STARDUST∮FLAMEHAZE
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第三部 ZODIAC CRUSADERS
CHAPTER#49
FAREWELL CAUSATIONⅨ~Abstinence Paradox~
【1】
「ああぁ!! ううぅ!! くああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
寂滅の戦場に響き渡る、幻想美少女の悲痛。
嗜虐に酔う倒錯者にはこの上ない感興を擽られる光景。
本来 “逆” の立場だったが形勢は完全に覆った。
この戦いが始まる前と今では(途中の経緯を鑑みても)
両者の総力差には歴然の披きが在る。
「無駄よ……やめなさい」
圧倒的優勢の立場に至った少女が、その勝利を当然として勧告を促す。
絶対的不利な戦況に陥った者が勝機を掴むには捨て身になるしかない。
だがその「過程」を潜ってきた少女だからこそ、言葉は尋常ならざる威風が籠った。
「そうで、ない事は、アナタが、一番、解ってるんじゃないですの?
なら、さっさと、その剣で串刺しにすれば如何?
そうできないから、私に拘束されるしかないのでしょう?
くっ! ああぁ!!」
「……」
その気になれば、甲冑の肘撃でいつでも引き剥がす事が出来る。
だがこの少女は倒され瀟洒なドレスを泥塗れにされても
同じ事を繰り返すだろう。
白一色の双眸で昏倒しているソラトが復活するまで、
その機に合わせるため必要以上に自分を抱え込んでいるように見える。
だが――
「 “ソレが” 無駄だって言ってるの」
無明の双眸を閉じ少女は静かに告げる、
相手も解っているのかもしれないと感じながら。
「 “アイツは帰ってきたのよ”
その意味は解るでしょ?
おまえ達の『切り札』を潰すと言ったアイツが帰ってきた。
逆を言えば、全部潰さない限り、アイツは帰ってこないのよ」
「――ッ!」
可能性の一つとしては考えられたコト、
しかし自身達の優位により盲点となっていた、
その事実は炎熱に灼かれる少女にも束の間寒気を覚えさせた。
その思いを払拭するように都市の俯瞰から、
4つの光柱が立ち上り重傷を負ったソラトに集束していく。
「フ、フフ……! 言わないコトじゃありませんわッ!
やはりあの男は役目を途中で諦め助勢を乞いに来た。
片腕を犠牲にしても破壊出来たのはピニオン一つだけのようですわねッ!」
裏返しの裏返し、半ば虚勢にも近かったが明確なる結果を前に勝ち誇るティリエル、
しかし再び像を生む獅子を一瞥すらせずシャナは告げる。
「私に嘘つかないのよ。アイツは、絶対に」
ドゥンンンンンンンッッッッッッッ!!!!!!!
宣告を起爆剤とするように再度俯瞰、
4つの光柱がゼロコンマ一秒のタイムラグもなく、
瑠璃色に煌めく爆滅と共に吹き飛んだ。
その光景は今戦場に生きる者、
各々の死闘を征した者達を鮮やかに照らし出した、
勝利の篝火、終戦の表象そのものだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!
