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虚弱ゲーマーと似非弁護士の物語 -求めたのは力では無く-

作者:昼猫
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Act5 憤怒の進軍

 
前書き
 サクヤとアリシャのリアルを勝手に作りました。
 今後原作にて、発表される事が有れば原作に従うかもしれません。
 女子大生じゃなかったら如何しよう・・・。 

 
 VRMMORPGのALOで、シルフ領領主を務めているサクヤのリアル――――菊村涼風(きくむらすずか)は、同じくALOでケットシー領領主を務めているアリシャのリアル――――速見燈(はやみあかり)を高層ビルやデパートメントが立ち並ぶとある駅の入り口付近で待っていた。
 菊村涼香は大和撫子を絵にかいたような女性だ。
 清楚で凛とし、慎ましやか。
 艶やかな黒髪長髪で、平均的な日本人女性よりも少し身長が高く、そして胸もあり、穏やかそうな表情で常にだれかを見守る大和美人です――――一見すればですが。見る目の無い者が見れば、その印象だけで終わるでしょう。
 見た目と裏腹に性格が悪いと言う訳ではありません。
 芯が強いのと、時折茶目っ気や悪戯に揶揄うと言う面もある女性なのです。
 そんな涼風は自分が美人である自覚はあります。美人である方が得だと言う事も理解しています。事実、今日まで生きてきて損した事と比較しても、得した事の方が遥かに多かったからです。

 「・・・・・・・・・」

 涼風は内心で溜息をつきます。
 美人過ぎることの弊害――――光に群がる蛾の様に、遠巻きから色目で自分を見て来るそこらの男ども(有象無象)に嫌気がさしているのです。
 別に涼風は男嫌いでも男性恐怖症でもありません。
 事実、今まで何度か男と付き合った事が有ります。
 しかし、いずれもしっくりこないと言う理由で、深い仲――――肉体関係どころかキスすら散らしたことが有りません。
 そんな経験上、自分と合わない男性が一目で判別できる様になりました。
 勿論、世の男性全員にその様な目で見るわけではありません。
 あくまでも自分に色目で見て来る者だけです。
 そんな遠目からチラチラと見て来る多くの有象無象の内、何人かが自分に近づこうと足を進めようとしていた時、漸く待ち合わせの相手の速見燈が来ました。

 「遅れてごめん、涼風ちゃん!待ったでしょう?」
 「ああ、そうだが・・・・・・なんてタイミングで来るんだか」
 「ん?如何かしたん?」
 「周りを見てみろ」

 涼風に促されて周囲を見る燈は、彼女が何を言いたいか気づきました。

 「相変わらず大人気だね?」
 「嫌味か?」
 「アレ?でもこの視線って、私も?」
 「だから言っただろ?なんてタイミングで来るんだか、と・・・」

 燈も燈で世の男性から好ましい視線を向けられるタイプの女です。
 涼風とは違い小柄で、守ってあげたくなるような可愛さを持っています。少なくとも外見では。
 そして此処は有象無象が蔓延る都市部の一角(鉄のサバンナ)
 弱肉強食のサバンナに、一見すれば貧弱な草食動物を放り投げられて、群がるハイエナどもが黙っている筈が有りません。
 二の足を踏めば獲物を他のハイエナに横取りされるなど、火を見るよりも明らかだからです。
 今度こそ2人の近づこうと足を進めようとする有象無象共でしたが、2人の内の1人である小柄な方に声を掛ける男がいつの間にかに現れたのです。

 「こんな処で何してる?」
 「ん?士郎じゃん!つか、アンタこそどうして此処にいるのよ?待ち合わせ場所に女よりも早く待つなんて常識でしょ!」
 「人をいきなり呼び出して置いて、何て言い草だ」

 燈が突然現れた士郎と呼んだ男性と話している時、涼風は今までにない衝撃を受けています。
 自分が今まで付きあってきた元カレや、自分を色目で見て来る有象無象とは違い、自分の中の何かをぴったりと埋めてくれる程の衝撃具合です。

 「おい、燈。その人は・・・?」
 「ん?あー、そっか、コイツが今日の目的の男――――」
 「自己紹介くらい自分でする。衛宮士郎と言います。話から察するに、燈のご友人の菊村さんですね。今日はよろしくお願いします」
 「あっ、は、はい」
 「私との接し方に違いあり過ぎでしょ!」
 「丁寧に扱えと?それを以前したら、気持悪いと言ってきたのは何所の誰だ?」

