英雄伝説~灰の軌跡~
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第30話
~パンダグリュエル・パーティーホール~
「う、う~ん……先輩達もご存知のように和解調印式は今日行われて、私達がアリシア女王陛下達の依頼を請けてアルフィン皇女殿下の護衛を開始したのは和解調印式が終わってからで、午後4時頃に”パンダグリュエル”に到着しましたから私達もエステルちゃん達の居場所は把握していないんです……」
「あの……和解調印式が終わった後に皇女殿下の護衛の依頼を請けて、この”パンダグリュエル”に来たと仰いましたがアネラスさん達は一体どのような方法でそんな短時間でグランセル―――リベール王国からバリアハートに来ることができたんですか?」
「そ、そう言えば………」
「かつてオリヴァルト殿下はカレイジャスの”元”となった高速巡洋艦―――”アルセイユ号”と共に帝都に帰還しましたが、その際にかかったグランセル、ヘイムダル間の飛行時間は約5時間であったと記憶しています。バリアハートはヘイムダルよりはグランセルに近い位置にありますが………」
「和解調印式が終わったのは今日の午後3時頃で、アネラスさん達がバリアハート空港に停泊している”パンダグリュエル”に到着したのは午後4時頃だからたった1時間でグランセルからバリアハートを移動した事になりますよね………?」
アネラスの話を聞いてある事が気になったジョルジュの質問を聞いたエリオットは目を丸くし、シャロンに続くように呟いたトワは困惑の表情でアネラス達を見つめた。
「アハハ……私達はセシリア将軍の転移魔術やメンフィル帝国の転移魔法陣を利用して移動したから、実質移動時間はたった10分だよ。」
「なっ!?たった10分でグランセルからバリアハートに!?」
「た、確かに転移魔術を利用すれば、移動時間も相当短縮できますが………」
「そんな長距離を転移させるなんて、相当な魔力や魔法技術が必要なはずよ。」
苦笑しているアネラスの話を聞いたマキアスは驚き、エマは信じられない表情をし、セリーヌは目を細めた。
「師匠やプリネさん達から聞いた話では、メンフィルは各領地に転移魔法陣を設置しているそうよ。緊急事態が行った際民達を迅速に安全な場所へ避難させる緊急脱出方法として使う為やメンフィル軍を迅速に送る為にね。」
「そういや、ユミルにも転移魔法陣があって、”英雄王”達はそれを使ってリベールのロレント郊外の大使館に帰還したな………」
「な、なにその反則技~!それじゃあメンフィル帝国は兵や物資の移送がすぐにできるって事じゃん!」
「恐らくメンフィル帝国が自国の領土と接していないケルディックやオーロックス、そしてオルディスを奇襲する事ができたのも予め諜報部隊を潜入させて、その諜報部隊にメンフィル帝国領と繋ぐ転移魔法陣を作成させていたのでしょうね……」
「科学技術が発展し、異世界が現れるまで魔術が一般的に知られていなかったこのゼムリア大陸にとってはおとぎ話のような方法でしょうね。」
シェラザードの話を聞いたトヴァルはかつての出来事を思い出し、ミリアムは疲れた表情で声を上げ、クレア大尉は真剣な表情で考え込み、セリーヌは静かな表情で呟いた。
「話を戻すけど………エステル達の居場所についてはカシウス先生が予めエルナンさんに調べるように頼んでいたからその内エレボニアの支部にもあの娘達が今活動している支部が伝わるだろうけど……”空の女神”の話だと”空の女神”は自分の”目的”を果たす為にエステル達と一緒にある一族に戦いを挑むようだから、その時が来たらエステル達は”空の女神”と一緒にその一族がいる場所に向かうだろうから、あの娘達がいつまでも同じ支部に留まっているとは思わない方がいいわよ」
「”空の女神の目的”……」
