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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第81話:文句の一つも言ってやりたい……事態は何も変わらないけど。

(グランバニア城・地下牢)
ギルバートSIDE

本来であれば罪人の捕らえられてる牢獄になんて行きたいとは思わないのだが、我が国との友好関係に好意的な宰相閣下の申し出を無碍に断る事も出来ず……それに文句を言ってやりたいという気持ちも多少はあるので、ウルフ宰相の申し出を率先して受け入れる態でグランバニア城地下にある牢獄へと赴いた。

一般的な罪人を収容する牢獄は、もっと大規模な物が別の場所に存在するらしいが、この地下牢は一般とは別の重度の政治犯や反逆者を収容する施設らしい。
ここの住人は殆ど存在せず、一番の古株がこれから面会しようとしてる我が国の奴隷商人らしい。(ウルフ宰相の話では、最近もう一人追加が出たそうだが……)

この地下牢を管理する警備兵に今回の訪問目的を説明するウルフ宰相を横目に、私もそうだが随行員の全員がジメジメとした雰囲気を想像して嫌悪感が顔に出てしまっている。
一緒に来てくれたティミー殿下ですら、我等と同じ様な顔をしてるのだから問題は無いだろう。

なお、こんな場所にご婦人を連れてくるべきではないとウルフ宰相が言い、リュリュは別行動になった。何でも一旦実家に帰って、家族に帰国挨拶をしてくるよう薦めたらしい。
先程もサラリとウルフ宰相がリュリュを口説いていたが、やはり彼も彼女を狙っているのだろうか?

「さぁ行きましょうか」
警備兵への説明も終わったらしく、遂に地下牢へと足を踏み入れる事になったのだが、思っていたより雰囲気の悪い場所ではなく、普通の地下と言った感じだ。
投獄している人数が少ないから、不衛生になる事がないのだろうか?

長い通路の左右に強固な鉄格子が張りめくらせてあり、各小部屋を仕切る壁は分厚いグランバニア鉱石で出来ている。
そんな牢屋の廊下を少し歩くと、ウルフ宰相の足が特定の独房へと向かって行く。
どうやらその場所に、我が国の奴隷商人が投獄されているらしい。

「で、殿下!!」
いざ牢屋の中を覗き込もうとした瞬間、目当ての独房の反対側の独房から、中年男性が突然話しかけてきた。ただ……殿下と言ってもティミー殿下の事らしい。

「え? ウィンチェスト……? 何で彼が牢屋に入れられてるの?」
「あぁそうか、ティミー殿下は知らないんですよね。コイツふざけた発明をして陛下を怒らせたんですよ。発明品とそこに至るまでの資料を封印しろと陛下に言われたのに、それに反発して……」

「黙れ、キサマが私を罠に嵌めたのだろう!」
「あらまぁ……まだそんな事を言うのかい? だってあの発明品はアンタの発明品であり、私の能力が介在した事は皆無なんだろ? でも罠に嵌められたと訴えるってことは、あの発明品は私の手柄と言う事で宜しいかなぁ?」

一体何があったのか解らないが、ウルフ宰相とウィンチェストと呼ばれる罪人との間に、何かしらの確執が存在するようだ。
しかし、これ程まで敵意を剥き出しにしてくるとは……

「あ、あの発明品は私の物だ! あの超絶兵器は私以外に作り出すことなど出来ん!!」
「超絶兵器!? ウ、ウルフ君……彼は何を言ってるんだい!?」
「ちっ、余計なことをベラベラと! ラリホー」

「うっ……」(バタッ)
「お騒がせして申し訳ありません。今はこんな奴のことより、元同胞との面会を優先しましょう」
何やらウルフ宰相に不都合な発言をした為か、ラリホーの魔法で囚人を眠らせてしまった。

ティミー殿下に対しても鋭い視線で何かを訴え、これ以上この話題を切り出すことが出来そうにない。
それにしても『超絶兵器』の言葉……
非常に気になる響きだ。

ウルフ宰相からは目当ての人物を紹介されて、その人物も何かを言ってきてるのだが、先程のことが頭から離れず、本来の目的に集中できない。
『超絶兵器』……一体何だというのだろうか?

ギルバートSIDE END



(グランバニア城下町:列車内)
レクルトSIDE

何だコノ居心地の悪さは……
何なんだコノ強烈な威圧感は……
何をミスった? 一体何が悪かった?

