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真田十勇士

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巻ノ七十八 打たれる手その八

 そしてだ、その中で鳥居に言ったのだった。
「その御主だからと思ってじゃ」
「ですな、では」
「宜しく頼むぞ」
「兵はどれだけでしょうか」
「千八百程置く」
 これだけの兵をというのだ。
「それで頼む」
「それではその分だけ」
「そういうことでな」 
 ここでだ、二人は水盃を交えさせた。そうして家康は翌朝城を出てだった。
 鳥居の見送りを受けてからだ、周りの者達に言った。
「あ奴の心、無駄にはせぬぞ」
「はい、何としても」
「そのことは」
 周りの者達も確かな顔で応えた。
「鳥居殿のお心確かに」
「受け取りました」
「ではな」
 こうしてだった、家康は伏見からさらに東に向かった。だが。
 彼と彼が率いる軍勢が近江の彦根を通り過ぎるとだ、不意にだった。
 大谷は石田の居城である佐和山の城に呼ばれた、彼は丁度家康の上杉征伐の軍勢に合流する為に兵を率いていたが。
 佐和山からの話を聞いてだ、すぐに言った。
「やはり来たか」
「はい、治部殿からです」92
 話を知らせた家臣が答えた。
「是非にとです」
「言ってきておるか」
「してどうされますか」
「行こう」
 大谷は家臣に即座に答えた。
「わしが行かねばな」
「このことはですか」
「収まらぬ」
 こう思ってのことだった。
「だからな」
「それでは」
「御主達は休んでおれ」
 家臣達にこうも言った。
「わしがあ奴と話をする間はな」
「さすれば」
「その様にな」
 家臣達に言ってだ、大谷は僅かな供だけを連れて佐和山の城に入った、そのうえで城で待っていた石田に言った。
「言いたいことはわかっておる」
「そうか」
「長い付き合いだ」
 このことからだ、大谷はわかると答えた。
「御主のことは大体わかるつもりだ」
「わしもじゃ、止めるな」
「うむ」
 大谷は石田に答えた。
「止めておけ」
「挙兵しても駄目というか」
「御主が前に出てはいかん」
「所詮わしは十九万石だしのう」
「内府殿は二百五十万石、相手にならぬ」
「それはわしもわかっておる」
 石田の返事は即座でかつ明快なものだった。
「それで宇喜多殿に声をかけてな」
「弥九郎にもじゃな」
 切支丹であり石田達とは幼い頃からの付き合いがある秀吉子飼いの者の一人だ。
「あ奴は虎之助と領地が隣同士でいがみ合っておる」
「そのこともあってわしについてくれた」
「そこから立花家もか」
「長宗我部家もな」
「しかも毛利家もか」
「安国寺殿にお話をしてじゃ」
 そしてとだ、石田は大谷に話した。
「毛利家自体がついてくれることになり金吾殿もな」
「あの御仁もか」
「何とか味方についてもらった」
「太閤様の縁戚の方だしのう」
「西国の多くの大名がついたか」
「鍋島家も上手くいった」
 九州で龍造寺家の家老であるが実質的に動かしているのはこの家なのだ、鍋島直茂のことである。
「どうじゃ」
「西国の多くを味方につけたうえでか」
「後は挙兵か、しかも」
 大谷は鋭い目になりさらに言った。
「上杉家もか」
「直江殿と手筈は整えた」
「左様か」
「だからじゃ、挙兵すれば内府を東西から挟み撃ちに出来る」
 上杉家討伐に向かったその家康をというのだ。 
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