「その目的がある一族に戦いを挑む事って言っていましたけど………あの”空の女神”が直々に戦いを挑む程の一族って一体何者なんですか?」
シェラザードの忠告を聞いたガイウスは呆け、アリサは不安そうな表情で訊ねた。
「その一族については”空の女神”も”今は話す時ではない”と言って答えを濁していたから、あたし達もわからないけど……ただ、”空の女神”の話によるとその一族は”D∴G教団”を裏から操っていた黒幕だったそうよ。」
「な―――――」
「”D∴G教団”を裏から操っていた黒幕ですって!?」
「という事はあの事件はまだ終わっていなかったのかよ!?」
シェラザードの答えを聞いたクレア大尉は絶句し、サラとトヴァルは厳しい表情で声を上げた。
「”D∴G教団”………半年前にクロスベルで騒動を起こした”空の女神”の存在を否定し、悪魔を崇拝したと言われている狂った宗教組織か。」
「うむ……確か薬物で警備隊を操り、クロスベルで騒動を起こしたとの事だが………」
「薬物で人を操るとか、非常識な……」
「空の女神を否定し、悪魔を崇拝した組織……か。」
ユーシスとラウラ真剣な表情で呟き、ラウラの話を聞いたマキアスは疲れた表情で呟き、ガイウスは静かな表情で呟いた。
「まさかあの”教団”に”黒幕”がいて、その”黒幕”が空の女神直々に戦いを挑まれるとはね~。それにしても”殲滅天使”はその事を知っているのに、関わらないなんて不思議だよね~。」
「え……ど、どうしてそこにレン皇女殿下が出てくるのですか……?」
ミリアムがふと呟いた言葉が気になったアルフィン皇女は戸惑いの表情で訊ねた。
「だって、”殲滅天使”は昔その”教団”に”人体実験”をされているから、その事で”D∴G教団”を滅茶苦茶憎んでいるはずなんだよ?確か半年前のクロスベルで起こった”教団”の事件の時もクロスベル警察に手を貸して、”教団”の生き残りの司祭を殺したし。」
「ミリアムちゃん!」
アルフィン皇女の疑問に答えたミリアムの説明を聞いたクレア大尉は声を上げてミリアムを睨み
「じ、”人体実験”って……!」
「………”D∴G教団”は数年前各国の子供達を攫い、その子供達を使って”儀式”という名の人体実験を行っていたのです。」
「………事はあまりにも大きかった為、リベール、エレボニア、カルバードに加えてクロスベル警察、遊撃士協会、そしてメンフィルの協力によってようやく教団が持つ複数の”拠点”を見つけ、教団員の撃破、そして拘束及び子供達の救出の為に各国の精鋭部隊がその”拠点”に突入したのだが……救助できた子供達はレン君を含めて僅か2名だったそうだ。」
信じられない表情をしているアリサにシャロンが説明し、シャロンの説明を補足するようにオリヴァルト皇子が説明を続けた。
「救助できたのが、たった2名って………!」
「他の子供達はどうなったんですか……?」
「………残りの子供達は連中の”人体実験”によって”もはや人間の形すらとどめていない状態の死体”が精鋭部隊が突入した連中の拠点に散乱していたそうよ………」
「ひ、酷過ぎるよ……!」
「外道共が……ッ!」
「……殿下。先程レン皇女殿下も”D∴G教団”に拉致され、”人体実験”を施されたという話が出てきましたが、メンフィル帝国がかの”教団”の制圧に協力したのもレン皇女殿下の件だったのですか?」
説明を聞いたエリオットは信じられない表情をし、ジョルジュの疑問に対して重々しい様子を纏って答えたサラの話を聞いたトワは悲痛そうな表情をし、ユーシスは怒りの表情で呟き、アルゼイド子爵は目を伏せて黙り込んでいた後静かな表情でオリヴァルト皇子に訊ねた。
「いや、レン君が”教団”に拉致された当時はメンフィル皇家どころかメンフィル帝国とは何の関係もない平民の子供だったそうだから、メンフィルはレン君の件で”D∴G教団”の撲滅に協力した訳ではないよ。」
「ええっ!?レ、レン皇女殿下が”平民の子供”だったって……!」
