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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第二十七話 すれ違い

outside

夜9時を過ぎたぐらいに、ティアナは部屋へ戻ってきた。

一応、アスカとの約束は守ってはいたのだ。

ドアを開けると、スバルが迎え入れてくれた。

「ティア!お帰り…って、どうしたの!?」

帰ってきたティアナがひどく落ち込んでいた顔をしていたので、スバルは驚いてた。

赤くなっている目を見て、スバルが動揺する。だが、ティアナは淡々としていた。

「別に……なんにも。お風呂入ってくる」

「う、うん…」

着替えを持って再び部屋を出るティアナ。

それを、心配そうに見送るスバル。

「ティア……」





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





アスカside

あまりにもイラついていたオレは、休憩室で缶コーヒーをあおっていた。

自分でも分かるくらい、不機嫌になってる。

この状態で部屋なんかに戻ったら、きっとエリオとキャロを怖がらせてしまうだろう。

……いや、あの二人なら、心配するか…なんだってこんな事に…

あー、クソ!腹が立つ!

分からず屋のティアナに、お節介のヴァイス陸曹に!

でも、一番腹を立ててるのはオレ自身にだ!感情的になってしまっている自分が情けない!

陸曹に言われるまでもねえ!このままじゃダメだってくらいわかってる。

……ダメダメ、落ち着け、オレ。

腹を立ててる場合じゃねえ…

なんでこうなった?原因は?

それは、今日の昼間の任務でティアナが誤射したからだ。

そこから少しおかしくなった。

いや、思えば今日は朝からティアナの様子はおかしかったような気がする。

何て言うか、妙に力が入っているような感じがした。

気合いが入ってると思ってたけど、少し違うな。

戦闘に入る前に、エリオの何気ない一言に過剰に反応していたし、戦闘になってからは、変に焦っていたようだ。

ん?焦っていた?ティアナが?何で?

焦る状況は無かった。粘っていれば、ヴィータ副隊長が来てくれた筈。

根比べしてれば勝てる状況だった。なのに、ティアナは状況を終了させようとした。危険を犯してまで。

焦る?何を焦る?

その時、オレの頭に一つの言葉が浮かんだ。

功を焦る。

思考が停止した。そんな筈があるわけない。

ティアナは出世欲はあるけど、それは向上心が強いだけであって、その欲に飲み込まれる訳がない。

昇格試験の時だって、だいぶ後でスバルから聞いたけど、オレ達を合格させる為に、その場に残ろうとしていたらしい。

もし功を焦るようなヤツだったら、自分を犠牲にはしないだろう。

………

本当にそうか?

オレは一旦自分の考えを捨てた。

仮に功を焦ったとして、その理由は?

ティアナの立場を危うくするような事なんか無かった。

ティアナ以外にセンターガードが務まるヤツは、フォワードにはいない。

誰かムチャクチャ優秀な人員を補充したとしても、それでもリーダーはティアナだろう。

何より、オレ達はチームとして相性が良い。それは隊長達も感じているみたいだ。

分からねぇ……考えれば考えるほど分からなくなる。

その時だった。

「おーい、アースカ」

そんな声と同時に首筋に何か冷たい物を押しつけられた。

「ひえぇぇぇぇぇっ!」

思わず情けない声が声を上げてしまった。何なんだ?

