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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第44話 千年の碁 後編(Ai vs sai)

― 塔矢行洋邸 ―

「……まさか…もうAiは勝利を確信してるのか?」

「え? これって黒が逆転してるんですか!?」

「確かに……この2手は棋理に適ってるといえますが……」

「分かってても不思議と打てない手ですね。」

― 中国 ―

「saiは白の地を確実に稼ぎつつ、右辺の黒模様を消しにかかるが……」

「上辺と下辺の白地はかなり大きい。このままでいけば白のsaiが勝つのではと思えなくもないが……」

― 和谷の部屋 ―

「さっきまでは白のsaiが有利だったよな?」

「ジリっとコスミ出た黒が右辺の白を分断した」

「この手が厳しかったのか?」

「この二段バネがうまくできてるよ。切ってもどうにもならないみたいだ」

「くそっ! まさかsaiの白石が防戦一方になるだなんてッ!!」

― 塔矢行洋邸 ―

「この黒の手が厳しかったのか」「ええ……」

「これはsaiが見損じてしまったということなのか、Aiがうまかったと考えるべきなのか」

「ちょっとボクではよくわかりません」

「これはカッコつけた下手な意見とかしないほうが身のためですね」「あしわらー」

「ここでAiが初めての長考か……」

― 藤原佐為 ―

 豊かな発想、深いヨミからの奔放で厳しい打ち手……Aiが強者であることは間違いがない。

 しかし、このAiというものの手からは神の一手を極めようとする気迫を感じない。

 あの者-塔矢行洋-は私と同じく神の一手を極めようとする者だった……。

 先ほどからの手は最善の一手ではない。最強の一手でもない。

 ましては初めて対局する私の力量を測るような一手でさえない。

 私よりもはるかな高みから盤面を眺めているにも関わらず、最善にも最強の一手にも興味など無く。

 「ただこれで勝てるから」とだけ言われているような一手。

 ああ。ようやく思い出せた。私はこの一局を知っている。

 この私とAiの対局は千年の昔に見た。あの屏風絵に描かれていた一局と同じもの。

 ならば次に黒が打つ手を私は知っている。


 碁の盤面の中央にある、縦横の線の交点。

 碁盤の中央にある星-天元-に黒の一手が放たれる。


――ヒカル、投了してください

――ええ。残念ながら私の負けです。お願いします


 黒を持って碁を教える堯がAiで、白を持って教わる丹朱が私……。

「「そこにある碁の意味が分かる頃には、お主も少しは神の一手とやらに近づいておろうて。」」

 ああ。私の望んだ“神の一手”を極める道のりが、これほど遠くにあるものとは。

 ああ。百年の年月、千年の歳月、二千年、数千年、幾星霜を経れば、この深淵へと辿りつけるのだろうか。

 神様はヒカルの元から消えゆく私に何と残酷な碁を見せるのだろうか。

 ヒカルやアキラ、彼の先にある“未来”が――私にはない。

 思い返せば虎次郎と共に江戸に出府し入門した師である丈和が言っておりましたね。

「「もし碁の神様が百だとすれば、碁所の我々が分かっているのは五か六くらいだろうか」」

 ああ。私の碁は七まで届いたのだろうか。
 ああ。このAiというものの碁は十にまで届いているのだろうか。

 それすらも分からぬ。この身が悔しい。

 人間の身でありながら“神の一手”を極めようとする賢しい私を神様は笑いになさるのか。

― 塔矢行洋邸 ―

「この“天元の一手”で白のsaiが投了」「Aiの中押し勝ちか」

「まだ白が生きるための手はあるとは思うのですが……」

「ここで生きる手を打っているようだと中央に地を許してしまって、勝ち目がないというのがsaiの判断だったのかもしれません。」

「どちらにせよ我々には判断できない。
 Aiとsaiにしか見えてない世界があったということか……」

「もー。最近のネット碁対局ってゼッタイにオカシクないですか!?」 
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