「……」
終焉の光、その交叉点に幻霊と共に立つ少女。
民族衣装の裾を戦風に流し瞳には確固たる意志を込め
与えられた役目を完遂した事を実感する。
スタンド能力に拠る、ピニオン全樹一斉破壊。
ティリエルに警戒すらさせず始まった時には
“既に終わっている”
能力の特性を最大限に活かしきった秀逸の戦果。
スタンド使いとフレイムヘイズ、
紅世の徒の強者が一同に集結した一大総力戦。
この戦いに於ける最大の不確定要素が彼女、
吉田 一美の存在であった。
偶発的にスタンド能力に目醒めた為、
敵は無論味方にさえもノーマーク、
唯一ほぼ風説で存在を聞いていた者も
“スタンド使いは引かれ合う” という法則へ拠った過ぎない。
シャナや承太郎ではこうもスムーズにコトは運ばなかったであろう。
絶大なパワーもスピードも、裏を返せばそれだけ存在感があるというコト、
同時にティリエルほどの遣い手が起動最低限の容量で
ピニオンを展開するとは考えられない、
必ず2~3機は余裕を造る筈。
ピニオン破壊に向かった承太郎を追撃せず
ソラトと共闘していたのはコレが理由である。
最悪でも一機残っていれば(その精度は落ちるが)回復は行えたのだ、
防衛に主力を注ぐのは2機以上落とされた後でも十分間に合う、
しかもソレに加え――
だが少女は知らなかった、その防衛に任る2強、
紅世の徒の中でも屈指の強さを誇るシュドナイ、
果てはイルヤンカに至るまでジョースターの血統の男に倒されたコト。
そしてその影で、瞬間移動と時間差破壊、
反 応 迎 撃しか出来ないピニオンには
正に「天敵」と云って良い少女が動いていたコトを。
無論、承太郎に彼女の能力を知る術はない、
だがエリザベスが彼女を連れてきた事で
己の曾祖母を信用しその可能性に賭けた。
尊敬する者が彼女を信じるなら自分もそれを信じられる、
過程や経緯はどうでもイイ、
戦場なら能力を持っていれば立派な戦力、
後はどれだけ勇気と覚悟を搾り出せるか、
中途半端な気持ちで、いざとなれば誰かが助けてくれる等と
考えていなければそれでイイ。
そしてその期待に彼女は見事応えてみせた、
与えられた役目を彼女なりの思考と機転、精神で全うし
その認識はないが敵の牙城を撃ち砕いた、
コレが『スタンド使い』、吉田 一美の初陣だった。
「やれば……出来るんですね、私なんかでも。ねぇ、ライトちゃん」
躰にも心にも相当の傷を負ったが、
それでも懸命に役目をやり果した本体を
何よりも誇りに想うスタンドが背後から優しく翼で包み込む。
彼女はくすぐったがったが離しはしない、
この人は、何が何でも自分が護る。
無言だが意志を持つスタンド 『聖 光 の 運 命』の
全身から瑠璃色の光が煌めいた。
「そ、そんな……」
最早引き剥がす必要もなく炎の甲冑から外れた腕が、
焼け焦げたドレスと共に地に落ちた。
ありえない。
有り得ない、在り得ない、アリエナイ。
しかし結果は残酷に真実を映す、
シュドナイとイルヤンカが斃された、
そしておそらく他の者達も。
一体どうして? どのような方法で? アノ恐るべき二人を?
対抗する言葉は随時浮かんでくる、
だがティリエルの洗練された知性は即座にソレを否定する。
助勢が来ない、ピニオンが全て砕かれた、
浅薄な者なら前述の理由によりまだ楽観出来たのかもしれないが、
論理に重きを置く彼女には逆に働いた、抗おうにも躰が拒否した。
「もう、 “終わったのよ” 切り札は破壊され主力も殺がれた。
潔く負けを認めなさい。そうすれば――」
そうすれば?
自分は、一体何を言うつもりだ?
「再起不能にはなってもらうが、生命はまでは取らない」
そう告げようとしていたのか?
在り得ない。
フレイムヘイズの使命としては絶対に在り得ない。
存在を乱獲し世界のバランスを崩そうとする徒は問答無用で討滅、
相手の都合や言い分など知った事ではないし知りたいとも思わない。
その冷淡さが、非情さが、ドライな態度が気高さや誇りだと思っていた。
だって相手は人喰いの化け物なんだから。
なのにどうして? いつから自分はこんなに甘くなった?
敵に情けを掛けるほど……
否、違う。
少女は小首を振って迷いを振り解いた。
殺したくないんだ、懸命に生きている者は、
命がけで何か護ろうとしている者は、誰も。
アイツならそうするから、自分と同じ精神を持つ者を、
尊敬出来る部分が有る者を、問答無用で殺したりなんか決してしない。
それは戦場に於いて、生きる事に於いて、
途轍もなく甘い事なのかもしれない。
でも、アイツはそれに後悔しない、
何があろうと全部受け止め背負い前に進む。
その甘さが自分を変えた、ただ使命に殉ずるのみの、
“討滅の道具” から『人間』 に変えてくれた。
フレイムヘイズで在っても、そうでなくても、
“私は私だから”
掛け替えのない者達と共に歩き想いを分かち合っていく、
その事に強いも弱いもないから。
だから、コイツを殺せない。
立場と種族は違っても、大事な存在のために生命を賭けられる者だから。
逆の立場なら、アイツが倒されたなら、私だってそうするから。
“誰だって、愛されているのなら、生きていたいだろう”
――コレから記す事柄は、読み手であるアナタに判断して戴きたい。
一体誰の 『罪』 なのか?
