ユキアンのネタ倉庫
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ダンジョンで死にかけるのは間違っていない
拝啓、天国のおじいちゃんへ。ダンジョンに出会いを求めるのは間違いではないと、はっきり分かりました。今、僕の目の前に女神と見間違うほど美しい人がいます。まあ、女神であると同時に死神でもあるんですけどね。お互いの立ち位置が悪く、ミノタウルスの影に居た所為で僕の拳がミノタウルスの頭部を吹き飛ばし、その直後に反対側にいた美しい人が僕に気付いて慌てて停まろうとしたみたいですけど、時既に遅し。少しでもダメージを減らそうと腕でガードしたけど、腹部まで貫通しちゃいました。その後、壁に叩きつけられて全身がぼろぼろになったのが分かる。うわあ、スキルを使ってたのにこれか。これが高レベル冒険者の実力なのかなと思いつつ、意識が薄れてきた。おかしいな、これだけ血が流れてるんだから身体は軽くなっているはずなのに。身体が酷く重いや。それに血がこんなにも温かいのに、寒いや。
「って、死んでたまるか!!」
おじいちゃんの元へ手紙と一緒に行こうとした所で出会いだけでどうするよと我に返り、手紙だけを投げ渡したところまでは覚えてるって、本気で死にかけてたのか。危ないにも程がある。やっぱりあのスキルは諸刃過ぎる。
「あっ、目が覚めた?」
寝かされていたベッドの隣の椅子に褐色の肌の女の子が座っていた。
「えっと、すみません。記憶が曖昧で、僕はどうしたんですか?」
「私もあまり詳しくないんだけど、どこまで覚えてる?」
「確か、いつもどおりにダンジョンに潜っていて、何故かミノタウルスと遭遇して、ええっと、スキルを発動して殴りかかったところまでは。もしかしてミノタウルスにやられたんでしょうか?だとしたら、助けていただいてありがとうございます」
「いや、ええっと、最後だけちょっと違うかな?私が聞いたところだと、君はミノタウルスを一撃で殴り殺したみたいなんだけど、その、ちょうど反対側からアイズが、ああ、ウチの団員なんだけど、君に気付かないままミノタウルスに突っ込んで、ミノタウルスごと君を吹き飛ばしちゃったんだって。そのミノタウルス自体も私達の不手際で上層まで上がって、君の心臓も1回止まっちゃって、本当にごめんね」
「……死んだおじいちゃんの所に手紙を持っていこうとしてたのは間違いじゃなかったんだ」
夢じゃなかったんだな。
「本当にごめんね。装備も全部壊れちゃってみたいで。弁償もするから」
「大丈夫ですよ。全部安物ですから。治療していただいただけでも十分過ぎますから」
「そういう訳にはいかないから。安物だって言っても君のレベル内の話でしょ?ランクを下げた装備だと死んじゃうよ」
「ああ、いえ、僕レベル1ですし、つい2週間前から冒険者を始めたんで本当に安物の装備です」
「えっ、レベル1!?それでアイズの攻撃食らって原型留めてるの!?」
「たぶん、というか確実にスキルのおかげです。でも、死にかけた原因もスキルが原因だと思います」
「それってどういうこと?」
「ええっと、確か僕のズボンのポケットに昨日更新した分のステイタスが書かれた紙があるはずなので、それを見てもらえれば」
「君のズボンね。ちょっと待ってて。着ていた服もボロボロになっちゃって他の部屋に置いてるから」
そう言って褐色の女の子が部屋から飛び出していった。そう言えば名前を聞き忘れてるや。そう思っていると、ドアがちょっとだけ開けられて、その隙間からあの時見た、女神のような死神のような人が部屋の中を覗いていた。
「えっと、さっきの人が言っていたアイズさん?」
話しかけてみると驚いたのかドアを思い切り閉めてしまい、ドアが粉々になる。そして余計に慌ててどうすれば良いのかとワタワタしている姿を見て、綺麗だと思っていたけど、案外かわいい人なんだと思っちゃっても仕方ないと思う。
