IS―インフィニット・ストラトス 最強に魅せられた少女Re.
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第三話 甘くないんです
「なあ、えっと……神宮司さん。」
「……何ですか?」
放課後、何故か織斑さんに絡まれた。一体何の用でしょう?
「俺に、ISの事を教えてくれないか?」
「……どういう、事でしょうか?」
話を聞けばあの後、結局織斑さんも来週の月曜日、クラス代表の決定戦に参加することになっていた。そこで幼馴染みである篠ノ之さんにISの事を教わろうとしたのだが……篠ノ之さんもISに関して特別詳しい訳ではないらしい。そこで、代表候補生である私に頼みに来た、という訳の様だ。
「まあ、私の方は構いませんが……本当に良いんですか?」
「ん?何がだ?」
……どうやら気付いて無いのですね。先程から篠ノ之さんの視線が痛いんですよ。これはアレですね?『私の一夏に近付くな。』とかそういうアレですね?
私も疎いとはいえ一応年頃の女子です。こうもあからさまに視線を向けられれば気付きます……が、目の前の彼は所謂唐変木の様ですね。後で篠ノ之さんに釈明しておきましょう。
「それで、具体的に何をお教えすればいいのですか?」
本当ならISの実機を使った訓練が一番なのですが……一年生のこの時期では訓練機の許可は下りないでしょう。
「そうは言われてもな……素人だから何やったら良いかも分からないんだ。」
どうしたものでしょうか……。今から詰め込んだって応用的な機動や射撃戦のスキルは絶対間に合いませんね。基礎の基礎を徹底して磨いて近接戦闘に賭けましょうか。
「分かりました。では、早速始めましょう。」
「……で、何で剣道場に連れてこられたんだ?」
「まずは織斑さん自身がどれだけ動けるかを確かめたいと思います。生身で出来る事はISでも出来ますし、織斑さんが昔剣道をやっていたと篠ノ之さんから聞いたので。」
「来い、一夏。今のお前がどれだけ強いのか見てやる。」
因みに戦うのは私ではなく篠ノ之さんです。誤解されたくはないですし、手の内を早々晒す気もありません。
……どこから聞き付けたんでしょうね?既にギャラリーがそこそこ集まってます。
「よし……いくぞ!」
威勢良く突進する織斑さんですが、駄目ですね。完全に錆び付いてます。足運びもなってなければ、相手はおろか自身の間合いすら把握していない。対する篠ノ之さんは全中準優勝の実力者。これでは持って三合といった所ですか。
事実、一撃目を弾かれ、反撃を受け止め切れず、三撃目で綺麗な面が入りました。
「何故だ……?」
「うん?」
「何故ここまで弱くなっている!今までは、中学では何をやっていた!」
「帰宅部、三年間皆勤賞だぜ。」
ああ……弱くもなりますねそれは。技術が可哀想です。使われない技術が錆びるのは早い、そしてその錆を落とすのは難しく、時間も掛かります。
「……なおす。」
「は?」
「鍛え直す!これから放課後三時間、毎日稽古だ!」
「いや、それだけじゃなくてISの事も……」
「いえ、事はそれ以前の問題です。」
そこそこ自信のありそうなオーラを出していたので期待していたのですが……むしろその程度でよく勝とうだなんて思いましたね織斑さん。
「どうせ高々一週間では大した事は出来ません。でしたらここは、剣道で近接戦闘の勘を少しでも取り戻した方が良いでしょう。IS関連は可能なら一度、実機を借りて基礎を確認する程度で。」
「いや、でも……」
「いいですか織斑さん。あなたが戦おうとしているのは代表候補生。誰でも成れる物では無く、競争を勝ち抜いて来た強者です。オルコットさんの言い方にはムカつきましたが、私もあなたがクラス代表に選出されるのは反対です。実力も経験もまるでない。話題性だけで選ばれるなんて………遊びでやってるんじゃないんですよ。」
「「………………」」
……あ、少々熱くなってしまいましたね。二人が困っています。
「……悪い、神宮司さん。俺、どこかで甘く見てたみたいだ。オルコットの事も、神宮司さんの事も。」
「……構いません。考えてみればあなたは望んでここに来た訳では無いのに言い過ぎました。謝るのはこちらです。」
何はともあれ、私と篠ノ之さんにより織斑さんへのコーチがスタートしました。
………篠ノ之さんの織斑さんへの当たりの強さには驚きましたが。何故でしょう?
