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真田十勇士

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巻ノ九十四 前田慶次その十二

「叔父上の又左殿ですが」
「叔父御か」
「あの方はよく前田殿とよく喧嘩をされていましたな」
「うむ、叔父と甥であったが歳も近くな」
 慶次も否定せずに答えた。
「お互い傾いておったしな」
「それで、ですな」
「若い頃から殴り合いの喧嘩もよくしたわ」
 このことはだ、慶次は笑って答えた。
「そして家を出てからも会えばな」
「太閤様の時もですな」
「殴られたし、酒もよく共に飲んだ」
「又左殿もかなりの方でした」
 信長の下で頭角を表し百万石にまでなった者だ、天下の信望も高く家臣達にも民達にも深く慕われていた。
「その又左殿もです」
「わしをか」
「お好きでありましたし」
「お互い嫌いではなかった」
 前田も慶次もとだ、慶次はまた答えた。
「喧嘩ばかりしておったがな」
「家を出られてからもですな」
「それでもな」
「そして直江殿も結城殿もですな」
「友であってくれておったわ、家では助右衛門もじゃ」
 奥村、彼もというのだ。
「友であってくれておるしのう、今も」
「左様ですな、ですから」
「わしはか」
「はい、決して卑下される様な方ではありませぬ」
「不便者ではないか」
「そう思いまする」
「そうであればよいがのう」
「そしてその前田殿から文を受け取れば」
 それで、というのだ。
「結城殿も喜ばれまする」
「ではじゃな」
「はい、そうしたお気持ちを抱かれることなく」
「自然な心でか」
「文をお書き下さい」
「そうするとするか」
 慶次は穏やかな顔になった、そしてだった。
 彼は実際にその気持ちで文を書くことにした、そのうえで幸村に言った。
「真田殿、そのお言葉忘れぬ」
「そう言って頂けますか」
「かたじけなく思う」
 こうも言ったのだった。
「わしもあとどれだけ生きられるかわからぬが」
「それでもですか」
「そのお言葉生涯忘れぬ」
「有り難きお言葉」
「その様にな、では今宵は心ゆくまで飲もうぞ」
 慶次は幸村と伊佐の杯に自ら酒を入れた、勿論自身のものにもだった。
 酒を入れて飲む、そのうえで二人に言った。
「美味い酒であろう」
「はい、実に」
「この酒は」
「ここの酒は美味い」
 実にとだ、今度は笑顔で言ったのだった。
「米がよいせいでな」
「そうですな、米沢の米はよいですな」 
 伊佐は慶次に確かな声で答えた。
「東北はそうした場所が多いですが」
「それでじゃ」
「こうしてですな」
「美味い酒が飲める、だからな」
「今宵はですな」
「心ゆくまで飲もうぞ」
 その米沢の酒をというのだ。 
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