「あー、ゴメンゴメン。そんなに驚くとは思わなかったからさ」

振り向くと、そこにはツナギ姿のアルトさんがいた。手には、缶コーヒーを持っている。

「ア、アルトさん?」

「もう一杯、どう?」

ニコッと笑ってアルトさんが缶コーヒーを差し出してくる。

「え…あ、ありがとうございます」

ちょっと戸惑ってしまったけど、オレは有り難く受け取る事にした。

善意だからね。無碍に断るのも悪いし。

「なんかさ、難しい顔をしてウンウン唸ってたからどうしたんだろうって思って声をかけたんだけど、全然反応してくれなかったから、ちょっとイタズラしちゃった」

テヘ、と可愛らしく舌を出すアルトさん。普段なら、それだけでデレデレになりそうだけど、今は心配事の方が大きい。

「そんな顔をしてましたか?」

「うん。まあ、アスカよりも前にそんな顔をしてた人を見てたしね。気になっちゃって」

「誰ですか、その人」

予想はつくけど、とりあえず聞いてみる。

「ヴァイス先輩。なんかムスッとしてて、なに聞いても”お前には関係ない”って言ってさ。仕事サボってた癖に何も言わないんだよね」

「……」

やっぱり陸曹か。

さっき、一触即発だったからな。かく言うオレも、熱くなった頭を冷やす為に休憩室にいる訳だし。

「もしかして、先輩と何かあった?」

黙ってしまったオレに、アルトさんが聞いて来る。

どうしよう…何て言えばいいんだ?

まさかバカ正直に言えないし…

オレが困っていたら、

「別に無理に言わなくてもいいよ。でも、一人で悩まないでね。私じゃなくても、相談できる人はいるでしょ?」

気遣うようにアルトさんは言ってくれた。

…できれば相談したい。

隊長に話す前に、同じ女性の立場の意見も聞きたい。

でも、迷惑をかけないか?

アルトさんだって忙しい筈だ。下手に巻き込んで変な事になったら悪いし…

でも、オレ一人じゃ限界がある。

「……あの、アルトさん。少し聞いてもらえますか?」

オレは意を決して相談する事にした。藁を持つかむ思いだ。

「私でいいのかな?」

アルトさんは優しく聞いてくれた。

「はい、お願いします」

オレは、今日1日の事をアルトさんに話す。

任務前のティアナの様子。誤射の時の状況。帰って来てからの無理を押しての自主練。それを止める為にやった事。

その後のヴァイス陸曹とのイザコザ。全てを話した。

アルトさんは、それを黙って聞いてくれている。

「…と言う事があったんです。オレは…ティアナに対して間違った事をしてしまったんでしょうか?」

情けないな…なんかオレ、必死にアルトさんに頼っちまってる。

「そっか…難しいね。間違ってるとしたら、2つだと思うけど」

「2つ?」

やっぱり、オレがダメな所もあるか。

「うん。1つはティアナへの接し方。アスカの言ってる事は正しいと思うけど、もうちょっとマイルドにやった方が良かったと思うよ?耳を貸さないかもしれないけど、強く言ったって意固地になるばかりだと思うから」

「……」

「もう1つは、訓練を止めさせる為にやった賭け。その時のティアナは冷静じゃなかった。それなのに、追い詰めるような事になるのは、分かっていた筈だよね?」

「は、はい…」

その指摘に、オレは俯いてしまう。

こう正面切って間違ってる所を指摘されると、結構キツイ。

オレ、ティアナにこんな事をしたんだな。

「…ごめん。言い方がキツかったね」

言い過ぎたと思ったのか、アルトさんが謝ってくる。

「いえ、本当の事です。気にしないでください」

相談してるのはオレ。アルトさんはその中で間違った所を教えてくれるんだ。むしろ、言いにくい事なのにハッキリ言ってくれるから、オレとしては有り難いぐらいだ。

「えーと、つまり何が言いたいかって事なんだけど、その時のティアナはパニックになっていたんだと思うんだ」

「パニックに?」

思わぬ言葉が出てきた。ティアナでもパニックになるんだろうか?

