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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~

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第2章 『ネコは三月を』
  第36話 『ネムノキ』




「スバル、ティアナ、ごめん。おやすみは一旦中断」
「はい!」
「大丈夫です」
「救急の手配はこっちでする。二人はそのままその子とケースを保護。応急手当をしてあげて」
「はい!」


 なのははスターズ分隊へ、フェイトはライトニング分隊へ指示を出す。





 はやてもまた連絡を聞き、上着を羽織ながら、


「全員、待機体勢。席をはずしてる子たちは配置に戻ってな」
「はい!」
「安全確実に保護するよ。レリックもその女の子もや」
「了解」


 返事はシャリオがしたが、全員にも通信で伝わっていた。
 彼女が部隊長室から出て行く後をリインが追い、扉が閉まる。その閉まる音が気持ちが切り替わる合図のように思えた。


「リイン、聖王教か……いや」


 ふと、足を止めた。


「八神部隊長?」
「……リイン」
「はい。なんですか?」
「コタロウさんに連絡取れるか?
「ネ……コタロウさんにですか? わかりました」


 あらたまってどうしたのだろうと思いながらリインはコタロウに連絡をとる。


「コタロウさん?」
「はい」
「シャマル、ヴァイスくんに同行してください。以降はそれぞれの隊長の指示、あるいは臨機応変に。行動はお任せします」
「わかりました」


 そこで、通信が切れる。


「……八神部隊長、なぜコタロウさんだけに個別で命令を?」


 隊長たちはそれから部下へ展開していくので当然だが、コタロウは一隊員であり個別に指示を出すのは違和感しかなかった。


「うん、あんな」


 はやては廊下を移動しながらリインに電子としての書類をみせた。彼は直接紙媒体で承認を仰いだが、管理は電子でも行われている。


「……緊急時の武装局員申請願?」
「そうや」


 と、はやては続けた。


「平時に万事に備えるという意味で、スバルたちがオフシフトになってすぐな。武装局員申請というのもどちらかというと、コタロウさん自身への命令の幅を広げるためのものや。多分、私らへの配慮や思うんよ。自由度をあげる上でな」


 なるほど。と頷く。


「あ、なのは隊長たちにも伝えておかないとな」


 よく気がつきますね。というリインの言葉に同意しながら、はやては足取りを速めた。






魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
第36話 『ネムノキ』






 はやてが聖王教会にこれから起こりうる懸念を話しつつ、シグナムが戻ろうとする頃、なのは、フェイト、シャマルを乗せたヘリはエリオたちが定めたポイントに到着していた。


「バイタルも安定しているし、心配ないわ」


 シャマルの診断にみんなが安堵した。


「ごめんねみんな、お休みの最中だったのに」


 そんな。とかぶりを振ると、また埋め合わせするかのように切り替える意味をこめて、


「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから、みんなはこっちで現場調査ね」


 なのはが指示を与える。


「なのはさん、この子ヘリまで抱いていってもらえる?」


 みんながしっかりと返事をし、休みを惜しまずにすぐ切り替えられたのに安心し、シャマルの言われたとおりになのはが幼い子の近くに寄ろうとすると、


「私が代わりましょうか?」


 コタロウが名乗り出た。隊長としての考えに集中させるためだろう。


「え、あ、それじゃあ……いえ、私が運びます」


 もう一度子供に目をやり、それがあまりにも弱々しく繊細にみえたのか自分で何とかしたいと思い断る。別にコタロウに任せておけないというわけではない。


「わかりました」


 そこで彼の声を聞いたからだろうか、キャロがコタロウに呼びかけた。


「なんでしょう?」
「……これを」
煙樹(モンテコ)ですか。特にお願いはしていなかったはずですが」
「あ、いえ、シンディア・ノヴァクさんから」
「……そうですか。ありがとうございます」


 そういうと、右手のポケットにしまいこんだ。
 何人かはそれが煙草と疑問を持ったが、すぐに振り切って今自分たちがやらなければならない事を整理するために頭を回転させ始めた。





 後方支援(ロングアーチ)は通信回路でガジェットの居場所、動きをリアルタイムで伝達し、めまぐるしく動いていた。肉体的な体力とは違う頭脳体力をフルに使い的確な現状を報告していく。


