魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第三十話 身体の傷、心の傷
outside
その時、シャマルは医務室でリインとお茶をしていた。
「平和よねぇ~」
コーヒーを口にしながら、シャマルは気の抜けた声を出す。
「はいですぅ。あ、でもフォワード陣は今頃大変な事になってるですね?」
リインは自分の頭よりも大きいクッキーにカブリつきながら、他人事のように言う。
「そうねぇ~。もうちょっとしたら忙しくなりそうねぇ~」
のんびりとした口調でシャマルはノホホンとしている。
緊張感を家に忘れてきたんじゃないかってくらい、気が抜けている。
「隊長さん達とガチンコ模擬戦ですからねぇー。アスカなんか、きっと血塗れになってるですよ?」
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、そこまでやらないわよぉ。シグナムじゃないんだしぃー」
アッハッハッと笑い出すシャマルとリイン。
そんな緩みきった空気を切り裂くようにエリオが飛び込んできた。
「先生!診てください!」
尋常じゃなく慌てて訴えるエリオ。
「どうしたの?怪我したの?」
その慌てっぷりに、ただ事ではないとシャマルの表情が引き締まる。
「ア、アスカさんなんです!」
そこに、半泣きのキャロとフェイトに付き添われたアスカ入ってきた。
「「きゃー!」」
血塗れのアスカを見て、悲鳴を上げるシャマルとリイン。
右手をダラリとぶら下げ、左手を右脇に差し込んで止血しているアスカ。
怪我をした右腕には、刃物で突き刺したような大きな傷ができている。
「ど、どうしたの、これ?いや、それよりイスに座って!」
シャマルは急いで治療の準備にかかる。
その直後、ティアナを背負ったスバルが飛び込んできた。
「シャマル先生!ティアが!ティアがぁ!」
「「ぎゃー!!」」
再び悲鳴を上げるシャマルとリイン。
さっきまでのノンビリとした空気は完全に消し飛んだ。
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
素早くアスカとティアナを見比べるシャマル。
怪我の度合いからいけばアスカを先に治療すべきだが、ティアナの意識が無いのも気にかかるシャマル。
「シャマル先生。オレより先にティアナを診てください。もう少しだけなら、止血し続ける事、できますから」
迷っているシャマルに、アスカがそう進言する。
シャマルの決断は早かった。素早くロープでアスカの右腕をきつく縛り、これ以上の出血を抑える。
「ちょっとだけガマンしててね、アスカ君」
シャマルはティアナをベッドに横たえて、手をかざした。
シャマルの魔法がティアナを包む。
「大丈夫、気を失ってるだけね」
診察はすぐに終わった。ティアナに毛布をかけて、スバルを見るシャマル。
「ダメージよりも疲労の方が深刻ね。最近、無理してなかった?」
「う……」
シャマルの問いかけに、スバルは答えられずに俯く。
「やっぱりね。練習もいいけど、ちゃんと休息もとらないとダメよ?」
一言注意して、シャマルはアスカの診療を始める。
魔力で怪我の状態を探る。が、すぐに青ざめた。
「これ……何があったの!撓測手根屈筋断裂……いや、切断?長掌筋切断、尺側手根屈筋切断、尺骨骨折……いや、これも切断!?撓骨切断、静脈、動脈切断!!」
見た目以上に重症な事にシャマルは慌てた。
「ベッドに横になって、右腕はこの台の上に乗せて動かさないで!」
普段の、ホンワカとしたシャマルからは想像できないくらいに迅速に動いている。
アスカは素直に指示に従った。
「この傷だと、出血も相当しているわね。魔力縫合を行い、輸血をします。ジッとしててね」
傷が大きいので、触れる事ができない状態でシャマルは魔法治療を始めた。
アスカの腕がシャマルの魔力光に包まれる。
その様子を、フェイトとエリオ、キャロは心配そうに見守っていた。
暫くして、傷口がふさがる。
「この状態で、指が動かせるか試してみて」
言われた通りに右手を動かそうとした途端、ズキンと痛みが走る。
