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小細工

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第四章

「何なんですかね」
「巨人のカラーがそれだけ悪いということじゃ」
「チームの雰囲気が悪いんでしょうか」
「多分な」
 そうではないかというのだ。そしてだった。
 阪神の攻撃になる。マウンドにはソフトバンクから強奪してきたホールトンという助っ人がいた。だが今のぱっとしない阪神打線にどんどん打たれていた。
 それを見て阪神ファン達は喝采を叫ぶ。
「打ったで!ダイナマイト打線復活や!」
「みいホールトン!これが虎の力や!」
「金でソフトバンク裏切った奴への天誅や!」
「御前もマウンドから引き摺り下ろしたるわ!」
 こうだ。皆でビールを飲みながら口々に叫んでいた。
 ホールトンはマウンドで項垂れている。そこにはかつての雄姿は何処にもなかった。
「ああなりますよね」
「絶対な」
「肩に小錦がいるって言った助っ人もいましたし」
「ああ、ロッテから来た奴じゃったな」
「ヒルマンでしたっけ」
「ヒルトンだったか?」
 この辺りの記憶は曖昧になっていた。僕も老人も、
「何とかいいましたね」
「やたらでかいピッチャーじゃったな」
「ですが巨人では全然動きませんでしたね」
「全くな」
「ロッテっていえばロッテに行ったグライシンガーは」
 これも巨人が強奪した選手だ。ヤクルトから。
「巨人じゃ本当にでしたね」
「働かなかったのう」
「全くですね」
「そうじゃな。あいつもな」
「クルーンもいい結末じゃなかったですし」
 この助っ人もだった。横浜から強奪してきたが。
「終わりはよくなかったですね」
「巨人に行った末路じゃ」
「その通りですね。けれど」
 僕は言った。さらに。
「本当に巨人ってのはあいつが表に出て来てから露骨にやってますよね」
「ナベツネじゃな」
「はい、あいつが出て来てから」
 ホールトンが降板していた。ダイナマイト打線に叩き潰されて。
「ほい、帰れ帰れ!」
「巨人の飯は美味いやろ!」
「それ食ってもう国に帰れ!」
 こうした喝采めいた嘲笑を浴びながらマウンドを降りていた。阪神ファンは確かにマナーが悪いがそれでもホールトンに同情する気にはならなかった。
 その彼を観ながらだ。僕はその男について言った。
「本当に露骨ですね」
「スラッガーにエースに助っ人を強奪してな」
「金滅茶苦茶に使って」
「あれじゃ。あのグループは先軍政治じゃ」
 北朝鮮名物のそれだ。全ての政策と予算を軍に最優先させるという効率を考えれば最悪の政治だ。民生が破綻するのも道理だ。
「巨人に金を注ぎ込む」
「読売グループの金を」
「だから先軍政治じゃ」
「ですね。言われてみればそのままですね」
「読売人民武力省じゃ」
 また北朝鮮だった。
「読売民主主義人民共和国のな」
「巨人が北朝鮮ってことは」
「ナベツネは将軍様じゃ」
「そのままですね」
「北朝鮮は確かに軍は凄いわ」
 数だけは確かに凄い。二千万かその程度の人口で百万の軍隊だ。有り得ないと言える。
「しかしどうじゃ。統一できておるか」
「絶対に無理ですね」
「そこに答えがあるわ」
「巨人もまた、ですね」
「幾ら金を積んで選手を集めてもそれだけではじゃ」
「優勝はできませんね」
「そして黄金時代にもならん」
 その別所がいた頃や王、長嶋の時代は決して戻らないというのだ。過去の栄光は二度と戻らないのだ。少なくとも同じ方法でもたらされた栄光は二度とだ。 
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