艦隊これくしょん~舞う旋風の如く~
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出会う風と乗り越える壁
出会う風と乗り越える壁⑤
艤装を身にまとい、対峙する初風と舞風。しかし、この状況に困惑の色を隠せない舞風に対し初風は余裕の表情を見せている。着任したてでろくに戦闘経験のない舞風とこの泊地である程度の戦闘経験を積み、尚且つ数多の艦娘を返り討ちにしてきた実力者たる初風、この演習、見るまでもなく勝負は決まったも同然だろう・・・・・・恐らくここにいるすべての艦娘がそう思っているに違いない。実際、ここにいるのは白雪や提督、立会人である由良を除いても10人もいないという状態である。そんな中で、ついに戦闘開始を告げる空砲が撃たれた。
二人の装備する連装砲や魚雷発射管には本物の弾丸や魚雷は装備されておらず、中に塗料が詰められた演習用のダミーが装填されている。ダミーが着弾すると、ダミーに詰められた塗料が付着し、付着した部位、範囲などから立会人が損害を判断し、どちらか一方に大破判定が出た時点で決着となる。今回はこのオーソドックスな演習ルールによって行われる
「始め!」
由良の一声に反応し、初風が一気に距離を詰める。駆逐艦の装備可能な連装砲はどれも射程が短いという欠点がある。その弱点を補うには敵に接近し自身の攻撃を確実に当てられる距離を維持する必要があるが、互いに同じ装備をしている今、適正位置での攻撃は自身の被弾確率を大きく向上させてしまう。そうなると、残る手段は
「遅い!」
今の初風のように超至近距離へ接近し反撃の隙を与えずに攻撃を加えることになる。このことは舞風にも十分理解できていたようで、初風の行動の意図を読み取った舞風は姿勢を低くしたまま初風に対しすれ違うように駆け抜ける。いくら熟練者と言えどちょこまかと動き回る的に攻撃を命中させるのは難しい、初風の放った最初の一発は何もない場所をかすめるだけであった
「うりゃあ!」
直後、初風の背後から発砲音が響き、舞風が初風に対して弾丸を撃ち込んできた。不意打ち気味の攻撃であったが初風が咄嗟に体をかがめて回避したため、弾丸は初風の頭上数センチのところを通り過ぎて行った
「この・・・・・・!」
回避できたとはいえ、背後から攻撃された初風。先ほどまでの余裕ぶった表情から一転、闘争本能に火が付いた獣のような鋭い眼光で舞風を睨み付け、舞風に対して連装砲での連続攻撃を浴びせるが、舞風は舞風でその攻撃をまるでダンスを踊るかのような華麗なステップで左に右にとかわしていく
「へへへっ、あったらないよ~!」
「ちょこまかとうるさいやつ!」
だったらと、艤装の左側の魚雷発射管を操作し、そこから2本の魚雷を舞風の両サイドを通過するように発射する。
「っ!?」
(あら・・・・・・?)
魚雷が発射された瞬間、舞風がピタリと一瞬ストップしたのを初風は見逃さなかった。何故舞風が止まったのかは気になるが今は勝負の真っ最中、自分の戦闘プランを遂行するために集中しなければ・・・・・・初風は自分に言い聞かせ、連装砲を構えなおす。初風のプランは、魚雷で舞風の左右の退路を封じ、魚雷通過のタイミングに合わせて弾丸を発射することで敵の動きを抑制、そして
(砲撃と同時に3本目の魚雷を発射、この3本目の魚雷で脚部を狙う!)
ニヤリと初風が笑う。そこまで距離が離れていなかったことに加えて魚雷発射時に舞風の動きが止まったため舞風に魚雷を左右に避けるほどの時間は残されていなかった。そして魚雷が舞風の両サイドを通過しようとした
(今・・・・・・)
「うりゃー!」
舞風が自身の足元に向かって突然発砲した。巻き上げられた海水と弾丸に詰められていた塗料が、まるで煙幕のように舞風の体を包み隠してしまった。
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