転生・太陽の子
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殺された人々の痛みを知れ! 必殺のライダーパンチ!!
ルーベックシティー。
光太郎は現在この街の宿の窓から閑散としている街の様子を見下ろしていた。この街に潜伏しているという殺人鬼は、昼も夜も関係なくその手を血で汚しているそうだ。本来ならばこれ以上の犠牲者を出さない為にも、夜中であるこの時間であっても捕まえに行きたいというのが本音だった。しかし、俺が探しに出ると言うと、イヴも絶対について行くと言って聞かないのだ。夜中で視界が狭まり、危険性も増す。みすみすイヴを危険に晒す訳にはいかない。街の住人が夜に出歩かないことを祈るばかりだ。
そしてこの時間に動かないのは別の理由もあった。
それは俺の力の弊害が関係する。俺が変身した姿、RXは確かに強力な能力を秘めている。
俺の体の中に眠る太陽のキングストーンは、それ単体でも大きな力を発揮する。しかしクライシス帝国に敗れ、宇宙へ放り出された俺の体を太陽光線による日食の光が包んだ。そしてその影響でキングストーンは進化を遂げ、仮面ライダーBlackから仮面ライダーBlackRXへの変身を可能としたのだ。
あの後生身で大気圏から落ちたけど、よく無事だったよな…。
光太郎はその時のことを思い返す。今となっては光太郎の記憶と転生者である自分の意識が完全に同化してしまっていた。自分は光太郎であって、神様によってこの世界に転生させられた人間でもあるのだ。
キングストーンは進化したが、逆に太陽の元でなければその力が発揮されないという欠点も同時に加わった。このような不完全な状態では万が一の時に隣で座る少女を守れないかもしれない。それだけは避けなければならない。
隣で椅子に座り、難しそうな本を読んでいるイヴに視線を移す。
その本はタイトルからして、光太郎でも頭が痛くなりそうな本だった。
先日のこともあって、イヴには文字を教えた。ゆっくり覚えていけばいいさ、と伝えたが、イヴは光太郎の予想よりも遥かに早く知識を吸収していった。たった半日で光太郎も知らないような知識をイヴは身につけていた。これが天才というものか、と光太郎は苦笑する。
そして自分の左手首に巻かれているイヴの美しい金髪に目をやった。
「イヴ、これ解いてもいいかな?」
俺はイヴによく見えるように左手首を見せて尋ねた。このままじゃ碌に動くこともできないし、何とかしてほしい。
「駄目、だよ。光太郎のことだから、私が寝たら1人で殺人鬼を探しに行くよね? これは抑制のためだよ」
半日前よりも言葉の語彙が増えてきているイヴは、情けをかけてくれることもなく読書に勤しんでいる。
「だけどさ、このままじゃイヴも困るだろ? シャワーは浴びた後だからいいけど、トイレとかどうするんだ? コレじゃ行けないぞ?」
「そんなの、一緒に入ればいいよ」
「…知識も大事だけど羞恥心とか一般常識も身につけて欲しい…」
俺は思わず肩を落とした。イヴは今まで抑圧された環境にあった。だからこそ自由に考え、自由に行動できている今の状態は俺自身が願ったものであるし、それを後悔することはない。
しかし一定以上のワガママは、保護者として咎めなければならない。
光太郎はイヴが持っていた本を取り上げ、それを机に置いた。急に目の前の文字が消えたイヴは悲しい表情になり、光太郎を見上げる。
「イヴ、俺はお前の願いはできる限り叶えたいと思っているよ。だけど人には時に我慢することも必要なんだ。自分の大切な人に嫌な思いをさせたくないだろ?」
イヴは静かに頷く。
「ありがとう、イヴ。大丈夫、今日は俺も大人しく休むことにするよ。だからこれを解いてくれるかい?」
光太郎は表面上は優しい笑顔を浮かべ、平静を装っていたが、そろそろ限界だった。
…トイレに行きたい。
しかしイヴは渋る。光太郎の言うことは分かってもらえているのだが、イヴにも何か考えがあるらしかった。
「…トレインとスヴェン、パートナーなんだよね?」
「そ、そうだよ」
「私も…光太郎のパートナーになりたいの」
イヴは真剣な表情で詰め寄ってきた。それとこの拘束を外すのを渋るとどう関係があるのだろうか。光太郎がそれを考えているとイヴは続けて爆弾発言を投下してきた。
「だから私と一緒にトイレに行って!」
「はぁ!?」
