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剣の世界で拳を振るう

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不審な新参者

シノンとのレベリングから数日開けて。
俺は性懲りもなくホロウエリアの更新指令を黙々とこなしていた。
未だにOSSまでは遠いが、新しいエリアがあることに気づいたのは良かったと思う。
中にはフィリアと一緒にやらなければならないこともあったが、クリアしたときの達成感はなんとも言えない充実感があった。
解放されたエリアでも一番のお気に入りは浜辺である。
森エリアのような薄暗さは無く、明るく拓けた場所で、心を洗ってくれるような開放的なエリアだ。

「これで、止め!」

そんな浜辺にいる《イルファング・ザ・コボルトロード》に似た黄金のコボルトロードは、絶好の狩り目的になっている。
経験値はおおいし、ドロップする武器も使わないけど高価なものだ。今度エギルにあげようとおもう。
因みに指令をこなす対象をこいつで消化している。

「…よし。後3項目」

指令クリアの表示を確認して、自動転移で管理区へ戻る。
これがここ数日の俺の日課だった。










「は?攻略組に入りたい?」
「うん。昨日使いの人が来てね?確かギルド名は…ティターニア?」

ある日の事、エギルの店でのんびり寛いでいたらアスナがやって来て話を始めた。
なんでも新しく攻略組を募集していた際に飛び付くようにして参加申請してきた集団がいたらしい。
聞いた限りの情報では、ギルドメンバー全員が攻略組に匹敵するステータスなんだとか。
オマケに名前がティターニア…ギャグか何かだろうか?

「まず可笑しいことが何点か。
一つ、今の今まで参加してこなかったのは何故なのか。
現在の攻略組に劣らない強さならば、何時からでも参加出来ていたはずだ。コミュニケーションが出来なかったと言えばそれまでなんだけど」
「うーん…タイミングを伺っていた、とか?」
「何のために?取り敢えず2つ目。
そんな高レベルのプレイヤーなら、アルゴから何かしらの情報があるはずだろ?それが集団となれば尚更だ。アルゴは何か言ってなかったのか?」
「ティターニアなんて名前のギルドは聞いたことがないって。
でも、もしかしたら知らないだけで前からあったりしたんじゃないの?」
「それもあるだろうけど、レベルを考えて最前線じゃなきゃおかしいだろ。もしも中層下層でレベリングしたのなら、そのレベリング場所を教えてほしいね。経験値の荒稼ぎなんて、たかが知れてるわけだから」

て言うか1レベル上がるたびに前のレベルの何倍かも稼がなきゃ行けないのに、非効率的にも程があるだろう。
どれだけレベリングが好きなのか…。

「んでもって3つ目。
ギルド名が気持ち悪い」
「関係無くない!?」
「じゃあ気色悪い」
「一緒!意味一緒だから!」
「いや、だってそいつら男だろ?まさか女性プレイヤーを崇めてるって訳でも無さそうだし…そんなんでティターニアとか…もう末期だろ」
「で、でも一応申請してくれたんだし…面接でもしようよ」

ほう、面接か。
それはなかなか面白そうだ。

「良いじゃないか、面接」
「本当?じゃあキリト君も誘って明日に面接ね!」

そう言って早足に去っていくアスナ。
ホントキリトスキーだな…別に良いけど。

「ティターニア…ね」

ティターニアと言えば夏の日の夜だったかの登場人物だったはずだ。
媚薬盛られた妖精が好きとかそんな類いの集りギルドか?
ともあれ今考えても仕方がないことか。

「一応、警戒だけはしておこうか」

何かめんどくさそうな予感がする。









「二人とも、そろそろ時間だよ」

翌日の集合場所。アークソフィアの噴水前にて、キリト、アスナ、俺の3人で件のリーダーを待っていた。

「そうだな、時間は……丁度、待ち合わせ時間だ」
「来たみたいだぜ」

見れば転移門の所に転移反応があった。転移してくる人数は一人、面談はアルベリヒとやら一人で行うとのことなので、人数は合ってる。そして、転移してきた人物の姿が顕になり、その人物もキリト達に気付いたのか爽やかな笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。

