ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第62話 偽りの笑顔
ゆかりと出会ったその日の部活での事。
「え? 仙童紫?」
新聞部の部室にいたのは くるむとつくねの2人で、モカとカイトはクラスの用事があって部活の開始時間にはいなかった。
因みに 今カイトとモカが2人で行動をしているのだが ゆかりは、カイトがモカにくっついてもそこまで攻撃的じゃない様子である。
「うん……すっかり困っててさ……」
つくねは度重なる掃除用具リンチでボロボロになっていた。
カイトと一緒にいる時は、それとなく止めてくれるのだが、流石にいない時までは止められず、つくね自身も防ぐ事が出来ないから、仕方がない。
「新聞部の活動もあるのに、ゆかりちゃんのおかげでモカさんに話しかけることも出来ない……。だからほんとは、オレとモカさんが当たってたクラスの用事なんだけど、無理言ってカイトに変わってもらったんだ………」
意気消沈気味なつくねは、ゆかりについて くるむに相談していた。
「(やっふ~~! おかげでわたしはつくねと2人っきり♪ でもまぁ、カイトがいないのは残念だし、モカと一緒にいる、って言うのもアレだけど、とりあえずナイスよ! 仙童紫!!)」
つくねには悪いと思ってる? がくるむは、今の状況をガッツポーズをして喜んでいた。
「わたしもその子の噂知ってるよ! 天才少女って言っても、まだまだわがままの子供らしくて、悪戯ばっかりして2組の人たちに嫌われてるんだって」
くるむは、誘惑する様に顔を近付かせながらつくねと話した。
「えっ…… そうなの??」
つくね達が、話している時。
その部室の外でこそこそと動く影があった。
「モカさんにぞっこんなつくねさんは念入りに潰しとくです! マジカルアイテム! わらわらくん!!」
それは ゆかりである。
モカとカイトは、一先ず置いといて つくねを狙っている様だった。
ゆかりは、何処かの青い猫型ロボット宜しく、道具を取り出した。
それはわら人形である。
わら人形に定番であるが髪の毛のようなものを入れる。
「えい!」
掛け声と共に、わら人形を操り人形の手で人形の頭部を殴りつけた。
すると、あら不思議。部室内でくるむと話をしている最中だったつくねは、自分で自分の顔面を殴りつけていた。手加減なく。
当然ながら、目の前で見ていたくるむはワケが分からなかった。
手加減なく殴った様だから、顔面がヒドイ事になっていて、鼻血も流している。
「ちょ! つくねーーー!!」
「わぁーーー!! 体が勝手に動く!!」
その後は 暫く見えない相手と戦う……ではなく、自分自身との格闘が続いたのだった。
そして、場面はカイトとモカ。
「ちょっと遅くなっちゃったね。」
「まあ 仕方ないな。でも まず間違いないのは、遅くなったのはオレ達のせいじゃない! 猫目先生のせいだ!」
理科担当の先生に頼まれ資料を運んでいたのだが、理科の実験で使う魚がいなくなった!と言うことを、言われて探しに戻っていたのだ。
「頼まれたのが魚って言う時点で、色々と嫌な予感はしてたけど、 授業で使うものに手を出すなんてな……。備品だろ? アレ学園の」
「あははは……おかげで大変だったね……」
資料のサカナがいなくなってしまった為、2人でもう授業が終わった上級生の理科担当の教師のところまで借りに言ったのだ。
もちろん、猫目先生にはきつく言い聞かせたから更に時間がかかった。
でも、一先ずは部活時間までには帰ってこれた事は安堵している様子だった。
安堵はしていたんだけれど、嫌に部室の中が騒がしい事に気付く。
「ん? 何か部室が騒がしいよ。カイト」
「ほんとだ……。 ううむ。なーんか嫌な予感がするけど……、まあ とりあえず入ろう。遅れてるし」
「そうだね! 皆待たせちゃってるし」
モカは、『遅れてごめんね!』といいながら部室に入っていった。
カイトもそれに続いて入ってみると。
“もにゅっ むにゅっ むにゅっ”