「ガジェット、来ました!」


 その言葉に通信室、全体に緊張が走る。


「地下水路に数機ずつのグループで少数……16……20!」


 シャリオに続き、アルトも声を大きくする。


「海上方面、12機単位が5グループ!」
「……多いな」


 はやては顎に手を当て、画面の光とその数に目を細めた。


「どうします?」
「そうやな」


 そこで、また新たに通信が入った。


「スターズ2からロングアーチへ」


 ヴィータからだ。


「こちらスターズ2。海上で練習中だったんだけど、ナカジマ三佐が許可をくれた。今、現場に向かってる」


 海上を最高速度で飛んでいる。


「それからもう一人……」





 ヘリを操縦しているヴァイスとコタロウの背後のほうでは通信網で女性局員のひとつの見解が耳に入ってきた。


「私が呼ばれた事故現場にあったのはガジェットの残骸と、壊れた生体ポッドなんです」


 現場を思い出しながら報告している。


「ちょうど、5、6歳の子どもが入るくらいの……近くになにか重いものを引きずって歩いたような跡があって。それを辿っていこうとした最中連絡を受けた次第です」


 それから、とさらに、


「この生体ポッド、少し前の事件でよく見た覚えがあるんです」


 はやてが頷くのを女性が確認すると苦虫の噛み潰したような表情をしながら次の言葉を綴る。


「……人造魔導士計画の素体培養器」


 ヴァイスは片眉を吊り上げ、前を睨む。女性局員はさらに続けた。


「これは、あくまで推測なのですが……あの子は人造魔導士の素材として造りだされた子どもではないかと」


 そうしていくつかやり取りをした後通信は切れ、ヴァイスの耳にヘリの音が優先しだしたころ、


「人造魔導士か、俺にゃ全然わかりませんがね。こんな子どもをいろいろいじくって何がいいのやら」


 隣に話しかけるように言ったのだが、応えが返ってこなかったのでふと隣を向く。


「……何をしているので?」


 コタロウの前にある画面が開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、彼の指がまるで一本一本独立して生きているような気味の悪い動きしていた。


「つい先ほどから高町一等空尉とテスタロッサ・ハラオウン執務官が対処されている空圏内でのガジェットの数が増加しており」


 いつものコンピュータの扱いより段違いに速い指の動きをしている。


「虚が実の中に混ざっているのかと想定し、解析しています」


 まさかと、ヴァイスが閉じてないひとつの画面を覗き込むとソナーに映っている敵の数が突然現れたように増えているのがわかる。さらにヴァイスは会話目的でなく通信室とをつなぐと、


「波形チェック、誤認じゃないの?」
「――問題、出ません! どのチェックも実機としか」


 あわただしいやりとりが行われていた。


「……解析終了」
「え。終了って、わかったってことですか?」
「はい」


 まだ、向こうでは激しい解析が行われていた。


「それじゃあ、それをみんなに教えてあげれば」
「グランセニック陸曹」
「は、はい」
「一度確認させていいただきますが、それは命令ですか?」
「……」


 そういわれて、改めて思考する。命令と言えばすぐにでも送る事は可能だ。しかし、


(送れば、問題は一気に解決。アルトたちの負担も減ってなのはさんたちに貢献できるが……)


 なにかひっかかる。


(これで事件が解決すればいいが、これで終わりなわけがない……そうか)


 再度コタロウを見る。


(俺らが何も学べない)


 コタロウが確認した真意がわからないが、このまま困った時にすべて彼に頼るような事があれば、これよりも緊急性の高い事が起こった場合、何もできなくなってしまう。自分たちの隊を驕ってはいないが、今自分たちにできること以上のことをしなければ先はないという考えに至った。


「前言撤回します。そのデータは送らないでください」
「わかりました」
「うちの隊は優秀なメンバーばかりッスから」
「存じ上げています」


 じゃあ、しっかり運びましょう。とヴァイスはハンドルと握り、舵をとった。






△▽△▽△▽△▽△▽






「空の上は、なんだか大変みたいね」


 はやてが出撃したことと限定解除されたことをわかってか、それともガジェット数の増加からか、ティアナが一機ガジェットを破壊したところで息をついた。


「ケースの推定位置までもうすぐです」


 キャロのサーチに頷き、もう一度気合を入れようとした矢先、


「――ッ!」


 水路の壁を破壊する轟音が背後で鳴り、全員身構えた。
 土煙で相手は把握できず、止むまで構えを解かず慎重になるが、


「あ!」


 薄くなる煙の足元から見えるのは見覚えのある物だった。


「ギン姉!」
「ギンガさん!」


 そこには左手にナックルを備え、スバルと同じ腰までかかる紺色のリボン、髪の色は地下ということもあり把握はしづらいが、髪の長さはリボンと同じくらいである事がわかった。