「初めまして、僕がギルド〝ティターニア〞のリーダーを務めてますアルベリヒと申します」

金髪の青年、豪華絢爛な純白に金の装飾を施した防具と見るからに高価で高性能そうな細剣を腰に差した彼がアルベリヒだった。
取り敢えず疑問が一つ。マジで現実にこんな顔の奴が居るのだろうか?
外国人と言われればまぁ分かるが、それでも整いすぎだろう。
まず最初に面談相手となるアスナが挨拶をし、次に補佐としてこの場に居るキリトが挨拶を終わらせる。

「いやぁ、高名な血盟騎士団の副団長様にお会いできるとは、光栄の極みです」

おい、キリトはどうした。

「いえ、それで彼がキリト君、わたしとよくパーティーを組んで攻略に貢献しているトッププレイヤーです」
「これはこれは!  噂に名高き黒の剣士様にまで面談していただけるとは、武者震いがしてきますな」

言い方が白々しい…。
と言うかこの人の声…何処かで聞いたような…。
一見、普通の好青年に見える。だけど何故だろうか…アルベリヒの爽やかな笑みも、穏やかそうな雰囲気も、何もかもに違和感を感じて映るのだ。

「まず、お聞きしたいのはティターニアの構成人数と、その中で攻略に参加可能な人数です」
「僕を入れて6人のギルドですが、全員参加可能ですよ。皆、攻略組でもトップクラスに引けを取らないレベルだと自負しております」

事実上の攻略組トップを目の前にして、随分と強気な発言だが、これくらいの気概が無ければ攻略組としてはやっていけないので、この辺りは合格なのかもしれない。
勿論、それがただの強がりではなく、純然たる事実であり、それだけの自信があるというのはアルベリヒの表情からも窺えた。

「もし仮に攻略に参加するとなると、6人構成なら他のギルド…風林火山、またはソロの方々とも組んで戦ってもらう事になりますが、その辺りは問題ありませんか?」
「ええ、同じ攻略を志す同志と共に戦うのですから、それについては問題ありませんよ」
態度、姿勢、全てが何一つ欠点の無い好青年、しかしそれ故に感じる違和感に、キリトやアスナも気付き始めたようだ。

「それじゃあ、最後だけど、俺達の誰かとアルベリヒさん、デュエルをしてもらえるか?」

キリトがそう言った。
まぁレベルが相応にあったとしても、実力がなければ足手まといにも成りかねないしな。
一応これも試験だし、やっても問題は無いはずだ。

「構いませんよ。ではそうですね…彼にお相手願えますか?」

そう言って俺を指すアルベリヒ。何故俺を指名した…?弱いとでも思われたか?いや、それはないだろう。

「じゃあ、デュエルは初撃決着モードで」
「おや、それで良いんですか?」
「…どういう意味だ?」
「いえいえ、最初の一撃で勝負がついてしまっては実力も見れないのではないか、と思った次第ですよ」

あー、まぁ一瞬で勝負が付きそうだよな。
二人を見れば俺と同じく遠い目をするように納得していた。

「では、半減決着モードにしましょう」
「意義なーし」
「こちらも問題ありません」

戦闘開始の定位置についた俺とアルベリヒ。
取り敢えず違和感がないように安物の剣を構える。
アルベリヒも同様に腰から豪華な装飾のされた…一目で高価な物と分かる細剣を抜いた。

「ふふん」
「おぅ…」

ヤバい。完全に確信に変わった。
こいつは素人だ…いや、正確には習い事の範疇、それも1日二日の付け焼き刃な構え…明らかにレベルに釣り合わない、目を当てるのが躊躇われる位のお粗末さだった。
流石にキリト達も分かっただろう。目を細めてアルベリヒの動向を探っている。

「デュエル、始め!」

アスナの号令と共にカウントがゼロになる。
それと同時にアルベリヒが飛び出して細剣を突き出した。

「っ」

早いな…下手したらキリトやアスナよりも早いかもしれない。
だが動きが教科書に忠実過ぎる。動きが単調だし、インターバルが入っていて調子が狂う。

「ふっ!せいっ!どうです、僕の実力は?流石の攻略組の方と言えど、防戦一方になってしまいますかな?」

いや、実力を確かめるって話だろうに…ムキになってんのか?
しかしお粗末だなぁ。外野の二人も戸惑ってるぜ?

