グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第102話:組織改革は意識改革と同時進行で
前書き
今回はいつもより少し長め。
今回の内容を想定してたから、えくすとら開始当初から「残酷描写あり」の表記を付けてましたが、
やっとここまで到達しました。
長かった……
(グランバニア城:宰相兼国務大臣用応接室)
ユニSIDE
普段は執務室で絵を描かないウルフ閣下も、今日だけは政務を放棄して執務机で絵を描いている。
絵を描く事に文句を言う気はないが、ここで描くのを止めて欲しい。
描いてる絵がグロ過ぎるのよ。
本日の昼過ぎに、国家と軍に大いなる汚点を残した愚か者共が処刑になった。
処刑場所はグランバニア城北側の広場でだ。
刑の内容は“銃殺刑”と名がついた。
日取り以外を決めたのは全てリュカ様……
愚か者6人を広場に特設したステージ上の処刑用杭に縛り立たせ、20人の兵士に新兵器アサルトライフルを持たせ、リュカ様の号令と共に一斉に構え狙わせ攻撃させた。
この広場は2万人規模で集まれるくらい広い場所になっているのに、公開処刑を聞きつけた民衆2万人以上が押し寄せ、ちょっとした祭り状態に賑わっていた……
だが、ここに集まったほぼ全ての人々は、新兵器の性能を知って居らず、またどんな処刑なのかも解って居らず、リュカ様の号令で仰天する事になったのだ。
私は参加を強制されなかったのだが、上司の閣下が強制参加になっており、だから自分も見ておかなければならないと思い込み、刑執行の立場側から出席をさせて貰ったのだが、今更ながら物凄く後悔してる処刑シーンだった。
先程も言ったが、刑執行は昼過ぎになっており、余りの無残さに食べた物を全て吐き出してしまったのだ。
思い出したくもないのだが、新兵器の爆音と共に受刑者の身体が飛び散るのを忘れる事が出来そうにない。
あの凄まじい威力の新兵器……リュカ様が造りたがらない訳である。
さて、何で閣下がここで絵を描いていて、忘れたい光景を思い出してしまうかというと、閣下が描いている絵というのが、先程の公開処刑の一部始終なのだ。
一部始終と言う事で描いてる絵は1枚ではない。
処刑杭に縛られるところから、新兵器で細かくされるシーンまで、閣下ご自慢の高い画力によって描き表されている。
もう何度もトイレに駆け込み、胃の中の物を吐き続けている……
今や胃液しか出てこない。
では何故に閣下がそんな物をここで描いてるかというと、けして私達に対する嫌がらせではない。
リュカ様から『国中に今回の件を知れ渡らせる。少しでも早く新聞に掲載させるので、載せる絵をお前が描け。記事の内容はプロの記者に任せるけど、見たままを描き出せるお前にしか出来ない仕事だ』と拒否権無しで命令されたのだ。
有りの儘を新聞で世間に広める事で、今後を含めて軍の腐敗を消し去りたい狙いがリュカ様にあるらしい。
更には、新兵器の性能を世間に広め、グランバニアの力を知らしめたい考えも有ると閣下は言っている。
なお、グロい絵を描いてる張本人は、もう慣れて麻痺してるようで、無表情に描き続けている。
それから、処刑開始が昼過ぎになった理由を『昼前だと飲食店の売り上げが激減すると思ったから、食って吐かせようと考えた』と言っていた……決定したウルフ閣下が。
経済的に正しかったかもしれないが、精神的に大間違いな決定だったと私は思う。
あまり処刑の事は考えたくないので、今回の件により大きく変わった軍の事をお話ししよう。
まず、何と言ってもクロウが出世した。
軍で唯一人、給料がアップしたのも彼だった。
因みに彼の役職だが……“グランバニア軍内部監査兼捜査局”の初代局長に就任した。
私と同じホザック出身のクロウが、軍を見張る役職に就いた事に文句を言う人達も居たが、それを聞きつけた陛下が多くの人々が行き過ぎる城の廊下に正座させ、延々5時間も説教した事で、文句も聞こえなくなったという。
