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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第29話 嵐の予兆

H12年9月後半 side-Asumi

 プロ試験が始まってからも当たり前のように彼の部屋を訪ねて碁の勉強をする。

 和-Ai-のノートパソコンとネット碁をするための普通のパソコンの他に今ではAiの碁を並べるために彼が買った足付き30号の新かやの碁盤がある。碁石や碁笥だって安物ではなく悪くはない品だ。

「元の世界に覚えて持って帰って欲しいの」

 あのとき私は本音を隠した。

 もちろん憧れの-勝手に師匠だと思っている-桐嶋和さんに私の碁を見てもらいたい気持ちはある。

 でも本心は彼に私の碁を覚えて欲しいと思った。
 元の世界に戻っても私のことを、私の碁を忘れないで欲しいと願った。

 私は和-Ai-とは三子から四子の置き碁で指導碁を打ってもらっている。
 最初は和-Ai-に五子置いても勝つことができなかった。
 トッププロと弱いプロでは四子くらいの差があると言われている。

 私を指導する和-Ai-は間違いなくトッププロよりも強い。

 四子の和-Ai-に勝てるようになってから院生順位が上がっていった。
 院生になって始めて自分が日に強くなる成長の実感を重ねることができた。

 一番は強い相手と何度も打つこと。良く聞く言葉だけど簡単なことではない。

 私には誰もが羨むであろう環境があった。

 彼から桐嶋和さんが詰碁が好きだったという話を聞いてから苦手な詰碁にも積極的に取り組むようになった。和-Ai-と打てないときは普段から頭の体操として簡単な詰碁を解く。読みの力を鍛えるために難解な詰碁にも自宅で挑戦する。

 和-Ai-の碁を学ぶために彼に代わって、ネット碁では最高峰であろう実力者たちとの対局でAiの操作を行う。そして彼にネット碁でのAiの対局を並べながら解説する。

 彼のお陰で人生最高の状態でプロ試験に望むことができてる。

 足立くんには一敗したけど先日の対局では無敗だった越智に私が土をつけた。
 無敗は伊角さんだけ。一敗に越智、和谷、進藤、そして私が続く大混戦だ。
 プロ試験もいよいよ中盤を迎えて上位陣同士のつぶしあいが始まる。

 次の試合は進藤。初戦で戦った飯島くんの言葉を思い出す。

――意外と落ち着いた碁を打たれてオレの方が気がアセって負けた

――アイツ変わったよ いずれあたればわかるさ

 確かに進藤は院生になってからグングンと伸びて強くなった。

 けど変わったのは私も同じ。いくら力をつけたからって院生の先輩として負けてなんていられない。

 場慣れするために和谷と伊角さんで碁会所を連れ回したって聞いたけど、私だって中国棋院で大勢のプロやプロの卵たちと戦ったんだ。気後れなんかしない。

 私の碁は以前とは違い力碁を好むようになったと言われている。
 定石にとらわれず、乱戦を好み、自分の読みを頼りに打つ碁だ。
 最初は誉め言葉ではなく筋のいい碁と対比されて冷やかされたこともあった。

 当たり前だ。私が憧れる和-Ai-の碁は、桐嶋和という女性が女流の頂点を極めた自らの棋風を破壊してまで学ぼうとした未来世界の人間を超越した人工知能による碁なのだから――。 
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