問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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ギリシア神話
前書き
正直、ラストエンブリオでいずれ間違いなく出てくるよねこの人って思いながら、でもやっぱり我慢できなくて書きました。
あれですね。ラストエンブリオ編をやらないってことになったらもうこのまま放り投げっぱなしにして、やるってことになったらこの話を流れそのまんまに口調とか細かいところとか書き直しますわ。
「いやーまったく、思っていた以上に面白いヤツだな!」
「俺としてもこれくらいノリのいい主神がいるとは思ってなかったからうれしい限りだな!」
「「いやーまったく、楽しい時間だった!」」
白夜叉と帝釈天に一つの依頼をした仏門の件からまた数日がたち。
ゾロアスターやら何やらとそれはもう様々なところをめぐり最後の一か所としてギリシア神群を訪れた一輝と湖札。最初の予定より思いっきり減っている人数に対して当然の反応を見せたものの、その後の行動はこれまでの神群の中でも頭一つ抜きんでておかしなものであった。
その時の会話を簡潔に再現すれば、以下のようになる。
『よし、ひとまず今後の扱いを決めるためにもバトるか』
『乗った』
とまあ、このようになるわけだ。
・・・ゴメン、一個嘘ついた。周囲の者たちの反応を取り除いて二人だけの会話としていうのであればこれが全てである。おっかしいなぁ、ゼウスは確かに征服するものとしての側面を持っているけれど、ここまでひどいものだったかなぁ・・・
まあ、そんな感じで。二人そろってなんだかおかしなテンションでおかしなノリを発揮し、ゲーム盤へ移動してバトルスタート。全能神の全権能と一輝の持つ全ギフトを発揮して繰り広げられたその戦いの結果、冗談ではなくゲーム盤が一つ崩壊してギリシア神群の一部が胃を痛め、二人とそのノリについていけるやつらだけがでっかいテーブルを囲んで食事に盛り上がっているわけだ。
大元の二人に至っては肩を組んで大盛り上がりである。さすがギリシア神群一の問題児。どうしようもねえ。
「はぁ・・・ゼウス。そうして盛り上がり友好を深めることに対しては何も言いませんが、なんんせよ今後の扱いを決めてからにしてくださいな?」
「ん、ああ、そういえばそうであったな。ふむ・・・まぁ、嫁の一人でももらってブベラッ!?」
と、すぐ後ろに立っていたキトン姿の女性の言葉に対してゼウスが答えていると、「まぁ」のあたりではしたなくも足を振り上げ、言い終わる前にその側頭部を蹴りぬいていた。その一撃は非情に鋭く、縦に長いテーブルの上をきりもみ回転しながら跳び、そこにあるものを一切汚すことなく跳びきって暖炉へ頭から突っ込んだ。
その光景を見慣れたものとしてスルーするギリシア神話の面々、ごく一部心配して暖炉へと向かう者、華麗に着地し髪を払う女性、おーと拍手を送る鬼道兄妹という光景。もうダメだねこれは。やっぱり強い=変人が箱庭の真理なんだよ。
「大変申し訳ありません、旦那兼愚弟兼愚兄がご迷惑をおかけいたしました」
「いやいや、こっちも良い蹴りを見せてもらったよ」
「それはまあ、はしたない真似をしてしまいまして」
と、ゼウスが座っていた席へためらいなく腰を下ろしたその女性は先ほどの発言でもうはっきりしてはいるもののしっかりと名乗る。
「改めまして、ギリシア神群において実質全ての決定権を握っております、ヘラと申します。以後、お見知りおきを」
「・・・全権、ゼウスじゃないんだな」
「ええ。男尊女卑によって成り立っているギリシア神話ではありますが、あの人には到底全体をおさめることなどできませんもの」
逸話的にはこの人にもできない気がするのだけれど、その辺りはまあ他の人たちも手を貸して何とかしているのだろう。と言うかそうでも無い限り回るわけがない。ハチャメチャ具合ではギリシア神話とかもう手のつけようがないレベルじゃないですかヤダー。
「つーか、冷静に考えると立場ものすごいことになってんだな。妻兼姉兼妹って」
「あなた方の時代ではおおよそ考えられない事態なのでしょうね」
