勘違いするように話しを持って行ったのも事実だろう……

それでいて僕には黙ってるように進言して利用するなんて。
「お前等グルか……二人して国王を罠に嵌めるなんて!」
「ち、違いますよ父さん。僕はウルフ君に喋らないよう脅されてたんですよ!」

「はっはっはっ。何を言われます王太子殿下。伝説の勇者様で有り超大国グランバニアの第一王位継承者な殿下が、私如き平民の脅しに屈するとは思えませんよ。陛下を罠に嵌める為に私と共闘したと自慢しても大丈夫なんですよ(ニッコリ)」

完全に利用されたぁー!!!
何てヤな奴だ。何て嫌な奴なんだ!?
大事な事だから二度思ったよ!

「おいリュカ……我々は知る必要が有るんだぞ。意固地になってないでデモンストレーションをしてみせろよ」
いい加減疲れたヘンリー陛下が、この中で一番付き合いが長いのを利用して、臍曲がりな王様を宥め掛け合う。

「如何しても知りたいのなら、この間やった公開処刑の新聞を読め! リアルなイラスト付で細かく書いてあるから」
国民に頗る評判の悪い例の新聞を読めと薦める国王陛下を横目に、世界一嫌な奴の宰相閣下が優秀さを遺憾なく発揮するかのように用意してた(くだん)の新聞を差し出した。

「ご苦労ウルフ」
そしてその新聞を宰相閣下の手から掴み取ると……
「これを読めぇ、バァカ!」
と、ふて腐れた口調でヘンリー陛下の顔に新聞を投げつける。

「ちょ、ちょっとお父さん……実物を見てみないと私達だって対応出来ないわ。いくらウルフの描いた絵がリアルだとしても、兵器の性能を表す事にはならないのよ」
我が妹は根気強く父親を説得する……

「じゃぁ誰か的になれ! この兵器の性能を見るのなら、実際に人間を吹き飛ばした方が伝わる。誰が良い……お前の旦那か? 義理の父親か? この視察を率先して仕切ってる、そのハゲでも良いぞ!」
ヘソを曲げた父さんを説得するのは難しい。

誰かを犠牲にしろと、出来る訳無い要求を突き付けてくる。
だが我が妹も、そう簡単に引き下がらない。
けっこう厳し返しを打ってくる。

「じゃぁウルフを的にしましょうよ。国王陛下を謀る臣下なんて不要でしょうから、その男を使ってデモンストレーションしてみせて」
まだ身内(グランバニア内)しか言ってないが、彼はリュカ家の子供の父親になる事が確定している。ポピーが知らなかったにしても、この一撃は父さんのタジタジにするだろう。

「そ、そんな事……「俺は良いですよ」
「「「え!?」」」
予定通り父さんがたじろんだのだが、当のウルフ君が問題なさげに要求を了承する旨を伝える。当然みんな吃驚する。

「当初から陛下の信頼を裏切った責を負うつもりで居りました。私の身体を以て全世界に我が国の兵器の恐ろしさを伝えられ、そしてその事が平和へと繋がるのでしたら本望です。陛下も皆様も、迷われる事はございません。そうか私の身体で新兵器の恐ろしさを感じ取ってください」

「「「……………」」」
沈黙がこの場を支配する。
ウルフ君が“殺される事はない”と高を括って発言してる訳じゃない事が解るからだ。

「ウルフを……いや、我が国の宰相を犠牲にする案を推し進めるのなら、私は国王としてラインハット王国に宣戦布告する。自国に帰り戦の準備をする時間は与えてやる……」
ポピーは勿論そんな気ない。それは解っているが、父さんは本気で戦争する事まで考えて発言している。

「ぎ、犠牲になんてしないわよ……じょ、冗談で言ったですから」
「では諦めるん「陛下……我が国の新兵器は世界中に知らせる必要があります。私の事は構いませんので、宣戦布告などと言わずに我が肉体を使ってあさるトライ仏の威力を知らしめてください」

如何いうつもりかウルフ君は自らが犠牲になる事を曲げようとしない。
冗談でも言ってしまった張本人は顔を顰めるしか出来ない。
彼の覚悟の見積もりを見誤ったのが原因か?

我等が国王陛下は如何なる判断をするのだろうか?

ティミーSIDE END



 
 

 
後書き
リュカ伝の外伝を読まずに、先にこちらを読んでおくと
今回のリュカやユニと同じ気持ちが味わえます。
何故ならこの二人も、ルドマンが視察に来る事を知らされてなかったから。

今回のお気に入りワードは「レッ君」です。
テストに出てくるから皆さん憶えておくように。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