なんとなんと、つくねがくるむの大きな胸を揉んでいたのだ。ゆかりがモカにしていたシーンを見たが、あれは、子供がじゃれているようにしか見えなかったからまだ良かったんだが、流石につくねだったら アウトだ。
「ななななな!!!」
「…………………」
モカは、取り乱していて、恥ずかしながらカイトは突然の光景に思考が停止してしまっていた。
勿論、モカとカイトが入ってきた事には気付くつくね。
「あああ!!! モカさん!! こっ これは違うんだーーー! 体が勝手に動いちゃて!!!」
「きゃああん!」
胸を揉まれているくるむも、さすがにここまでされた事は無かったのか、恥ずかしいのか顔を赤くしていた。
でも、それを見て納得できないのがモカである。相手がくるむだから。
「ちょっと! くるむちゃん!! またつくねに魅惑の術使ったんでしょーー!」
モカは顔を背けながら、くるむに言った。くるむの場合は所謂前科があるから、まず一番にそれを疑った様だ。
「なっ! 違うわよ! そんなことしてないわ!!」
当然ながら、くるむも反論する。真剣に振り向かせようと努力しているくるむからすれば、事実無根であるから怒ってしまうのも当然だ。勢いよく立ち上がったその時。
何処かの漫画宜しく、完璧なタイミングで、つくねの手がくるむのスカートの中へと入ってしまい……くるむの×××を掴みながらそのまま転んでしまった。
つまり
「やあああああん!」
くるむの×××が、完全に××××…………… etc
「はぁ……つまりはそういう事か。外にいるのゆかりちゃんだろ? 出ておいで」
カイトは、窓の外に声を掛けた。
初めはあまりの光景に気付いてなかったけど、冷静に観察をしてみるとはっきりと魔力を感じた。つくねの意思ではないという事も理解出来た。流石にくるむの展開には予想外過ぎたが、それがかえってカイトを冷静にさせた様だ。
勿論、外でまだいたゆかりは、カイトに指摘されて、ビクっ と体を震わせてしまった為、自身のトンガリ帽子が窓から見えてしまった。
「あああ! ゆかりちゃん!!」
最後は、観念したのかゆかりは部室まで入ってきた。
「カイトさん。なんで判ったですか?」
「魔力が若干感じたからな。まぁ それだけでゆかりちゃんだろ? と言うのもまだ弱いが……そこは状況だ。現時点で つくねの事を攻撃しようとするのは君だけだから」
カイトは、腕を組みため息をつきながら答えた。
その時、流石のつくねはもう我慢できなくなったのか。
「そのコをなんとかしてくれーーーーっ!! もーー完全にあったまきた!!!」
だあああああーーー! と大声を出していた。ここまで怒鳴るのは今までに無かった事だ。
それでも、ゆかりは謝るどころかモカの後ろに隠れて。
「べーーっ!」
可愛らしくあっかんべーー、とするだけだった。客観的に見たら本当に可愛らしいのだが、今のつくねにとっては、憎らしいだけだった様だ。
「……ぐぅっ!!」
つくねは拳を握りこんでいたから。頭に四っ角をたっくさんつくって。
完全に怒っているそのつくねをみてモカは。
「つ……つくね……、まぁまぁ落ち着いて?」
宥めようとした。
とりあえず、モカが諫めれば今まではこれで収まっていたのだが、さすがに今回はそうはいかなかった。
「モカさんも甘やかしすぎだよッ!!!」
「つくね……。気持ちは判らんでもないが、とりあえず落ち着けよ。教室で そんなに怒鳴るな。結構響くし、他に迷惑にもなるだろ?」
カイトもモカに続いてつくねを諫めたが、効果はいまひとつだ。
「カイトもだよ! 何言ってんの! ゆかりちゃんが来たから騒がしくなったんじゃないか! しっかり言ってあげなきゃいけないだろ? 悪戯はダメだって!!」
「まぁ……、それはそうなんだよな。……流石に』
こればかりはつくねが言ってるのは正論だった。
でも、これは 子供がする悪戯。人間の世界でも幾らでもある悪戯とは少しばかり違う。
そんな簡単な問題ではないのだ。
それは、ゆかりの種族。魔女と言う妖の歴史。根底の問題でもある。
そして、つくねは魔女のことを全く知らないだろうという事も判る。