「アイズたん、何しとるん?」
「えっと、あの、その」
廊下の向こうから他の人の声が聞こえてきた。しばらく待っているとアイズさんと一緒にさっきの声の人が入ってきた。赤毛で糸目の人だと思ったんですけど、この人、神様だ。
「おうおう、目え覚ましたんかいな。具合はどうや?」
軽く拳を握ったり開いたりしてから上体を起こして軽く体を動かしてみる。
「たぶん、問題ないです。あまり詳しい状況は聞いてないんですけど」
「どれ位聞いたん?」
「事故で死にかけた位ですね。あと、装備を弁償してくれるって。遠慮はしたんですけど」
「今回はウチが迷惑かけてもたさかい、気にせんと貰っとき。それで、ティオナはどないしたん?」
「えっと、褐色の肌の人ですか?」
「そうそう。説明はある程度受けたんやろ?」
「僕のレベルとかが信じられないらしくて、昨日更新してもらった時の写しの紙がズボンに入ってるから見て良いって言ったら何処かに走って行っちゃいましたよ」
「ええんか?自分のステイタスを簡単に見せてもて?」
「僕は気にしませんよ。おじいちゃんにも『人に隠して良いのは、女の人に対するやせ我慢と女の人の嘘に気付いている事とエロ本だけだ』って、教えられてきましたから」
「わっはっは、そりゃ豪快な爺さんやな。あんた、名前は?」
「ベル・クラネルです」
「ウチはロキや。ベルのことは気に入ったで」
「ロ~~キ~~~!!」
先程出ていった褐色の女の子、ロキ様が言うティオナさん?が慌てて部屋に戻ってきた。
「おお、どないしたんや?」
「こ、これ!!」
そう言ってロキ様に渡す血塗れの紙にはこう書いてあるはずだ。
ベル・クラネル
Lv.1
力:SS 1084
耐久:SSS 1162
器用:SS 1047
俊敏:SSS 1129
魔力:F 300
英雄:H
《魔法》
【】
【】
【】
《スキル》
【百人力】
・全能力100倍
・全副作用100倍
・制限時間5分
・再使用制限時間1時間
全ステイタスじゃなくて全能力って部分が味噌なんだ。
「はあ!?アビリティがSSSにレベル1で発展アビリティまで生えとる上に英雄って、それにスキルもなんじゃこりゃ!?」
「やっぱりおかしいことなんですか?」
「SSSは、まあ、アビリティで上限が上がるとかが有った気がするからええとしても、発展の英雄かいな。これ、200年ぶりやで。神が地上に降り立った頃はゴロゴロ居ったけど。しかも、Hってことは少なくとも2回は暴れとるんやろ。恩恵受ける前からも大分強かったんやろうな」
「それほどじゃないですよ。百人力は恩恵を受ける前から使えましたから。恩恵を受けてから性能が上がってますけど」
「はあぁ~、マジで天然物かい」
「ロキ、さっきからこっちは置いてきぼりなんですけど」
「聞いての通りや、神々が地上に降り立つ前の絶望の時代の微かな希望。神の恩恵無しにスキルや技を持って怪物と渡り合い人々を守りし者。それが英雄で、ベルはマジモンの英雄や。しかも、恩恵受ける前になんや偉業も達成しとるんやろ」
それを聞いてアイズさん?とティオナさん?が驚いている。
「神様も気になってましたけど、偉業なんて果たした覚えがないんですよね」
死にかけるのはいつものことだし、コボルトは主食だったし、ミノタウルスは腕一本の犠牲でごちそうだったし。ダンジョン産のモンスターって死体が残らないから生きたまま食べないといけないから面倒なんだよね。
「英雄の発展アビリティ持っとる奴は大概がレベル以上の力を持っとるさかいな。これとスキルがあったから原型残っとったんやろ。羨ましいスキルやわ」
「それほど使い勝手が良いってわけでもないですよ、ロキ様」
「なんでや?」
「副作用100倍。それって効果が切れた後に今までの負担が全部一気に押し寄せてくるんです」