前後の会話の脈絡の無さに思わず素っ頓狂な声をあげる光太郎。イヴの相棒パートナーになりたいという願いと、トイレに一緒に行くことの繋がりは一体どこにあるというのだろうか。
そしてイヴは混乱する光太郎にその答えを出してくれた。
「トイレに一緒に行くと臭い仲になるんだよね? 臭い仲ってパートナーってことなんでしょ?」
光太郎は思わずズッコケそうになった。
その後イヴにその言葉の本来の意味を伝えることで、光太郎は1人でのリラックスルームを確保することができたのだった。「言葉って難しい」とイヴは独り言ちていた。
翌日、光太郎とイヴは身支度を済ませて宿を出た。宿の外は相変わらず人気がない。「決して離れないように」とイヴに伝え、とりあえず街を適当に歩くことにした。道中、光太郎は全神経を研ぎ澄ます。
しかし殺人鬼どころか住民ひとりとして遭遇することはなかった。
「光太郎、犯人見つからー」
イヴがそう言いかかったところを光太郎が自分の口元に人差し指をピッと突き立て、それ以上の言葉を防ぐ。どこで聞き耳を立てているのかも分からないのだ。イヴを決して傷付けさせない。その覚悟が光太郎を慎重にさせていた。
それから更に歩く。
そして足元に気付く。通路の端にある黒い跡。
「血の臭い…」
イヴは悲しみで眼を細める。酒場のマスターが言うように、確かに被害者が出ているようだ。か弱い女性や子どもをこのような目に遭わせるなど、とても許せるものじゃない。
光太郎が知る過去の敵、ゴルゴムやクライシス帝国に勝るとも劣らぬ残忍さだ。
「絶対に許せん!」
丁度その時分、殺人鬼ギャンザ=レジックは今日の獲物を探していた。
それはまるで野生の肉食獣のように。野生の獣と違うのは生きる為ではなく、あくまでも快楽の為の行動である。
そしてついに、自分のこの欲望の飢えの渇きを潤してくれる獲物が見つかった。ギャンザはじっと獲物を観察する。男がひとりと子どもがひとり。金髪の子供の姿を見た瞬間、ギャンザは喜びで体が震えた。子どもの柔らかな体を弄ぶのは最高に昂ぶるのだ。しかし最近ではどこの子どもも家の中に引きこもってしまい、その最高の玩具が手元にやってくるのは久し振りだった。最近は警察しか手にかけれていなかった。この期を逃すつもりはない。男の方はさっさと終わらせ、あの人形で遊んでやろう。
そしてギャンザは獲物に襲いかかった。
「気配がすぐそこに来ている! くっ…!」
肌に刺さる殺気を瞬時に感じ取った光太郎は、イヴを抱えてその場を飛び退いた。そしてその直後に爆発する地面。後方に着地した光太郎はイヴの前に立ち、地面から這い出てきた男の姿を視界に収めた。
筋肉隆々の下卑た笑みを浮かべる男。この男が件の殺人鬼であると光太郎は理解した。
「へぇ、よくかわしたな。どうやら今までの獲物とは違うようだ」
そしてギャンザはイヴの姿を見て舌なめずりをする。瞬間、イヴは背筋が冷たくなった。
「ガキで遊ぶのは久し振りなんだ。その玩具を置いていきな。そうすればお前は見逃してやるよ! ヒャハハハハ!!」
「貴様…子どもを…人の命を何だと思っている!」
光太郎の叫びに、ギャンザは指の関節をパキパキと鳴らしながらかんがえている。そしてニヤリと笑って「俺を楽しませる道具だ」と答えた。その答えに光太郎は激昂する。
「その邪悪な心、貴様は最早人間ではない!」
子どもとは大人にとって守るべきものの存在であるはずだ。それなのに目の前の外道はそれを玩具と、己の欲望を満たす為の道具と言い放った。それが光太郎の怒りに火をつけた。
光太郎は素早くギャンザの懐に入り、鳩尾に拳を叩き込む。
普通の人間相手であればこの時点で勝負は終わっていた。しかしこの殺人鬼は普通ではなかった。かなりの衝撃はあったものの、ギャンザは吹き飛ぶこともなく、ダメージも無いようであった。
「なにっ!?」
「へー、やるじゃねえか。俺のこの筋肉は銃弾をも弾き返す。お前の拳はそれよりも響いてきたぜ。だがな…」
ギャンザは光太郎の手首を取り、己の能力を使って振り回した。光太郎の体をコンクリートに叩きつけ、または壁に叩きつけていく。
「道タオの能力を身につけた俺は無敵なんだよー!!」
そして最後に渾身の力を込めてコンクリートに叩きつける。地面は陥没し、光太郎はその中に沈んでいった。
「…光太郎!」
「ヒャハハ、あいつはトマトみたいに潰れたんじゃねえかな?