「もしかしてレン皇女殿下は、”養子”なんですか?」
オリヴァルト皇子の答えを聞いたアリサは驚き、ある事に気づいたジョルジュはオリヴァルト皇子に訊ねた。
「ああ。レン君は当時”教団”の”拠点”の一つを制圧する部隊であったリウイ陛下率いる精鋭部隊に救助されて、その後様々な複雑な事情によってリウイ陛下とペテレーネさんの養子―――マーシルン皇家の一員にしてもらったとの事だ。」
「まさかレン皇女殿下にそのような事情があったなんて……」
「なるほどね。道理で姉の”姫君の中の姫君”と性格もそうだけど、容姿も全然似ていない訳だ」
「レン皇女殿下の本当のご両親は何故実の娘であるレン皇女殿下を引き取らなかったのでしょうね………?」
「……ま、”様々な複雑な事情”があるんだからそれこそ”実の娘を引き取れない事情”があったんでしょうね。――――それよりも話を聞いて気になっていたんだけど、まさか”殲滅天使”の化物じみた才能はその”人体実験”によるものなのかしら?」
レンが養子である事を知ったアルフィン皇女は辛そうな表情をし、フィーは納得し、辛そうな表情で呟いたエマの疑問に答えたセリーヌは目を細めて自身の推測を口にした。
「う、う~ん……その件に関してはレンちゃんにとっては辛い過去を思い出させる凄くデリケートな事だったから私達もレンちゃんに聞いた事は無かったんだけど………」
「………師匠から聞いた話になるけど、恐らく”教団”によって投与された薬物によって元々あの娘に眠っていた潜在能力が覚醒したそうだから、”教団”による”人体実験”も間違いなく関係しているでしょうね。」
「それとこれはあくまで”情報局”の推測なのですが……レン皇女殿下は”魔人化”が可能と推測されています。」
セリーヌの推測にアネラスが困った表情で答えを濁しているとシェラザードが複雑な事情で答え、クレア大尉は静かな表情で答えた。
「”魔人化”………?それは一体どういうものなのだ?」
「”魔人化”とはその名の通り”人”が”魔人”―――つまり”悪魔のような力を持つ人外の存在”と化する現象です。」
「”悪魔のような力を持つ人外の存在”……か。」
「まあ、今の時点でも”殲滅天使”は”悪魔”のような存在だけどね~。」
「同感。人を殺す事を楽しんでいる事もそうだけど、わたし達が困っている所を見て楽しんでいる様子を見せていた所とか、まさに”悪魔”だし。」
(というかむしろあの娘の場合だと、”悪魔”よりも”死神”の方が似合っているのよね……)
(レンちゃんの得物はよりにもよって、おとぎ話とかで出てくる死神が持っているような”大鎌”ですからねぇ。)
ガイウスの疑問に答えたエマの答えを聞いたラウラは重々しい様子を纏って呟き、ミリアムとフィーのレンに対する評価を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中疲れた表情で溜息を吐いて呟いたシェラザードの小声の言葉にアネラスは苦笑しながら同意した。
「このガキ共は……」
「頼むから絶対に本人の目の前でそんなとんでもない事を言わないでくれよ……」
ユーシスは顔に青筋を立てて二人を睨み、マキアスは疲れた表情で溜息を吐いた。
「………あ。そう言えば”パンダグリュエル”の時もレン皇女殿下はリィンさんのように髪の色や瞳を変化させて、ヴァルカンという男性を圧倒していましたわ。」
「ええっ!?僕達はナイトハルト教官の協力のお陰で何とか撃退できたのに……!」
「……どうやら”殲滅天使”も”魔人化”ができるみたいだな。」
「そうね……それも皇女殿下の話だと”殲滅天使”は”ルバーチェ”と違って肉体変化が起きていない上正気も保っているようだから、恐らく彼女はヨアヒム・ギュンターのように”グノーシス”の”力”を使いこなしているのでしょうね……」
