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最低で最高なクズ

作者:偏食者X
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ウィザード・トーナメント編 前編
  彼は喧嘩を知らない

紗友里が魔法陣を展開する。俺は魔法陣の術式と魔法陣の色から炎魔法であることを理解する。属性魔法に関しては扱う属性に応じて魔法陣の色が変化する。ただ紗友里は大きな欠点が2つある。


「いつも言ってるよな。お前は魔法を発動するのに時間をかけ過ぎだ。」


俺は紗友里の背後に立ち、背中をポンと押す。紗友里はそのひと押しでバランスを崩し、魔法を解いてしまう。紗友里の魔法は発動すれば強いが問題は「発動すれば」ということ。


序列3位が使う魔法なんて強力なのは誰もが理解できることだ。ならどうするか。決まっている。発動前に魔法を消せばいい。今の俺のように魔法展開中に発動者にアクションを起こせば、魔法を消させることができる。魔法を発動するのには僅かな時間でも意識を一点に集中させる必要があるためだ。


普通の魔術士は前に言ったように「息をするように」魔法を発動するため隙はないのだが、紗友里は魔法に対して「必殺技のような何か」というイメージがあるのかどうしても発動に時間を掛ける癖がある。


俺は紗友里の魔法を解除させると岩がまばらに散りばめられたエリアに潜伏する。このフィールド召喚魔法によって召喚されるフィールドは大きさや環境までさまざまで、数立方メートルの範囲のこともあれば数立法キロメートルに及ぶ巨大なフィールドの場合もある。


紗友里が召喚するフィールドは範囲が約5立法キロメートルという超巨大フィールドで、環境としてはジャングルに近い。巨大な岩も多くあるため、隠れて隙をついて強襲を仕掛けるという戦法も使える割と奥が深いフィールドになっている。


「アンタがどこに居るかなんて知らない。ただ、隠れている岩ごと吹き飛ばせば、アンタもおしまいよ。」


紗友里は魔法陣を展開。魔法陣の色は燃え盛るような赤い色そのため炎魔法であることはすぐに分かる。


「吹き飛びなさい!」


紗友里が手で銃のような形を作ると、銃弾を撃つようなモーションを取る。するとズドンという音とともに炎の玉が発射され、俺が隠れている隣の大きな岩を木っ端微塵に吹き飛ばす。


普通の魔術士なら岩の一角を欠くくらいの威力しか持たないが、魔法コントロールが上手い紗友里は威力を調節して岩を砕き吹き飛ばすほどの力を見せる。


「もう一発!」

「まぁ技術は褒めるが言ってるだろ?お前には無駄が多すぎるって。」

「しまっ!」


俺は食らえば(あばら)の1本は逝くであろう蹴りを敢えて紗友里の目の前で寸止めする。紗友里は食らうと思ったのか目を閉じていた。


「はぁ.....。」


俺は紗友里にデコピンをし、また距離を取る。これは稽古とはいえ、妹に躊躇なく攻撃できるほど普段の俺は冷酷な男でもない。


だがそれ以上に俺は紗友里の近接戦闘のヌルさに呆れていた。戦闘中にゼロ距離の相手の攻撃を目を閉じているなんて考えられない。俺からすればのどうして紗友里が序列3位なのかがさっぱり理解できないでいた。


「また私を妹扱い。私はまだ兄さんに届かないの?」

「被害者根性で俺に嘆かれようが知ったことじゃねぇーよ。お前は自分を過剰に評価し過ぎだ。相手の力量も測れないのに強者を語ろうとするな。」

「..............。」


紗友里は泣きそうになるが、涙を拭う。そして魔方陣を展開した。その魔法陣は雷が(ほとばし)っていた。そう、これはマーリン学園でも数名しか使えないと言われる雷魔法だ。しかも見たところイザベルのそれよりも強力な魔法に見える。


「なら...今まで見せなかった魔法を見せてあげる。」

「なるほど。雷魔法も使えるのか。それなりに腕は磨いてきてるみたいだな。」

「行くわよ兄さん!」


紗友里は先ほどの戦闘スタイルとは打って変わって移動しながら瞬時に魔法を使うようになった。軽く触れるだけでも岩を砕く電撃がバチバチという音を放ちながら、俺の隠れる岩にも迫っていることが分かった。