「一緒にケースを探しましょう。ここまでのガジェットはほとんど叩いてきたと思うから」
「うん!」


 そこから推定位置に近づくほどガジェットの数は増え、大型のものも増えてきた。一つ一つ確実に破壊し深部へ向かう。そして、広い空洞へと出た。


「……んと」


 よほど近くなったのかキャロは強く感じる事ができ、この辺であると断定する。


「どう、キャロ?」


 見回すように進む彼女はちょうどある柱を越えたところで、


「あ、ありました!」


 黒い四角いケースを見つけた。
 その時だ。


「なにこの音」


 足音にしては重く、地面を蹴って進む音ではない。地鳴りがしない。壁伝いに柱伝いに何か遠くから音が向かってきていた。近づくほど速さを増し、


「跳弾?」


 自分たちの頭上を通り過ぎていく。キャロは自分に向かってくるのが気配でわかった。そしてそれは自身の近く頭上でとまる。


「――ッ!」


 何かはっきりとはわからないが、目をやった瞬間黒い魔力弾がそこからはじき出された。


「キャア!」


 とっさの事とケースを両手で抱えていた事が災いし、身体をよじり回避するしかできなかった。
 足元に着弾し衝撃でケースを手放してしまう。
 あがる土煙の中から何かがこちらに向かってくるのがわかったが、キャロは準備が間に合いそうになく目で追おうしかなかった。
 しかし、すかさずエリオが突進する。


「ハァッ!」


 その何かとぶつかり二つがはじかれる。


「エリオくん!」
「さがってて!」


 キャロはエリオを気遣うが彼はすぐに身体を張り、その何かに対して彼女の前に立った。彼が対峙する間にキャロは後ろに気配を感じ振り返るとケースを抱える少女が立っていた。


「ダメ!」
「……邪魔」


 向かおうとするキャロに対しその少女は片手をかざし意識を集中すると、加減のない魔力を収束させ、近距離から遠慮なくキャロに収束砲を撃ち放つ。
 すかさず、キャロはバリアを張るが、近距離で収束力の高い砲撃に耐えることはできず、勢いに破れエリオのほうへ吹き飛ばされた。


「――ぐっ! うわぁ!」


 エリオはキャロを抱え柱への直撃を避けようと抱きかかえながら自分が彼女と柱の間になり、背中からぶつかる。勢いは強く石の柱はへこむ。
 黒い身長のある何かは倒れこんだエリオに標的をあわせるが、それに気づいてかスバルが援護に入る。


「オオォォ!」


 その何かはスバルの初撃を回転によりかわし、後方へいなした。隙を突いてかギンガも向かい、相手は避けることができず防御に回るも重い一撃で後ずさりする。
 スバルは体勢を立て直し、


「そこの女の子! それ危険なものなんだよ? さわっちゃダメ、こっちに渡して!」


 呼びかけるが少女は気にかける様子もなく歩き出そうとする。だが、


「ごめんね、乱暴で。でもね、これ本当に危ないものなんだよ」


 幻術魔法で姿を消していたティアナがクロスミラージュを少女にあてがい、諭すように話しかける。


[スバル、あいつ……]
[うん。隊長たちがホテルでネコさんから聞いたやつだ]
[というと、この子は、一連の――ッ!]


 目配せしながら念話をしているとき、突然閃光が走った。音と光を特別大きくした支援魔法のようだ。全員あわてて目を閉じるが間に合わず、暗闇という事もあってか人体に与える影響が大きい。それでもなお、ティアナは光がおさまってからすぐ少女に銃口を突きつけるが、


「キャアアァ!」


 その何かに蹴られ弾き飛ばされた。しかし、照準をずらす事はせず昏倒するくらいの魔力弾を少女向けて発砲する。


(――身代わりに!?)


