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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第83話:詰めを誤ると全てが崩れる。

(グランバニア城:国賓用談話室)
ギルバートSIDE

夕食終わり、来客用に用意された部屋の側に設けられた談話室で、我等ゲストはグランバニアの事等を話している。
そうは言っても、私の側には側近であるマーシャルとノイキスだけが居り、残りの者は離れた席でシェラサード公を中心に会話している。

父上の指示で連れてきた随行員であるが、最初から私に良い感情を持っていなかった。
だからだろうか、私の思惑通りに事が運ばず、奴隷制度撤廃への足がかりの為グランバニアを利用しようとして失敗した事が嬉しいのだろう……頻りにこちらを見てはニヤ付いている。

とは言え何ら収穫が無かった訳でも無い。
国王の心を掴む事は出来なかったが、宰相の関心を得る事に成功した旅だと確信している。
そして何より、長男と次男の違いはあれど、ティミー殿下が素晴らしい人間である事に感激している。

後はこの二人を介して、リュリュとの結婚は無理でも国王の関心を得られれば、我が国の改革に良い流れを生み出す事が出来るかもしれない。
我が国の船(帰国用)が到着するまで、あと10日ほど……
その期間で国王を説得しなければ。

ホザックの港を出たのは乗ってきたグランバニアの蒸気船とほぼ同時……
グランバニアの船が高性能な為、滞在期間を多めにとれたが、果たしてあの国王を説得するのに10日ほどで足りるのだろうか?
不安だけが増して行く……

ギルバートSIDE END



(グランバニア城:国賓用談話室)
パンタリオンSIDE

ギルバート殿下を中心に、マーシャルとノイキス等が何か話し合っているが、我等は我等でシェラサード公を中心に今回の外遊を話し合ってる。
国王陛下の指示で殿下の行動を見張るつもりだったが、アイツの思惑は完全な失敗に終わりそうだ。

だからシェラサード公も寛いでいる。
あの世間知らず(ギルバート)が夢見る、完全平等な国造りはそれこそ夢で終わるだろう……
後はこの国の技術を、何とか本国へ持ち帰れないかが話題の焦点になっている。

そこで気になってるのは、日中に立ち寄った牢獄での出来事だ。
あの牢獄に囚われてた、もう一人の囚人が、この国の宰相に対して言った『私が発明した超絶兵器』が気になって仕方ない。

この国はモンスターを仲間にしてる事もあって、軍縮を進めている。
しかしながら我々の間では、『グランバニア国王は平和主義と言う名の腰抜けで、戦争を怖がってる』のではないかと話題になってる。

その為、超絶兵器なる物が国内に存在すれば、その存在を理由に危険な芽を摘むという事で攻め込まれるのではないかと思って脅えてるのだと考えられる。
だから本来なら開発を急ぎ、大々的に宣伝し、国内の隅々まで展開するべきの兵器を封印しようとしてるのだろう。

だが詰めが甘かった……
まさか我々にその存在を知られる事になろうとは思ってもなかっただろう。
あとは如何やって、あの男が言う『超絶兵器』を持ち帰るかだ!

「あの男は『発明した』と言ってましたし、何処かに試作機の類いは存在すると思うのですが……」
「アトキンス子爵よ、それはそうだが……我々には後10日ほどしか時間がないのだ。探すのも大変なら、見つけ出した後に持ち出そうとするのも困難であろう」
アトキンス子爵の発言にシェラサード公は苦い表情で駄目出しをする。

「あの男の頭の中には超絶兵器の設計図が存在するでしょうから、奴を本国に連れ帰る事が出来れば良いのですが……」
「ゴルディアス男爵よ……それも難しいのではないのかな? 囚われてる奴隷商人の方であれば、言葉巧みに連れ帰る事が出来たとしても、我が国とは無縁の兵器発明家を連れ帰ろうとすれば……」

「シェラサード公、その点は私にお任せ下さいませぬか? 考えがございます」
「ほうパンタリオン伯には何ぞ良いアイデアが?」
ある! 現在の私にだから出来るアイデアがね。

「ゴルディアス男爵の考えを具現化するのです」
「具現化とは?」
シェラサード公も他の者も興味を示してくる。

「私はあの奴隷商人とは面識があります……尤も皆様も多少なりとも過去に面識はあるでしょうが」
「当然ではないか。あの商人は我が国で1番多く奴隷を取り扱っていた男だぞ。奴が居なくなって生きの良い奴隷を確保するのが難しくなったのだからな!」

「その通りですが、今回は互いに顔見知りと言う事を強調し、親しい友人であったとグランバニアには説明するのです」
「そんな事をして意味が?」

「ありますとも。この国は国王や宰相を見る限り、貴賎の差を作らぬよう横の繋がりを大切にする傾向が見受けられます。そんな中、私が宰相に『あの商人とは旧知の友。もう一生会えないと思うと胸が苦しくなります。どうか今一度面会の機会を下さいませ』と言って同情を誘い地下牢まで行ったら、何とか脱獄用のナイフとこちらの作戦を記した手紙を渡すのです」

「う~ん……パンタリオン伯の作戦は素晴らしいと思いますが、そんなに上手くいきますかな? 殿下に知られたら大問題になるやもしれませんぞ!」
「アトキンス子爵の懸念も最もですが、だからこそ私がこの作戦に適任なのです」

