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Three Roses

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第三十五話 臨終の床でその六

「違います」
「どういったお気持ちですか」
「ありのままです」
 マリー達の顔を見ての言葉だった。
「私は貴女達に会えます」
「今の様に」
「そして言えます、私は貴女達が怖かったのです」
 またこの言葉を言うのだった。
「私と違う貴女達が、そして」
「私達に歩み寄って拒まれることが」
「そうなるのではないかと思って」
 幼い頃からだというのだ。
「貴女達を拒んでいました、そして薔薇も」
「お姉様も薔薇を持っておられますが」
「黒薔薇ですね」
「その薔薇は」
「嫌いでした」
 またこう言うのだった。
「何故私だけ華やかでない色の薔薇なのかと」
「黒だから」
「そう思っていました」
「そうだったのですか」
「ずっと。貴女達特にマリー」
 妹を見て言うのだった。
「貴女に劣っている、違うと思い」
「それは」
「私の思い込みでした」
 それに過ぎなかったとだ、マイラはこのことも言った。
「貴女はわかっていましたね」
「お姉様はお姉様です」
 これがマリーの返事だった。
「それ以外の何でしょうか」
「母親が違い信仰が違っても」
「はい、そうしたことではなく」
「絆ですね」
「それがありましたから、それにお姉様は立派な方です」
 こうもだ、マリーは姉に言った。
「非常に」
「そう思っているのですね」
「常に書を読まれ確かな信仰を持たれている」
「私が」
「常にご自身を厳しく律しておられる素晴らしい方です」
「そうですか」
「立派な方とです」
 まさにというのだ。
「思っていました」
「そうですか」
「はい、非常に」
「私は。側室の子であり旧教徒であるので」
 王家の中にいても異端である、マリー達とは違うと心の底から思い血で劣っていると考え信仰の違いに異質なものを感じてだったのだ。
「そのことからでした」
「書と信仰にですか」
「生きてきました、そういったものに逃れていました」
「私達からも」
「貴女達の笑顔が嫌でした」
 こうも言った。
「言葉も。聞くことも」
「だからですか」
「一人でいました、しかし」
「そのことは」
「間違いでした」
 そうだったということをだ、マイラは今わかった。それが言葉に出ていた。
「私は恐れ過ぎていました」
「これまで」
「私の一生は、ですが」
「今はですね」
「その恐れがありません」
 死の床でだ、そうなったというのだ。
「不思議と心が澄んで落ち着いています」
「お顔にもそれが」
「出ていますか」
「はい」
 マリーは姉に答えた。 
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