更に軍の統制を厳しくする為、細かい階級制度を設ける事にした。
その階級だが、下から「二等兵」「一等兵」「上等兵」と言う兵士クラスの階級から始まり、その上に「伍長」「軍曹」「特務曹長」と言う兵士長クラスの階級を造り、この上に「少尉」「中尉」「大尉」と呼ばれる下級士官クラスがあり、そして「少佐」「中佐」「大佐」と名の付いた中級士官クラスを経て、最終的に「少将」「中将」「大将」そして軍のトップたる「元帥」と言う階級制度を作ったのだ。
簡単な説明をすると、元帥は現在ピピン軍務大臣のみになる。この階級は大臣のみに与えられる階級で、軍人で唯一政治に関わって良いとされる階級だ。
次に“将軍”と言われる階級の大将・中将・少将だが、この階級は実戦部隊の司令官クラスらしい。
つまり大きな戦の場合、小さな部隊を大量に集め大部隊にし、その全体的指揮を執るのが将軍クラスと説明された。
次の中級仕官クラスは、大隊と呼ばれる部隊編成の時の指揮官で、下級士官クラスは、中隊・小隊クラスの部隊編成時に指揮官へ抜擢されるそうだ。
兵士長クラスになると、更に少ない班レベルのリーダーで有り、兵士クラスはその名の通り兵隊さん達の事だ。
勿論この区切り方は大体の考え方だと、軍の再編成を指揮してるリュカ様から教えられました。
何だか結構複雑みたいですね。
階級を細かく分けた事で、もっと役職も細かく分ける事になったそうだ。
元帥のピピン大臣の下に、実戦部隊の長である「陸軍幕僚長」と「海軍幕僚長」が新たに生まれた。これは名の通り、陸軍と海軍の最高司令官で有り、その二つを束ねるのが元帥のピピン大臣と言う事である。
ではでは……我がクロウはどこいら辺の地位にあるのかと言いますれば……
何と何と、階級にして大将閣下。
位置的に言って、グランバニア軍内部監査兼捜査局は国王直属の組織。
つまり、ピピン大臣でもグランバニア軍内部監査兼捜査局に対して、口出しする事は出来ないそうだ。局長のクロウ大将の下に6名ほどの部隊長が就任し、その下に各々隊員が配属されるらしい。だけどリュカ様とクロウ以外、グランバニア軍内部監査兼捜査局の人員は部隊長までしか知らされていないのだ。
何故かと言うと、軍内部を見張る組織の為、軍人として潜入捜査をすることがメインとなる。周囲の兵士に自分が内部調査をしてると気付かれれば、誰だって悪事を行わないし、内部調査官が居ないと判れば大手を振って不正を行うかもしれないからだ。
だが調査員が誰だか判らなければ、何時何処で見張られてるか判らなくなり、常に気を付けようと心を引き締めるだろうとリュカ様は言う。
しかも隊員は横の繋がりを持ってない。
つまり、6人の部隊長は自分の部下だけを把握しており、他の部隊長の部下については何一つ知らされてないようになっている。
リュカ様とクロウだけが、人員全てを把握し、そして入退部の許可を出す形になっている。
当の隊員達も、自分がグランバニア軍内部監査兼捜査局の者だとは、家族にも宣言することは出来ず、他の者達と同じ人事異動によって、各部隊へ配属され秘密任務を全うするのだ。
身内をスパイする軍人と言って良い。
なお、各部隊間で交流が無い理由は、不正を行っている部隊に配属された調査官が、目先の金品に目が眩み、上に虚偽の報告をして自らも不正な利益を得ないようにする措置である。
つまり、A隊長のAB隊員がX部隊に配属された場合、AB隊員がX部隊の連中と一緒に不正を行わないように、B隊長のBC隊員も密かに同じ部隊に配属させ、X部隊として捜査させる目的があるのだ。
隊員はどちらも身内だと気付いてないはずなので、万が一にも自分が見張られてて報告されたら拙いと思えば、何処の部隊に配属されても自らの責務を忘れて悪逆の限りを尽くすとは考えにくい。