「ハハ、ただでさえ今でもチートな存在なのに、更にチート能力を手に入れていたなんて、レン君らしいね。」
「フフ、”魔人化”による戦闘能力の向上も考慮するともはやレン皇女殿下に対抗できる”結社”の使い手はレーヴェ様のように”執行者”の中でも戦闘能力が極めて秀でている方達しかいないでしょうから、私如きでは敵わないでしょうね。」
パンダグリュエルでの戦いを思い出したアルフィン皇女の話を聞いたエリオットは驚き、トヴァルとサラはそれぞれ厳しい表情で考え込み、オリヴァルト皇子とシャロンは苦笑していた。
「話を戻すが……皇女殿下達が知る様々な新たな情報を知ったそなた達は今後どうするつもりなのだ?」
そしてアルゼイド子爵は静かな表情でアリサ達Ⅶ組のメンバーに問いかけた。
「オレ達の今後……か。」
「とは言っても方法は二つしかない上、どっちかを選べばいいだけなんだけどね~。」
「”殲滅天使”達―――特務部隊の指揮下に入るか、入らないかだね。」
アルゼイド子爵の問いかけを聞いたガイウスは複雑な事情で考え込み、ミリアムとフィーは静かな表情で呟いた。
「……俺はお前達が話し合った結果の判断に従う。お前達がメンフィル帝国に選択肢を突き付けられる原因となったのは俺の父や兄なのだからな……その原因となった者達の家族である俺にはⅦ組の今後について意見する”権利”等ない。」
「ユーシス………」
「”権利がない”なんて悲しい事を言わないでよ。ユーシスも僕達”Ⅶ組”のクラスメイトであり、大切な仲間なんだからユーシスにも当然僕達の今後についての話し合いに参加して意見する”権利”はあるよ。」
「ああ。第一それを言ったら、君や僕も含めてⅦ組のメンバーの約半数は意見できない事になるぞ。メンフィルとの戦争勃発も元を正せば”貴族派”と”革新派”による派閥争いによって勃発した内戦だったんだからな。」
重々しい様子を纏って答えたユーシスの答えを聞いたラウラは辛そうな表情をし、エリオットとマキアスはそれぞれユーシスに慰めの言葉をかけた。
「フン……お前にまでそんな言葉をかけられる程落ちぶれていたとは、俺は俺自身が思っていた以上にどうかしていたようだな。」
「ぐっ……人がせっかく気を使ってやったのに、この男は……!」
「フフ、いつものお二人ですね。」
「ええ………あ……そう言えばサラ教官。特務部隊の”総大将”――――リィン特務准将が私達Ⅶ組のクラスメイト兼リーダー候補だったとの事ですけど、どうしてメンフィル帝国出身の人がⅦ組のリーダー候補だったんですか?」
「教官とオリヴァルト殿下はリィン特務准将殿の出自をご存知との事ですが……もしかしてそれと何か関係があるのですか?」
ユーシスの自分に対する毒舌を聞いてユーシスを睨むマキアスの様子をエマと共に微笑ましそうに見守っていたアリサはある事を思い出してサラに訊ね、ラウラも続くようにサラとオリヴァルト皇子に訊ねた。
「彼の出自とⅦ組のリーダーとの関係は大ありよ。リィン特務准将は”平民であり、貴族でもある”から平民と貴族が混じったⅦ組のリーダーとしてピッタリだったのよ。」
「”平民であり、貴族でもある”………?一体どういう意味なのだろうか。」
サラの説明の意味がわからないガイウスは質問を続けた。
「帝国貴族のラウラ君やユーシス君ならば知っているかもしれないが………エレボニアでも貴族が養子を取り、その養子に家督を相続させる事も認められているが……家督を相続させる為にはエレボニアの場合、大抵ある条件が必要だ。」
「”条件”、ですか……?それは一体どのような条件なのでしょうか?」
「…………引き取られた養子が”しかるべき血筋”である事だ。」
オリヴァルト皇子の話を聞いて疑問が出て来たジョルジュの質問にアルゼイド子爵は静かな表情で答えた。
「養子の家督相続の条件が”引き取られた養子がしかるべき血筋”である事って………」
