| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

転生・太陽の子

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

初めての海

「ハートネットは一緒に行かないのですか?」

宿にてセフィリアがトレインにそう尋ねる。一同は現在宿に戻ってきていた。戻るや否や、すぐに身支度を済ませて宿を先に出ようとするトレインとスヴェンの姿をセフィリアに見られてしまったのだ。セフィリアは5人で行動するものだと思っていたのだ。

「セフィ姐と一緒にいるとクロノスの目に入りやすくなっちまうだろ? 追っ手差し向けられると面倒だからさ」

「そうですか、てっきり私を避けているものだと思っていましたよ?」

「そ、そんな訳ねえだろー」

「ふふ、どこを向いているのですか、ハートネット。私はこちらですよ?」

笑顔のセフィリアだったが、トレインにはそれが逆に恐ろしく見えてしまっていた。「クライストを失った私はか弱い女に過ぎません」というセフィリアだが、か弱い女がこのような威圧感は出せないだろう。

そこに光太郎が戻ってきた。

「部屋をもう1つ取ってきましたよ。流石にセフィリアさんと同室にする訳にはいかないので、俺は1人で寝るからイヴはセフィリアさんと同じ部屋で休んでくれ」

「え…?」

双方修羅場になっている光景を見て、ただひとり何の被害も被っていないスヴェンは胸を撫で下ろした。




トレインたちがルーベックシティーを出てから、3人は同じ部屋に集まっていた。しかし光太郎がイヴの懇願に負けて同室になった訳ではない。セフィリアが一度クロノス上層部に連絡を取ると言ってきたのだ。勧誘のための任務継続の許可を得たいというセフィリアは、未だクロノスに縛られている。しかしこの状況から多少の綻びは見られているのだろう。いつか「クロノスのため」ではなく「自分自身のため」に生きてくれるよう光太郎は願うばかりだ。

上層部への連絡を了承した光太郎は、てっきり電話をかけるものと思っていた。しかしその予想に反してセフィリアはノートパソコンを取り出した。

「何ですか、これ」

「ノートパソコンですが…」

「のーと…パソコン? これがパソコンなんですか!?」

驚いた光太郎はセフィリアが出したノートパソコンを触る。薄く、光太郎の知っているパソコンに比べてやたら軽い。転生前はどうなのか覚えていないが、光太郎の記憶の中にあるパソコンはもっと大きく、持ち運びには適さない物だった。確かにあの世界にもノートパソコンはあった気がする。

『DynaBook J-3100SS』というのが記憶の中にある一番新しいパソコンだった。どうやらこちらの世界の方がコンピュータは一手先をいっているようだ。

パソコンを立ち上げたセフィリア。デスクトップ画面にも色がついていることに感動している光太郎に、イヴは思わず微笑んでしまった。まるで子どもみたいだったのだ。

「光太郎は、パソコンあまり見たことないみたいだね」

「あ、ああ。世の中はこんなに進んでいたんだな」

2人がそんな会話を続けていると、セフィリアが人差し指を静かに口元に当てがった。それを見て2人は口を閉じる。

そしてパソコンから声が流れる。

「…どうしたナンバーズIワン。任務は完了したのか?」

「クロノスへの入隊は断られました。クロノスの行う暗部が受け入れてもらえなかったようです」

「クロノスを否定するか。ならばいずれ我らに牙を剥くこともあろう。ならば今のうちに消せ」

「…私は彼に敗れました」

「…………なに?」

クロノス上層部の人物であるが、声に驚きがこもっていた。

「クライストも彼の持つ武器には一合も耐えれず消滅してしまいました」

「な、バカな。クライストはオリハルコンでできた最高の武器なのだぞ!」

「事実です。それ以上の武器を持たない時の番人クロノ・ナンバーズでは残念ですが全員で立ち向かっても同じことでしょう。ですので敵対は避け、徐々にクロノスを分かってもらえるように説得をしたいと思います。その為に、しばらく南光太郎を追うことにしたいのですが、その許可を頂きたいのです」

画面の奥の相手は誰かと相談している様子だ。そして答えが纏まったのか許可が出た。

「いいだろう。南光太郎を必ず懐柔せよ」

「はっ」

「そしてクライストを失ったお前を、いつまでも時の番人に据え置く訳にはいかん。一時的ではあるがIワンの席から外れてもらう」

「……分かりました」

そして通信が切れた。
パソコンがここまで進化していることに驚く光太郎と、セフィリアの報告に疑いを抱くイヴ。

「セフィリアさん、光太郎の説得をまだ諦めてないの?」

セフィリアを睨むイヴ。しかし柳に風といった様子でセフィリアは「どうでしょうね」と微笑んだ。背景に稲妻が走る。しかし当の光太郎は2人のそんな雰囲気に気付かず、パソコンを興味津々に触っていた。

「光太郎さん、よろしければパソコンをプレゼントしましょうか?」

「え、良いのかい?」

「セ、セフィリアさん! 先にシャワー行ってください。光太郎も部屋に戻って。光太郎はパソコン使えないから、もらっても意味ないよ」

「え、いや、使えないことはないと思うけど」

「…意味ないよね?」

笑顔であるが有無を言わせない姿勢だ。しかしイヴの思惑が伝わらない光太郎は「そんな不器用に思われてるのか…」と落ち込んで部屋に戻っていった。

そして部屋にはイヴとセフィリアだけになる。

「かわいそうなことをしましたね。落ち込んでしまっていましたよ?」

「言いましたよね? 光太郎にイヤなことさせるなら、あなたは私の敵です。クロノスなんて入れさせません」

「光太郎さんにそのようなことはしませんよ。それより、シャワーを浴びるのでしたね。一緒に入りましょうか」

「い、イヤです」

拒否するイヴだが、セフィリアにバスルームに連れ込まれてしまう。そして30分後…。

「…やっぱりあなたは私の敵です」

自身の胸もとを見つめるイヴは、圧倒的な戦力差の違いに打ちのめされていたのだった…。










◆◇◇◆

翌日、朝食を終えた3人はこれからの交通手段を考えていた。流石に光太郎のバイクで3人乗りは出来ない。セフィリアがクロノスの車を使用しましょうと提案したが、最終的には列車を利用することにした。バイクも申請することで貨物列車に載せることができた。