さぁて、お嬢ちゃんよ。今度はお前の番だ。あいつみたいにアッサリと終わらせはしない。たっぷりゆっくり遊んでやるぜ」
光太郎に襲いかかった悲惨な光景を見て、イヴは思わず叫ぶ。そしてギャンザは更なる快楽の為に目の前の獲物に左手を伸ばす。しかしそれは隣から伸びてきた黒い手に止められた。
ギャンザは驚いてそれを邪魔した相手を睨む。そこには黒いアーマーのような物を着込んだ仮面の何者かが立っていた。折角目の前の獲物で遊ぼうかと思っていたのに、それを邪魔されたギャンザの苛立ちは最高潮に達した。
「誰だか知らないが俺の邪魔をするんじゃねえ!」
すぐさま相手を絞め殺す為、掴まれた手を振りほどこうとしたが、左腕は全く微動だにしなかった。
「バ、バカな! 俺の筋肉マッスルの能力は最強のはずだ!こんな細腕に劣るはずが無い!!」
「貴様のような己の邪悪な心に取り込まれて得た力などに、俺は負けん!」
「その声は…さっきのヤロウか! 妙な格好しやがって…」
「これ以上、貴様に傷付けられる人々を増やす訳にはいかない!」
そしてイヴを護るように2人の間に立った。
「イヴ、離れていろ」
「…うん。光太郎、気を付けて」
背を向けたままイヴの退避を促し、イヴが離れた事を気配で察する。
そしてギャンザに向かって名乗りを挙げる。
「俺は太陽の子、仮面ライダーBlack、アール、エックス!」
「ふざけた格好しやがって。さっきのはマグレだ! 今度は俺様の本気を見せてやるぜ!!」
ギャンザは力み、体内の気を凝縮させる。RXがつかんでいた手首も倍程に膨れ上がる。その瞬間にギャンザはRXの縛めを解き、道タオの力を限界まで高めた。
「すべての力を上半身に回した! これでさっきの倍以上の力が出せる。これなら殴った瞬間貴様はコナゴナだぜっ!」
自信に溢れた表情になるギャンザ。今ならどんな相手であろうと、負ける事は無いと自負している。だが目の前のRXは微動だにしない。
それどころか「殴ってみろ」と言い出したのだ。
血管を浮かび上がらせ、振り上げる腕。
ギャンザの渾身の力を込めた拳が、RXを襲う。
「どうした力自慢、その程度か」
「バ、バカなぁ…!」
全力を込めたギャンザの拳。それはRXにダメージを与えるには至らなかった。しかし現実を直視できていないギャンザはそれでも納得できず、何発も何発も能力を込めた拳を叩き込んでいる。
拳とRXのボディとの衝突で発生する衝撃音だけが響く。
「こんなはずはない! 俺は選ばれた道タオ使いなんだ! こんなヤツに…こんなヤツに俺はああああぁぁぁぁ!!」
その瞬間RXは跳躍する。
ただ一跳びしただけであるが、ルーベックシティー全体を見渡せる程の上空にまで到達していた。そして遥か眼下にいるギャンザを見据え、右拳に力を込める。
「貴様に殺された人々の痛みを知れ! ライダーァァパァァンチ!!」
ドォン!!!
RXは上空にいる状態で光る拳を突き出した。ライダーパンチの拳圧は空気の壁を抜け、ソニックブームを発生させて周囲の雲を飛散させる。
そして…見えない弾丸が眼下のギャンザに打ち落とされた。
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