「痛い?」
「は、はい…すごく…」
脂汗が出るくらいの痛みが、右腕から脳天に駆けめぐる。
「そのまま、ね」
再び魔法治療を行うシャマル。
何度かそれを繰り返していた。
「どう?」
「……だいぶ痛みがとれました。指も一本ずつ、ちゃんと思った通りに動かせます」
アスカの言葉を聞き、シャマルはようやくホッと胸を撫で下ろした。
「結構な大怪我よ?輸血は、とりあえず200CCね」
輸血用のパックを取り出したシャマルは、アスカの腕に針を刺す。
「これで一安心ね」
安堵の表情を浮かべるシャマル。
「アスカさんの怪我は、もう大丈夫なんですか?」
それまで静かに待っていたエリオがシャマルに尋ねる。
「ダメージはまだあるから、今日は出撃があってもダメよ。一日様子を見て、明日もう一度診察するから。たぶん、2~3日は痛みが残るかもしれないわ」
「そ、そんな大怪我なんですか?」
その説明を聞いたキャロが驚く。
「大怪我なんてもんじゃないわ。すぐに処置できたからいいけど、失血死していても不思議じゃない怪我よ?いったい何が……」
「エリオ、キャロ。オレはもう大丈夫だから、もう戻っていいぞ」
シャマルの言葉を遮るようにアスカが二人に話しかける。
「え…でも…」
エリオが心配そうにアスカを見ている。
「そんな顔すんなって!名医が診てくれたんだぞ?大丈夫に決まってるだろ。ハラオウン隊長、エリオとキャロを、お願いしていいですか?」
心配する二人を、フェイトに委ねるアスカ。
「うん、分かった。エリオ、キャロ。アスカを休ませてあげようね」
フェイトに促され、エリオとキャロは医務室を後にした。
ついでにと、リインも二人を元気づけながら一緒について行く。
残っているのは、輸血をしているアスカに、眠っているティアナ。彼女に付き添っているスバル。そしてシャマルである。
シン…と静まりかえる医務室。
(お、重いわぁ……)
誰も一言も発しない中で、シャマルはその空気に押しつぶされそうになる。
何もやる事がないからか、アスカはジッと輸血パックを見ている。
「え、えーと、アスカ君も少し眠った方がいいわよ?」
沈黙に耐えきれず、シャマルがそう言う。
「はい」
一言、そう答えたアスカだったが、目を閉じずに輸血パックを凝視している。
「ス、スバルも一旦戻っていいわよ?」
アスカが空振りだったので、今度はスバルに声をかけたシャマル。だが、
「私、ティアに付き添ってます」
と、こちらも一言だった。
「あ…そう…」
仕方なく、シャマルは自分の席に戻ってカルテを見始める。が、
(何があったのか聞ける空気じゃないし、何よりその空気が重い!誰か、助けて!)
シャマルのヘルプは、結局アスカの輸血が終わるまでかなえられなかった。
1時間程して、アスカの輸血が終わった。
「大丈夫?気持ち悪いとか無い?」
やや疲れた感じでシャマルが聞いてきた。
「右手の握力が無いんですけど…」
「ダメージはあるって言ったでしょう?怪我は治せても、ダメージを抜くには休息が必要なの。私から隊長さんに言っておくから、しばらくは出撃がダメよ?」
シャマルはツン、とアスカのオデコを軽く指で突っつく。
「はぁ」
気のない返事でアスカが答える。
(なんか傷つくわぁ…)
ノーリアクションのアスカに、少しだけ不満のシャマル。
普段はもっとこう、初々しい反応をしてくれるのに、と内心思っていた。
「休め、と言う事ですよね。ありがとうございました」
シャマルに頭を下げ、アスカは医務室から出て行こうとした。
だが、ピタッと立ち止まってスバルに目を向ける。
スバルはあからさまに顔を背け、アスカを見ようとはしない。
「スバル。なんでクロスファイヤーだったんだろうな?」
アスカはそのままスバルに問いかける。
「え?」
アスカの意図が分からず、スバルは思わずアスカの方を見た。
「アクセルでも、フォトンランサーでも、デバインバスターでもない。何でティアナの……ランスターの魔法だったんだろうな?」
模擬戦の時、なのはが撃ったクロスファイヤー。
他にも魔法はあったのに、なぜなのははクロスファイヤーを選んだのか?