「や、姉と妹が混在しているのはどの時代でも考えられないと思うんだけど」
一輝にしては珍しくまともなツッコミを入れたのだが、そんなものはすぐ隣からの声によってかき消される。
「そんなことないですよ、私はその立場を狙ってますし!」
と、一輝の顔を押しやって口を出したのは彼の妹であり頭おかしいレベルでブラコンをこじらせてしまった湖札である。実のではなく義理の妹ではあるが、それでもやはり倫理観の問題は存在する。上層にそういったことを成している神話の住人がいるにはいるのだが、それはあくまでも上層の価値観。中層、下層ではそれらのことに対する世間の目は、場所にもよるが存在することだろう。であるのならば、それは乗り越えなければならないハードルではあるのだ。
・・・まあ、上層に実際それをしている例が、というかそれ以上のことをしている例が存在するのだし、すぐに受け入れられそうといえばられそうなのだが。
「あら、貴女も?えっと・・・」
「あ、改めまして。鬼道湖札です」
「そう、では湖札。いくつか質問いいかしら?」
「ええ、いくらでもどうぞ」
もうそのまま押しのけきって一輝の席を奪い取った湖札。それに対しヘラは姿勢を正して対面したので湖札もまた姿勢を正す。
「なぜそれを望むのですか?」
「理由なんてありません」
「貴女の兄のどこに惹かれたのですか?」
「特定の要素なんてありません」
「貴女とは親友になれそうですね」
「私もそう思います」
二秒の沈黙。その後ヘラの方から手を差し伸べた。自分たちの文化ではなく、相手の文化で友好の証を示す。そんなギリシア神話主神の妻という立場ではありえないような行動に対して、しかし湖札は気がねすることなくその手を取る。立場など関係ない。この二人は今、ただ一つの共通点によって手を取っているのだから。
・・・いややっぱりおかしいだろ。理由がちょっと頭いかれてんだろ。常識ってもんはないのか常識は。理性で欲望を抑えられるからこその人間ではないのか。
「あー・・・まあ、あれでいいか。契約の形は」
「ま、なんか無駄に意気投合してるしな。もうあれでいいんじゃね?」
「では細かい内容を決めるか。とはいえ、同盟でもなければ侵略したわけでもなく。どうするべきものか」
「そう形式ばるなよ。俺はこの肩乗り蜥蜴っつーそっち向けの切り札があって、そっちはそっちで全勢力で攻め込むっつー力技があるんだ。よってお互い手は出さないくらいのもんだろうよ」
「他ともそんなもんか?」
「一応は。白夜叉と帝釈天の二人とは個人的に別の契約もしたけどな」
「んじゃま、どっちかが破るか問題起こさない限りはそんなもんでいいだろうさ」
「んなもんかね」
これもまた、これまで通り。お互いに無駄な変化を起こすこともなく、神群側にとってはこれまで目の上のたん瘤状態であった三頭龍の件が解決した報酬もサボることが出来るなんて言う利点も存在しているわけだ。先んじて送っていた神群もあるわけだが、まあそいつらは除く。大体その辺は一輝のストレス発散の的になったしね。関係ないよね。
「んじゃま、そう言うことで。あの二人の話が終わったらお暇させていただきますかね」
「あー、そうか。そういや、やること終われば残る理由もないってわけだ。うーむ・・・」
「んだよ、なんかあるのか?」
「んー、できればもう少し時間を置いて考えたかったんだけどな。さて、どうしたものか・・・」
と、しばらく。本当に時間を取って悩むそぶりを見せたゼウスはやがて結論を出したのか近くにいた給仕の尻を触り顔面を全力で殴り飛ばされた後、とある女神を呼んでくるよう指示を出した。その後に料理を皿に盛って作法もクソもなく食い漁っている一輝へ近づく。
「ん、終わったか?」
「ああ、呼び出すことにした。ちょいと面倒かもしれんが、会ってもらってもいいか?」
「会うだ?」
「ああ、『絶対悪を討ち果たした英雄に会い、話を聞き、その在り方を知りたい』って五月蠅いのがいてな。たぶんお前は嫌いなタイプなんだが、締結の条件の一個とでも思って耐えてくれや」
「そうか、無理だと思ったらすぐに言うから引きずってでも引っ込めてくれや。でないとコイツつかって暴れたくなる」
