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エンジェルクライ

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第五章

 砲弾は上にあがりそこから落下する。そのうえで。 
 敵の陣地を破壊する。トーチカ達が吹き飛ばされる。
 そしてそこにだ。さらに攻撃が加えられ。
 またトーチカ達が吹き飛ばされる。それが繰り返されるのを見てだ。
 列車砲についている兵士達は喝采をあげる。彼等は飛び上がらんばかりに喜んで叫ぶ。
「よし、やったぞ!」
「敵のトーチカが吹き飛んでいくぞ!」
「ざま見ろイワンの奴等!」
「この列車砲は無敵だ!」
「よし、どんどん撃て」
 ハイネセンもだ。自分が指揮する列車砲に吹き飛ばされる敵の陣地を見ながら指示を出した。
「この調子で敵の陣地を吹き飛ばすぞ」
「はい、作戦は順調ですね」
「敵の陣地は順調に破壊されていますね」
「我々の受け持つ陣地は普通の砲撃では破壊できない」
 だからだ。彼等の列車砲が動員されたというのだ。
「撃ちそのうえでだ」
「敵の陣地を破壊してそのうえで」
「要塞を攻略しましょう」
「列車砲の威力を見せてやれ」
 また一発当たった。ハイネセンはその砲弾と吹き飛ばされ粉々になるトーチカ陣地を見て言う。
「いいな、セバストポリもだ」
「攻略できます」
「この列車砲があれば」
 幕僚達も自信に満ちた声で応える。こうしてだった。
 列車砲の砲撃によりソ連軍の要塞陣地は壊滅した。要塞攻略には他の重砲も動員されていた。そしてその砲撃によりだった。
 セバストポリ要塞は破壊されドイツ軍に攻略された。その攻略された要塞を見て。
 ヘッケンは誇らしげに笑い兵士達に言った。
「やったな」
「ええ、見事攻略できましたね」
「俺達の列車砲のお陰ですね」
「この列車砲あってですね」
「列車砲以上の兵器はないからな」
 ヘッケンは列車砲部隊にいるその自負から兵士達に言った。
「だからな。これもな」
「ええ、当然のことですね」
「この結果も」
「さて、次の戦場でもこの巨砲の威力を見せてやるか」
 ヘッケンは己の横にあるその巨大な砲を見た。列車の上にあるそれは桁外れに大きい。
 そしてその砲撃のことを思い出してだ。それで言うのだった。
「いいな、イワンの奴等にもジョンブルにも見せてやれ」
「ええ、そうしましょう」
「是非共」
 兵士達も確かな笑みで述べた。彼等は列車砲こそが最強だと思っていた。
 これがこの戦争の時の話だ。それから時は流れ。
 ドイツが東西に別れてからまた一つになった。そのドイツにおいてだ。
 ヘッケン、あの戦争を生き残り東ドイツにいた彼は軍の基地に赴き西ドイツのものだった兵器、その膨大な数のミサイルやロケットランチャー達を見てだ。こう言うのだった。
「凄いな、これは」
「あれっ、どうしました御老人」
「何かありますか?」
「いや、わしはあの戦争の時は列車砲部隊にいたんだよ」
 あの頃と比べると皺だらけになった顔でだ。彼は西ドイツ軍から統一ドイツ軍に所属が変わった兵士達に話したのである。
「その頃は列車砲こそが一番だと思っていたんだがな」
「それがですか」
「変わったというんですね」
「これだけのミサイルやロケットがあればもう列車砲なぞいらない」
 運搬にも組み立てにも攻撃準備にも多大な時間と労力がかかり尚且つだ。
 線路上でしか使えない列車砲と比べてミサイルやロケットランチャーはというのだ。
「時代は変わったな。列車砲もあの戦争が最後だったからな」
「まあ今は使いませんね」
「統一ドイツ軍にもないですよ」
「そうだな。本当に時代は変わった」
 ヘッケンは遠い目になって述べた。
「もう列車砲はいらない。一両もな」
 こう言うのだった。彼は寂しさを感じながら言った。ミサイルもロケットもかなりある。そして砲も。しかしそこに列車砲はおろか巨砲は一つもなかった。彼はその今のドイツ軍、再び一つになったドイツ軍を見てこう言ったのである。


エンジェルクライ   完


                         2012・5・27 
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