「いかにも血統主義のエレボニアの貴族らしい条件ね。」
「そしてその話がリィン様の話で出たという事は………」
「まさかリィン特務准将殿は違うのですか?」
アルゼイド子爵の答えを聞いたトワは不安そうな表情をし、セリーヌは呆れた表情で呟き、静かな表情で呟いたシャロンに続くようにラウラは複雑そうな表情で訊ねた。
「ああ。―――12年前、ユミル領主であるテオ・シュバルツァー男爵が吹雪の雪山の中で見つけて拾った自分の名前以外は全く覚えていない出自不明の”浮浪児”………―――それがリィン君なんだよ。」
「それは…………」
「”尊き血”を重視するエレボニアの貴族達が知れば、間違いなく騒ぎ立てただろうな。」
リィンの出自を知り、ある事を推測したアルゼイド子爵は真剣な表情をし、トヴァルは疲れた表情でアルゼイド子爵が推測した内容を口にした。
「ああ。実際エレボニアの貴族達はその件を知って相当騒ぎ、シュバルツァー卿は社交界のゴシップの的になったそうだ。常識外れの酔狂や”隠し子”の噂、中にはシュバルツァー卿に『高貴な血を一切引かぬ雑種を貴族に迎えるつもりか!』なんて難癖をつけた貴族もいたそうだ。」
「ひ、酷い……!」
「その貴族達も姉さんを追い詰めた貴族達と同じだな………」
「エレボニアの貴族は血統主義に相当五月蠅い話は聞いてはいたけど、まさかそこまでするとはね……」
「で、でも……エレボニアの貴族達はリィン君のお父さんに対してどうしてそこまで責めたんでしょう?リィン君達――――”シュバルツァー家”はエレボニアではなくメンフィルの貴族ですから、下手したら外交問題に発展しますよ?」
オリヴァルト皇子の説明を聞いたアリサは悲痛そうな表情をし、マキアスは複雑そうな表情で呟き、シェラザードは疲れた表情で溜息を吐き、ある事が気になっていたアネラスは疑問を口にした。
「シュバルツァー卿がリィン君を拾ったのは”百日戦役”が始まる少し前だったそうだから、その時のシュバルツァー卿はまだエレボニアの貴族だったんだ。話を続けるが……シュバルツァー卿はリィン君を養子として受け入れた自分達に対するエレボニアの貴族達のそういった雑音が疎ましくなり、結果ユミルから出ず、社交界にも顔を出さなくなった……―――つまりシュバルツァー卿は事実上社交界から追放されたんだ。」
「そ、そんな……!お父様は―――”アルノール皇家”はどうしてテオおじ様達を庇わなかったのですか!?シュバルツァー家はアルノール皇家とも縁がある貴族ですのに………」
アネラスの疑問に対して答えたオリヴァルト皇子の説明を聞いたアルフィン皇女は悲痛そうな表情でオリヴァルト皇子に訊ねた。
「庇おうと思ってもできなかったんだろうね。エレボニアは”四大名門”を始めとした貴族達が持つ力が強いからね。幾ら縁があるとはいえ、貴族の中でも最下位の男爵―――それも出自不明の子供を養子にしたシュバルツァー家を庇えば、アルノール皇家は”四大名門”を始めとした多くのエレボニアの貴族達の反感を買い、最悪アルノール皇家に反旗を翻す事も考えられただろうしね。」
「そ、それは………」
「まあ、実際ユーゲント皇帝が”平民”のギリアスのオジサンを重用した事で貴族達は反旗を翻しちゃったもんね~。」
「口を謹んで下さい、ミリアムちゃん!」
「このガキは……」
オリヴァルト皇子の推測を聞いたアルフィン皇女が辛そうな表情で顔を俯かせている中ミリアムはその場の空気を壊す発言をしてその場にいる全員に冷や汗をかいて表情を引き攣らさせ、クレア大尉とユーシスはそれぞれミリアムを睨んだ。
「それにしてもそんな事があったのに、よく”シュバルツァー家”はアルフィン皇女を匿った件も含めて今でもアルノール皇家を大切に思っていて、今回の両帝国の戦争を和解へと持って行ったわね。話を聞いた感じ、普通に考えたらシュバルツァー家は自分達を追放したエレボニアの貴族達や縁があった割に肝心な時に何もしてくれなかったアルノール皇家に怒りや恨みを抱いたり、復讐心が湧いてもおかしくないわよ?」