 だが、それは何かによって守られてしまった。


「ったくもう。アタシたちに黙って勝手に出かけちゃったりするからだぞ?」


 少女に呼ばれた手のひらに乗るくらいの小さな人物はどうやら「アギト」というらしく、口調から、自分の力を自負しているようであった。


「本当に心配したんだからな! ま、もう大丈夫だぞ、ルールー! 何しろこのアタシ――烈火の剣精! アギト様が来たんだからな!」


 スバルたちが体勢を立て直すなか、向こうは士気をあげるような陽気さで場の空気を作り出していた。こちらの任務遂行の真剣さとは温度差が感じられる。


「オラオラァ! お前らまとめてかかって来いやァ!!」


 小さい分迫力がなく、子犬が遠くで吠えているようにしか見えなかった。


[敵、なんだよね?]
[油断しない!]


 スバルの気の緩みを察したのか、


「……コンニャロゥ」


 左手に火炎球を生成し撃ち放った。


『――クッ!』
「小さいからってバカにしたろ!」


 威力は体格に似合わず、スバルが直撃は避けたい力を持っていた。爆炎に包まれないように飛びのく。


[……ごめんなさ~い]
[ったくもう]


 今度は顔には出さず謝り、すぐに切り替えた。襲い掛かる相手にはギンガが対応する。


「ティア、どうする?」
「任務はあくまで、ケースの確保よ。撤退しながらひきつける」


 こちらが誘導しているのを悟られないように攻防を繰り広げて時間を稼ぐ作戦だ。言うは易いが遂行には難しさが伴う。


「ヴィータ副隊長とリイン曹長にうまく合流できればあの子たちも止められるかも――だよね」


 そういうこと。と汲み取りに同意する。


[よし、なかなかいいぞ。スバルにティアナ]
『ヴィータ副隊長!』


 二人の会話に上官が割り込んだ。


[私も一緒です。二人とも状況をちゃんと読んだナイス判断ですよ]
[副隊長、リイン曹長。今どちらに?]


 リインの通信にエリオが位置を確認するが、返事をするよりも早く、


「ウリャァァ!」


 天井が上から打ち抜かれた。


「捕らえろ、凍てつく足枷! フリーレンフェッセルン!」


 土煙が消える前にリインは少女に向かって手をかざし詠唱し、放った。少女とアギトは回りに冷気を感じると周りの水蒸気が収束するのがわかるが反応はできず、花の蕾のように氷で周りを囲まれ包まれた。
 一方、ヴィータはグラーフアイゼンのギガントフォルムで大きく振りかぶり黒い何かに殴打する。


「ぶっ飛べェ!」


 それは防御体勢を取るも威力を殺しきる事はできず、吹き飛ばされた。


「っと。待たせたな」


 スバルたちの出力だとこの威力を出したあとは大きく体力を消耗するが、ヴィータは何事もなかったかのようにケロリとした表情でみんなを気遣った。


「みんな無事でよかったです!」
「……副隊長たちやっぱりつよぉい……」


 いいのかな、公共施設壊しちゃって。と味方ながらの心強さ反面、強すぎる威力に心配をする。
 キャロが意識を取り戻すのをエリオが確認すると同時に、ヴィータとリインは相手に対峙しようとする。


「逃げられたか」
「こっちもです」


 しかし、両方とも巧妙に逃げられていた。


「ッ、なんだ!?」


 そして次の戦略や探索を模索しようとした矢先、地下水路全体が激しく揺れ始めた。


「……召喚気配が近くにあります。多分、それです」
「というと、地上だな。ひとまず脱出だ! スバル」


 キャロの判断にヴィータが反応し、スバルに脱出経路の確保を命令した。


「はい!」


 スバルは即座にウィングロードをらせん状に生成すると、ヴィータは自分を最後にと脱出する順番も指示を出す。


「キャロ、はい帽子」
「ありがとうございます」
「ねぇ、レリックの封印処理お願いできる?」
「は、はい。やれます」
「ちょっと考えがあるんだ。手伝って」
「はい!」


 ティアナはこの脱出中になにかしようとしていた。






△▽△▽△▽△▽△▽






「何だ。いったい何事だこれは」


 時空管理局ミッドチルダ首都地上本部最上階展望室で、モニター越しに機械が破壊されていく映像を見ながら、防衛長官レジアス・ゲイズは声を荒げた。


「本局遺失物捜査部機動六課の戦闘、そのリアルタイム映像です」


 その疑問に答えるかのように防衛長官秘書オーリス・ゲイズは応えた。


「撃たれているのは、かねてより報告のあるAMF能力保有のアンノウン。撃っているのはおそらく六課の部隊長、魔導士ランクは総合SS(ダブルエス)――」
「ん、地上部隊にSS? 聞いておらんぞ」


