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真田十勇士

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巻ノ八十七 佐々木小次郎その七

「生涯を終えることになる」
「そうなりますか」
「ただ修行だけをしてな」
「そして技だけをですな」
「極めるやも知れぬ」
「そうなるやもですか」
「知れぬ。それはどうもな」
 幸村はその場合についてはだ、どうかという顔で述べた。その顔に彼の考えがそのまま出てしまっていた。
「拙者もな」
「受け入れ難いですか」
「やはり世に出たい」 
 こう言うのだった。
「そしてまた一働きしたい」
「そのうえで」
「武士の道を極めたい」
 これが幸村の考えだった。
「そう考えておる」
「やはりそうですか」
「星を見るとじゃ」
 幸村は根津にこのことからも話した。
「また戦になりそうじゃが」
「しかしですか」
「それがないとな」
「我等はこのまま」
「生涯を終える」 
 九度山の中でというのだ。
「そうなるかも知れぬ」
「そうなることは」
「御主も嫌じゃな」
「拙者だけでなく」
 根津も幸村に応え述べた。
「十勇士の他の者達もです」
「同じじゃな」
「そうだと思いまする」
「やはりそうか」
「殿と共に世を出て」
 そしてというのだ。
「働きたいです」
「そうじゃな、どれだけの技を備えたか」
「己が知り天下にもです」
「見せたいな」
「左様ですな」
「確かに禄や官位はいい」 
 そうしたものにはだ、やはり幸村も十勇士達も興味がない。だがそれでも己の力を見せたいという願いはあるのだ。
 だからだ、今もこう言うのだ。
「しかし武士の道の歩みを」
「是非ですな」
「天下に見せたい、しかし戦のないまま泰平で進めば」
 それもというのだ。
「民達が苦しまぬ」
「それはよいことですな」
「所詮己がことじゃ」
 そうだとわかっていてだ、幸村は言うのだ。
「拙者の願いはな」
「我等もまた」
「戦になれば巻き込まれる者にとっては難儀な話じゃ」
「これ以上はなく」
「そうした者達にとっては迷惑以外の何者でもない」
「だからですな」
「戦がないまま泰平になれば」
 それはというのだ。
「民達にとっても天下にとってもな」
「よいことですな」
「その通りじゃ、しかしそれでも思う」
 己のその考えに浅ましさも感じてだ、幸村は自嘲して言った。 
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