転生・太陽の子
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セフィリアの覚悟。RX vs 時の番人<Ⅰ>!!
光太郎たちはカールと別れ、この街のとある酒場に出向いていた。
昨日の約束を守る為だ。そしてこの場には光太郎とイヴ以外にもトレインとスヴェンも一緒だった。
「本当にいいのか?」
「気にしないでくれ、スヴェン。このお金は本当ならそちらが受け取っていた物なんだ。食事代や飲み代くらい出させてくれよ」
「いや、そう言ってもらえると助かる。実は懐がカツカツでな…」
光太郎の提案に、スヴェンは神の助けを得た思いだった。スヴェンの目には光太郎に後光が差して見えている。しかしそんなスヴェンとは対照的な相棒がいた。
「やったな、スヴェン! 食い溜めしておこうぜ!」
「トレインって意地汚いよね」
「…姫っち、性格悪くなった?」
奢りならばたっぷり食べてしまおうというトレインに、イヴがしれっと毒舌を吐く。そんなイヴにトレインは思わず苦笑してしまった。
店に入ると、先日のマスターの顔があった。まだ昼間であるが、街から危険が去ったという朗報に酒を飲み交わしている面々もおり、先日と比べてとても繁盛していた。
「マスター、約束通り、今日はちゃんと支払いますからね」
光太郎はそう言ってカウンター席に座った。
「おお、昨日の兄ちゃんじゃねえか。まだこの街にいたのかよ。でも朗報だ! 殺人鬼のヤロウ、捕まったらしいじゃねえか。これで堂々と街の外を歩けるぜ」
マスターの表情も昨日とは打って変わって明るい表情だ。4人は飲み物と食事を注文し、店内の客の様子を眺めている。4人の中で一番興味深そうに眺めていたのがイヴだった。
「…光太郎」
「なんだい?」
「掃除屋って…良いお仕事だね」
イヴは客の顔を眺めながらそう話す。そのセリフは光太郎だけでなく、トレインとスヴェンにとっても誇らしくなるものだった。
注文した食事と飲み物が自分たちの前に置かれ、しばらくは他愛もない雑談を交わす。そこで光太郎は先日の2人組のことを思い出した。
「そうだ、2人に教えてもらいたいことがあるんだ。いいかな?」
「おう、俺たちが答えれることなら何でもいいぜ。お前には奢ってもらってるんだからな。おい、トレイン、それはイヴが頼んだメシだ」
スヴェンは快く了承している。そんな傍らには食事の取り合いをしているトレインとイヴがいた。光太郎もそんな2人を見て思わず苦笑する。
「ありがとう。2人はクロノスって知ってるか?」
秘密結社クロノス。
この世界を支配管理している組織。シルクハット男、シャルデンが言ったこの言葉は真実なのかどうか、光太郎は知りたかった。一般人に認知されているかは不明だが、数週間この世界で過ごしてきて、光太郎の耳にその組織の名前は入ってきていなかったのだ。「秘密」と名が付いていることから知らない可能性の方が高かったが、トレインとスヴェンの表情の強張りを見て、その考えを撤回した。
その後はスヴェンの提案で、話の続きは彼らが泊まっている宿にてすることとなった。
宿に移動した4人。
そこで光太郎は先日の殺人鬼が道タオという力を星の使徒という組織から与えられていたこと、星の使徒が秘密結社クロノスを滅ぼそうとしていることを話した。イヴは気付かなかったが、星の使徒の名前を出した時にトレインの雰囲気が一瞬だけだが豹変したのを光太郎は感じ取っていた。もっとも、その理由を推し量ることなどできなかったが…。
「俺は先日初めて秘密結社クロノスという組織の名前を知ったんだ。その様子だと2人とも知っているようだけど、教えてもらえないか?」
光太郎の問いにスヴェンはトレインの顔を見やる。トレインはため息をついて立ち上がり、冷蔵庫からミルクを取り出し一口飲んで言った。
「俺の…前の職場だよ」
「…!」