 レジアスは秘書を睨んだ。


「所属は本局ですから」
「後見人と部隊長は」


 モニターを変え、後見人たちを映し出す。


「後見人の筆頭は本局次元航行部隊提督――クロノ・ハラオウン提督とリンディ・ハラオウン統括官。そして、聖王教会の騎士――カリム・グラシア殿のお三方です」
「ちッ、英雄気取りの青二才共め」


 レジアスが顔をしかめるのを気にもせず、


「部隊長は八神はやて二等陸佐」
「八神はやて? あの八神はやてか!」
「はい。闇の書事件の八神はやてです」


 この応えに机を大きく叩く。


「中規模次元侵食未遂事件の根源。あのギル・グレアムの被保護者。どちらも犯罪者ではないか」
「八神二佐らの執行猶予期間はすでに過ぎていますし、グレアム提督の件は不問という事になっています。ですから――」
「同じ事だ。犯した罪が消えるものか」
「……問題発言です。公式の場ではお控えなさいますよう」


 彼は一息つき、


「わかっている。忌々しい。海の連中はいつもそうだ。危険要素を軽視しすぎる」
「中将は2年前から地上部隊への対AMF兵器性の対応予算を棄却しておりますので、本局と聖王教会が独自策として立ち上げたのでしょう」


 もう見たくないというように八神はやての写真を一瞥すると、


「……近く、お前が直接査察に入れ。何かひとつでも問題点や失態を見つけたら、即部隊長を査問だ」


 オーリスは敬礼する。


「平和ボケの教会連中を叩く、いい材料になるかもしれんからな」
「――了解しました」






△▽△▽△▽△▽△▽






「だめだよルールー! これはまずいって、埋まった中からどうやってケースを探す? アイツらだって局員とはいえ、つぶれて死んじゃうかもなんだぞ?」
「あのレベルなら、多分、これくらいじゃ死なない」


 ルールーと呼ばれる少女は眼下で召喚獣が起こしている激しい地震とは違い、とても落ち着いていた。


「ケースはクアットロとセインに頼んで探してもらう」
「よくねぇよルールー! あの変態医師とかナンバーズ連中なんかと関わっちゃダメだって! ゼストの旦那も言ってたろ? アイツら口ばっかうまいけど、実際のところアタシたちのことなんてせいぜい実験動物くらいにしか――」


 そこで眼下の召喚獣が地震に決着をつけた。どうやら、潰しきったのだろう。


「……やっちまった」


 そんなことは気にも留めず、


「ガリュー、ケガ、大丈夫?」


 ガリューと呼ばれる、何かは無言で頷いた。


「もどって、いいよ。アギトが入れくれるから」


 その言葉にもう一度頷き、閃光とともに消えていった。
 地雷王もと促そうとした瞬間、地雷王は地面から突如魔方陣とともに生えてきた鎖に拘束される。
 そこからは怒涛であった、もともとスバルたちの人数のほうが多いのである。先ほどの地下水路のような閉鎖空間と違い、地上では戦術もたてやすく包囲網を作るのは容易であった。
 スバルとギンガのかく乱とティアナの陣地を狭める砲撃、そしてエリオとリインが最後の役割と果たし、少女とアギトを拘束した。


「市街地での危険魔法に公務執行妨害。そのたもろもろで逮捕する」


 ヴィータは深く息を吐きながら、二人に対し罪状を述べた。






△▽△▽△▽△▽△▽






「ディエチちゃん、ちゃんと見えてる?」
「ああ、遮蔽物もないし、空気も澄んでる」


 居住地区の指定を外れた人のいない高いビルの上にディエチと呼ばれた女性が何かを見定めていた。


「よく見える」


 その目は瞳孔が開くわけではなく、目の奥の機械ともとれるレンズが動き、遠くに映る飛行物体を捉えていた。


「でもいいのか、クアットロ? 撃っちゃって」
「ケースは残せるだろうけど、マテリアルのほうは破壊しちゃうことになる」


 クアットロと呼ばれる女性は陽気な音楽を聴いているかのように微笑み、


「ドクターとウーノ姉様曰く、あのマテリアルが当たりなら――本当に聖王の器なら、砲撃くらいでは死んだりしないから大丈夫。だそうよ」


 ころころと楽しそうに笑みをうかべていた。
 そんなものかとディエチは息を漏らす。
 とその時、一つ通信が入った。


「クアットロ、ルーテシアお嬢様とアギトさんが捕まったわ」
「あ~、そーいえば例のチビ騎士に捕まってましたねぇ」
「今はセインが様子を窺ってるけど――」
「フォローします?」