勿論、各隊員は身分がバレないように、部隊内全員が犯してるような悪事には一緒に参加しなきゃならないが、隙を見て早急に上司へ報告をして、その部隊への厳しい罰を求めるのが責務になっている。
そうすることによって、互いに立場を知ってない隊員同士が、ほぼ同時に報告書を提出することで、悪事に飲み込まれてないことを確認するのだという。
リュカ様曰く、『絶対に軍人の不正は許さない。自国民を苦しめる為に、税金を与え力を与えたのでは無い。自らを犠牲にして自国民を守る気概のない奴は、我が軍には絶対に不必要だ!』と処刑直前に民衆(言葉の向き先は軍部)に向かって明言してた。
さて……ここで一つ、吃驚な人事異動が発表されました。
軍部の軍事作戦を立案することを主目的に“総参謀長”と言う役職が誕生しました。
そしてこの地位に、レクルト軍務大臣秘書官殿が出世をして就任。
推薦したのは我が上司、ウルフ宰相閣下だ。
総参謀長というのは、ピピン大臣の直属で有り、軍事行動の作戦立案をする、所謂ブレーン的立場だという……
その為、階級も大将閣下となり、状況によっては陸軍幕僚長や海軍幕僚長にも指示(命令ではなく)を出すことが出来るそうだ。
当然のことではあるが、周囲からの不安視される声も聞こえたらしい。なんせ彼は、兵士経験が皆無で、ずっと頭脳労働のみ(事務処理なども含む)を専門に行ってきた軍人さんだ。
物理的な意味でも大変非力で、各将軍等を従わせることが出来るのか不安になる。
だけど推薦者のウルフ閣下は、『軍での指揮官というのは、複数の状況の中から最良と思われる物を選び、それを実行する決断力を持った者が適してる。しかし参謀は、持ってる情報の中から複数の作戦案を素早く提示し、解りやすく司令官に伝えることが仕事なのだ。レクルト大将は、気が弱く優柔不断な性格ではあるが、頭の回転が速く物怖じせず嫌味の一つも言える性格なので、参謀の長には適してると私は推薦させて貰います』と言い切りました。
確かに……
気が弱いクセに、ウルフ閣下へは兎も角、リュリュ様のモンスター達にも嫌味を言えたり、如何すれば楽に仕事が捗るかを常に考え行動してる節もある。
戦えない軍人だが、確固たる地位を築き上げてたのも事実である。
そして陸軍・海軍幕僚長の人事だが、海軍幕僚長には以前シージャック事件で活躍した「グランバニア軍輸送船・ステラポラレ号」の船長だった、“ナーベルト・トランスポルト”殿が就任した。
就任の挨拶の為、城に見えた時はウルフ閣下に『閣下はトラブルに見舞われる体質のようなので、船旅はご遠慮下さい(笑)』と笑いながら言っていた凄く良い性格の軍人さんだ。
陸軍幕僚長には、何とピエールさんが就任したのだ。
彼女は以前、近衛騎士隊の隊長を務めており、出産を機に軍職から退き後身の育成の為に尽力してきた人だった。
この人事を決めたのは勿論リュカ様で、当のピエールさんも『他に候補者は居なかったのか!?』と辞退したい考えを臭わしていた。だが、あのリュカ様が簡単に辞退を認める訳もなく、『解ってよ……心から信頼出来る者にしか任せられない地位なんだ。僕にはピエールしか居ないんだよ』と耳元で囁かれ、ウットリとした表情で受諾したシーンを私は憶えて忘れそうにない。
それと以前と変わらず近衛騎士隊は、ラングストンさんを隊長に、これまた王家直属の部隊として存在している。
給料が少なくなって、ラングストンさんはさぞや嫌味を言いまくってるんだろうと思ったら、堂々と城内カフェでアルバイトをし始めて、リュカ様ですらを呆然とさせた。
ぺらっと紙が捲れる音に気付き、そちらに視線を向けると……
ウルフ閣下が新たな絵を描き始めていた。
今まで描いた無残な光景も、机の上に広げてある為、またあの光景を思い出してきてしまった。
忘れる為には他の事を考えるのが良い。
そうだな……