「今の言葉は幾ら何でも殿下達に無礼過ぎよ、セリーヌ!」
「君もミリアムやフィー同様もう少しオブラートに包んだ言い方をすべきだぞ……」
呆れた表情で指摘したセリーヌの指摘を聞いたエマは声を上げてセリーヌを睨み、マキアスは疲れた表情でセリーヌに指摘した。
「ハハ、実際セリーヌ君の言う通り私達アルノール皇家―――いや、エレボニア帝国はシュバルツァー家に恨まれて当然の事をしてしまったにも関わらず、エレボニア帝国はアルフィンの件も含めて”シュバルツァー家”から恩を受けたにも関わらずその恩を仇で返してしまったのだから、正直父上や私達――――アルノール皇家はエレボニア帝国を代表してリィン君やシュバルツァー卿達に土下座をして謝罪や感謝の言葉を述べるべきなんだよね。」
「殿下………」
「……………」
苦笑した後疲れた表情で溜息を吐いたオリヴァルト皇子の様子をラウラやユーシスは辛そうな表情で見つめ
「……今の話を聞いて、わたくし、改めて決心しましたわ。今後どのような事が起こっても、わたくしは一生リィンさんの妻の一人としてリィンさんを――――シュバルツァー家を支えますわ。」
「皇女殿下………」
「”今後どのような事が起こっても”って事は、万が一メンフィルとエレボニアの戦争が再度勃発してもアルフィン皇女はシュバルツァー家―――メンフィル帝国の一員として、エレボニアと敵対するって事?」
「フィー!あんたも口を謹みなさい!」
決意の表情で語ったアルフィン皇女の様子をアルゼイド子爵は驚きの表情で見つめ、ある事に気づいたフィーはアルフィン皇女に訊ね、フィーの質問内容を聞いたサラは声を上げてフィーを睨んで注意した。
「………はい。エレボニアが今までシュバルツァー家にした仕打ちやユミルの件に対する償い、内戦の最中わたくしを匿った事や今回の戦争の件に対する恩を返す為……そしてせっかくリウイ陛下に叶えて頂けるという一生に一度あるかどうかわからない滅多にない褒美の一つをリィンさんはわたくしの為に使ってくれたのですから、”その程度の覚悟”を持ってリィンさんに嫁ぐ事はエレボニア皇女として当然ですわ。」
フィーの質問に対してアルフィン皇女は僅かに辛そうな表情になって頷いた後すぐに決意の表情へと戻して答えた。
「へ………リウイ陛下に叶えて貰える褒美の一つをアルフィン皇女殿下の為に使ったってどういう事ですか?」
「そう言えばレン皇女殿下はアルティナ様の件でリィン様は三つある褒美の内の一つをアルティナ様を引き取る為に使ったと仰っていましたわね……」
エリオットの疑問を聞いたシャロンはある事を思い出して呟いた。
今回の戦争で最も手柄をあげたリィンお兄さんは特別にリィンお兄さんが望む”褒美”は3つになってね。一つ目はさっきみんなに話した通り、今回の両帝国の戦争を”和解”という形で終結させる事。そして二つ目はその娘――――アルティナをリィンお兄さん達”シュバルツァー家”が引き取って、今後の彼女の処遇については”シュバルツァー家”に一任してもらう事だったのよ。
「確かにそのような事もレン皇女殿下は仰っていたな……」
「リィン特務准将の褒美は3つだそうだから一つ目は戦争終結の件で、二つ目はアルティナちゃんの件だから……後一つ”褒美”が残っている事になるよね………?」
「あの時は和解条約の第五条の件でオレ達も残りの”褒美”について気にしている余裕がなく、残りの”褒美”について誰も聞かなかったが……」
「……皇女殿下。リィン特務准将は3つ目の褒美は一体どのような内容を望んだのでしょうか?」
「それは――――」
