獣篇Ⅰ
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6 同じところに2人は、座れない。
一方、鬼兵隊では…
私がいなくなったことに気付いたまた子が、慌てて高杉の部屋に行って、
状況を説明した。
すると高杉は、意外にも動揺しなかった。
_「ほぅ…そうかィ…。やっぱ逃げ出したか、あいつ。」
また子は驚いたような顔をして、言った。
_「…っ…晋助様、知ってたんスか!?」
またもや冷静な声で言った。
_「…ああ。あいつは前から、『私が逃げる気になったら、必ず逃げる』と言っていたからなァ。」
また子は、とても残念そうな顔をしている。
実は私は、高杉をはじめ、鬼兵隊のあらゆるところにカメラを仕込んでいた。
私ができるのは、このくらいことだが。
せめて今まで、私をさらっておいて、隊のためにこき使われた分の給料分として、
鬼兵隊の様子をのぞかせてもらおう。
あと、すでに鬼兵隊の中に仕掛けてあったカメラも、もうすでに私の味方だ。
出る2週間前に、ハッキングしておいた。
さて、いつになったら、高杉は、気づくかな?
再びまた子が、口を開く。
_「なんか、ちょっとの間だけでも部下ができて、うれしかったッスね。
結構使えるやり手だったんで。」
_「そうだな。確かにあいつは、元殺し屋…いや、まだ現役か……だけあって、
なかなかの腕だった。惜しいやつを失ったァ。
ま、でも、いつかは連れ戻す。この手で、絶対。」
なんだ…意外と葬式ムードになっちゃった。
もっと荒れるかと思って、ちょっと期待したが…。
…ってか、高杉まだ、私に執着してんの!?
しつこくない?
まあ、いい。
どうせ、いつかは再会する。きっと。
これは、運命だ。
だが、それらの様子が面白すぎて、私は「部屋」の中で一人、クスクス笑っていた。
もうそろそろ寝ておかないと、明日に差し支えるだろう。
そして私は、敷いておいた布団の上に横たわり、眠りについた。
…ここは、どこか?
見渡す限り、私がいるのは、血なまぐさい匂いのする、戦場だった。
_これは、夢だ。
一回起きれば、きっと違う夢を、見られる。
そう思って起きようとするも、依然、目が覚めそうな気配もない。
…困ったなぁ。これは何か、不吉な出来事の予兆か…?
願いとは裏腹に、状況は刻一刻と変わっていく。
_「あっちだ!あっちから天人ら、攻めてきたぞぉ!」
誰かが叫ぶ。
ああ、攘夷戦争時代か…。
私もついていこうとするも、なぜかその場から足が動かない。
_なぜ…?
ふと見ると、前をヅラ、銀時、高杉が進んでいく。だが彼らはまだ気づかない…、
後ろに天人らが迫っていることに…
_「あぶない!後ろ!」
ありったけの力で叫ぶ。
だが、彼らには届かない。どんなに叫んでも…
すると後ろから、不気味な声がした。
_「お前らには死んでもらうぞ、白夜叉…桂…鬼兵隊総督…」
なぜその名前を…?
「白夜叉」…それが指しているのは私か?銀時か?
かろうじて後ろを振り向くと、見覚えのある顔をした、僧侶の姿をした白髪の男が立っていた。
その男を筆頭に、同じような恰好をした男たちが、列をなしている。
_朧!?
「組織」の首領の格好をしていた。
_「なぜ、お前が…?」
なんとか絞り出した声を聞き、朧は答える。
_「1つは、お前を引き取りに、2つは、あいつらを殺すため。」
…え?
_「私?」
_「ああ。お前を連れ戻すよう、あの人に命じられた。」
_「あの人って…?」
お願い、あの人ではありませんように…!
_「我々、天璋院奈落の元首領にして、今や巨大な権威を持つ、吉田松陽だ。
…もう1度、その名を聞くことになったという罪悪感と、同時になぜか、
懐かしい、という感覚に襲われる。
…吉田松陽…それは虚のもう1つの自分の名前…
そして、私を最初に拾ってくれた、恩人でもある人の名前。
ということは、松陽はもう、死んでしまったのか…?
必死で声を絞り出して、かすれた声で私は言う。
_「松陽は…無事なのか…?」
すると曖昧な返事が返ってきた。
_「ま、無事であり、無事ではない。」
_「それは、どういう意味だ…?
矢継ぎ早に質問する。
あの人はどこにいる?彼の元へ、私を連れて行ってくれ…!」
彼が恋しくて仕方ない。
だが、その時ふと、銀時たちのことを思い出した。
私が行けば、銀時たちを…おいていくことになる。
いいのか…彼らをおいて、自分だけ行ってしまっても、いいのだろうか?
自分の中の良心と、獣が対峙する。
私はどちらに従うべきか…
私の良心が、痛む。だが獣は、甘い言葉を囁く。
「奈落らについていけば、もう戦わなくて、済む。」
負けてはいけない…銀時たちを…仲間をおいていくことは、できない…
そう思うも、体は言うことを聞かない。
しかし時間は、私にお構いなしにすぎていく。
当然の流れで、朧は言う。
_「ああ。今から連れて行ってやるよ……零。」
思わず、ビクッと体が震えた。
久しぶりに聞いた、その名前を。
松陽との思い出が、頭を駆け巡る。
…と同時に、銀時たちと過ごした日々も、蘇る。
果たして私は、どちらを選ぶべきか…
考えている私をよそに、奈落のやつらは、私を連れて行こうとする。
_やっぱり、残る…
そう伝えようとした時、ふいに誰かが私の名前を呼んだ。
_誰?
目を覚ますとそこには、心配そうな顔をした銀時と、神楽ちゃんがいた。
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