提督はBarにいる。
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提督式・ニンジン克服プログラム その2
さて、数日間ニンジン入りのスムージーを毎朝飲ませ続けて暁は最早飲む事に抵抗がないどころか、飲まないと違和感を感じるまでに習慣付けられた、と報告を受けた。そこまで来たら次の段階に移ってもいい頃合いだろう。実行に移すのは暁が秘書艦のタイミングだ。
~提督執務室:15時頃~
「あー……う~……」
暁が呻きながら書類と格闘している。実戦は割と頼りになる暁だが、書類仕事等の事務作業はからっきしだったりする。それでも本人に覚えさせる為とやらせている。ちなみにだが、雷と電は戦闘よりも事務仕事が得意で、どちらもそつなくこなすのが響だったりする。
「お、そろそろ午後の一服の時間か。……どれ、キリの良いところで休憩にしようや」
「あ゛~!疲れたぁー!」
机の上でデローンと突っ伏す暁。そんな姿を眺めながら、俺は『例の物』を支度する。
「ほれ暁、こっちこい。オヤツあるぞ」
「オヤツっ!?」
やはりオヤツ、という単語には反応が早い。暁が応接セットのソファに腰を下ろした所で俺の仕込んだニンジン克服メニューを取り出す。
「美味しそうなパウンドケーキね!」
「まぁな。一応俺の手作りだぞ?」
「べ、別にそこは疑ってないし」
見てくれはバナナとレーズンの入ったパウンドケーキ。しかし当然ながら、ニンジン配合だ。
《砂糖とバター不使用!ニンジンとバナナのパウンドケーキ》※分量パウンド型1本分
・バナナ:1本
・ニンジン:中くらいの1本
・レーズン:適量
・小麦粉:150g
・ベーキングパウダー:小さじ1
・卵:2個
・オリーブオイル:大さじ2
・ハチミツ:大さじ1
・サラダ油:少々
さて、作っていこう。折角だから砂糖もバターも使わずにローカロリーなケーキに仕上げてみようと思う。まずは生地作りから。小麦粉とベーキングパウダーを混ぜ合わせてふるっておく。面倒なら、ホットケーキミックス150gでも代用可能だ。
おっと、オーブンも余熱しておかなきゃな。160℃に余熱しておく。パウンドケーキの型には、焼き上がりで取れやすくなるようにサラダ油を塗るのを忘れずに。
粉の入ったボウルとは別のボウルに卵を割り入れてほぐしておく。そこにバナナを潰しながらちぎって入れ、ニンジンもすりおろして加える。バナナについてだが、買ったばかりの黄色い物より、少し皮が黒くなって熟した物を使うといいだろう。砂糖を使わないからその分、バナナとニンジン、レーズン……それに後から加えるハチミツで甘味を出すワケだ。
バターを加えないとは言え、生地に油分がないと上手く焼き上がらない。その為に加えるのがオリーブオイルだ。あまり風味もキツくないし、健康にもいいしな。溶いた卵にオリーブオイルとハチミツ、を加え、バナナを潰すようにしながら泡立て器で混ぜる。そこにふるっておいた小麦粉とレーズンを加え、ゴムべら等でザックリと混ぜ合わせる。これで生地は完成だ。
パウンドケーキ型に生地を流し込み、2~3回トントンして空気を抜いたら少し馴染ませる為においておく。5分も置いておけば十分だろう。後はオーブンに入れて40~45分焼き、竹串を刺して何も付いて来なければ完成だ。適当な大きさにカットして、冷蔵庫で冷やしてやると更に美味いぞ。
「とっても美味しいわ!」
パウンドケーキをムグムグやりながら、紅茶を嗜んでいる暁。すまして食べているつもりだろうが、口の端に食べかすが付いてるぞ?指摘はしないが。しかし、これだけ気付かずに食べられているならそろそろイケるんじゃないだろうか?どれ、試してみるか。
「そういや暁、お前ニンジン苦手難だって?」
「う、何でそれを司令官が知ってるのよ!」
「いや~、前に電が秘書艦やった時にぼやいててな」
「う~……好き嫌いがあるなんてレディらしくないから、言わないでって言っておいたのに」
「でも食えてるじゃねぇか、ニンジン」
「えっ?」
「だってそのケーキ、ニンジン入ってるぞ?」
一瞬ポカンとした表情になった暁だったが、
「えええぇぇぇぇぇ!嘘でしょ!?」
「嘘言って俺に何のメリットがあんだよ。ついでに謂うと、お前が毎日飲んでるスムージー、あれも俺の入れ知恵でニンジン入ってるぞ」
「あはは……もう妹すら信用できないわ」
乾いた笑いを浮かべている暁だが、騙されたとはいえ苦手だった食べ物が食べられるようになったんなら良かったじゃないか。
「さてと、暁?」
「はい?」
「今夜予定は空いてるか?空いてるなら妹達連れてウチの店に来い。本当に食べられるようになったかテストだ」
「うぅ……心配だわ」
「安心しろ、出来るだけ食べやすい料理を作っとくから」
不安げな表情のまま頷く暁。さぁて、何を作るかな?