クロノスの組織を知っているかを聞きたかったのだが、トレインの言葉はそれ以上のものだった。知っているどころではない。内情すら把握していると思われる。光太郎は立ち上がってトレインに問いかける。
「教えてくれ! クロノスはどういう組織なんだ? 星の使徒の男はまるで悪の組織のような物言いだった。その実体はどうなんだ!?」
「悪の組織…ね」
トレインは独りごちる。光太郎は秘密結社クロノスの正体を知ることに必死であったが、イヴはトレインの雰囲気の変化に驚いて、読んでいた本から目を離してしまっていた。あの飄々とした子どもじみた性格のトレインの姿に、陰のようなものが見えていたからだ。
「正義と悪、そう割り切れるもんじゃねえよ。クロノスはこの世界の土台みたいなもんだ。クロノスが滅んだら、間違いなくこの世界は混乱する。だからと言って、正義の組織と言う気もねえ。世界の安定を維持するために、反クロノスを掲げる連中の暗殺もする組織だからな」
「…暗殺…だと!?」
「そして俺はそこの特殊部隊、時の番人クロノ・ナンバーズと呼ばれた元・殺し屋さ」
トレインのその言葉が、光太郎とイヴをより一層驚かせた。あの明るいトレインにそんな過去があったのだ。
ミルクを飲み終えたトレインが窓の外を見下ろす。
「軽蔑してもいいぜ?」
しかし光太郎は首を振る。
「軽蔑なんてしない! 過去は過去だ、今更変えることはできない。今のトレインは掃除屋だ。犯罪者を捕らえ、弱き人達を助けている。それは誇らしい事だと俺は思う!」
「…ははっ、意外というか、光太郎らしいというか。まぁ、ありがとよ」
スヴェンも光太郎の答えに苦笑する。とても熱く、どこまでもお人好し。それがトレインとスヴェンの抱く光太郎のイメージであった。
「トレインも…自由になったんだね…」
イヴは立ち上がって光太郎の手を取る。いつか自分がこの人にしてもらったように、トレインも自由を手に入れたのだろう。トレインの普段の姿がそれを表している気がした。
「おう、自由に生きるのが一番だぜ!」
トレインはニカッと笑う。しかしその表情もすぐに驚きのものとなった。トレインは窓の外をその表情で見下ろしている。残りの3人は何事かとトレインを見やった。
「…クロノ・ナンバーズのトップがやってきたぜ」
あまりの突然の来訪者に、皆唖然としてしまっていた。
時の番人クロノ・ナンバーズのトップ、セフィリア・アークス。
特殊部隊のリーダーと聞いていたが、こうして目の前にその人物が現れた時にはその正体にトレイン以外全員が驚いていた。とても美しい細身の女性だったからだ。その瞳は心の中まで見透かされそうな程だ。
セフィリアはスヴェンから出された紅茶を受け取り、トレインの顔をジッと見ている。当のトレインは気まずそうに苦笑いを浮かべていた。どことなく怯えているようにも見えた。
「久しいですね、ハートネット」
「そ、そうだな!セフィ姐も元気そうでなによりだ、うん!」
突然声をかけられたトレインは、明後日の方向を見ながらそう言って笑う。その笑顔は引き攣っていた。
「あなたが…トレインの昔の上司なの?」
「ええ。そうですよ、お姫様」
イヴの質問にそう返し、にこりと笑顔を見せる。その笑顔は普通の男性なら誰でも胸をときめかせる程の破壊力を秘めていた。イヴすらも思わず顔を紅くしてしまう。しかしこの場にいる男性陣はそうではなかった。昔馴染みのトレインはともかく、スヴェンは常にセフィリアの動きを警戒しているし、光太郎も秘密結社クロノスの特殊部隊のリーダーを前にして、気を抜くほど愚かでもない。トレインから暗殺も行う組織と聞いているのだから尚更だ。
「それで、あんたはトレインに会いに来たのか?」
「いいえ、スヴェン=ボルフィード。確かにハートネットには言いたい事は多々ありますが…」
トレインの体がビクッと跳ねる。