どんなに慌てていても、ティアナは常に状況を見ているって感じがしたから、少し意外に思った。

「うん。急にアスカが現れて驚いたんだと思う。そこに緊急出動って聞いたから慌てちゃって、でも身体が言うことを聞かなくて。転んでから嘘って言われて、何がなんだか分からなくなっちゃったんだよ」

「…しまったなぁ……」

少し考えれば分かった筈だった。

今日の失敗はティアナにとって許せない事だ。上司にも怒られて、気分も落ち込んでいる。

そこにオレがゴチャゴチャ言ったって、聞いてくれる筈がない。

「オレは…疲れすぎてると、いざって時に動けなくなるって分かって欲しかっただけなのに…」

オレがしたのは、単なる押しつけでしかなかった。アルトさんと話していてハッキリと分かる。

「その状態で撃たせたんだよね…いや、アスカは撃つとは思わなかったのかもしれないけど、ティアナは撃っちゃった。その判断ができないくらいにパニックになってたんだよ。その状態を見極めなかった事に、ヴァイス先輩は怒ってたんじゃないかな?」

「………」

何も言えない。

オレは下を向いて唇を噛む。結局、オレがしたのは、無駄にティアナを傷つけただけだ。

ティアナだけじゃない、スバルもだ。

したり顔で説教なんかして、自分の意見をただ押し通した。

二人を傷つけて…

「バカな事をしちまった…」

本当にバカな事をした…後悔しかない。

もしこの場にオヤジがいたら、ぶっ飛ばされていただろうな。

「ダメだよ、アスカ。自分を責めちゃ」

俯いているオレに、アルトさんが軽く肩に手を置いた。

「言い方や対応はちょっとマズかったかもしれないけど、ティアナを心配しての行動は正しいよ」

その言葉は、落ち込んでいるオレに優しく染み入ってくるようだった。

こういう風に言えれば、ティアナを傷つける事はなかったんだろうか?

「まずはさ、ティアナに謝ってちゃんとお話しよ?一晩寝れば、ティアナも冷静になって、ちゃんと聞いてくれるよ」

アルトさんは微笑んで、そう言ってくれた。

元気がなくなっているオレを、励ましてくれてるんだな…

「そう…ですね。うん、そうします」

その笑顔にほだされるように、オレも笑う事ができた。

凄いな、アルトさんは。キャロが良く、アルトさんと一緒にいると笑顔が絶えないって言ってたのが良く分かる。

「じゃあ、もう部屋に戻って休まないと。エリオも心配してるよ?」

そう言われて時計を見ると、9時を結構過ぎていた。思ったより話し込んでいたみたいだ。

そろそろ帰った方がいいな。

「はい、分かりました。あ、あの、アルトさん」

「ん?何かな?」

「話を聞いてくれてありがとうございました」

「お役に立てたかな?だったら嬉しいけど」

「もちろんです!おかげで前に進めそうです」

「そう、なら良かった。じゃあ、お休み」

最後までアルトさんはオレに気を使ってくれていた。

そうだよな。きっと上手くいく。

明日、ちゃんと謝って、ちゃんと話をしよう。

「うん、大丈夫。ちゃんとできるさ」

アルトさんのおかげで前向きな気持ちになれたオレは、大きく伸びをして、部屋に戻った。





ティアナside

アタシは、疲れた身体を湯船に沈めていた。

自分で思っていた以上に疲労していたのか、身体を包み込むお湯が心地よかった。

でも、心は全然晴れない。

今日の失敗の事。

確かに失策だったかもしれない…でも、アタシが上に行くには、ああいう手しかない。

魔力も普通、レアスキルも無い。

そんな凡人が機動六課で台頭して行くには、実績を上げるしかない。

どんな無茶をしたって、結果を残せば認めてくれる筈だ。

今までがそうだった。これからも…

ふと、アスカに言われた事が頭を過ぎる。

”状況判断ができてない””無駄な練習はやめろ””無茶はするな”

そんな事は無い!

「違う…アタシはできる。今までだってやってきた。これからだって!」

あんな言葉は認められない…認めない!アタシを否定するヤツの言葉なんて!

