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感情的リスクヘッジ

作者:hiroOka
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日常を

修学旅行に違いない。紺の制服で統一された男女が列をなしている。その列を横目に、動く歩道の上を歩く。記憶が色々と頭にうかぶ。思考の焦点が定まっていない。大抵こういう時は、何気ないことを思い出して、
決まって、なぜそれを思い出したか自らの思考回路を辿っているうちに時間が過ぎていくのだ。 
歩行速度が遅いのか、右側を駆けていった若者の集団が目に入ったからか、
この動く歩道の出口がかなり遠く感じる。
「テテン」スマホにメッセージが届いた音がした。自分のものか、それとも後ろを歩いている男のスマホが鳴ったのかは、
その時には判別できなかった。
 コーヒースタンドに立ち寄ろうと旅客機の座席の狭さに苦しむ中で決めていたが、
やはりやめようと地下鉄に乗った。
空港から自宅の最寄り経堂駅への道中、また「テテン」とカバンから音がした。
今度は自分のが鳴ったと確信し、書類フォルダーに埋もれたスマホを取り出す。
2件のメッセージが来ていた。「明日の夜食事に行きませんか。」
と年下の男性から1つと、同じ彼から40分の時間差で「新宿がいいんでしたっけ、僕はどこでも。」
どうやら、もうすでに彼の頭の中では新宿で雑談しながら二人で信号を渡る絵が出来上がっているようだ。
「21時からでいい?」と返答した。
反射的な早さで「お願いします!」といつもの軽快な電子音と供に画面に表示された。
5年ほど前までは、会う人とどういう会話をしようなどと事前に模索することが楽しかった。
幼少期にテーマパークのアトラクションに並んでいる時に似た高揚感がやってきていた。
最近では人と会う経験を多く積んだからか、会ってからの会話の内容が予め想像できるし、
その予想から外れることはほとんど無い。とても冷めた女だと友人には揶揄される。
焦りはない。
結婚や出産は、社会での比較の中で得られる安堵感に過ぎない。それは一過性の感情に違いないと言い聞かせて来たからか、もはや事実として受け入れていた。
すぐにどこかに行ってしまう。
新しい何か、新しいを追い過ぎた日々に意味が見つからなくなった。なんというか、言うなればエッジーとレトロを輪廻する。このサイクルを全ての祖先が繰り返してきたのかとも感じる。
何様、あたし。 
そんな口には出せない宇宙を考えては、朝が来る。
また社会人ごっこが始まる。 
新宿を降り、階段を上っていると観光客のキャリーバックに肘を打った。 
私でなければ無視か舌打ちで応答するだろうなと、自らの心の広さをしかと確認し「fine!」とインド人らしき男に返した。
ビルのエレベータのボタンを押す。
今日は、何を、しようかな。また、なんかのドラマで見た保母さんのリズミカルな口癖が2回、3回頭の中に響いた。
 
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