千本桜
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第二章
「桜もね」
「多いね」
「そうよ、あそこより多いのかしら」
その姫路で生まれ育った妻の言葉だ。
「果たして」
「そうなの」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「それは本当かしらね」
「実際に千本か」
「数えたの?」
「そんなのはね」
もうそれこそだ。
「数える人も」
「いないわよね」
「いないよ」
まず、とだ。僕は妻に返した。
「それはね」
「じゃあ大阪城のものよ」
「姫路城程には?」
「ないわよ、何といってもね」
「姫路城は日本一のお城で」
「そこの桜もよ」
その姫路生まれとしての言葉だった。
「絶対にね」
「日本一なんだね」
「実際にこの目で見て言ってるのよ」
「あそここそ本当にだね」
「千本桜よ」
そこまでのものだというのだ。
「大阪城がナンボのもんや、よ」
「言うね」
「言うわよ、お城は負けないから」
そしてそこにある桜達もというのだ。
「絶対にね」
「まあそれでも桜は桜だから」
「それにこれもお仕事だから」
「行って来るね、それで若し千本桜なら」
それならというのだ。
「お花見の次の日曜一緒に行く?」
「その大阪城に?」
「そうする?」
「そうしない?」
「そうね、何でも見てみないとね」
この辺りの分別も妻のいいところだ、自分で見てそのうえで判断しもする。だから僕も頼りにしている。
そして実際にだ、そのお花見に行くとだった。
凄かった、あの青緑の見事な瓦の天守閣をバックにしてだった。
数えきれないだけの桜達が咲き誇っていた、僕はその桜達を見てびっくりして思わず言った。
「これはまた」
「どうだい?」
「いや、本当にですね」
すぐに課長に顔を向けて答えた。
「千本あるかも」
「うん、何しろね」
「何しろ?」
「太閤さんが桜好きだったから」
豊臣秀吉その人だ。
「だからだよ」
「大阪城の桜もですか」
「見事なんだよ。まあもっとも」
笑ってだ、課長は僕にこうも言ってきた。
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