形骸した使命との狭間で、止めを刺す事を躊躇ったシャナか?
スベテを犠牲にしてまでソラトを救おうとしたティリエルか?
彼女をソコまで追い込んでしまった空条 承太郎か?
或いは吉田 一美か?
結論から云おう “愛” は 『最悪』 の事態を引き起こした。
「――ッ!」
口中を軋らせたシャナにティリエルが坐したままで左腕を薙いだ。
炎弾は一発も飛んでこず代わりに 『正 義』 の霧が氷塵のように叩きつけられる、
しかし炎の甲冑には無意味、手甲の表面で弾き返される、
だがそのままティリエルは坐したまま跳躍、
波紋使い宛らの動きでソラトの背後まで飛び去った。
「し――ッ!」
装甲を纏っているが形骸と化している獅子の首に、
ティリエルは細く冷ややかな腕を絡める、
そして 『正 義』 解除、
再び発動するのはいつの日になるか、
もう永遠に目醒めるコトは無いかもしれない。
だがもう彼女にスタンドは必要ない、
これから起こる出来事に、事柄に、後悔はない。
「やめ――ッ!」
彼女に向けて手を伸ばしたのは果たして本当に戦略的な意味か?
甲殻越しに射出される紅蓮の炎弾、だが目標手前で山吹色の光に弾かれる、
狙ったのはティリエル、しかしソラトの躯が壁になって急所に当たらない、
斃すなら二人諸共に撃ち抜くべき、だが無駄、
“死に逝く者を殺すコト” に意味は無い。
クアァァァッッッッッッッ!!!!!!!
ティリエルの全身から迸った光、
ソレは破壊の恐怖ではなく生誕の畏怖を伴って発せられた。
一つの生命を優しく包み込む、慈愛に充ちた感覚、
選別された強者ではなく、何処にでも存在する、
しかし何よりも温かく強い光。
「さぁ、お兄様……お待たせ、致しました。
存分に、お受取りくださいませ」
そう、いつでも、覚悟していた事。
「ほんの……少しだけ……
予定通りでは、ありませんでしたけど……
これで、私たちの勝利……」
生まれた時から、存在した時から、
“最後の刻” はこうなると想っていた。
それが自分だから、その為に生まれてきたから。
だから、毎日は輝いていた、終焉を認識する事で、
無駄なものなど何一つないと実感出来たから。
少女の胸中を巡る幾つもの追想、
何故か最後に、アノ女のベッドに潜り込んで、
ソラトと共に眠っている自分が想い浮かんだ。
でも、辛いよ、怖いよ、寂しいよ、――さん
徐々に、虚ろになっていく少女の姿、最愛の者に注がれる存在
ずっと、傍にいるから、お兄様の中で私は生き続けるから、
だから、大丈夫だよね? 私、間違ってないよね?
スベテを託して逝き、ソレを受け継いだ者が、やがて大いなる未来を切り拓く。
悠久の時の中、連綿と紡がれてきた人の営み。
ソレは生まれた時から少女の裡に、『愛染他』 の名と共に。
特殊な 『能力』 ではない、技巧を極めた法儀でもない、
水が水で在るように、空が空で在るように、
ただ当たり前に存在していた少女の宿命。
ソレは恐るべき “魔物” を生み出す、最高の生け贄と成るであろう。
相乗効果で増大した波紋が何倍にも膨れ上がるように、
受け継がれた回転が次元の壁すら撃ち砕くように、
元々の殺戮能力を遥かに凌駕した力に加え
ティリエルの術式までも自在に遣えるようになった
最強の徒、ソラトの誕生を意味する。
ただ自分だけのモノと考えているなら、生命に価値は無い。
いずれは尽きる、いずれは終わる、その意味も解らないまま。
では何のために生きているのか? 何のために存在しているのか?
その解答の一端が、少女の存在を透して顕わになる。
“ソノ時に、抱きとめてくれる人がいますか?”