そういえばアクロバッターたちは元気にしているだろうか。何だか無性に彼らを整備してやりたくなってきた。しかし流石にこちらの世界に駆けつけるのは不可能だろう。神様と連絡ができれば良いのだが…。

光太郎は売店で買い物をし、先に席に座っていたイヴとセフィリアの元に走った。何やらピリピリした空気であったが気のせいだろう。

「ほら、冷凍みかん買ってきた。みんなで食べよう」

光太郎は2人にそれぞれ手渡す。こういう旅には冷凍みかんだよな、と光太郎はやけに拘っている。イヴもセフィリアも初めて食べたようだが、気に入ってもらえたらしい。

「イヴ、私が皮を剥いてあげますよ」

「あ、ありがと…」

セフィリアに対して礼を言うのに何か抵抗があるのか、不服そうに礼を述べるイヴ。しかし光太郎はそれに気付かず、微笑ましくさえ思っていた。2人ともこういった和やかな旅は初めてだろう。イヴだけでなく、セフィリアにも様々なものに触れさせてやりたいと光太郎は心に決めた。

そこを老夫婦が通りかかり…

「あらあら、親子でお出かけですか? お嬢ちゃん、優しいパパとママで良かったわね」

3人にとって爆弾となる発言をかました。

イヴは即座に否定し、セフィリアは「…ああ、光太郎さんが旦那さんですか」と言葉の意味を理解し、それに少し遅れて理解した光太郎は、顔を紅くして老夫婦に説明した。










列車で長いこと揺られ、目的地が見えてきた。
ウトウトしていたイヴを起こし、光太郎は外を見るように促す。そこには水平線が見えていた。

「あれが…海?」

「海を見るのは初めてだろう? 今日、明日と海水浴でもして楽しもう!」

太陽の光が海面に反射し、キラキラと光り輝いている。そんな海を見つめ、イヴは年相応の子どものように喜んでいるように見えた。

列車を降り、バイクを降ろして今日の宿を取る。荷物を置いて海岸に向かった。海水浴シーズンであった為、海水客は多い。ルーベックシティーで見たよりも多くの人々に、イヴは興奮で顔を紅潮させている。

「セフィリアさんは海に来たことあるかい?」

「海に来たことはありますが、泳いだことはありません」

クロノスの戦士となるよう産まれながら育てられてきた彼女には、娯楽の経験がほぼ無いのだろうと光太郎は感じた。戦闘経験や知識以外は普通の子ども以上に初めて触れるものばかりなのだろう。

「ということは泳ぎ方から教えた方がいいかな? 別に泳げなくても楽しめるとは思うけど」

「いえ、せっかくなので覚えてみます」

「こ、光太郎、私も!」

「そうだな。それじゃ、まずは水着を買って泳ぎの練習。その後昼食にしよう」

海の家でイヴとセフィリアは水着を眺めるが、どれが良いのか判断できない。光太郎に選んでもらおうとしたのだが、光太郎は顔を紅くして慌てて自分の海パンを買い、更衣室に飛び込んでしまったのだ。

「イヴ、あなたにはこのすくーる水着、というのが似合いそうですよ。子ども向けのようですし」

「…セフィリアさんならこの花柄でどうですか。おばあさんみたいでお似合いです」

「………」

「………」

「お連れさん、助けて!」

2人の険悪な雰囲気に、思わず店員さんが助けを求めたのだった。



その後、店員のオススメでイヴはワンピースタイプの水着を、セフィリアはスタイルが良いということでビキニタイプの水着を購入することになった。

それぞれ着替え終え、イヴは光太郎に水着姿を披露した。




「光太郎、どうかな?」

「ああ、似合ってる。とても可愛らしいぞ!」

「良かった。光太郎もカッコいいよ」

「光太郎さん、店員に言われた水着を購入したのですが、これで良いのでしょうか?」

光太郎の背後から着替えを終えたセフィリアがやってきた。光太郎が振り向くとそこにはビキニ姿のセフィリアが立っていた。胸元を強調するビキニに目を奪われる光太郎。



「水着って下着みたいですよね。これで人前に出るなど、他の人は恥ずかしくないのでしょうか」

「そ、そうですね」

光太郎は必死に視線を外すが、意識してしまうとなかなかその姿が頭から消えない。そんな光太郎にムッとしてイヴが光太郎の手を引っ張った。

「光太郎、早く泳ぎを教えて。あの人より早く覚えるから」

「お、おい、イヴ。そんな引っ張るなよ」

セフィリアのビキニ姿に、ビーチの男たちも光太郎と同じように目を奪われていたのは、男として仕方なかったのかもしれない。






そんな3人を、遠くで少年がじっと見ていた。


◆◇◇◆

その頃とある世界のとある倉庫で…。

「ライダーガヨンデイルキガスル」

と何かの目が赤く点滅していた。
 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