 互いに気の置けない間柄な為、遠慮なく言い合う2人。
 その光景を遠巻きで見ていた有象無象共は、連れがいた事に大半は悔しそうにしながらも諦めて行きます。
 ですが、いつの世も自己中とは多かれ少なかれ存在するもの。
 自分が目を付けた(獲物)を横取りされたくないと驕った男が1人、3人に近づいて行きます。
 その無遠慮な態度と視線に直にどんな人間性であるか見抜いた士郎がけん制しようと、殺気を送りながら睨み付けようとした時、燈が言い放ちます。

 「女に声を掛ける前に、自分の顔と相談しろ!この不細工がッ!!」
 「!?」
 「「・・・・・・・・・・・・」」

 燈の言葉に、驕った男は面食らって思わず後ずさりします。
 決して不細工と言う訳では無い驕った男――――その辺に居そうなチャラ男ですが、勢いに押されるというのは、まま、あることです。
 それを何とも言えない顔で見ている士郎と涼風は、それぞれ別々に燈のこの様な面を既に知っていたのと相手にも非が有るので口出ししませんが、出来れば他人の振りをしたい空気です。
 しかし周りの反応に構わず燈は畳掛けます。

 「私は面食いなんだ!彼氏は欲しいが妥協する気なんて無いんだよ、この三下風情がッッ!!」
 「!!?」

 その後も燈の罵言雑言は止まず、男の瞳から生気がどんどん失われて行くのが分かります。
 このままではキリが無いので、士郎が燈を引きずっていく形でその場を去りました。
 チャラ男の姿が見えるまで燈はずっと吠え続けていました。


 -Interlude-


 士郎を先頭に、待ち合わせ場所の喫茶店まで歩いている3人。
 そもそも2人が待ち合わせたのは、グランドクエスト攻略の参加をネームレスに要請するために、リアルの士郎に直談判しようと言うモノでした。
 まあそれだけなら3人揃った所で話し合えばいいのですが、今は一月下旬で外はまだまだ冷えるのと、士郎から引き合わせたい人が居ると言う事情により当初の予定通りの喫茶店に向かっているのです。
 ちなみに涼風がいるのは燈に一緒に来ない?と勧められたからです。
 その当人を誘った燈は、携帯機器からの着信に気付いて手に取ると、それは何故か真横に居るはずの親友からのメールでした。内容は――――。

 『お前がアイツアイツと言うから同い年かと思いきや、年上じゃないか!?』

 だから?と思った燈ですが、取りあえず返信します。

 『昔アイツが敬語は良いって言ったままで、今もその癖で溜口なんだけど・・・・・・年上である事に何か問題が?涼風ちゃんって、そう言うの気にする性質だったっけ?』
 『別に』
 「?」

 何とも歯切れの悪い返しに涼風本人を見る燈は、何故か自分と視線を合わせないようにそっぽを向く親友の姿を目にした。付け加えるなら頬を軽く朱色に染めて。
 燈はこんな親友の顔を見た事は無かった――――が、自分の知り合いと知り合ってきた女の何人かに心当たりがあった。その知り合いとは――――。

 「着いたぞ。菊村さんとおまけ」
 「誰がおまけだ!レディをぞんざいに扱うなんて、どういうつもり!?」
 「れでぃ・・・・・・・・・?」
 「文句でもあるの!?」

 目的の喫茶店入り口に着いた士郎は、燈と軽口をたたきながら喫茶店の一番奥にある予約制の個室に向かいます。そして扉を開けると。

 「おや?まさか両手に花状態とは君も隅に置けない――――いや、君の場合今さらか。これ以上増えるのは問題じゃないかな?いい加減この辺で建築を止めないと、何時か月の見えない晩に刺されるヨ?」
 「建築って何です?それに刺殺されるって、まるで私が外道の様じゃないですか」

 今更言っても士郎は変わる事は無いと理解しているファブリスは、自分から茶化したにも拘らず、士郎の返しを黙殺した上で、連れの2人を席に促して自己紹介をします。

 「私はファブリスといいます。どうぞ宜しく」
 「「あっ、はい」」

 そうして自己紹介も済んで行ったところで、漸く本題に入ります。

 「私は彼に、とある調査依頼をしていてネ。だが現実での調査ではこれ以上の進展を望めない所に、衛宮君への善意の情報提供者から、ALOでシルフとケットシーがグランドクエストの攻略準備を進めている事が解ったと、連絡があったのさ」
 「え!?」