「ハートネットに会ったのは偶然です。今日の目的は南光太郎、あなたなのですよ」
「俺に…?」
「ええ、南光太郎。私はあなたが欲しい」
爆弾発言が投下された。
トレインは目を丸くし、スヴェンは開いた口が塞がらない。イヴは光太郎の前に立って必死にガードしている。当の光太郎は思考が停止していた。まるきり想定していなかった言葉は投げかけられたのだ。それも無理ないだろう。
セフィリアは4人の胸中を知ってか知らずか、気にすることなくファイルを机の上に出した。そこにはギャンザと戦っているRXの写真が何枚も貼られていた。
「何だこりゃ」
スヴェンは光太郎がRXに変身しているところを見ていない。目の前に出された写真を見せられても、子ども向けの特撮かと思ったくらいだ。
「南光太郎。あなたがギャンザ=レジックとの戦いでこの姿になり勝利を収めたこと、その後星の使徒と接触し、勧誘を受けた事も調査済みです」
ギャンザとの戦いは先日である。僅か1日足らずでこれだけ調べ上げる情報網に光太郎は恐怖を感じた。どこに組織の目があるかわからない。思っていたよりも厄介な組織のようだ。
「クロノスのことはハートネットから聞いているかもしれませんが、平和安定のため、クロノスの力となって欲しいのです」
「それって…光太郎に人殺しをさせるってこと?」
セフィリアの頼みにイヴが一番に言い返す。イヴはセフィリアから守るように光太郎の前に立っている。その後のセフィリアの言葉次第でイヴは跳びかからんばかりの雰囲気だった。それを察したのか光太郎はイヴの両肩に手を置いて落ち着かせる。しかしセフィリアは淡々とイヴのその疑問を返した。
「命令があればそうなります」
「帰って!」
イヴは瞬時に右腕を刃に変え、その切っ先をセフィリアに向ける。その行動に驚いてトレインは必死にイヴを宥めるが、イヴも引こうとはしない。
「イヴ、やめるんだ」
「光太郎の頼みでも、これだけは聞けない。
私、ずっと考えてた。
私に何ができるかを。
何がしたいかを。
私は…光太郎を守りたい!
光太郎にイヤなことさせようとするあなたは…私の敵です」
「そうですか…仕方ありませんね」
セフィリアは悲しい表情を浮かべる。目の前の少女は南光太郎のことを真摯に想っている。それは微笑ましいことだが、こちらにも任務がある。
「南光太郎。私と賭けをしませんか?」
「…賭け?」
「そうです。私と試合してください。私が勝てばあなたはクロノスに入る。あなたが勝てば、私は今後2度とあなたを勧誘しないと誓います。そして勝負の結果に関わらず、あなたには3000万イェンを差し上げましょう。どうですか?」
そう言ってセフィリアは立ち上がる。光太郎はハッキリ言って戦う理由がない。お金には興味がないし、クロノスには元より入るつもりはない。試合をしなくても拒否し続ければいいのだ。
光太郎はトレインに抑えられているイヴを見やる。
「離して、トレイン! 私がやる。女にはやらなきゃならない時があるんだよ」
「どこで覚えたんだよ、そんな言葉! 姫っちの気持ちは分かるけど無茶なんだって!」
先程のイヴの言葉は光太郎を勇気付けてくれた。こんな自分でも、あんな状態にあった少女の力になれたのだ。自分は…光太郎は今まで傍にいた人をいつも不幸にしていた。中には命を奪われた人たちもいる。そんな記憶があり、人を遠ざけようとする気持ちと、寂しさと心細さから人を求める気持ちが葛藤していた。
光太郎は正面の女性に視線を向ける。
この女性も何かに囚われているような気がした。戦ってみれば、それが何なのか感じ取れるかもしれない。
「イヴ!」
「光太郎…なに?」
「俺を信じろ! セフィリア=アークス。その試合、受けよう!」
驚くスヴェンとイヴ。トレインは「マジかよ」と呆れていた。
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