存在力の大半を注ぎ込み、
最早その姿も蜃気楼のように見え隠れする少女の生命が、
糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる躰が、鋼の爪に受け止められた。
『GU……GU……』
獅子は完全なる復活を遂げていた。
元より、外殻が砕けただけで内部のソラト本体に
致命的なダメージはイッていない、
回復に削がれない分より力は増強されるというべきであろう。
運も彼に味方した、強者は戦闘のみではなくあらゆる面で優れている。
「お、兄、さま……わた、しの……わたし、の……」
消え出ずる愛妹の手が、獅子の風貌を撫でた、逃れようのない死を前に。
少女は、安らかな表情を浮かべていた。
此処に至るまで、一体どれだけの覚悟が必要だっただろう。
どれほどの恐怖を乗り越えなければならなかっただろう。
一朝一夕、その場の状況で出来るコトではない。
死と定められた 『運命』 それを享受し
幾度幾度も終焉を追想しなければ到達出来ない領域。
正義も悪も無かった。ただ、尊いのだ。
絶望に屈する事無く、痛みを抱いて前に進む事が出来る者は。
人間だろうと、そうでなかろうと、
生命は、終わりと共に別れと共に、
未来へ紡がれていくものだから。
「い、く……ひさ、しく……すこ、や、か……に………………」
紅世の徒 “愛染他” ティリエル 消滅。
“そうなるはずだった”
或る 『運命』 に於いてはそうだった、しかし――
『……』
復活したソラトの全身から、相乗効果によって爆発的に増大した存在力が迸る。
生命の奔流、その激しさは大瀑布をも上回る烈度を伴って、
己に注がれ増大した力が『逆流』していく。
「――ッッ!!」
余りの衝撃に声が出なかった、存在は復活したにも関わらず声帯が押し潰されたかの如く、
してはいけない事、在ってはならない事、アレほど、アレほど言ったのに――!
『ねぇ? お兄様……』
自分は、その存在のスベテを掛けて、貴方を護る。
でも貴方は、私を護ってはいけない、助けてもいけない。
自分の事を第一に、自分だけを大切に、
貴方自身の成長が、存在が、そのまま私の 『幸福』 なのだから。
貴方の為なら、何だって出来るのだから。
だから、 『約束』
私に何が在っても、絶対に――
『GUGO……GA……』
崩れ逝く獅子の存在は先刻の超激突とは較ぶべくもない、決定的な破滅を現していた。
しかしその荒ぶる風貌とは裏腹の、他の何にも代えられない温かさも内包していた。
今際の刻は合わせ鏡、己の片割れが行った事と寸分違わず同じだった。
虚ろに霞んでは映る、獅子の凄爪がティリエルの頬を撫ぜる。
最後にそっと、生まれてからずっとそうしてきたように。
透明な雫で歪む視界に浮かぶのは、『約束』を交わした時のソラトの姿。
彼は、無垢な満面の笑顔で自分に頷いた。
解ってくれていると想っていた、解っていなかった。
兄ではなく “自分自身が”
「ち、近づけないッ! 一体何が、起こってるの!?
一度途轍もなく増大した存在力が一端終息した後、
また更に爆発的に膨れ上がってる!?」
眼前で目醒めつつある存在に少女は影を縫いとめられたかの如く微動だに出来なかった。
ソレが明確な脅威を伴っていれば幾分かの行動は可能だったかもしれない、
しかし感じるのは怖れではなく畏れ。
圧倒的な力で叩き潰すのではなく、
視る者を否応なく平伏させる、触れる事すら躊躇わせる気配。
それを穢す者は、人倫の禁忌に抵触するのみならず戦いの是非すらも喪い、
未来永劫鬼畜にも劣る烙印をその躰に刻まれる。
それほどに、それほどまでに、今目の前で展開される光景は神聖だった。
絶望の闇の中でも輝ける、美しいモノ。
誰にも障れない、この世で ふたりだけのものだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッッ!!!!!
一抹、スベテを染める光が弾けた後、ふたりはそこにいた。
もう二度と、還る事はない、故に離れる事も決してない、
永遠の絆がそこに在った。
『Gu……Ga…………luuu………………』
アノ雄々しき姿が見る影もない、数百年の時の流れが一瞬で過ぎたような、
朽ちた躯で獅子は彼女に抱かれていた。
「お兄様……アレほど……申しましたのに……」
押してはいけない、入ってはいけない、潜り込んではいけない。
幾つも甦る追想。
「アレほど……申しましたのに……!」
いつもいつも、勝手な事ばかり。
冷たい、この躯から感じるのは、 “抜け殻”
存在の消滅、生命の消滅、なのに、どうしてこんなにも――!