ウルフ君に言われパトリシアを厩舎に戻すと、自分の仕事場へと戻ったのだが、ピピン大臣が『今日は1日中、陛下等の仕事を手伝わされると思ってたから、何も用事がない。だから無理に仕事しなくても良いよ……もしかしたら再度ウルフ閣下からお呼びが掛かるかもしれないからね』と言われ、する事もなくカフェでコーヒーを飲んでいた。

するとそこに、お色直しをしてきたリュリュさんが現れたので、話しかけようと近付いたら、とっても驚くお供を連れておいででした。
お供というのはリュリュさんの友達モンスターである、アークデーモンとヘルバトラーだ。

何度かリュリュさんのお供でグランバニアへ来たことはある連中だし、リュリュさんに襲いかからなければ、こちらに危害を加えるような連中でないことも知ってるから、その点の心配はしてないのだけれども、見た目がアレなので兎も角コワイ!

どのくらいコワイかというと、美女に柔やかに話しかけて、そのまま笑顔が引き攣ってしまうくらいコワイ。もっと解りやすく言うと、あのリュリュさんから遠離りたくなるくらいコワイ。だって男がリュリュさんに近付くと、物凄く睨むんだもん……コワイよ。

国賓が来てる時に何でコワイ物を連れてきたのかを、やんわりとした言い方で飼い主さんに尋ねてみると、『ウルポンがね、『今晩はVIPの為の晩餐があるから、リュリュさんも一度帰って着替えてくると良い……家族に帰国の挨拶もしたいだろうしね』って言ってくれたから、お言葉に甘えてサンタローズに帰ったの』との事。

勿論サンタローズに帰ったって事は、このお供連中にも挨拶する訳だし、もう一度グランバニアへ出掛ける理由も話す訳ですよ。
リュリュさんの事だから悪気もなく『異国の王子様が来てて、私に気があるみたいだから一緒に食事するの♥』ってな感じのことを言うはずですよ。

そうなるとリュリュさん視点ではお友達モンスターで、本人等視点では姫の貞操を守るナイト気取りの強面共が、大切な大切な姫君のお相手候補を視察(と言う名の威嚇)するために、出張ってくる訳なのですよね。

これは間違いなくウルフ君の差し金に違いないと僕は踏んでるんだよね。
ホザックへ親善大使として外遊してたティミー殿下の補佐官として一緒に現地へ赴いていたのだから、晩餐に出席する為のドレス等は持ち合わせてあるはずなのに、ワザワザ家族への挨拶という口実を付け足して実家へ帰らせた宰相閣下の悪意をヒシヒシと感じてしまうのですよ。

先程城下で陛下の茶番を見たホザックの随行員連中が、ヒソヒソと陰口を叩いていたのをシッカリ聞いているウルフ君は、精神的な嫌がらせをしてやろうと画策したに違いないのです。
あぁ恐ろしい……あの一瞬で嫌がらせを思い付くなんて!

だが何が一番恐ろしいかというと……
この嫌がらせ劇に僕も巻き込まれてしまったことなのですぅ!!!
如何いうことかと言うとね……

『おいレクルト……ギルバート殿下等を環状列車に乗せて城下を見学させたいのだけど、俺もティミーさんも詳しくないから、お前が各名所を案内してやってくれ』と頼まれてしまったのですよ。

ええ勿論断りましたよ。
僕なんかより城下のことに詳しい人は沢山居るし、国賓を前に地元の蘊蓄を垂れるなんて烏滸がましいですから、断固として断りましたよ。

ですが特別手当を出してくれると言われたのですよ。
だけどウルフ君の事だから特別手当が姫様(彼が付き合ってるどちらか)の使用済みパンツとかって事も有り得るので、念押しで『現金だよね、それ?』と確認したら『当たり前だろ。国賓が帰国した後でボーナスとして5000(ゴールド)出すよ』と言ったのだ。

5000(ゴールド)ですよ!
断れますか? いいえ断れません!
何せ今の僕はお金が必要なのだから……

エウカリスちゃんが毎日のように可愛く同伴に誘ってくるんです。
勿論断ったりもしてますが、毎回は断れず週に2回ペースでキャバに行く嵌めになってるんです。辛いです……でもサビーネちゃんが可愛いんです。

そんな訳でウルフ君の口車に乗せられ、ホザックの王太子殿下等を列車に乗せて、車窓から見える範囲だけでも紹介してる訳なのです。
「おう若造。あのスタジアムは未だ完成してないのか?」

