工業高校哀歌
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第二章
「恋愛も人生経験じゃ、不純なことせんかったらな」
「その限りはですか」
「別にええ、合コンでも何でもして彼女作ったらええ」
「それでもですか」
「工業科自体に女は求めるな」
そこは言うのだった。
「それが嫌やったらな」
「最初からですか」
「工業科に入るな」
これが星野の言いたいことだった。
「わかったな、今度そんなこと言うたら」
「その時は」
「こうなる」
落合に扇風機、自分が破壊したそれを見ないまま指差して言った。
「わかったな」
「暴力ですか」
「暴力自体は振るわんが怒るということじゃ」
見れば今も青筋が額のあちこちにある。
「これ以上言うな、いいな」
「わかりました」
落合も宇野もだった、校長にこう言われるとだった。
どうようもなかった、それでだった。
彼等は引き下がるしかなかった、何しろ星野は工業科はおろか学園全体で最も怖い教師と言われているからだ。教育者としての手腕には定評があるが。
それで引き下がった、だが。
落合達は諦めなかった、それで彼等の間で話をした。落合は学園の会議室に学生の代表達を集めてあらためて話をした。
「諦められないよな」
「それはな」
「それではいそうですかとはならないな」
「工業科に女っ気ないのは事実だし」
「校長がああ言ってもな」
「諦められるか」
「そんな筈ないだろ」
これが学生達の言い分だった。
「女欲しいんだよ、俺達は」
「学校の中にな」
「もっともっとな」
「校長が何て言ってもな」
「絶対にだよ」
「そこは引き下がれないんだよ」
彼等にしてもというのだ。
「工業科に女子を」
「女っ気を我等に」
「しかしな」
それでもだった、心からそう願っていてもだ。
彼等はあらためてだ、星野の言葉と扇風機を破壊したあの恐ろしさを思い出した。
「校長がああ言うとな」
「もうどうしようもないからな」
「工業科で逆らえる人いないからな」
「すぐに怒るし怒ったらああだからな」
即座に扇風機を拳で破壊する位だ。
「怒りだしたらすぐに周りががらんとなるしな」
「先生達皆逃げて」
「先生達から見ても怖いしな」
「帝国陸海軍の曹長より怖いだろ」
「予科練の教官並か?」
そうした伝説の存在レベルではというのだ。
「とにかく校長がああ言ったしな」
「もうそれこそな」
「どうしようもないからな」
「あの校長がああ言ったらな」
「何も出来ないぜ」
最早というのだ、だがそれでもだった。
彼等は諦めなかった、それでだった。
落合は思案の末にだ、仲間達に言った。
「俺の考えだがな」
「ああ、どうするんだ?」
「それで」
「俺達がなるんだ」
こう言うのだった。
「女の子にな」
「女装か」
「それをするんだな」
「俺達が」
「女子を増やしてくれないんならな」
星野がそれを認めないのならというのだ。
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