 おもいつく節があるのだろうか、声を低くして通信先の女性に促した。

「お願い」


 そういうと通信は切られ、すぐにクアットロはセインに連絡を取る。


[セインちゃん?]
[あいよー、クア姉!]
[こっちから指示を出すわ。お姉さまの言うとおりに動いてねぇ?]
[ん~、了解~]


 セインは鬼ごっこでも始まるかのように無邪気に応えた。
 次は先ほど拘束されたルーテシアと呼ばれる少女にクアットロは連絡をとった。


[はぁい~、ルーお嬢様~]
[クアットロ?]
[なにやらピンチのようで。お邪魔でなければクアットロがお手伝いいたします~]
[……お願い]


 にこやかにそして不適にクアットロが頷くと、彼女はルーテシアに対して、


[このクアットロの言うとおりの言葉を、その紅い騎士に]


 と言葉を紡いだ。






△▽△▽△▽△▽△▽






「見えた!」
「よかった! ヘリは無事」


 空におけるガジェットははやてと代わりなのはとフェイトはヘリの安全確保を言い渡されていた。しかし、なのははとある気配に気づいた。





「市街地にエネルギー反応!」
「大きい!」


 通信室では息を呑む。


「そんな、まさか……」





「――ッ!」


 あまりの巨大さにガジェットの撃墜を担当しているはやても気づいた。





「砲撃のチャージ確認。物理破壊型……推定Sランク!」


 シャリオが伝えるために落ち着きはらうも声は大きく報告した。





 そのエネルギーの中心地では、


「インヒューレントスキル――ヘヴィバレル、発動」


 砲撃手による照準合わせが行われていた。またそれを指揮している女性は、少女に伝言をしよう口を開いた。





「逮捕は、良いけど」
「ん?」


 少女の発言に紅い騎士は首をかしげた。


「大事なヘリは放っておいて、いいの?」
「――!!」




「あと12秒。11……」


 あ、そうそう。と、もうひとつ女性は少女に伝言をする。





「あなたは、また、護れないかもね」
「な、に?」


 紅い騎士の瞳孔が開いた。





「あの、コタロウさん? どうしたんですか?」
「……事後報告いたします」





 カウントがゼロになり、


「――発射」
 ヘヴィバレルと呼ばれる一撃が放たれた。





 ヴィータたちが空に鈍く光るほうに身体ごと向ける瞬間を狙い女性が地面から飛び出し少女を奪う。


「あ、この!」


 しかし、ヴィータは先ほどの言葉に動転し言葉は出ても身体は鉛のように動かなかった。


(くそ! なんで!)





 その間にも放たれた一撃はまっすぐヘリへ向かう。
 なのはが限定解除をして、速度を上げればなんとか間に合うと思ったそのときである。一つ通信が入ると、ヘリの側面、砲撃の先に人影が見えた。逆光で姿しかわからないが、これだけは絶対に見間違うものがないものがあった。


「……ロード数15、パラソル形式(スタイル)


 この姿を確認できたのは近くにいるなのはとフェイトだけである。砲撃手からは放たれた光で見えない。その影は()と同時に右半身を引いて構え――カロンと音がするところから床を生成しているのだろう。その影はあわてる様子もなく、


紡解点(アンラヴル・ポイント)は、あそこか」


 と小さく深呼吸すると、なのはとフェイトがコマ送りのスローモーションを見ているように見えるさなか、


「ネムノキ」


 その砲撃に向かって右足で踏み込むと同時に傘をつきこんだ。そして砲撃と傘の先端が交わると、





「――え?」
「……うそ、私の、ヘヴィバレルが」





『……割けた』





 それはネムノキの花のように咲けた。

 
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