この場で、ゆかりについて代わりに答えるのは出来るが、それをゆかりの前で言うのが正しいのか? と言われれば首を縦にはふれない。深い傷に、更に塩を塗り込む様な事になるからだ。
その長い歴史から積み上げられた深い傷が、負の遺産が、ゆかりをどういう目に合せていたのか。……周りから、どういう風に見られていたのかは、容易に想像できる。
出来るからこそ、それを考えるとそんなに責められないのだ。ゆっくりと言い聞かせるしか出来ない。そして この学園においても、あの委員長の事もあって環境が良いとは言えないから。
それでも まずは、歩み寄る事から始めよう、と思ったカイトは ゆかりの方を向いた。
「ゆかりちゃん。とりあえず謝ろう。今回は つくねには非が無い。ケガもしてるしな? だから、一言でも良いからさ。 そこから始めないか?」
カイトは説得をしようと。なるべく穏便に説得をしようとするが、ゆかりは何も言わずプイっと、背けるだけだった。
「(ん……これは時間がかかりそうだな)」
もっとゆっくりと落ち着いて話そうと思ったが、つくねはそうはいかなかった。
「モカさんも! 迷惑だって言ってあげなきゃゆかりちゃんの為にもならないじゃないか」
「それは……そうなんだけど……」
慕ってくれるのは迷惑じゃないが過度なスキンシップはちょっと、と言った意味でのことだった。
でも、ゆかりにはこの言葉がかなりきいた様だ。
「(………っ! 迷惑………? モカさんまで………)」
その僅かにだが変わった表情を見たつくねは声を少し落とした。
「ゆかりちゃんも、こんなことばっかりやってたらいつか友達いなくなって 一人ぼっちになっちゃうよ!?」
その言葉に、ゆかりは体を震わせつつも反論をした。
「へ……平気です~~! だって、わたし天才ですから! レベル低い友達なんてこっちから願い下げですーーー」
そう笑いながら答えた。
それでも、目の奥は全く笑っていなかった。
「(………作り笑い。それもかなりムリした笑いだな)」
カイトはその笑顔に何もいえなかった。
でもつくねは、我慢できない様子で。
「ゆかりちゃん!!!」
声を更にあげて叱りつけた。
「それに………」
ゆかりは、つくねの怒声にも全く臆することなく答える。
「それにわたし……もともと一人ぼっちだし………」
それは、本当に寂しそうな笑顔だった。それでも、この悲しそうな、寂しそうな笑顔も本当の顔じゃないだろう。
そして、ゆかりの言葉に場が凍り付く。怒っていたつくねも同様だった。
「ゆかりちゃん………」
何か事情があるのだろうか、と近付いていったがその時。
何処からともなく飛来した金盥がつくねの頭上に直撃した。
“ガン!!”と、それなりに大きな音をたてて。
「ぶっ!!!」
何処かのコントの様な展開だったが、どうしても許せないつくね。
「っ~~~~~~ッ!!」
体を怒りでプルプル震わせていると、それを見たゆかりは、先ほどの寂しそうな笑顔が嘘の様に変わって。
「あはははーー ひっかかったですーーー」
手をくるくる回し笑っていた。
「こ、このーーーーー!」
つくねは怒って追いかけようとするが、寸前で躱してゆかりは部室から逃げて行った。
それでも追いかけようとするつくねをモカが抑えた。
「待って! 本気で怒るなんてひどいよ! つくねっ!」
「ええ!? 何で俺が怒られるんだ!? モカさんこそあのコの事はもう放っときなよ!!」
つくねは やはり納得がいかないのか、今回ばかりはモカにも詰め寄っていた。
「(時間がかかるよな。 いや、友情は付き合いの長い、短いじゃない。きっと 何とかできる。 いや、 しなきゃいけない。ゆかりちゃんも、くるむ同様に本当に悪い子には見えないから。……でも まずはつくねかからだな)」
学園での出会いは大切にしたいと思っているカイト。
この学園には本当に色んなひと達がいる。……勿論良い意味でも悪い意味でも。
ゆかりの悪戯は、確かに度を越してるかもしれない。でも、それでも、彼女に手を差し伸べてあげたいと強く思っている。
まだ、心も身体も成長期なんだから……。
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