「うん?どういうこっちゃ?」
「効果終了後に全身の筋肉が断裂なんていつものこと。お腹もめちゃくちゃ空きますし、基本動けない状況に晒されます。むしろ、使い終わってからが本番です」
「全身の筋肉が断裂してなんで動けるねん!?」
「慣れとしか言いようが。あと、痛覚とかの感覚も100倍です。毒とかの抵抗も100倍ですけど、抵抗を超えられると100倍効きます」
「び、微妙どころかマイナスやろ、それ」
「その分、アビリティの伸びが良いですから。でも、偉業ってどう達成すれば良いんでしょうね?」
「このステイタスからすると、ミノタウルスじゃあかんな。というか、一撃で頭を吹き飛ばしとるさかい駄目やろうな。他やと、ゴライアスやろうな。そこら辺どう思う?」
「パーティーだと、たぶん駄目だと思う。けど、単独だと厳しいと思う。何か、全く別の偉業じゃないと駄目な気がする」
ティオナさん?が頭をかしげながら答える。う~ん、中途半端だよね。
「そういや、ベルは何処のファミリアなんや?一応、詫びを入れとかなあかんからな」
「ヘスティア・ファミリアです」
「はぁ!?ドチビの所やて!?」
「ドチビ?」
「ベル、悪いこと言わんからウチの所に来たほうがええで。いや、来なかったらドチビもエライ目に合う可能性が高い。さっきも言うたけど、英雄の発展アビリティは200年ぶりや。それこそ色んな神がちょっかいを出してくるはずや。ウチかて、こうやって会って話して気に入ってへんかったら絶対にちょっかいかけとる。中には悪質な、それこそベル自身の命や周囲が危ない目に会うこともありえる。それを躊躇うようなファミリアに改宗した方がええ」
「う~ん、ありがたい申し出だとは思うのですが、遠慮させていただきます」
「……これは脅しでも何でもない。それやのに断るのはなんでや?」
「ロキ様、自分でも信じられていないことを相手に信じさせようとするのは難しいことです。たぶん、僕がロキ・ファミリアに改宗してもちょっかいを掛けてくる神様達やファミリアはいるはずです。多くの人にご迷惑をかける訳にはいきません。僕一人ならある程度の対応はできますし、オラリオで直接神様に襲いかかる人はまずいないでしょうから」
「ベル、それは甘いで。200年前は一人の英雄の取り合いで幾つかのファミリアが解散しとる。神が天界に返される事態が起きとる」
「……この話は何処まで行っても平行線ですね。僕は今の所改宗するつもりはありません」
「せやな、今のままじゃ平行線やな。とりあえず、ウチからちょっかいをかけるつもりはないけど、気いつけや。ほいじゃま、この話はここまで。もっかい聞くけど、体の調子は?」
「特に異常はないかと。百人力の副作用も全部治ってるみたいです」
「次は弁償の話やな。装備は何を使っとったん?」
「ギルドで最初に支給されたナイフと、それより刃渡りが少し長いナイフの二刀流です。防具はガントレットだけで、靴のつま先に保護と攻撃兼用で鉄板を仕込んでいたぐらいです。機動力優先ですね。バックパックは既製品を少し弄って、いつでもその場に落とせるようにはしてましたけど初心者向けの安いやつです」
「不幸中の幸いなんか、バックパックは中身毎ほぼ無事や。ポーションは割れてもとったけどな。と言うわけでアイズたん、武器庫からさっきベルが言っとったもんに近いの持ってきたって。ティオナは服やな。ベル、羞恥心って知っとるか?さっきからずっと裸なんやけど?」
「下、正確に言えば大事な所は隠れてるので。百人力を使うと服が耐えきれないのはよくあることなので、訓練の時なんかは上半身裸で短パンとかでしてますし」
僕自身は別に見られても問題ないしね。嫌われると困るけど。アイズさん?とティオナさん?が部屋から出ていく。今更恥ずかしくなったのだろうか?