「あ、楓。随分と遅かったね?」
夕刻、寮にある私の部屋に戻るといかにも快活そうな赤毛の少女が声を掛けて来ました。
彼女の名前はジルベルタ・オルランド。イタリアの代表候補生ですが専用機はありません。
「ええ、少し寄り道をしていて。」
「ふぅん?必要人間の楓が寄り道ねぇ……。」
「……言いたい事があるなら言ったらどうですか?ジル。」
必要人間というのはジル(彼女がこう呼べと)が私につけた渾名の様なものです。
なんでも必要な事以外しようとしないから、らしいです。
失礼な……私だって……そういえばしてませんね。
「いやねぇ?例の男子に特訓つけてる大和撫子が二人いるって噂を聞いたんだけどさ?」
「………まあ、そういう事です。」
そうでした。彼女はかなりの情報通で既に上級生にも伝手があるとか……新聞部の次期エースとして入学前から期待されていたそうです。
因みに、海外組や遠方から通う生徒は入学より先に入寮しています。私もこの1013号室で暮らし始めて一週間になりますし。
「やっぱし!で、どうだったの?」
「……どう、とは?」
「惚けないでよ!織斑君よ。」
うーん……そうですね……
「筋は良さそうですね。本人の努力次第では化けると思いますよ?」
「あー……そういう事じゃないんだけどさ。いや、楓に聞いたのが間違いか。」
「……よく分かりませんが聞き捨てなりませんね。」
全くもって失礼千万です。一体何が聞きたかったのでしょうか?
「まあそれは置いといて……楓、初日から派手に喧嘩売ったわね。」
その話もですか。あなたは確か三組でしょう?
「別に売ったつもりはありません。」
「確かに……どっちかってと楓は買う派だもんね。」
「………買ったつもりもないんですけどね。」
ただオルコットさんが『どうぞタコ殴りにして下さい。』と言うので『喜んで。』と答えただけです。
「それでそれで?勝算はあるの?」
「無かったらあんな大口叩きません。」
既に勝つ為の道筋は幾つか見えています。後は実行出来るかどうかだけです。
「私も三組のクラス代表になったからね。楓と戦ってみたいし、応援してるよ。」
「ありがとうございます。期待に添えるよう、微力を尽くしますよ。」
応えつつノートPCを起動して、オルコットさんのデータを表示。自分のイメージと重ねつつ、頭の中で何度もシミュレートを繰り返しました。
Sight Out
IS学園の職員室。レディススーツに身を固めた元世界最強が、手元の端末に表示された二つのデータを見比べて何やら難しい顔で考え込んでいた。
「織斑先生、何見てるんですか?」
「ん?いや、な。」
「……オルコットさんと楓ちゃんのデータですか?」
楓ちゃん。元代表候補生である山田真耶は、楓とも面識があった。
「……山田先生、この二人の戦い、どう見る?」
「そうですねぇ……」
近接武器はショートブレードしか無いが射撃戦闘に絶大なアドバンテージを持つブルーティアーズ。
交戦距離を選ばないが色々と『尖った』性能を持つ玉鋼。
「うーん……私が知ってる頃の楓ちゃ……神宮司さんならオルコットさんに勝つのは難しいですけど……」
「十中八九それは無いだろう。……アレは歩みは遅いが止まる事を知らない。」
織斑千冬が神宮司楓を最初に見たのは四年前、まだ現役だった時の事だ。当時最年少のテストパイロットとして楓の名はそれなりに知られており、千冬もその噂を聞いて訓練を見に来ていた。
様子を見ていてすぐに分かった。神宮司楓に才能は無い。あるシステムに対して高い適性を持つがそれだけ。ISランクもCだった。
しかし、誰よりも力に餓え、強さに貪欲だった。
最初は興味からで、彼女に訓練をつけた。持たない者が努力だけでどこまで進めるのか。そして楓に接する内に、千冬は怖くなった。
楓には才能は無かった。しかし、同時に限界も無かった。小さくとも確かに、遅くとも決して止まること無く、楓は成長し続けた。
「4年で4000時間以上……年1000時間以上の搭乗時間は国家代表レベルの数字だ。現役のパイロットでもこれより短いのはゴロゴロいる。」
千冬も真耶も楓を既に一年以上見ていない。故に、彼女がどこまで成長しているのか、全く判断がつかないのだ。
「……ところで織斑先生。弟さんの方は良いんですか?」
「神宮司がコーチについたと聞いた。心配は要らんだろう……付いていけさえすれば、な。」
Sight In
クラス代表決定戦を翌日に控えた日曜日。漸く訓練機の使用許可が下り、私たちはアリーナに来ていました。
