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Three Roses

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第三十四話 三つの薔薇その四

 マリーは彼女の側近達を連れて礼拝堂に向かった、そうしてことが成ることを願った。
 太子も彼の側近達を連れて礼拝堂で祈った、だが彼はその祈祷の後で側近達に難しい顔で言った。
「妃の見舞いを毎日しているが」
「お妃様のご様子は」
「やはり」
「日に日にだ」 
 まさにだ、会う度にというのだ。
「衰えていっているな」
「やはりそうですか」
「そうなられていますか」
「まさに日に日に」
「そうなのですか」
「弱っていっている」
 そうだとだ、太子は苦い顔で述べた。
 そしてだ、自身の側近達にこうも言った。
「最初はそうでもなかった、しかし今は違う」
「お妃様へのお気持ちは」
「それは」
「不思議なものだ、政治による結び付きでもだ」 
 家と家同士、ひいてはロートリンゲン家の利益の為の婚姻であってもというのだ、
「それでもだ、何年も共にいると情が湧く」
「確かに。それは」
「常にいるとです」
「仕えている者にも情が出来ます」
「例え養子でもです」
「そうなりますから」
「そうだな、人は不思議なものだ」
 自分のその感情に戸惑いを覚えつつだ、太子はさらに言った。
「最初は何も感じなくともだ」
「常に共にいると」
「それで情が出て来ますね」
「血がつながらない相手でも」
「犬や猫でもです」
「ひいてはものにさえ」
「そうなりますね」
 側近達もそのことを感じ取って言う、彼等にしてもそうだからだ。
「だから太子もですか」
「お妃様に対して」
「そうなのですね」
「ましてや常に夜を共にしてきたのだ」
 それならばというのだ。
「ならば尚更だ」
「情がですか」
「移られていますか」
「そしてそれ故に」
「今は」
「悲しくも思っている」
 心からだ、太子はまた言った。
「あと僅かか、妃といられるのは」
「しかもですね」
「それはあと数日ですね」
「あと数日でお妃様とお別れになる」
「永遠に」
「そうだ、これもまた人の運命でありだ」
 そしてというのだ。
「ロートリンゲン家の様な家に生まれたならばだ」
「まずはその務めを果たすこと」
「それが第一ですね」
「お子を為すことが」
「まさにそれこそがだ」
 太子も強い声で答えた。
「務めだ、本来は情もだ」
「その感情もですね」
「不要ですね」
「お子を為すことが第一であり」
「それは不要なのですね」
「そう言っていいものだ、だが」
 それでもというのだ。
「そうともばかり言えない」
「実際のところは」
「そうなのですね」
「どうしても情が生まれてしまう」
「そしてその情故に」
「今の太子は」
「苦しい、だがこの苦しみも乗り越えてだ」
 そしてとだ、太子はその情を押し殺してこうも言った。 
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