アスカはそれをスバルに問いかけた。
「……分からないよ」
憮然とした態度でスバルが答える。それがアスカの癇に障った。
「ふざけるな!どんな気持ちで隊長が撃ったと思ってるんだ!」
感情を爆発させたアスカは詰め寄ると、左手でスバルの胸ぐらを掴んで壁に押しつけた。
「ちょ…やめてよ!」
スバルが抵抗しようとするが、
「隊長……泣いていたんだぞ!」
その言葉を聞いて、スバルが固まった。
「え…うそ…」
「なんで泣いていたんだろうな、スバル!お前はそれを考えて答えを出す責任があるんだよ!勝手やって迷惑かけて、知らねぇなんて言わせねぇぞ!」
「ア、アスカ君!ここは医務室よ!やめなさい!」
シャマルが慌ててスバルからアスカを引き剥がす。
「……すみません…少し、頭を冷やします…」
湧き上がる怒りの感情を無理矢理押し込め、逃げるようにアスカは医務室から出て行った。
アスカside
今、自分がどんな顔をしているか分からない。
ブチ切れてスバルにあんな事を言っちまったが、結局は上手くいかなかった事をスバルに八つ当たりしたに過ぎない。ほんと、情けない……
ティアナがあそこまで切羽詰っていた事に気づけなかった。近接戦をするとは思わなかった…
全部、言い訳だ。オレは何もできなかった。
「アスカ、大丈夫?」
不意に声を掛けられ、オレは驚いてそっちを見た。
アルトさんだった。青ざめた顔でオレを見ている。
「アルトさん…どうしてここに?」
頭が動かない。なんでアルトさんがここにいるのか?なんで青ざめているのか?オレにそこまでの余裕が無いんだろうな。
「キャロが泣いていたんだよ。アスカが大怪我して、それが心配だって。私が気がついたのはさっきだったから、様子を見に来たんだけど、医務室から怒鳴り声が聞こえて……で、アスカが出てきたんだけど」
……最低な気分だ…キャロにそんな心配を掛けたなんて…いや、たぶんエリオにも心配をかけたよな。
おまけに、みっともなく怒鳴り散らしているのも知られちまったし…情けなさ過ぎて、笑えてくる。
「怪我はシャマル先生が治してくれました。安静にしてれば大丈夫です…それより、すみません、アルトさん。せっかく協力してくれたのに、オレ、全然ダメでした…ティアナを……」
言葉が詰まってしまって上手く言えない…こんなに口下手だったか、オレは。
偉そうにティアナを助けたいなんて言っておきながら、できなかった。
結局、何もかも無駄だったように思えてくる。
「しっかりしろ!アスカ!」
パチン!
急に、アルトさんは両手でオレの頬を挟み込んだ。
「ア、アルトさん?」
「ティアナを助ける事ができなかったって言うつもりじゃないんでしょうね?ここで諦めるの?これで終わりなの?もう何もできないって思っちゃうの?違うでしょ!まだできる事はある!ティアナが立ち直る手伝いはできる!そうでしょう?」
叱りつけるような言葉だったが、それが暖かい。
…………そうだ。
まだ、何もできていない。つまり、まだやれる事はある!
何を諦めていたんだ、オレは。
そう思うと、さっきまでの無力感がなくなってくる。
「……そうですね、まだできる事はある筈」
オレがそう言うと、アルトさんは手を離して微笑んだ。
「諦めなければ、きっと道はあるよ。私も手伝うからさ」
その笑顔に、オレは安心感を覚える。ほんと、助けてもらってばかりだよ。
「とりあえず、隊長に謝罪しに行ってきます。そこで相談もしてみます」
危険行為をした訳だから、ちゃんと謝っておかないといけないし、その流れでティアナの事を相談できるかもしれない。
「うん、それが良いと思うけど…その格好でいっちゃダメだよ?」
「え?」
アルトさんに指摘されて、オレは初めてまだ血塗れの訓練着のままだって事に気づいた。
「まずシャワーを浴びて、ちゃんと着替えて、それから行かないとね」
そうか。最初に青ざめていたと思ったら、この訓練着を見たからか。
「すみません。何か、ご心配掛けたみたいで」
「いいよ、元気になったみたいだし。でも、キャロやエリオにはそんな姿を見せちゃダメだよ?」
笑ってそう言うアルトさん。ホント、かなわないや。
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シャワーを浴び、制服に着替えたアスカは、隊長室へと向かった。
(気が重いぜ)
アルトに元気づけられたとは言え、謝罪はともかくティアナの事をどう切り出していいかを考えると、躊躇してしまう。
