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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第一部 桐嶋和ENDルート
  第26話 功夫

H12年夏 side-Asumi

 まず最初は二子置いて打った楊海八段との対局。勝ち負けの碁じゃなくて一流棋士による指導碁だった。中国きっての実力派の棋士が院生のワタシと打ってくれた。
 和-Ai-の碁には到底及ばないけど私の全力の碁をぶつける。

 せっかく中国まで来たのだから、一局、一局をプロ試験だと思って望んでみよう。

 次に趙石(チャオシイ)という男の子と打って負けた。
 周りは悪くない碁だったと慰めてくれたけど……フクと同い年くらいの子に負かされるのは、カッコ悪いとか思って、つい力んでしまった自分が悔しい。

 私は心のどこかで甘くみてた。私より院生上位にいる越智だって私より三つも年下。
 この場にいるのは中国各地から選ばれたプロの棋士たち。

 対局相手の見た目が幼いとか何を考えてたんだろ私は。

 大人も子供も男も女も関係無い。それが私が大好きな囲碁という競技だ。

 少し落ち込んで反省した後に顔が和谷にソックリなちびっこ和谷の楽平(レェピン)という少年と対局した。

 今度こそ油断することなく和谷に似ている相手のお陰か、院生研修の感覚で平常心の碁を打つことができて勝つことができた。

 負けた楽平に再対局をせがまれて一手10秒の早碁を打った。日本から来た女の子の私が珍しかったのか周囲にいつの間にか人が集まって次から次へと一手10秒の早碁を打った。

 言葉は分からなくても碁の話なら、だいたいの内容は何とか分かる。

 彼は楊海八段と様々な世間話をしながら、時折り間に入って要所で通訳をしてくれた。

 10代20代の選ばれたエリート達が、この中国棋院に住み込んで昼夜を問わず切磋琢磨していた。

 和-Ai-に出会ってから以前の倍以上の努力を続けて自分なりに勉強してきたつもりだったけど、それが自惚れであったことを思い知らされる。

 日本の高段クラスの実力の棋士との対局に負けが続く。
 それでも……楽しい。負けても相手の力量に怯えることはない。
 だって私は“ずっと上の存在”と毎日のように打ってるのだから――。

 昔とは違い強い人たち相手に気後れせず打てるようになった自分がいた。
 もっと打ちたい。私はもっと強くなって……いつか彼に振り向いてもらいたい。

 私は和-Ai-に出会って自分の碁が好きになった。
 以前は負けが続いたとき、自分の碁に自信が持てなくなっていた。
 まだまだ私の碁は未熟だけど、私の碁は和-Ai-の碁に続いてるから――。

 目指したい憧れがあるから私は迷わずに碁が打てる!

 数日の間だったけど中国棋院で濃密な時間を過ごすことができた。

 帰国の前夜には彼がせっかく北京に来たんだからと、お世話になった楊海八段を誘って、ちょっと高めの本場の中華料理のお店へ行った。
 棋戦から帰ってきたばかりの中国No.1の王星(ワンシン)九段も合流し、二人のトッププロに囲まれた豪華な夕食会が始まった。

 通訳の彼が私に気を利かせてくれて「プロ試験の直前なんだし、この機会に中国を代表するトッププロから対局前の心構えとか色んなこと遠慮せずに聞いてみたら?」と私に話しやすい雰囲気を作り出してくれる。

 王星九段は気さくな人柄で私の質問に快く答えてくれた。楊海八段はくだけた性格だけど面倒見の良い人で、地頭が良いというか言葉にするのが難しい内容を私にも分かりやすくかみ砕いて説明してくれて、対局中における心のコントロールの仕方など数多くのこと聞くことができた。

 私にとって夢のような時間がアッという間に過ぎた。
 相談できる師匠がいないと嘆いてた私のために、この場を彼が用意してくれたのだと気づいた。

 楊海八段は日本語もできるからと言って連絡先(メールアドレス)も教えてくれた。

「次はプロになって中国に来ます!」

 お世話になったみんなに力強く約束して私は東京へと戻った。 
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