「身体は細身やのに、えらいがっしりと筋肉が付いとってギャップがすごいな。恩恵だよりって訳でもないみたいやな」
「昔から鍛えてる分ですからね。おじいちゃんが言うには『いざという時に女を支えれるぐらいにはなっておけ』と。おじいちゃんは支えなきゃいけない女が多いから大変だって言ってました」
「女好きな爺さんやな。うん?ベル、その爺さん、歳はどれ位や?」
「70後半だったはずです。先日、亡くなってしまいましたけど」
「70後半。まさかな」
「どうかしました?」
「50年ほど前に痴情の縺れでオラリオから逃げ出した冒険者が居ってな。そりゃあ、もう浮名を流しまくっとった。店の売り子にギルド職員、自分の所属するファミリアの団員にそっちの方の店の娘、未亡人も彼氏持ちも、挙げ句の果てには神にまで手ぇ出して、オラリオ中の男と3割ぐらいの女を敵に回して、致命傷を負わせたんやけど、たぶん逃げられた男が居ったねん。ちなみにレベルは3やったはず。襲撃には6も混じっとったんやけど見事に逃げおおせたのか、どこかでくたばったかは分からへん。生きとったら80ぐらいやったはずや」
「レベル3なら別人ですね。おじいちゃん、自分は4だって言ってましたから」
「そっか。ちぇっ、ようやくあの賭けに決着が付くかと思ったのにな」
「賭けですか?」
「そや、オラリオの歴史の中でも一番の遊び人の色男、二つ名『心の怪盗』の生死。ああ、ルパンってのは天界でも知られとる昔の大怪盗の名前や。ちなみにこの二つ名はオラリオから姿が消えてから付けられたモンや。その前は、超遊び人3やったな。話題に事欠かへん奴やったさかい、忘れへんわ。半年程ダンジョンに潜った形跡がないのにレベルが上っとるねん。調べてみたら女遊びが偉業として認められたんやろって結論が出た。そん時に神に手を出したってのが分かったんや」
あっ、ヤバイ、おじいちゃんだ。酔っ払ってる時にそんな話が零れてた。神様に手を出したって。怪我をさせたとかじゃなくて女神にそっちの意味で手を出していたとは。話をそらさないと。
「偉業って、そんなことでも認められるんですね。他に変わった偉業ってありますか?」
「まあ、鍛冶系の魔剣を打てるようになったとか、特殊な薬を調合できるようになったとかやろうな。ベルはどっちも無理そうやけど」
「ですね。愚直に格上を倒すしか思いつかないです」
「死なん様に気いつけや」
「はい」
後書き
ベル・クラネル
別に転生者ではなく、おじいちゃんの影響で本来の道筋とは違う道を歩いている冒険者。オラリオに来る前から偉業と呼ばれるようなことを2回ほど達している。おじいちゃんの教えのもとに色々と偏った技術を持っているが、ちゃんとした教育を受けていないために世間知らず。世間知らずなだけでバカではない。スキルはオラリオに来る前から習得済み。ステータスを刻んだ際に能力がアップ、デメリットもアップ。オラリオに来てから死にかけた回数は2桁近い。意外と悪食。モンスターの生食も平気でやる。浮いたお金は女の子のために貯金。『出会いにはお金が必要なくても出会い続けるには必要なのだ』おじいちゃんの実感の篭ったお言葉を胸に刻んで今日も冒険者を続けていく。ちなみにまともな人間の血が8分の1しか入っていない。
おじいちゃん
転生者。全ての元凶。遊び人であると同時に女性を磨き上げる腕は世界一を自称している。どんな女性でも愛することが出来る。あのロキ相手でも。冒険者時代に声をかけた女性はオラリオにいる女性の9割強。別に性的に見ているわけではなく、女性を磨き上げることに全てを捧げたような男。夜を共にするのも全ては女性を内面も磨き上げるため。女好きでもあるので役得だとは思っている。本気で惚れたのはとある女神だけ。天寿を全うする。弟子として技術の全てはベルに叩き込むと同時に書物に残す。スキルや派生アビリティがなかろうと努力と根性とガッツと日本人の職人魂で色々な物を作っている。
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