「さて、上手い事訓練機を借りられましたね。」
ISスーツに着替えた私の目の前には、日本製の量産IS、打鉄を纏った織斑さんがいる。
「時間が惜しいのでさっさと始めましょう。織斑さん、飛んで下さい。」
「へ?」
「飛ぶんです。分かりますよね?」
「お、おう。」
織斑さんが地面から1m程浮き上がる。思ってたよりはスムーズですね。
「ハイパーセンサーは動作してますか?」
「大丈夫だ。」
「それでは………」
端末から打鉄にデータを送る。
「視界に飛行ルートを表示させました。まずはこれに沿って飛んでみて下さい。慣れてきたらスピードを上げて、妨害も入れますから。」
データを視界に重ねて表示出来るのは訓練でも大きな強みです。教える側としても教わる側としても重宝しています。
しかし……織斑さん、どんどん上手くなりますね。私が何か言う前に問題を次々修正していってます。感覚だけでやっているとすれば凄まじい才能です。私には欠片も無かった物なので羨ましい限りです。
『なあ神宮司さん。』
織斑さんの声がインカムを通して聞こえてきます。
「通信とは余裕ですね織斑さん。もう少し難しくしましょうか?」
『いや……俺、こんなんでオルコットに勝てるのか?』
「無理ですよ。」
『そうか……それを聞いて安心し……え?』
「無理ですよ。1%だった勝率が精々3%まで上がるくらいです。」
『それじゃあ……!』
「駄目ですよ。そもそも素人で代表候補生に勝率3%、上出来です。」
多分織斑さんはもっと難しい訓練を頼もうとしたんでしょうが……代表候補生はそんなに甘いものではありません。付け焼き刃の小手先の小細工程度、真っ向から粉砕できるでしょう。
ならば、あえて手札を絞り、その一枚に賭ける。織斑さんが勝つにはそれしか無いのです。幸い、オルコットさんのブルーティアーズはデータで見る限り典型的な射撃型で、近接装備はナイフ一本しか見当たりません。
接近することさえ出来れば勝機も見えるでしょう。
……え?私の対策ですか?そこまで私は親切じゃありませんし、その事は織斑さんにも伝えてあります。
「……問題無さそうですね。素人とは思えませんよ。では次はより実戦に近付けてみましょう。」
次のデータを織斑さんの打鉄に送ります。
『……何だ、これ?』
「私が昔使っていた弾幕回避訓練プログラムです。開始、とかスタート、とか言えば始まりますよ。」
……さて、どこまで耐えられるでしょうか?
『よし……スタート!』
その言葉と同時に、織斑さんの視界には十数挺のマシンカノンが表示された筈です。それも、四方八方に。
「“それ”、避けて下さい」
『無茶言うなぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「ああ、因みに被弾すると……」
『うわっ!?』
「……ちょっと遅かったですね。」
このプログラムの製作者は三枝博士です。彼女の作るものが只の弾幕回避だけで済む筈はありません。
『あなた、被弾したの?そんなんじゃ絶対勝てっこないわよ、分かってるの?この程度の弾幕も躱せないなんて才能無いんじゃないの?第一あなたが一発不用意に被弾するだけで私達技術者に余計な仕事が……』
『うおっ!?何だこりゃ!?』
「そのプログラム、被弾すると製作者の嫌味が5分間垂れ流される仕様になっています。」
『何だよその仕様……げ、また!?」
『あなたねぇ……また被弾したの?この短時間でよくもまあホイホイと当たるわねぇ……カトンボの方がまだいい動きするわよ?………』
約三時間後、げっそりとしてアリーナを後にした織斑さんを見送った後、私はもう一度アリーナに戻ります。
「待たせて済みません、ジル。」
「良いって事よ!面白い物も見れたしね?」
いつの間にか、アリーナの中央には赤毛のルームメイトが立っています。ーーーーISを纏って。
ネイビーカラーのラファール・リヴァイブ。癖の無い汎用機です。
「じゃあ……お願いします。」
「ええ……いつでもどうぞ?」
友人のどこか楽しそうな声に釣られて笑いつつ、心の中で相棒の名前を呼びます。
(来て……《玉鋼》)
後書き
オリキャラ紹介
ジルベルタ・オルランド
イタリアの代表候補生、専用機はまだ無い。楓のルームメイトであり、噂好きの快活な女の子。綺麗な赤毛と翠色の瞳を持つ。愛称はジル。一年三組のクラス代表を務める。
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