「なぁアルベリヒさんやい。あんた…今が全力か?」
「なっ!  そ、それは僕が、弱いとでもいうつもりか!?」
「…(釣れた…)」

簡単な挑発に面白いくらいに引っ掛かるアルベリヒ。
今までは余裕の表情だった顔も、屈辱に塗れた歪んだ表情へと一変しており、剣筋も元々鈍かったのが更に鈍さを増してしまう。
小学生かよ…。

「い、いいだろう……僕が本当の戦いというものを教えてやる!」
「わぷっ」

 言うや否やアルベリヒがつま先を地面に深く抉りこませて思いっきり蹴り上げると砂埃のエフェクトが舞い、俺の顔面に砂塵がかかった。

「(砂かけとか…卑怯通り越して呆れるな)」

今更視界が奪われたことで動揺することもなく、アルベリヒがここぞとばかりに突き出した細剣を剣で反らした。

「くっ…運良く剣に当たったか」
「本当の戦いwww」
「~~~っ!」

顔を赤くしたアルベリヒ。
腰を低め、正に今から突進しますよと宣言する姿勢を取った。
突進するとしたらリニアーだろうか?でも一撃な上に初期ソードスキルの技を使うのはどうなんだろう?

「これが僕の最高の攻撃だ!でやぁああ!」
「なんでやねん」
「ごはぁっ!?」

ソードスキルを警戒していた。
確かに突進だったが、ソードスキルではなくただの刺突。つい細剣を弾いてぶん殴ってしまった。
そして表示されるウィナー表示。

「ば、ばかな…僕が負けるなんてありえない!  どこかおかしいんじゃないのか!?  このクソゲー!」

アホ臭い。
まさか自分の未熟さと実力不足をゲームの所為にしやがるとは…本当にこの男は2年もアインクラッドで生きてきたプレイヤーなのだろうか。

「アルベリヒさん、申し訳ないんですが、攻略組への参加は、もう少し見送りということで」

アスナがそう持ちかけるのも無理は無い。アルベリヒの実力はレベルやステータスこそキリトやアスナを上回るほどなのだろうが、その中身……アルベリヒ本人の戦闘経験がまるで無いのだ。
ただ素人が高レベルアバターを動かしているかのような違和感、ソードスキルの存在を知らないのではないかと言いたくなる自称最高の攻撃、何もかもが攻略組に通用するものではない。
正にアバターに振り回されているような感覚だ。

「能力的に、問題は無いかと思うのですが……」
「いや、あんたはまだ攻略というものを実際には知らないだろうけど、最前線というのはレベルやステータスが高いから通用するというものではないんだ。
それに伴うプレイヤー本人の経験も必要になってくる」

引き下がろうとしないアルベリヒだったが、キリトの言葉に反論しようにも出来ず、ただただ屈辱だという表情を浮かべ、直ぐに爽やかな笑みを浮かべてアスナの方を向いた。

「わかりました、ですが…きっとその内、僕の力が必要になる日が来ると思いますよ……では、これで」

来ない方に10000コル。
転移門で去っていくアルベリヒを見送った後、先程の戦闘について話し合う。


「どう思う?」
「う〜ん、とてもじゃないけど、あの腕で攻略組クラスのレベルになったなんて、思えない」
「そうだな。あの腕前は明らかに素人だ。
あんか腕前で攻略組クラスのレベルになるなんてまず不可能だろう。つまり…」
「あの男、何かあるな…」

それに、 彼の戦い方はまるで教科書でも読んだだけのような基本的な動き方、構え方で、戦術のせの字も無い。あまりにも戦いというものを知らなさ過ぎるのだ。
そんな奴が2年もアインクラッドで生きてきたとはとても思えなかった。

「取り敢えずアルゴに連絡して見ようぜ」
「ああ。アルベリヒについて探ってもらおう」 
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