紅世の徒、 “愛染自” ソラト。
『欲望の嗅覚』 の名が示す通り、ただ己の恣に行動する、ソレが彼の存在だった。
そして、その欲望には限りがない、充たされるというコトは決してない、
望めばもっと渇き、渇けばもっと望む、弱者の煩悶に同じく、
囚われれば己も相手も諸共に崩れていくモノ。
だから彼女が傍にいた。
意味なく生まれてくる者など、滅ぶために存在する者など、
何一つとしてこの世にないのだから。
尽きる事のない欲望ですらも、ソレは優しくスベテを包み込む、
無から有が生まれるように、存在しない者にも伝わっていく。
本来の 『運命』 を変えたもの、茫漠たる時の流れに飛沫を落としたもの、
それは、彼女の純粋な想いで在った。
紅世の徒、ソラトが最初から、最後まで望んだものは、
温かい 『彼女の笑顔』 だったのだ。
紅世の徒 “愛染自” ソラト 完全消滅。
迷い子の足音、消えた。
でもこれで、ずっと一緒。
永遠に離れる事はない。
架かる虹の向こう。
もう二度と触れ合えなくても、あの日のように笑えなくても。
それでも、 『運命』 は、他に誰もいない場所へ、二人だけの場所へ。
双命を運んだ。
“愛して得るのは最上であり、喪うのはその次に善い”
真実の想いだけが紡ぎ出す、本来両立し得ない概念。
贖いようのない究極の絶望の中、彼女は 『幸福』 だった。
苦しみ救われぬ永劫の虚無の中、確かに彼女は 『幸福』 だったのだ。
「誇り高き紅世の徒 “愛染他” ティリエルッッ!!」
掻き抱いた腕に何も遺らぬ少女の背後から、
鳳鎧を纏った少女が大刀を揮り挙げる。
相手を称賛する喊声、尊敬と共に撃ち落とす斬刀、
悪を斃すという心情では躰が動かなかった、
「御命頂戴!!」
自分も同じ立場だったなら、そう共感せねば神聖な気配を討ち破れなかった。
「御免!!」
自分こそが 『悪』 なのかもしれない、愛する者を引き裂くという行為は、
喩えどんな理由が在っても正当化出来ない、もう二度と取り返しはつかない。
自分が一番されたくない事をしようとしている、
ソレを「使命」という言葉で誤魔化そうとしている、
でも、それでも――!
“私はアイツと居たい!! 生きていたいッッ!!”
断崖に向かう殉教者、その哀切にも似たりか、
少女の精神にはそのスベテを背負う 『覚悟』 が在った。
『覚悟』 は絶望を吹き飛ばす、同時に感応した相手の絶望も吹き飛ばす、
もうこれ以上苦しまないように、見つからない欠片を探し彷徨わないように、
白く染まった状態のまま逝かせてあげる!
グアァッッッッ!!!!
無防備状態の少女の背から迸った未曽有の存在力。
神鳥の化身足る少女の鎧が砂細工のように砕け散る。
小規模ながら時の加速の究極点、宇宙の終焉にも等しく
無限大の相乗光波が彼女の躰から放出された。
完成、 『夜明け』 だ。
幾千の星を越え、幾万の闇を超え、
現代、否、歴代屈指の “徒”
『愛染双真』 ティリエル此処に誕生。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
漆黒。
開いた胸元と袖の無い薄地のドレス。
その縁はフリルで覆われ繫ぐ肩紐はリボンで結ばれ、
風に靡くスカートにはロザリオの墓標、
削り取られた墓碑銘に絡みつく薔薇と舞い散る花片の刺繍が施されている。
“GOTH”
死と頽廃、正にソレを象徴する、否、表象する哀しきほどに鮮やかなその色彩。
その爪の装飾までも同属のものへと変わっている。
もう彼女には、必要ないモノだから。
もう二度と、彼女が笑う事はないのだから。
永遠の喪に服する、永劫に彷徨い続ける、
無数に有る平行世界にも存在し得ない、
己の片割れを渇望したまま。
ズオォッッッッッッッッッ!!!!!!!!!
