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マクロスフロンティア【YATAGARASU of the learning wing】

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始動

 
前書き
久々の投稿。相変わらず甘めッス。 

 
「レイヴン2よりデルタ1へ、指定ポイントを通過した。異常は認められず、引き続き哨戒を続行する。」

『デルタ1了解。』

『全く……哨戒もできねぇのか、統合軍の連中は。』

「そう言うなよクレイ。その分ウチが儲かると思えば悪い話じゃない。」

『だがよぉ、いざ実戦って時に困るぜ?このままじゃ。』

「その為のお守りだよ。今の内に慣らしとかないとな。」

『……済まないね、君達。我々が不甲斐ないばかりに。』

『っ!いえいえ、これも仕事なんでね。』

「………はぁ。」

現在、俺とクレイは新統合軍のRVF-171を連れて、フロンティア船団の前方航路の安全確保(クリアリング)中だ。

本来なら新統合軍の仕事だが、彼らは先日の襲撃による損害からの再編と訓練とに追われており、偵察機の護衛はS.M.S.に外注している。別のポイントには同じようにRVF-171を引き連れた姐さんとフィーナのVF-25/adがいる筈だ。

「しかし……見事に何も無いな。」

バイザーとキャノピー越しに広がるのは何処までも続く宇宙と、その中に瞬く無数の星々。敵はおろか、デブリの一片も見当たらず、レーダーも何も映さない。

『ハハハ……哨戒任務なんてそんな物だよ。特に此処は星間空間だからね。九分九厘まで異常は無いし、無論、それは喜ばしい事だ。』

『まぁ……そっすね。ただ、こうも退屈だとなあ……。』

「トラブルがあって欲しい訳じゃ無いが……もっと仕事した感が欲しいな。」

『それには同感だけどね。だが、大して労せず食べていけるなら、それに越したことは無い。』

身も蓋もない統合軍のパイロットの言葉に、クレイと苦笑する。確かに、それは一つの真理だった。

「……そろそろかな?全機、機首を……」

『……ちょっと待ってくれないかな?』

指定の位置まで到達し、引き返そうとするが、統合軍のパイロットに遮られる。その後も何かブツブツ呟いてる。

「……何か?」

『いや、前方の空間から…フォールド波が……』

その言葉に思わずセンサーを確認する。自分のVF-25E/adのモニターには何も反応は無い。クレイのC型でも同様だろう。流石は電子戦機というべきか。

『……捉えた。フォールド断層を越えてるな……発信は三日前、か。ギャラクシーかな?』

この広い宇宙空間、当然通信にもタイムラグが生じる。フォールド通信でも断層は越えられない為、他の船団からリアルタイムで情報が届く事は極めて少ない。

そしてフロンティア船団に最も近いのは僅かに先行するギャラクシー船団だ。推定現在地からも三日という時間は妥当だろう。

『………大変だ。』

通信を受け取った統合軍パイロットの声には震えがある。何だ?よっぽど悪いニュースでも書いてあったか?

『ギャラクシー船団が……バジュラの攻撃を受けてる。』

「『は?』」

俺とクレイが、異口同音に声を漏らす。

『メインシップに取り付かれたらしい……被害は不明だ……』

「『なっ!?』」

『急いで戻ろう!早く報告しないと!』

俺達は、エンジンが許す限りの速度で反転、フロンティア船団への帰途を辿った。










報告を受けた政府の判断は速かった。政府はバジュラの存在を公表すると同時に戦争状態への突入を宣言。新統合軍全部隊にコンディション・イエローが発令された。

S.M.Sにおいても主契約先が戦争状態に突入した際の緊急規定、社内規定『特例B項』が適用された。これによりS.M.Sは一時的に新統合軍の隷下におかれ、戦争の終結まで退社の自由を失った。

そして、戦闘要員の、その全員が即時戦闘態勢移行が可能な状態、即ち本社自室での待機が命じられていた。

「えらい事になったな……」

「ああ……」

格納庫の片隅、自分達の機体の整備を眺めつつクレイと言葉を交わす。

確かにバジュラとの衝突は避けられないだろうとは思っていた。だが、ここまで大規模に、かつ突然に動くとは思っていなかった。或いは、ここ数日の平穏はギャラクシー襲撃の前触れだったのかも知れない。

「どうなると思う?」

「……迎撃か、救出か。グラス大統領なら救出を選びそうだが……難しいだろうな。」

あれからギャラクシー船団とは音信不通。安否はおろか、現在地さえ分かっていない。捜索隊を出せばいいのだろうが、バジュラによる各個撃破の的だ。

そうなると採れる行動は迎撃戦のみだ。幸い、新統合軍がかなり綿密な哨戒網を敷いている。余程の事、それこそ超遠距離から船団の目の前にフォールドでもされない限りは、事前に把握できるだろう。

しかし、拠点も規模も予測不可能の相手だ。守り切れるのか、絶対の根拠は存在しない。

「なぁ翼、VF-171とバジュラのキルレート聞いたか?」

「……いや、知らねぇ。」

「3:1、新統合軍のバルキリーが全部で600機くらいだから200体のバジュラと互角って事だ。」

「……冗談だろ?」

「ガチだ。艦隊との連携でほぼ互角に持ち込めてるけど、格闘戦(ドッグファイト)じゃ勝ち目はねぇな。」

「………。」

この場合、新統合軍の練度不足を嘆けばいいのか、それともバジュラの能力を恨めばいいのか、ともあれ、あまりに圧倒的なその数字に言葉が出なかった。

そんな矢先だった。

『烏羽中尉、お客様がお見えです。エントランスロビーまで来て下さい。』

「……客?俺にか?」

正直言って心当たりがない。また政府か何かの呼び出しか?