 燈は自分の耳を疑いました。
 まだ士郎にはその話をしていないどころかメールでも書いていないからです。
 では士郎は何所で知ったのかと視線を向けると――――。

 「頼んだわけじゃないんだが、俺のメアドを教えておいたALOのケットシー領(あっち)にいる1人が、大きな動きがあった場合、メールで知らせてくれるんだ。だから今回の件もそれで知った」
 「そう言う事ね・・・」

 燈はその説明で納得しました。
 既にケットシー領のケットシープレイヤー(領民)達の8割弱は、士郎ことネームレスのファンなのです。さらにその一割ほどは完全に躾けが行き届いている忠犬並みに忠誠を誓っている程です(決して士郎が意図した事では無い)
 そんな彼らの内、誰か一人くらいただネームレスの役に立ちたくて、進んで連絡役を買って出る事位おかしくはありません。
 燈が取りあえず納得したところで話が進みます。

 「君たちがグランドクエスト攻略にあたり、衛宮君も同席させて欲しいのだよ」
 「「・・・・・・・・・」」

 2人は顔を見合わせます。

 「今日呼び出したのは、その件で衛宮士郎(コイツ)に参列してもらうために直談判しようとしてたので、私達にとっては渡りに船ですけど・・・・・・」
 「先ほどの衛宮さんに依頼した、ある調査とやらと関係があるんですか?」
 「うん。ただ侮辱する訳じゃないんだが、この話は未だ女子大生くらいの君たちに聞かせられるほど軽いモノでは無いのだが・・・・・・・・・覚悟はあるかネ?」
 「・・・・・・いきなり覚悟を問われて即断は出来ません。ですけど、それはALOのグランドクエスト攻略に大きく関わっているんですよね?」

 涼風の問いに首を縦に振る事で答えるファブリス。
 その反応に先程とは違う意味で燈と涼風は顔を見合わせます。
 そして――――。

 「私達はALO(あちら)で領主を務める身」
 「見て見ぬふりをする事は出来ません。ですから如何か教えてください」
 「ふむ。最近の子供は中々どうして肝が据わっている。よろしい、では教えよう―――」

 そうして包み隠さず話すこと十数分、聞かされた2人は様々な感情が混ざった何とも言えぬ顔をしていました。

 「フフ、平穏な世界で生きてきた特有の反応をしている様だネ。まあ、当然と言えば当然だがネ」
 「ファブリスさん」
 「おや、これは不謹慎だったな。失敬――――それで如何かね?」

 2人は未だ沈黙していたが、涼風の方から口を開きます。

 「今の話は全部本当なんですか?」
 「証拠は何一つとして出てこなかった。だがSAOサーバーを未だに維持しているのはレクト・プログレスであり、その主任が、ある研究成果を高額で買い取っても欲しいと頼んできている米国のある組織と秘密裏に繋がりがある疑惑が極めて濃厚なのさ」

 質問されたのはファブリスだが、直接調査したのは士郎なので、代わりに答えました。
 その答えに涼風はまた燈と同じように口を閉ざします。
 この話はそれだけヘビィーなので、ファブリスの言う通り、一般人として今まで生きて来た2人には無理らしからぬ反応と言えるでしょう。

 「それらの情報をもとに推察するに、レクト・プログレスの一部が極秘に研究しているのは、ズバリ人格の完全操作技術のための人体実験だネ。まあ、この手の研究はもう十年以上前から世界各国で極秘に為されているんだが、如何あっても人体実験がどうしても必要不可欠でネ。あまり進んでいないのが現状なのさ。それを完成させたとなれば、大国アメリカを問わず、他の先進国どころか、この日本のある組織からしても、喉から手が出るほどの垂涎モノだろうさ」

 ファブリスの説明で、さらに重くなる空気。
 そこで、今度は燈がその口を開きます。

 「で、でも、世界樹の上には空中神殿が有るって・・・」
 「その手の説明だけで誰も見た事は無いのだろう?しかも関係者以外誰も来れない区画が有れば、そこは人体実験場には最適だろうさ。つまりあるのは空中神殿では無く、非人道的な研究施設と言う線が濃厚だろうネ」
 「ちょっ、ファブリスさん!」