「外観は90%完成してるそうですが、内部はまだまだかかるそうです」
国賓の為のガイド役なのに、何故かアクデンさんが車窓から見える景色を指差し威圧的に質問してくるのです。
主賓等は外の景色も気になるが、この列車の乗り心地の方に気を取られてる様で、各所の目立った建物を見ても質問等をしてこない。静かなモンです。

因みに、この国の凄いところは……列車の一般客室内に国賓と思われる異国の方々が乗り込んでても、他の客らが全然気にしないと言う事なのです。
凄い国民性だと思います。

ですが、それもそのはず。
だってこの車両にはその他に、ティミー殿下も乗ってるし、奥様のアルル様とアミー様も一緒に乗られてるんです。
さらにリュリュ様もね……そう、リュリュ様もなのですよ!

お忘れの方に再度ご説明差し上げます。
リュリュ様は……アークデーモンのアクデンさんと、ヘルバトラーのバトラーさんを連れてきてるんです、サンタローズから!
つまり、この列車にも一緒に乗り込んでおり、広めの客室が手狭に感じる邪魔臭さを醸し出しております。

100歩(じゃ少ないけど)譲って国賓方に観光案内をするのは良い……それプラス、ティミー殿下等ロイヤルファミリーの名所巡りに付き合わされるのも納得できる。
でも何であの威圧的お邪魔虫に『若造』呼ばわりされて、ガイドさんを演じなきゃならないんだ?

「はぁ~……」
「ごめんなさいねレクルトさん。私達まで着いて来ちゃって……」
アクデンさんとバトラーさんのコワイ顔に溜息を吐くと、アミー様を抱いたアルル様が申し訳なさそうに謝罪してきた。

「何を仰いますアルル様! 鬱陶しいお邪魔虫が存在する中、アルル様とアミー様の存在だけが心のオアシスなんです。ご同行できて光栄の極みであります」
実は観光に出掛ける前に、ティミー殿下が久しぶりにご家族と会い、もう一瞬も離れたくなくなってしまった為、強引にアルル様とアミー様も参加させられてるのです。

そんな事を知ってる立場からすると“本当はリュリュ様と二人きりが良かったです”なんて口が裂けても言えるはずもなく、せめてあのデカ物が居なきゃ良いのになって思いを嫌味風味に撒き散らすことしか僕には出来ません。

「おい若造……鬱陶しいお邪魔虫とはワシ等の事か?」
「自覚してるのなら着いてこないでほしかったですよアクデンさん」
すんごい顔が近い……メッチャ威嚇してくる。

「お止め下さいアクデン殿。レクルトさんはこの状況にもめげず、懸命にガイド役を全うしてるのですよ。無闇に威嚇するのは無礼ではありませんか?」
「あ、いや……アルル様……ワシは威嚇など……」

「そのガタイで、その面を人間に近づければ、威嚇してる以外の何物でもないであろうアクデン。我等は魔族の中でも強面なのだから、その事実は把握しておくが良いぞ」
アルル様の優しい取り成しで、ヤクザなアクデンさんが離れてくれた。
そしてバトラーさんの言葉に、やっぱり強面なんだなと納得する。

「ごめんねレクルト君。私が連れてきちゃったから……」
「な、何を言うんだリュリュよ……我等が勝手に着いてきてしまっただけであろう。お前が謝ることではないぞ……なぁ若造!!」
お前も威嚇してくるのかバトラーよ……

「そ、そうですね。僕に謝る必要は皆無です……ですが国賓方には陳謝が必要だと思いますよ。だってこのデカイ2匹のせいで、皆様怖がってらっしゃいますからね」
あぁそうか……列車の乗り心地を堪能してるんじゃなくて、お邪魔虫が怖くて黙っているのか。

「ホ、ホザック王国の皆様には驚きの光景と思いますが、我が国ではモンスターとの共存は当たり前のこと……それ程脅えることはありません」
僕と同じく国賓方が大人しい本当の理由に気付いたティミー殿下が、慌てて雰囲気を取り繕ってるけど、手遅れ感がハンパない。

言ってやろうかな……
コレを仕組んだのは全部あの男だと。
そう我等が宰相閣下の所為であると。

言っちゃおうっかな?
でも特別ボーナスが取り消されたら嫌だし、黙っておこうかな?
う~ん……僕迷っちゃう。

レクルトSIDE END



 
 

 
後書き
次話、ラングストンの出番多め。
ファンの方には必見だね。 
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