さて、その日の業務終了後。約束通り暁が妹達を連れてやってきた。
「司令官、来たわ!」
「お世話になるのです」
「姉さんが何故か怯えてるけどね」
「うぅ……ニンジン、ニンジン食べるのぉ……?」
ダメだこりゃ。まぁ、有無を言わせず食わすけどな。
「まぁまぁ、座った座った。今日はニンジンフルコースだからな」
とりあえず4人からドリンクの注文を取り、そっちの準備は早霜に任せる。その間に前菜の盛り付けをして仕上げる。
「ハイよ、まずは前菜だ。特製ステーキサラダだよ」
俺が出したのは普通のステーキサラダ。レタスや玉ねぎ、パプリカやコーン等が入ったサラダの上に、薄切りにしたステーキが乗っている。
「あれ?司令官、ニンジン入ってないわよコレ」
雷がそう言うと、暁はホッとしたような様子で胸を撫で下ろしている……が、俺がそんな半端な仕事をする訳がねぇだろ?
「いいんだ、サラダじゃなくてドレッシングがニンジン使ってるからな」
サラダの具材として入っていれば弾けるかも知れないが、ドレッシングじゃどうしようもないからな。
《サラダだけでなく魚や肉にも!ニンジンドレッシング》
・人参:1/3本
・玉ねぎ:1/2個
・にんにく:1片
・オリーブオイル:50ml
・バルサミコ酢:40ml
・醤油:40ml
・ごま油:10ml
さて、作っていこう。使う野菜を細かく刻んで、生のままミキサーに入れ、調味料も全て入れたらペースト状になるまでミキサーにかける。これだけ。後はバルサミコ酢と書いたが、酢に関してはお好みの酢でOKだ。米酢やリンゴ酢のような果実酢、なんなら醤油の分量を減らしてポン酢でもイケるぞ。
「あ、美味しい」
「ニンジンの甘さと玉ねぎの辛味が野菜に合うのです!」
「ステーキにも合うね。これは実にハラショーだ」
妹達は美味い美味いとパクついているが、暁はフォークに刺したままサラダとにらめっこしている。
「食べないのか?暁」
「たっ、食べるわよ!……えいっ」
俺に促されて覚悟を決めたのか、目をギュッと閉じて口に放り込んだ暁。2回、3回と咀嚼している内に暁の動きが止まる。……やっぱダメだったか?
「司令官、ホントにこれニンジン入ってるのよね?」
「あぁ、間違いなくな」
俺が作ったんだ、レシピに間違いはない。
「ふふ、ふふふふ……」
突然笑い出した暁。どうした?ニンジン食って壊れたのか?
「な~んだ!ニンジンなんて案外ちょろいじゃない!一人前のレディである暁が恐れる程の相手じゃなかったって事ね!」
全員ずっこけそうになった。要するにニンジンなんぞ関係なく美味かった、って事か。
「さぁ司令官、ニンジンが食べられたお祝いよ!じゃんじゃんニンジンを使ったお料理出して!」
「お、おぅ」
ちょろいのはニンジンじゃなくてお前だろ、というツッコミは飲み込んでおいた。
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