軍事高等学校も大幅に変わった事を話そう。
軍事高等学校とは、軍人になる為の専門技術を学ぶ場所で、比較的安い入学金で入る事が出来た高等学校だ。
この学校を卒業した者は、卒業出来なかった者よりも出世が早く、軍人を目指す者達は殆どが入学する学校であった。
何故に過去形なのかというと、次の入学からシステムが変わるからである。
取り敢えず今年の今在学中の学生卒業分までは、以前のシステムを適用して貰えるが、来年度から入学する者には新しいシステムになる。
まず最短4年で卒業になるが、その間の学費については後払いになると言う事。
つまり、入学金と4年間の授業料は軍人になってからの給料天引きとなる。
だから今現在お金が無い者でも、入学する事は出来る仕組みになっている。
入学試験も撤廃するそうだ。
しかし卒業は楽じゃない。
他の学校と同じく授業単位と言う物が存在し、他の学校であれば必須単位と卒業規定到達単位が存在するのだが、軍の学校にはどちらも存在しない。
……存在しないと言うと語弊があるわね。
存在はしてるのだけれども、気にする必要がないのだ。
何故なら、必須単位は全てで、卒業規定到達単位も勿論全てになるからだ。
入学したからには、単位を1つでも落とす事は許されない。
一学期・二学期・三学期とあって、各試験が中間テストと期末テストの計6回になるのだが、全てで100点満点中65点以上を取得しなければならない。
もし単位を落としてしまったら……各学年によって変わるが、20~30科目ある教科で、5つまでは学期末に補習を受ける事が可能だ。
その補習を受けた後、再テストで70点以上取れば単位獲得出来るとの事。
万が一6個以上の単位不足になってしまうと、その生徒は留年となり同じ学年を引き続き学ばなければならない。
それが嫌だという理由と合わせて、退学を決めた場合は……入学金とそこまでの学費、更には手間が掛かった分の手間賃を即刻支払わなければならないらしい。
何と手間賃は、入学してからの日数(休日も込み)×300G……
とんでもない金額だ。
入ったからには卒業しないと大変な事になるわ。
そして来年度から追加される科目が存在する。
その名も“銃器取扱科”だ。
銃器とはグランバニアの新兵器の事で、あれの扱い方や扱う上での心構えなどを細かく教える事になっている。
しかもこの教科だけ、試験の合格ラインが100点満点中95点以上に設定されているそうだ。
あ、拙い……
処刑の光景を思い出してきちゃったわ。
別の事……そう別の事を考えましょう!
え~と……そうね、軍事高等学校も名称が変わるらしいわ。
何だったかしら?
……………そうだ、“士官学校”と改名するみたいね。
名前の通り士官を育成する学校で有り、卒業と同時に階級が少尉になるらしいわ。
学校に行かず入隊するよりも、4年間学んで入隊した方が、いきなり部下が出来て出世しやすいだろう。
この事を聞いてアロー君は『げぇ~……オイラ勉強したくないよぉ。下っ端でも良いから直ぐに軍人になろ!』と言っていたわ。
反対にリューラ様は『入学試験がなくなっても、卒業の条件が厳しいわね……やっぱり今の内から勉強はしておかないと』と意欲を露わにしていたわ。
彼女は真面目で優秀だから、問題無く卒業出来ると思う。
この教育を徹底して、少しでも早い段階で軍内部に浸透して、もう二度とあんな事件を起こさないで貰いたいわ。
次、公開処刑があっても、絶対に立ち会わない事にする。
命令でも断固拒絶で立ち向かおうと心に誓う。
ウルフ閣下が新しい絵に取り掛かるのを見て、そう思うと同時に強烈な吐き気が込み上げてきた。
「す、すみません……ちょ、ちょっとお手洗いに……」
ユニSIDE END
後書き
次回の主役は……モブ!
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