 さらっと言い切ったファブリスを士郎は制止しようと動きつつ燈をチラ見します。
 燈があのゲームにハマっているのは、多くのプレイヤー達と同じく飛べるからだと知っているからです。
 ですが飛行時間を無限にするには、グランドクエストを攻略する以外の道はありません。
 そのいずれは飛び続けられる日を夢見ていた燈を含むプレイヤー達の足元を、根こそぎ崩すデリカシーの欠片も無い真実に近い現実だったからです。

 「今更誤魔化しても仕方ないだろう」
 「ですが・・・・・・」

 士郎の視線は、恐らく気落ちしているであろう涼風と燈の2人に注がれています。
 如何慰めようと思案している所に、いきなり大声をあげて燈が立ち上がりました。

 「だーーー!くよくよウジウジシテるなんて、私らしくない!こうなったら戦争だ!騙していた運営側に目にもの見せてくれるっっ!そうでしょうね!?涼風ちゃん!」

 名前を呼ばれた涼風は立ち上がる事はしませんでしたが、顔を挙げたその瞳には強い眼差しが宿っています。

 「ああ、私達の心を弄んだ罪を償わせなければならないな・・・!」
 「そうと決まれば帰ってログインして世界樹攻略の最終準備だ!じゃあ私、先に言ってるよ涼風ちゃん!」

 どりゃー!と気合が入った声を上げながら、喫茶店から出て行く燈。
 そのあまりの勢いに呆気に取られていた3人だったが、士郎はどちらに聞かせるわけでもなく、ただ呟きます。

 「行ってしまったが、この件が白日の下晒されればALOの運営――――いや、それだけじゃなく、VRMMOと言うジャンルのゲームは致命傷レベルの打撃を被るって、燈の奴理解してるのか?」
 「多分分かってると思いますよ?そこまでアイツは能天気じゃありませんから」

 士郎の独り言に近いのを涼風が拾って答えた直後、喫茶店から出て行ったはずの燈が鬼の形相で爆走しながら戻ってきました。

 「士郎!早くアンタは帰りなさいよ!ここから一番遠いいんだから!」
 「お前の家とそんな距離ないだろ?」
 「いーから!早く帰ってログインしなさいよ!急に仕事が入って来れなくなったじゃ済まさないからね!」

 言いたい事は言い終えたのか、またも親友を置いて喫茶店から出て行く燈。
 それを見送った士郎は立ち上がります。

 「言われたとおり急ぐか。すみませんけどファブリスさん」
 「ああ、会計は私に任せて急ぎたまえ。お嬢さんも」
 「すみません」

 そうして士郎と涼風は喫茶店を後にしました。
 会計を済ませる為に一人残ったファブリスは、楽しそうに独り呟きます。

 「さてさて、これで遂に仮想の英雄と現実の英雄が遇う事となるだろうが、英雄キリトは無事に須郷伸之(道化)を退ける事が出来るかな?・・・・・・と」

 そこでファブリスの携帯が鳴り、それを取りました。

 「・・・・・・私だ。――――そうか、成功したか。・・・・・・・・・好きにさせておけ。それで刻限までに舞台に上がれないのであれば、その程度(・・・・)だったと言う事だ」

 こうして士郎達がいなくなった席で、ファブリスは謎の男と連絡を取り合っていきました。


 -Interlude-


 アルヴヘイムの中心である最大都市アルンに、ケットシーとシルフの連合軍が、飛行したまま連帯を組みながら近づいていました。
 そんな彼ら連合軍のほとんどの心中には、恐らく騙されていたと言う方向性からの怒りが有りました。
 その恐らく騙されていたというのは、ファブリスの代理として士郎ことネームレスが許可を出したので、グランドクエスト攻略の連合メンバーに全て打ち明けられていたからです。
 これにより連合軍全員、運営側に対する怒りで士気は最高潮。
 そしてネームレスのアイテム一覧の中には、入手先不明のファブリスからの贈り物、システム管理用アクセス・コードなど(・・)がありました。
 これらの手札を以て、今怒れる連合は世界樹攻略のために進軍するのでした。 
 

 
後書き
 この世界の携帯はまだ、スマホと言う呼称で通じるんですかね? 
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