「ほう……パンタリオン伯が適任な理由は?」
「シェラサード公もご存じの通り、私はこの旅で不埒な発言をしグランバニア王と宰相に悪い印象を与えてきました。そんな男が郷愁から下賤なる者に会いたいと言うのです。そしてそれに際して我が国の殿下には内密にして貰えるよう相談します」

「そんな相談しても一蹴されるのがオチであろう」
「いいえ……先にも言いましたが、私が下賤な者に会うのですから、その心内に共鳴して反対はしないはずですし、ギルバート殿下に睨まれてる私ですから、彼が嫌ってる奴隷商人に会う事を秘密にして貰えるように頼んでも不思議ではないはずです」

「なるほどなぁ……そうやって商人を脱獄させ、一緒に例の男も連れ帰らせると言うのだな?」
「ご明察、痛み入りますシェラサード公。我が国の船が到着し、出港する直前に脱獄させ帰りの船に密航させれば、如何にグランバニアといえども手を出す事は出来ないはず」

「タイミングが命の作戦になりそうだな」
その通りだろう。
私もアトキンス子爵・ゴルディアス男爵もシェラサード公の言葉に頷いて返事をする。

「早速、明日にでも宰相へ再面会の嘆願に行って参ります」
「では今晩中に脱獄用のナイフと、作戦指示書を書き上げておかねばな」
ふっふっふっ……あの男を連れ帰り、超絶兵器を生産する事が出来れば、陛下の我々に対する信頼は計り知れないモノになるだろう。

パンタリオンSIDE END



(グランバニア城・宰相兼国務大臣執務室)
レクルトSIDE

国賓を迎え入れて2日目……
彼等も城内を行き来してるので、皆も緊張して仕事してるだろう……と思ってたんだけど、メイドも兵士も気にする事なく何時も通りの態度で仕事している。
僕としては、その神経の図太さに疑問を持つ。

そんな中、ホザックの随行員の一人であるスケベ面なパンタリオン伯爵という人が、馭者をしガイドも勤めた僕の事を憶えてたらしく、ウルフ君への面会を頼んできた。
“知らねーよ。勝手に会えよ!”と言いたいところをグッと我慢して、恭しい態度で彼をウルフ君の下へ案内する。

「宰相閣下にはご機嫌麗しゅう……」
「え? あぁごきげんよう。朝っぱらから何の用ですかな?」
仕事に集中していて今まで気が付かなかった的な態度で挨拶するウルフ君。嫌がらせだな。

「実は閣下に折り入ってお願いがあるのですが……」
「女なら斡旋しないよ。我が国のメイド等は娼婦ではないのだからね……貴国と違って」
あの噂は本当の事みたいだな……ユニさんを見た連中が、部屋に寄こせと要求した事は。

「い、いいえ……本日は違います! もっと深刻なお願いであります!!」
「深刻な願い? 王妃陛下に惚れたから取り成せとか言うのかい?」
あの噂も本当か……ビアンカ様をメイドと勘違いして口説いたって事も!

「い、いいえその様な事ではなく……今一度あの商人と面会させて戴きたいのです!」
「はぁ? あの奴隷商人と面会したい!? 何故?」
奴隷商人って、あの地下牢にずっと閉じ込めてる男の事かな? 今一度って事は昨日も面会したんだ!

「実は私とあの商人は旧知の友でして……グランバニアの皆様方には奴隷商人と旧友である事なんか嫌悪の対象でしょうけども、それでも私には大切な友であります! 今回の外遊を終え本国に帰ってしまえば、もう二度と会う事は叶いますまい。昨日はギルバート殿下が一緒に居りました故、親しい間柄である事は言えませんでしたが、何卒最後の別れをさせて戴きたく、こうしてお願いに参りました」

「そうですか……貴方とあの男は旧友ですか。それはあれだけの再会で別れるのは忍びないですね。分かりました面会を許可します。ですが誰かを立ち会わせますよ、よろしいですよね?」
え……そんなに簡単に許可しちゃうの? いくら古いお友達に会いたいからって……

「是非もない! 誰かが立ち会うなんて当然の配慮」
「面会は今すぐの方が良いのかな?」
「出来ます事ならば……」
「解りました。おいレクルト……お前立ち会え。でも旧知の友が最後の別れを惜しむんだし、それの邪魔をするなよ」

邪魔はしないよ。
でも立ち会いもしたくないよ。
何か昨日からツイてないな……タイミングが悪いのかな?

「あの、それと……ギルバート殿下には内密でお願いします。殿下はあの商人に良い印象を持ってませんし、私も嫌われておりますから……」
「はははっ、そうだね。あの奴隷商人の所為でリュリュさんとの結婚を阻害されたと言っても良いだろうし、貴方も昨日弾けすぎましたね(笑)」

う~ん……『弾けすぎた』って事は、昨日のユニさん斡旋依頼やビアンカ様ナンパ事件は全部コイツの仕業か?
良いのか……こんな男を囚人と会わせちゃっても?

これはシッカリと立ち会いを遂行しないとならないな。
終わったら不審な点があったかどうかをウルフ君に報告しないとね……陛下にも報告した方が良いよね。

レクルトSIDE END



 
 

 
後書き
何奴も此奴も悪いこと企んでます。
一体、誰が一番悪いこと企んでるのだろうか? 
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