英雄伝説~灰の軌跡~
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第18話
同日、10:05――――
~カイエン公爵家城館~
「い、今……何と言った……?」
メンフィル軍がオルディスに向かって突撃を開始して少し時間が経ったその頃、部下からオーレリア将軍達の戦死の凶報を伝えられたナーシェンは信じられない表情で部下に問いかけ
「ハッ。………オーレリア将軍閣下を含めたオルディスの防衛部隊は敵軍の”竜”の攻撃によって一瞬にして消滅――――戦死してしまいました………」
「何だとぉっ!?竜を従える等、そんなバカな事があり得る訳がないだろうが!」
部下の説明を聞いたナーシェンは声を上げた後反論した。
「ナーシェン様の仰る通り将軍閣下達の戦死の理由が竜によるものかどうかの真偽は不明ですが、将軍閣下達が戦死なされた事は事実です………」
ナーシェンの反論に対して部下は表情を青褪めさせた状態で答えた。
「ほ、報告!メンフィル軍の騎馬隊が全方位の門から突入し、海都内は貴族街を含め、既に市街戦へと突入しました!」
「なあっ!?」
「―――もう私達に勝ち目はありません。これ以上犠牲者を出さない為にも大人しくメンフィル軍に降伏すべきです、兄上。」
そして新たに部下が部屋に入ってきて更なる凶報をナーシェンに伝えたその時、ドレス姿の女性が橙色の髪の娘と共に部屋に入って来た。
「ユ、ユーディット様……っ!それにキュア様まで……!」
「ユーディット、貴様、今何と言った!?」
ナーシェンは目の前の女性――――自分の妹であるカイエン公爵の長女―――ユーディット・カイエンを睨んで声を上げた。
「降伏すべきだと言ったのです。援軍も期待できない状況で、しかもメンフィル軍は目の前まで迫っています。これ以上抵抗しても無駄な犠牲者が出るだけです。」
「貴様、それでもカイエン公爵家の娘か!?誇り高き”四大名門”の”カイエン公爵家”が薄汚い侵略者どもに降伏等、死んでもできるか!」
「薄汚い侵略者はどちらですか!?メンフィル帝国にこのような事をされる原因を作ったのはカイエン公爵家を始めとした貴族連合軍ではありませんか!何度もユミルの件でメンフィル帝国に謝罪し、メンフィル帝国との和解交渉をすべきだと進言したのに、父上や兄上達は聞く耳を持っていませんでした!今回のメンフィル帝国によるエレボニア侵略は父上達――――貴族連合軍の自業自得です!」
「ユーディット、貴様……っ!―――キュア!お前もユーディットと同じ意見か!」
自分を睨むユーディットの答えに怒りの表情になったナーシェンはユーディットの傍にいる娘―――自分とユーディットの妹であるキュア・カイエンに視線を向けた。
「少なくてもユミルの件を素直に謝罪していたら、こんな事にはならなかったよ……!」
「き、貴様ら、揃いも揃って……!」
そしてキュアの答えを聞いたナーシェンは怒り心頭の様子で二人を睨んだ。するとその時城館内から怒号や悲鳴が聞こえて来た!