「……翼、お前って奴は………。」

「何だよ?」

「………いや、何でもねぇ。とっとと行ってこいよ。」

「?おお。」

エントランスまでは大した距離じゃない。さして急がなくても五分で着いた。しかし、

「遅い!」

澄んだ声、強めの口調、空色の髪。見間違えようが無かった。

「……奏?」

怒ったようなーー実際怒ってるんだろうがーー膨れっ面をした美星奏(最愛の恋人)が、そこにいた。










「どうして此処に?」

場所を応接室に移し、とりあえずの疑問をぶつけてみる。が、帰ってきたのはマクロスキャノン並みの破壊力を秘めたジト目だった。

「どうしても何も……何回も何回も何っっっ回も連絡したのに、一つも返信が無いのは、どうして?」

「へ?……あ。」

そういえば、確かに奏からの連絡は来ていた。が、唐突に慌ただしくなった中で返す時間がとれなかったのと、返せるような精神状態じゃ無かった為に放置してしまっていたのだ。

「あー……済まん。怒ってる……よな?やっぱ。」

「当然よ。」

うう……怖ぇ〜〜。これならまだバジュラ100体の群れに単機で飛び込んだ方がマシだな。

「……でも、それより大事な用があるからいいわ。」

大事な用?何だ?……まあでも、俺も言っておかなきゃいけない事がある。そういう事なら……

「丁度いいか。俺も話がある。」

そう言うと、幾分か意外そうな顔をした奏が、「先にどうぞ。」と促してくる。

「奏、フロンティアから逃げろ。」

「え?」

「他の船団へのチケットは軒並み高騰してるけど……俺の稼ぎも使えば充分に足りる筈だ。他の何処でもいい。フロンティアから離れろ。」

「ちょ、待って…」

「幸いギャラクシー以外にも幾つか旅客船で行ける船団はある。コースもバジュラの予測棲息域から外れてるし、大丈夫だろ。」

「待って!」

「………。」

奏が叫ぶ。その顔は怒りというよりは今にも泣き出しそうに見えて、咄嗟に視線を下げた。

「何で……何でそんな事言うのよ!」

「……公式には発表されて無いが、敵が圧倒的過ぎる。そうそう簡単には敗けないとは思うが、万が一もあるし……俺が、生きて帰れる保証は無い。」

バジュラが攻めてきた時、S.M.Sに求められる役割は先鋒だろう。初撃を受け損なったら一気に全軍が瓦解しかねない。そして、前衛の損耗率は言うに及ばず、だ。

「仮に生き残っても、俺とは違う場所から突破されて、それでフロンティアは終わるかも知れない。俺は、そんな瞬間を見たくないんだ。……お前を失う瞬間を。」

全力を尽くすし、諦めるつもりも無い。しかし、戦場に絶対は無い。そして、俺一人が出来る事も限られているのだ。

視線を上げ、改めて奏を見る。その大空の様に澄んだ瞳には、大粒の涙が浮かんでいた。そして……

「………バカーーー!!」

思いっきり怒鳴られた。

おもわず唖然とする。硬直したままの俺にツカツカと歩み寄った奏は、そのまま俺の頬に痛烈な平手打ちを食らわせた。

「ぶっ!?っ、何すんだ!」

「こっちの台詞よ!フロンティアから逃げろ、ですって?私がそれを素直に聞くとでも?」

「……思ってねーよ。けど、聞いてもらう。」

「い、い、え!絶対聞くもんですか。何が何でもフロンティアに残るわよ!」

「だからここは危険なんだよ!俺はお前が死ぬのに耐えられない……だから……っンン!?」

叫び返した俺の口を、突然に何か柔らかい物が塞いだ。すぐ目の前に奏の顔があり、何をされているのか理解する。

「んん……どう?」

「どうってお前……」

「………分からないの?」

「……何が?」

「私も、翼と同じ。翼を失うなんて耐えられない。」

そういって奏は、キスを交わした姿勢のままこっちに体重を預けてくる。

「翼を失うくらいなら、死んだ方がマシ。私も、あなたと同じだって分からないの?」

「っ……けど、」

「でも、私は翼を信じてる。翼なら私を、このフロンティアを守ってくれるって。そして……絶対私の所に帰ってくるって。」

「奏……お前……」

「大丈夫、翼なら出来る。あんな化け物の100や200、敵じゃないわ。……だから、」

そこで一度言葉を切る。こっちを見据え、その瞳に確かな意思を宿して口を開く。

「だから……勝って。」

『勝って』。シンプルで、難しくて、真っ直ぐな願い。

「………わかーー」

ヴィーー!!ヴィーー!!ヴィーー!!

『コンディション・レッド発令!コンディション・レッド発令!全戦闘要員は直ちに所定の配置につけ!!繰り返す、全戦闘要員は直ちに所定の配置につけ!!』

「これは……」

始まった。何が、かは分からない。けど、確実に『何か』が動き出した。

「……行くんでしょ?」

「ああ。」

「……翼、翼は………」

「心配すんな。」

二回りは小柄な奏の頭に手を乗せる。普段はこうすると「子供扱いするな!」と機嫌が悪くなるが、今は抵抗しない。

「……『勝って』くる。」

それだけ言って、格納庫で待つ相棒の元に急いだ。 
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