【暗 黒 大 樹】
戦いの当初、少女が具現化したものなど源 型の若木としか云えないほどの
途轍もない存在の巨塊が召喚された。
大きさならオルゴンの切り札、威圧感ならイルヤンカの奥義、
そして禍々しさならシュドナイの大業を上回る
余りにも想像を激した超弩級の顕現だった。
最早 “樹” 等と呼べる存在に非ず、
枝は拷問器具のように鳥も止まれぬほどに隈なく尖り、
葉は一枚の例外もなく眼と牙をビッシリ携えゲラゲラと狂った諧調を奏でる。
そしてその幹、呪われた淫肉の裂け目が如き黒瘤の中心は、
現世と暗黒の境界を想わせる虚無の空間が
神経を剥ずる感覚を発し蜷局を巻いている。
唯一例外的に延びた蔓に立つ少女の姿とは完全対極の惨絶。
「お兄サマ……何処……?」
無明よりも更に冥い、永劫虚無の双眸を成した少女の口唇から言葉が零れた。
その瞳には、もう何も映らない。
喜びも、悲しみも、何もかも。
もう何も、映さなくて、すむ。
←TO BE CONTINUED……
後書き
はいどうもこんにちは。
「原作と違うじゃあねーか!」という声が聞こえてきそうですが知りません。
もう片方の原作面白いと想ったコトが無いので。
(主人公がスベテを象徴してるんだよネ・・・・('A`)
何もかもが「中途半端」だっていう)
しかしまぁ解っていても好きなキャラが○ぬというのは辛いモノで・・・・
荒木先生が吉良吉影の最後を描いた時は涙が流れたというのは前に書きましたが、
ワタシは毎度○泣しながら描いてますw(マリアンヌの時もルルゥの時も)
まぁ原作の方はリ○カーン刑○みたいに中々死なないので
「はよ○ね!」とか想ってましたが(ソラトが最後までド○○だし)
つ ttps://www.youtube.com/watch?v=ct3GhVM3Zks
まぁベタだろうがありがちだろうがワタシはこういうストーリーやキャラの方が
好きなんですよね基本的に。
逆に変にカッコつけて高尚ぶってその結果として作品がつまらなくなってれば
本末転倒だと想いますし(プレ○トで酷評される俳句に近いものがある)
そもそも他人と違ったものを描こう、今までにないストーリー展開にしよう、
という発想自体が「凡庸」そのものなので、自意識だけ無駄に異常肥大した
厨二病と大差ないのです。
一番大事なのは「面白い作品を描こう」という作家の意志であり、
その結果として今までと変わってしまうのは仕方ありませんが、
最初から奇抜さや斬新さだけを狙って描いたら
「基本」が疎かになってしまうので
そんな作品がツマラナイのは当たり前なんです。
逆に言わせてもらうと「単純」で何が悪い? という話で
ジョジョのストーリー展開など荒木先生の前衛的な絵柄を除けば
どの部もベタ中のベタですよ。
でも「単純」だからこそ我々読者はすんなり作品の世界観に入っていけるのであり、
キャラに感情移入や共感が生まれてそれが「感動」に繫がっていくワケです。
荒木先生ほどの天才ならもっと複雑なストーリーに出来るにも関わらず
敢えて「読者と作品のため」解り易く描いているのであり、
その「解り易く描く」というコトが
一番難しく物凄い技術と努力と才能が要るわけです。
だからジョジョの「復讐者」(ポルナレフやエルメェスの兄貴等)には
心の底から感情移入が出来て敵討ちが成功して欲しい、
そしてそれが終わったら平穏に生きて欲しいという気持ちが生まれるのであり、
逆にシャナのマージョリー等は
「ただの自己満じゃん、勝手にやってくれよ・・・('A`)」
となってしまうのは無理にヒネった形にしようとして
失敗した典型例と言えるでしょう。
(だからこの作品では「復讐の理由」そのものを変えました)
まぁ少し言い足りない感はありますが字数が限られているので
この辺失礼させて戴きます。
ソレでは。ノシ
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