と、一輝の肩で肉をむさぼるトカゲを指さされてしまっては、ゼウスとしてもそれ以上何も言うことはできない。いざとなれば面倒事になる前に自らの手で封印でもしてやろうと判断し・・・先ほどの給仕が、慌ててその場に現れた。
「痴漢ゴミクソやろ、いえゼウス様!緊急事態です!」
「おう、まさか自分のとこの給仕から心の中でそう呼ばれてたとは思わなかった、確かに緊急事態だな」
「んな場合じゃねえんですよ!」
荒ぶる給仕である。彼女はきっと強くなるだろう。
「まあいい。んで、何があった?まずねぇとは思うが、どっかの神群で人類最終試練の誕生でも観測されたか?」
「いえ、そうではなく・・・!お呼びに行ったのですが、あの人がどこにもいません!」
瞬間、ゼウスの表情が・・・否、その場にいるギリシア神群へ所属する全ての者の表情が険しいものになる。ゼウスが指示を出すまでもなく全員が行動を開始、ヘラはその式を取り始めた。
「オイオイ、何があったってんだよ。面白そうな面倒事なら首突っ込ませろ」
「いや、こっちとしては面白いことじゃないし・・・お前にとっても、そう冗談で済むことじゃねえだろうよ」
「・・・こっちにも影響があるってことか」
意地でも吐かせようとギフトカードから獅子王を取り出した一輝に対しそれを手振りで抑えるゼウス。湖札は何があっても動ける準備を済ませて一輝とゼウスを挟んだ位置に立つ。
「99パーセントの確率で、アイツの目的地は“ノーネーム”の本拠だろうさ。だからこっちは、ソイツに関する全ての情報を差し出す」
「たったそれだけでついさっき結んだ不干渉協定破りを見逃せってか?」
「そうは言わん。そうさな・・・ギリシア神群は今後、ソイツに関する全権利を放棄する。説明を聞けば、その大きさは分かるはずだ。勿論、今回そっちがソイツを殺そうがそれ以上のことをしようが、ウチから文句を言うことはない」
「追加条件だ。アンタらからだけじゃなく、他の神群にも言い聞かせておけ。『箱庭への問題とならない限り』っつー曖昧な休戦協定結んでるからな。いい気になって出てきたヤツを皆殺しにするのも面倒だ」
「いいだろう、ゼウスの名に誓って、必ず。他に条件はあるか。・・・全てこっちの過失だからな、敵対しないで済むなら大概のことは受け入れる」
そう言うことならばと何かないか考えるが、特になかったのでその件はもう後に回す。今はそれよりも、“ノーネーム”へ向かったというその存在のことだ。とそこで、時間が惜しいということに気付く。
「ソイツの名前だけ教えろ。んでその後、ソイツの説明ができるやつを一人よこせ」
「どういうこった」
「時間がないんだろ。道すがら説明させる」
「あー、それもそうか。分かった、すぐに呼び出す。門で合流させよう」
そういってギフトカードを取り出し何かを飛ばしたゼウスは、再び一輝へ視線を向ける。
「今回、“ノーネーム”へ向かったやつの名前は―――」
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「わざわざノーネーム本拠までお越しくださったようですが、はてさて・・・アンタ、何モンだ?」
コミュニティの敷地、その入り口を少し進んだところで。その気配に真っ先に気付いた十六夜が駆け付け、その女神へ問いただす。
「あらあら、私ったら。初対面ですのに挨拶すらせず、失礼いたしました」
無礼な口調で問われたその女神は、しかし女神らしからぬ寛容さを見せ、礼儀正しく頭を下げた。その様はまさに善神。由来から見ればどうしようもなく当たり前に善性であるその女神は再び顔を上げ、見るものの心が安らぐ笑みを浮かべ、小首を傾げるようにして、自らの名前を名乗った。
「私の名前は・・・ギリシアにおいてはテミス、ローマにおいてはユースティティア。個人的には後者が気に入っておりますが―――」
「まとめて、『正義の女神』や『正義』と呼ばれることが多いですね。どうぞお見知りおきを」
後書き
次回、いつになるか分かりませんが、グロ注意になる・・・予定です。何とか抑えられないかなと頑張ります。
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