何でもっと早く言わなかったのはと聞かれたら、どう答えていいのか分からない。
(グダっててもしょうがない…行くか)
覚悟を決めて、アスカは隊長室のドアをノックした。
「失礼します。高町隊長、おられますか?」
中に入ると、なのは、フェイト、ヴィータ、シグナム、シャーリーがいた。
「どうかしたの、アスカ君?」
なのはが、中に入ってきたアスカを見る。
アスカはなのはの前まで歩み寄り、敬礼する。
「先ほどは出過ぎたマネをして、申し訳有りませんでした!」
「え…何の事?」
何の謝罪なのか分からず、なのはは聞き返す。
「模擬戦への乱入及び、危険行為です。勝手な事をしました」
スターズとフェイトの模擬戦の最中に乱入して、それで大怪我をした事への謝罪であった。
それを理解したなのはが頷く。
「そうだね。少し叱っておかないといけない事だね。昇格試験の時にも言ったし、アグスタの時もヴィータ副隊長からの注意はあったよね?」
口調は静かで、叱ると言うよりは諭す感じでアスカに語りかけるなのは。
「はい、仰る通りです」
アスカは言い訳をしなかった。
「何であんな事をしたのか、聞かせてくれるかな?」
あくまで静かに、優しく訊ねるなのは。
「……あの時、飛び出さずにはいられなかったんです。ティアナの暴走を止められなかったのはオレの責任です。無茶していたのは知っていたのに、止める事ができませんでした。だから…」
「だから身体を盾にしてティアナを止めた。ティアナがフェイト隊長を傷つけたら、きっとまた自分を責めてしまうから、だね?」
なのはに先に言われて驚くアスカ。
「もちろん、本気のハラオウン隊長なら充分対処できたでしょうが、それじゃ意味がないんです」
「仲間が止めなくちゃいけなかった。間違った事を正すのが仲間だから。スバルはティアナに全幅の信頼をおいているから、諫めるなんてしないだろうし、エリオとキャロにそれを求めるのは酷。だからアスカ君が止めないといけないと思ったんだね?」
またもや先に言われてしまい、アスカは黙ってしまう。
「アスカ君の言いたい事は分かるよ。でも、だからと言って自分を危険にさらすような事は容認できません」
「はい……」
なのはは、アスカの事を心配している。それが分かるから、なんの反論もできない。
「でも、それだけじゃないよね?」
「え?」
なのはの言葉に、アスカは思わず聞き返してしまった。
自分の行動理由は、全てなのはが言ってしまった筈だった。
にも関わらず、他の理由があるように言われている。
「仲間思いってだけの行動じゃないよね?」
なのはの言いたい事が分からず、アスカは戸惑ってしまっている。
「悪いとは思ったが、少しお前の事を調べさせてもらった」
シグナムが話に入ってくる。
「……」
「6年前に陸士099部隊長、ドミニク・ディゼル三佐の養子として引き取られると同時に入局。1年後、山岳訓練中に山崩れに巻き込まれ、全治3ヶ月の大怪我を負う。今から3年前には、オルセアで警備任務に赴き、これを完遂」
「……」
「これだけなら、何も気に掛けるような事は無かった。だが、どこを探しても6年より前の記録が無い」
「……」
「これはどういう事だ」
「シグナムさん…」
なのはが間に入り、シグナムを止める。
今シグナムが言った事は、はやてが調べ上げた事だ。
流石のはやてもアスカの記録が無い事は気になったのか、シグナムに機会があったら調べてみてくれと頼んだのだ。
「すまん。尋問のようになっていたな」
自分が責めるように言っていた事に気づいたシグナムが謝る。
「い、いえ…」
完全に萎縮してしまっているアスカ。顔色が悪い。
「ごめんね、責めているわけじゃないんだよ?でも、アスカの行動が、もしかしたら過去に何かあったからじゃないかって思ったんだ」
フェイトがアスカを落ち着けるように話しかける。
だが、階級は上の人間に囲まれている上にこの話の展開に、アスカは不安そうな顔をしている。
「ま、まあ、とりあえずコーヒーでも飲んで一息いれてよ!」
重くなりかけた空気を払うように、シャーリーが明るく言ってアスカをイスに座らせる。
「あ、あぁ、悪い」
左手でカップを受け取ったアスカは、一口コーヒーを啜る。
「アスカ君。もしかしたら、なんだけど」
なのはが真剣な表情でアスカを見つめる。
「な、なんでしょうか?」
徐々に追いつめられているような圧迫感を感じるアスカ。
そして、なのはは確信に迫った。
「アスカ君て、地球の、日本人なんじゃないかな?」
「!」
ガシャッ!