「なっ!?ま、まさかもうここまで来たのか!?クッ……降伏をしたいのであれば、貴様らだけで勝手にしていろ!私には次代のエレボニア皇帝を務めるという栄光の未来が待っているんだ!こんな所で、終わってたまるか!」
「ナ、ナーシェン様!?お、お待ちください!お二人をこのままにされるのですか!?」
そしてナーシェンは部下達と共に部屋から出て行った。
「愚かな人………例え脱出できたとしても、結局最後はメンフィル帝国に討たれる事になるのに……」
ナーシェン達が部屋を出て行った後ユーディットは重々しい様子を纏って呟き
「ユーディ…………私達、どうなるの……?」
キュアは表情を青褪めさせてユーディットに尋ねた。
「大丈夫よ、キュア……メンフィルはあの魔人が支配していた国―――ザルフ=グレイス同様魔族―――いえ、”闇夜の眷属”の国だけど、イグナートと違って良政を敷いている上”全ての種族との共存”を謳っているわ。その証拠に前メンフィル皇帝である”英雄王”は人間の女性を正妃に迎えているし、光陣営の神殿である”癒しの女神”教の活動も受け入れているどころか援助もしているし、しかもメンフィル皇女の一人―――”癒しの聖女”は”癒しの女神”の信徒よ。それらの件を考えると交渉の余地は十分にあるわ。」
恐怖に震える妹を安心させるかのようにユーディットはキュアを優しく抱きしめて、キュアの背中を撫でた。
「で、でも……」
「貴女の不安な気持ちはわかるけど、貴女は何も心配する必要はないわ。私が今度こそ貴女を救ってみせるわ。」
ユーディットは未だ不安の心を抱えている妹を安心させるかのように優しげな微笑みを浮かべた。そして数分後二人は部屋に突入してきたメンフィル兵達に投降した。
~オルディス・地下水道~
「ハア、ハアッ……!くそっ、薄汚い侵略者共め……!父上達と合流した後に必ずオルディスを奪還し、全員皆殺しにしてくれる……!」
一方ナーシェンは少数の部下達と共に緊急避難通路である地下水道を使って脱出しようとしていた。
「―――カイエン公同様、その愚かな所は全然変わっていないようですね、ナーシェン卿。」
「何!?」
「!止まって下さい、ナーシェン様!前方にメンフィル軍らしき兵達が……!」
するとその時女性の声が聞こえ、声を聞いたナーシェンが眉を顰めたその時、何かを見つけた部下は立ち止まってナーシェンに警告した。そして警告を聞いたナーシェンが立ち止まって前方を見ると、リィン達L小隊がナーシェン達の行く手を阻むかのように立ち塞がって武器を構えていた!
「バカな!?この避難通路はオルディスの防衛部隊を除けばオルディスの貴族の中でも非常に限られた貴族達にしか知らされていない避難通路だぞ!?なのに何故、早々とこの避難通路を見つけ、先回りできたのだ!?」
リィン達を確認したナーシェンは信じられない表情で声を上げ
「―――私がその”オルディスの貴族の中でも非常に限られた貴族達にしか知らされていない貴族の一員でした”から、先回りができただけの事です。」
ナーシェンの問いかけに対してステラは静かな表情で答えた。
「何だと……?―――――!き、貴様……まさか”ディアメル伯爵家”の……!?」
ステラの言葉を聞いて眉を顰めたナーシェンはステラの顔をよく見て何かに気づくと驚きの表情でステラを見つめ
「はい、お久しぶりです。」
「何故今まで姿を眩ませていた貴様がここに……――――!ま、まさか貴様……祖国を裏切り、メンフィルに寝返ったのか!?」
ステラの登場に困惑していたナーシェンだったが何かに気づくと怒りの表情でステラを睨んだ。
「………こうしてお会いして改めて思いました……私の選択は、正しかったのだと。あなたに嫁げば……私はこの世の誰よりも不幸だったはず。」
「フン!格下の貴族の……それも実家どころか祖国を捨てた挙句祖国の侵略を手助けする薄汚い娘が大層な口を!私はカイエン公爵家の長男、ナーシェン・カイエン!いずれはこのエレボニア皇帝を統べる者だ!しかもよく見ればそこの金髪の男を除けば子供ばかりではないか……その程度の戦力でこの私を討つとは100年早い!お前達、あの薄汚い侵略者共を殲滅しろ!ただし黒髪の女だけは生かして捕えろ!あの女にはこの私が直々に裁く必要があるしな、クックックッ……!」
「ハッ!」
ステラの話を聞いて鼻を鳴らしたナーシェンは部下達に指示をし、ナーシェンの指示に頷いた部下達はそれぞれ銃剣を構え
「L小隊隊長、リィン・シュバルツァー以下4名。これより敵の殲滅を開始する。行くぞ、みんなっ!」
「「はいっ!」」
「おうっ!」
対するリィンも号令をかけて、ステラ達と共に貴族連合軍の兵士達との戦闘を開始した!
