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真田十勇士

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巻ノ九十四 前田慶次その六

「天下の大不便者雲井ひょっとこ斎じゃ」
「そのお名前は」
「ははは、他にはないか」
「はい、どなたも使われませぬので」
「そうなのか」
「そうです」
「ははは、ではどう名乗ろうかのう」
 言葉は笑ったままだった。
「一体」
「さて、そうなりますと」
「ではそのことは後で考えるとしよう」
「後でですか」
「今はよい、とにかくな」
 慶次はあらためて二人に言った、茶室に入って来た幸村と伊佐に。
「茶を飲もうぞ」
「それでは」
「うむ、これから淹れるからのう」
 こうしてだ、二人は慶次から茶を馳走になった。そのうえで。
 三人で茶を飲む、そこでだった。慶次は二人にあらためて言った。
「さて、ここに来られたということは」
「はい、それでなのですが」
「わしにじゃな」
「是非教えて頂きたいのですが」
 幸村は慶次に畏まって応えた。
「宜しいでしょうか」
「うむ、ではな」
「それでは」
「わしの屋敷に来られよ」
 快諾であった。
「茶の後でな」
「宜しいですか」
「その為に来られたならな」
 是非にという返事だった。
「わしも教えさせてもらう」
「左様ですか」
「うむ、槍じゃが」
 ここでだ、慶次は伊佐を見て言った。
「貴殿は槍は使わぬな」
「錫杖です」
「そうじゃな、しかしな」
「それでもですな」
「先に刃があるかどうかじゃ」
 槍と杖の違いはというのだ。
「それだけの違いじゃからな」
「だからですか」
「よい」
 慶次は伊佐にも快諾で応えた。
「それではじゃ」
「この茶の後で」
「わしの術を全て教えさせてもらう」
「有り難きお言葉」
「わしの様な不便者に会いに来てくれたしのう」
「不便者なぞとは」
「ははは、わしは戦以外出来ぬ」
 慶次は口を大きく開いて笑って述べた。
「戦もなくなればな」
「出来ることがないからですか」
「不便者じゃ」
 そうなるというのだ。 
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