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純血

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第二章

「どんな人かな」
「村にずっといてね。それでね」
「それで?」
「小さい頃から一緒なんだ」 
 そうした相手だというのだ。
「僕より年上でね」
「じゃあ姉さん女房になるね」
「姉さん、そうだね」
 ここでだ。彼はさらに寂しい顔になった。そのうえで僕に言ってきたのだった。
「文字通りそうだね」
「年上の人か。いいんじゃないかな」
「いいと思うんだね」
「うん。僕は個人的には年上の人が好きなんだ」
 僕はこの時何も考えずに自分の好みを言った。
「だからね」
「そう思うんだね」
「そうだよ。君の好みはどうかは知らないけれどね」
「僕には選択肢がないから」
 また寂しい顔で言う彼だった。
「そんなことを言うこともできないよ」
「婚約者がいるからなんだ」
「最初からね。僕が生まれた頃から決まっていたんだ」
 彼はビールのジョッキを手に話していく。自然と飲むことが止まっていた。
「それは代々で」
「代々許婚が決まってるんだ」
「そういう家なんだ。だから」
 その人と結婚するしかないというのだ。彼が言うことはそうしたことだった。
 僕はビールと一緒に頼んでいたコロッケを箸で食べて。また言った。
「結婚するしかないんだ」
「村に戻ってね」
「成程ね。しきたりってやつだね」
「昔からあるね。それでね」
「それで?」
「いや、いいよ」
 何か言おうとしたが。彼はそれを止めた。
「別に」
「別にって」
「夏休みにでも村に誘おうって思ったけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「遠いしそれに」
「それに?」
「だから何でもないんだ」
 完全にだ。何かを隠している感じだった。
「気にしないで。何もない村だから」
「そうなんて。けれど舞鶴の近くだよね」
「とはいっても舞鶴に出るにもかなり時間がかかるけれどね」
 辺鄙なのはよくわかった。
「そんな村だし。地図には一応載ってるけれど」
「何て名前の村かな」
「村の名前?」
「うん、地図に載ってる名前は何ていうのかな」
「それ位ならいいかな」
 独り言からだ。彼は。
 僕にその村の名前を教えてくれた。僕はその名前を自分の頭の中に入れた。
 この時はそのままだった。だが。
 夏休み前にだ。不意打ちにこう思った。それでだった。
 彼と大学の中を共に歩いている時にだ。こう言ったのだった。
「夏休み僕暇なんだ」
「僕は実家に帰るよ」
 夏休みはそうするとだ。僕は彼に答えてくれた。
「そうするよ」
「そうなんだ。じゃあ好都合だね」
「好都合?何が?」
「君のその村にだけれど」
 僕は彼に対して言っていく。
「言っていいかな」
「旅行かな」
「うん、そうした形になるかな」
 僕の家は店をやっている。京都の四条で観光の品を売っている。その手伝いもあるが祇園祭、京都最大の祭りの後なら少し休みをもらえる。その時に行こうと思ったのだ。
 それで彼にこう言ったのだ。
「それでだけれど」
「僕の村に」
 彼は僕の言葉に顔を曇らせた。元々白い顔がさらに白くなった様に見えた。
 その顔は少し俯いた。だが、だった。 
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