「「喰らえっ!」」
貴族連合軍の兵士達の一部は銃口をリィン達に向けて発砲しようとしたが
「―――遅い!」
「「グアッ!?」」
ステラが放った一瞬の早撃ちによる狙撃で広範囲を攻撃するクラフト―――クイックスナイプによって心臓を討たれて絶命して地面に倒れ
「「うおおおおおっ!」」
「吹雪よ、吹き荒れよ――――ストームブリザード!!」
「グウッ!?さ、寒い……!」
「か、身体が凍り付いて動け……ない……!?」
自分達に向かって突撃してきた兵士達にはセレーネがリィン達の前に出て自分を中心とした広範囲の猛吹雪の結界を発生させて、猛吹雪は兵士達の全身を凍結させて動きを封じ込めた。
「燃え盛れ――――滅!!」
「あ――――」
そして動きを封じ込められた片方の兵士には炎の竜を太刀に纏わせたリィンが一刀両断して止めを刺し
「貫きなぁ――――穿岩槍!!」
「ガフッ!?」
フォルデは岩をも貫く威力の槍による一撃で兵士の喉元を貫いて止めを刺した!
「え。」
リィン達の電光石火の連携攻撃によって為す術もなく凄まじい速さで討ち取られた部下達を見たナーシェンは呆けた声を出し
「バカなああああぁぁっ!私や父上を守る側近達はあの近衛部隊と同等の実力を持つ精鋭達だぞ!?その精鋭達がこんな小僧共に一矢も報いる事無く討たれただと!?わ、私は悪い夢を見ているのか………?」
すぐに我に返って驚愕の表情で声を上げた後呆然とした様子で呟いた。
「今のが精鋭ね~。正直”ブレアード迷宮”の上層部の魔物の方が手強いと思うぜ?」
「あの、先輩……魔物を比較対象にするのは間違っていると思うのですが……」
「しかもブレアード迷宮を徘徊している魔物は上層部でもゼムリア大陸の街道を徘徊している魔獣の数倍は手強いですものね……」
呆れた表情で貴族連合軍の兵士達の強さについて評価したフォルデの答えを聞いたリィンとセレーネは苦笑しながらフォルデに指摘した。
「……邪魔者は排除しました。後はナーシェン卿、貴方だけです。」
そしてステラは静かな表情でナーシェンを見つめてライフルを構え
「!!!ま、待て!わ、私を討てば父は絶対に貴様だけでなく貴様の実家も許さないぞ!?貴様の家族が……”四大名門”に次ぐ古き伝統を誇る”ディアメル家”が取り潰しになってもいいのか!?」
「―――それが貴方の最後の言葉ですか。」
ステラの行動を見たナーシェンは恐怖の表情で後ずさりをしながらステラに問いかけたが、ステラは静かな表情で呟いて躊躇いなくライフルの引き金を引いた。すると銃弾はナーシェンの心臓を貫いた。
「あ………ク、クソォ……ッ!後少しでラマールの統括領主に…………父上の跡継ぎとしてエレボニアの未来の皇になれたというのに……こ……な…………で…………」
ステラの銃撃を受けたナーシェンは一瞬呆けたがすぐに自分の心臓がある部分が自分の血で真っ赤に染まりつつあるのを見ると悔しそうな表情で最後の言葉を呟いて絶命した!
「メンフィルに亡命した時点で私は故郷や家族との縁を切りました。ですから、例え”ディアメル伯爵家がどうなろうと私には関係の無い話”です。――――さようなら、私の元婚約者。」
一方ナーシェンの絶命を確認したステラはナーシェンの亡骸に近づいてナーシェンへの別れの言葉をかけた後ナーシェンの亡骸に背を向けて仲間達の所へと戻って行った。
2時間後、オルディスはメンフィル軍によって完全に制圧された。なお、妹であるキュアと共にメンフィル軍に投降したユーディットはファーミシルスと交渉をした。その結果ユーディットの交渉能力に感心したファーミシルスは特別にいずれオルディスを含めたラマール州は、ヴァイス達―――”六銃士”達のクーデターによってディーター・クロイスから奪い取り、建国する”クロスベル帝国”の領地になる事を教え、その事を知ったユーディットはヴァイスとの交渉機会を与えてもらう事を嘆願し、その嘆願に対してユーディットが見せた交渉能力を評価したファーミシルスはオルディスの貴族連合軍に加担していた貴族の当主達の処刑を黙認する事を条件に応える事を約束した。
更に1時間後、オルディス襲撃の凶報を聞いたカイエン公爵の指示によって機甲兵の元となった、古代の兵器―――”蒼の騎神オルディーネ”を操縦するクロウ率いる貴族連合軍がオルディス近郊の街道に現れた。
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