時代が作るもの
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第四章
「だからな」
「同じ采配だった筈だね」
「少し野球の歴史も調べてみるか?」
彼は僕に顔を向けて考える顔になって言ってきた。
「そうするか?」
「そうだね。そうしたらどうしてそうした采配になっていたのかがね」
「わかるかも知れないからな」
「うん、じゃあね」
こうした話をしてだ。僕と彼は町の図書館に向かった。
そこで野球の歴史や歴代の成績を調べた。まずはその三十年代のことを。
確かに稲尾も杉浦も凄い。今ではこんな成績は絶対に無理だと思う。そして二十年代を見ると。
南海から巨人が強奪した別所が凄かった。まさに怪物だ。このピッチャーも今はいない。
そのことを二人で調べているうちにだ。彼は本、野球のそれを読みながら僕にこう言ってきた。
「鶴岡さんは戦争に行く前から南海にいたんだな」
「法政大学から南海に入ったんだね」
「三原さんが早稲田、水原さんが慶応か」
「どの監督も大学野球でスターだったみたいだね」
「杉浦は立教だったな」
彼はここでも杉浦の名前を出した。
「まあとにかくな」
「どの監督も戦前の野球でスター選手だったね」
「そこからプロ、職業野球に入ったんだな」
「プロ野球の黎明期だね」
「そうだな。しかし何だ?」
観れば彼は戦前の野球のことを読んでいた。そのうえでだ。
真剣にいぶかしむ顔になってこう僕に言ってきた。
「凄いぞ」
「凄いって?」
「だからな。その成績がな」
「戦前っていったら」
僕はすぐにこの選手の名前を出した。
「沢村栄治かな」
「ああ、そのピッチャーのことも書いてるさ」
「速球が凄かったともいうけれど」
「沢村だけじゃなくてな」
ここで彼は僕にこうも言ってきたのだ。
「他の選手も凄いんだよ」
「どんな選手がいたのかな」
「これ見てくれ」
彼は自分が今読んでいるその資料を僕の前に出してきた。僕もその資料を受け取って読んでみた。するとだった。
そこに載っている成績はかなりのものだった。それを見て僕は言った。
「このスタルヒンは」
「四十二勝な」
「そこまで勝ってたんだ」
「しかも球速も速くてな」
「沢村よりも速かったかも知れないっていうけれど」
そこまでだというのだ。
「しかも投げている試合も」
「稲尾や杉浦より多いかも知れないな」
「そうだね。それを戦前何年も続けてたんだ」
「スタルヒン以外にもな」
その沢村に匹敵するかそれ以上だったピッチャー以外の選手もだというのだ。彼は僕に話してきていた。
「藤本や野口二郎ってピッチャーもな」
「野口二郎ね」
そのピッチャーのデータも読んだ。僕はその成績等を見て唖然となった。
「稲尾や杉浦を越えてるな」
「ああ、そうだろ」
「しかもね」
尚且つだった。一つの試合でも。
「延長二十八回、三百四十四球ね」
「一人で投げたらしいな」
しかもその前の試合でノーヒットノーラン寸前までいきそれが果たせず自棄酒を飲み二日酔いになった状態で投げてのことだったと書いてある。
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