手にしていたカップを落としてしまうアスカ。
「な…」
アスカは両肩を抱くようにうずくまり、カタカタと震え出す。
「アスカ君!」「アスカ!」
真っ青な顔をして震えだしたアスカに駆け寄るなのはとフェイト。
急変したアスカの様子に、ヴィータもシャーリーも顔を見合わせて驚いている。
(あの時と同じだ…)
シグナムは、派遣任務の時に温泉でアスカの様子が変わった時の事を思い出していた。
あの時も、アスカと地球を結びつけようとした時に、発作のように震えていたのだ。
だが、今回はもっと状態が酷かった。
しばらくして、アスカはイスに座り直した。
俯いた状態で、それでも落ち着こうとしているのか、深呼吸をしている。
「……いつくらいから、当たりをつけてました?」
アスカは、なのはの言葉を認めた。自分は日本人であると。
「……派遣任務の時に、もしかしてって思ったの」
「派遣任務って、そんな前から?」
アスカは、思ったよりも早い時期になのはが感づいていた事に驚き顔を上げた。
「うん。何か、地球って言うか、日本慣れしていた感じがしたんだ。普通に買い物もできていたし。それに覚えてる?私の実家のお店の名前」
「確か、翠屋、でしたか?」
「そう。あの時、ミドリの字が緑じゃなくて翠だって言ってたよね。ミッドでも漢字を分かる人は沢山いるけど、音読み訓読みを瞬時に判断できるのは、さすがに日本で育った人だけだよ」
「意識していなかったですね」
なのはの言う通り、日本育ちなら漢字の音訓読みは意識しなくても体感的に分かるが、外人でそれを理解するのは難しい。
「でも、決定的だったのは、お姉ちゃんが持ってきたキンピラゴボウなんだよ」
「へ?」
意外な事を言われて、アスカは間の抜けた返事をしてしまう。
「ど、どういう事ですか?キンピラが決定的って?」
訳が分からずに慌ててしまうアスカ。
「実はね、ミッドチルダにゴボウを食べる習慣ってないんだ」
「!」
アスカは、フェイトの言葉に絶句する。
「地球でも地域によっては、例えばアメリカとかはゴボウを食べる習慣がないの。日本で育った人なら食材に見えても、知らない人は木の根っこか、枝に見えるらしいよ」
フェイトの説明に、アスカはアングリと口を開けてしまった。
「お姉ちゃんが持ってきたキンピラゴボウを普通に食べているのを見て、たぶん日本人なんじゃないかなって思ったの」
最終的な答えを、なのはは言った。
ポカンとした顔のアスカだったが、次第に小さく震え始めた。
「………フ…」
「アスカ君?」
「フフッ、ハ、ハハッ、アーハッハッハッハッ!」
アスカは突然笑い出した。
だが、その声は苦しみと悲しみし満ちていた。
「なんて間抜けなんだ、オレは!ミッド人になったつもりで目を背けていたのに!思い出したくないのに!それでも染み着いた習慣は抜けてなかったってか!逃げていたのに、意味がねぇなあ!」
自嘲した笑い声が隊長室に響く。
狂気にも似た笑い声に、誰もアスカに近寄る事はできなかった。
ひとしきり笑いきったのか、アスカはグッタリとイスにもたれ掛かり、俯いた。
「高町隊長の仰るとおり、オレは日本人です」
下をむいたまま、アスカは告白した。自分が日本人である事を。
そして次のアスカの言葉に、全員が息を呑んだ。
「オレは……次元漂流者です」
後書き
いつも読んでくださる皆様、本当にありがとうございます。
すごい励みになります。ありがとうございます。
さて今回、アスカが日本人という事が明かされました。
この物語は転生物ではなく、転移物だったんです!
もっと上手くやりたかったですが、この辺が今のところの限界ですね。
プロローグの男の子は、実はアスカだったんです(棒)
まあ、一つフラグ回収したって事で。
シャマル先生、流石の活躍です。金髪美人の女医で、カワイイってチートですよ?
フェイトさんが空気になってしまいました。もっとしゃべらせなくては。
そしてまさかのアルトさん!ヒロインゲージが溜まってますよ?本当に!
色々アスカを元気づける歳の近い女性。私、気になります!
いや、本当にヒロインどーしよって感じです。
本当は3人娘(なのは、フェイト、はやて)をもっと絡ませていい感じにしたいんですが、
なんでアルトさんが追い上げるどころか、引き離してんの?
後半の巻き返しを期待します。
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