シャロンの話を聞いてレンの説明の一部を思い出したラウラは静かな表情で呟き、トワは戸惑いの表情で考え込み、ガイウスは複雑そうな表情で呟き、クレア大尉は真剣な表情でアルフィン皇女に訊ね、アルフィン皇女はリィンが望んだ最後の褒美の内容を口にした。
「ええっ!?お、皇女殿下が心から結ばれたいと思う男性が現れた場合リィン特務准将と皇女殿下の夫婦関係を破談にして皇女殿下がその男性に嫁ぐ事をメンフィルが黙認する事!?」
「一体何を考えてそんな内容を望んだのかしら、リィンは。」
「”帝国の至宝”と称えられている皇女殿下が嫁いで来るという幸運を自ら手放そうとするとはとんでもなく酔狂な考えを持った男だな。」
「アルフィン。リィン君は何故そのような内容を褒美として望んだんだい?」
リィンが望んだ最後の褒美の内容を知ったアリサは驚き、セリーヌとユーシスは呆れた表情で呟き、オリヴァルト皇子は戸惑いの表情でアルフィン皇女に訊ねた。
「………和解調印式でその件に関する質問が出た時セシリア将軍がこう仰っていたわ。―――――今回の戦争の件で辛い立場となった皇女殿下にせめて”女性として”幸せになって欲しいと思って最後の褒美の内容をアルフィン皇女の件にしたとの事よ。」
オリヴァルト皇子の質問にアルフィン皇女の代わりにシェラザードが答えた。
「それは………」
「つまりリィンさんはシュバルツァー男爵閣下のように、皇女殿下を気遣ってそのような内容を望んだのですか……」
シェラザードの答えを聞いたラウラは複雑そうな表情をし、エマは重々しい様子を纏って呟いた。
「ハハ……リィン君に改めて謝罪や感謝の言葉を述べる理由がまた一つ増えたね……――アルフィン。アルフィンはリィン君が君が望む男性と結ばれる事を望んだにも関わらず、リィン君に嫁ぐつもりなんだね?」
「はい。先程も申しましたようにシュバルツァー家やリィンさんにわたくし達アルノール皇家の償いをする為……そして恩を返す為にわたくしは一生リィンさんの妻の一人としてリィンさんに尽くします。既にリィンさんにもわたくしの意志は伝えておりますわ。」
「そうか………アルフィン自身が決めた事ならば、私はこれ以上その件について口出しするつもりはないよ。今回の戦争の結果や戦後のエレボニアの状況を考えたらメンフィルに報復するといった愚かな事は誰も考えないと思うが……家族同士が敵対し合うような悲しい事を起こさせない為にも、私の命に代えてでも再びメンフィルとの関係が悪化する事を絶対に阻止してみせるよ。」
「オリヴァルト殿下……」
「……………」
アルフィン皇女の決意を知って改めて決意したオリヴァルト皇子の決意を知ったアネラスは心配そうな表情でオリヴァルト皇子を見つめ、シェラザードは静かな表情で黙り込み、アリサ達はそれぞれ辛そうな表情で黙り込んでいた。
「………アルフィン殿下の件はともかく、リィン特務准将の出自の話を聞いて彼がⅦ組のリーダー候補として挙がっていた理由がわかったでしょう?」
「……ああ。リィン特務准将は生粋の平民の血が流れている貴族であるからこそ、平民としての気持ち、そして貴族としての気持ちの両方が理解できるからⅦ組のリーダー候補として挙がっていたのか。」
「そしてわたし達が特務部隊の指揮下に入る事になれば、結果的にリィン特務准将がわたし達Ⅶ組のリーダーになるから、皮肉な運命だね。」
「フィー、それは………」
話を戻したサラの問いかけを聞いたユーシスは重々しい様子を纏って呟き、静かな表情で呟いたフィーの言葉を聞いたラウラは複雑そうな表情をした。
「皮肉な運命といえば、特務部隊の指揮下に入ったら”副将”の”ディアメル伯爵家”の令嬢もボク達の上官になるから、”ディアメル伯爵家”と因縁があるマキアスにとっても皮肉な運命だよね~。」
するとその時ミリアムが驚愕の事実を口にした―――
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