(離れねぇーと消し飛ばされそうだな。)


俺が動くために一歩踏み出すと紗友里はその微量な音を感知する。すると冷気が漂う魔法陣を展開した。この雰囲気から分かると思うが発動したのは氷魔法だ。


「まずはそのすばしっこい足を捕らえる。」

「やべっ!」


紗友里が魔法陣に手を伸ばし、魔法陣に手をくぐらせると手が冷気を帯びる。そこ手を俺の隠れる岩に伸ばすと氷柱のようなものが伸び、岩に触れると瞬時にそれを氷で包み始める。


一瞬反応が遅れた俺は、全力で岩から離れようとしたが僅かに間に合わなかった。俺は足をとられる。そこに紗友里が辿り着いた。


「もう終わり?案外呆気ないわね。」

「ハハッ。まだ終わらせるわけねぇーだろ。」


俺は隠していた閃光弾を軽く放った。それは瞬時に炸裂し、目も開けられないほどの閃光が紗友里を襲う。紗友里は油断から閃光弾の閃光を少しだけ受けてしまい、俺はその間に足を抜いて逃げることに成功した。


戦闘は相手がギブアップもしくは行動不能になるまで少しの油断もしてはならない。これも紗友里に言い続けてきたわけだがどうやら学習が足りていないようだ。


俺は紗友里からそこそこ離れた森の中に隠れると召喚魔法を使う。俺が召喚したのは「ドラゴン」や「グリフィン」や「使い魔」などではなく「ナイフ」だ。俺が召喚するのは生物ではなく武器だ。


前にも言ったように生物は召喚中は魔法で常時意識をコントロールしなければならない。少しでも集中が乱れると魔法による洗脳が解けて、コントロールが効かなくなってしまう。


ナイフのように武器を召喚すれば武器には意識が存在しないため、コントロールの必要がない。それに召喚魔法で武器を召喚することでウィザード・トーナメントでの持ち物検査に掛かることがない。


何せ、魔法で武器を召喚しているのだ。ウィザード・トーナメントには「代償魔法を使うから」という理由で強力な武器を持ち込み、召喚魔法や属性魔法と持ち込んだ武器で戦うという卑怯な手を使う魔術士が毎年現れる。


それ故に武器を持ち込む魔術士は使う魔法をチェックされてから持ち込みの許可を受ける。俺の場合は武器そのものが俺の魔法でできているため、どれだけ強力な武器であろうが俺の魔法だ。故に反則にはならない。


「いつもいつも厄介な物を....逃げ足だけは流石ね。」

「魔法ならともかく体は鍛えてるんでな。」


紗友里は氷魔法で足元を凍らせる。次に炎魔法を発動。両手が炎を纏う。紗友里はスケートのように凍らせた地面を勢いよく滑っていく。俺が走る速度の数倍速い。挙句に紗友里が通過したあとは大木ですら完全に氷漬けにされてしまっていて足場がない。


紗友里自身は自分の氷魔法で凍結しないように炎魔法を用いて自分の周りの冷気を打ち消していた。こうして僅かな時間で自分の優位を作り出す。


「なら思う存分逃げるといいわ。もっともこの状況下で逃げられたらの話だけど。」


俺は紗友里を捉えると大木の上を飛び回りながら紗友里から離れようとする。だが紗友里が追い付くのは時間の問題だった。紗友里は頭上を飛び回る俺を見つけると、進行方向を予測して先回りを始める。


「ちっ、妙なところだけ頭働かせやがって。」

「座学もアンタには及ばなくてもそれなりの自信があるのよ。ただ追い掛けるだけじゃ済まないんだから。」


紗友里の顔が生き生きとし始める。どうやら序盤にあった緊張感がほぐれてきて、心に余裕が出始めたようだ。前から紗友里がスロースターターなことは理解していたし、故に紗友里の本領がこれから発揮されるのも俺は分かっていた。


「体も温まって来たことだし、第二ラウンドと行きましょうか。兄さん。」

「望むところではないが、受けて立ってやるよ。」

戦闘さらに激化する。 
 

 
後書き
というわけで初の戦闘シーンでした。
細かい描写に力を入れたつもりですが
相当展開が遅い気がしてなりません。
次回もお楽しみに。 
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