「止まれない、こんな所で…こんな事で止まる訳にはいかないの!」

アスカの言っているのは、ある意味道理だ。でも、その道理のままじゃ、アタシはいつまで経っても弱いままだ。

ならどうすればいい?簡単な事。

無茶を通して、道理を引っ込めれば良い。

それしか、手が無いんだから…





スバルside

ティアが練習から戻ってきた時の顔。さっきのティア、泣いていたよね。

今日のミスの事じゃない。アスカが何か言ったんだと思う。

……アスカの言ってる事は分かるつもり。でも、ティアはお兄さんの為に、その夢を受け継ぐ為に頑張ってる。

その頑張りを否定する権利は誰にも無い…と思う。

ティアがいたから、ティアが私を助けてくれたから、私は今、機動六課にいる事ができてる。

うん、ティアは間違って無い。じゃあ、私はどうすればいい?

私が考えていたら、ティアがお風呂から上がってきた。

「スバル。アタシ、明日4時起きだから。目覚ましうるさかったらゴメンね」

部屋に戻るなり、ティアはベッドに潜り込んだ。

「いいけど…大丈夫?」

「……スゥ…」

聞いた時には、すでに寝息を発てていた。

戦闘だけじゃない。司令塔もやってるんだ。疲れていて当然だよね。

「お休み、ティア」

私もティアの睡眠を邪魔しないように、部屋の灯りを落とし、ベッドに潜り込んだ。

どうすればいいなんて、そんなの簡単じゃない。

ティアと私、今まで通りにやれば、きっと上手く行く。

そう思いながら、私は眠りについた。





Outside

ピピピピ…

目覚ましの音が響く。ティアナは手を伸ばして、音を止めた。

「ん…」

気だるそうにしながら、それでも無理矢理身体を起こす。

「おはよう、ティア。練習、行けそう?」

まだ覚醒しきってないティアナに、スバルが声を掛けた。

「行く…」

ティアナはベッドから抜けだし、寝間着代わりにしているTシャツを脱ぐ。

「そう。じゃあ、はい。トレーニング服」

スバルが、きれいに折り畳んであるトレーニング服をティアナに渡した。

「ありがと」

まだ寝ぼけているのか、ティアナは何の疑問も持たずにそれを受け取った。

「さぁて、じゃあ私も」

「って、何でアンタまで!」

スバルも着替え始めた時点で、ようやくティアナは気がついた。

スバルも4時に起きている事に。

「一人より二人の方が、いろんな練習できるしね。私もつきあう!」

テキパキと着替えながらスバルが答えた。。

それを聞いたティアナが、呆れたように口を開く。

「いいわよ、平気だから。アタシにつき合っていたら、まともに休めないわよ」

だが、スバルは聞かない。

「知ってるでしょ。私、日常行動だけなら4、5日寝なくても平気だって」

すでについて行く気マンマンのスバル。

「日常じゃないでしょ。アンタの訓練は特にキツイんだから。ちゃんと寝なさいよ」

諭すようにティアナは言うが、スバルもそれで引き下がる訳が無かった。

「や~だよ。私とティアはコンビなんだから。一緒に頑張るの!」

着替え終わったスバルがウインクをした。

スバルの明るい笑顔に、ティアナは頬を赤くする。

「…か、勝手にすれば!」

プイとソッポを向いて着替え始めるティアナ。

「えへへ~!」

無邪気に笑うスバルを背に、ティアナも微笑んでいた。





寮から出た二人は、六課敷施設の外れにある広場で向かい合っていた。

「で、ティアの考えてる事って?」

これからどういうプランで練習をするのかを尋ねるスバル

「短期間で、とりあえず現状戦力をアップさせる方法。上手くできれば、アンタとのコンビネーションの幅もグッと広がるし、エリオやキャロのフォローも、もっとできる。そうすれば、アスカを下げても陣営が崩れる事はない」

アスカの名前を出した時、ティアナは僅かに強ばった。

「うん。それはワクワクだね!」

ティアナの僅かな変化に気づかないスバルは、グッと拳を握る。

「いい?まずはね…」

ティアナのスケジュール通りに、早朝自主練習は始まった。





アスカside

一晩寝て、とりあえず体調は悪くない感じだ。

オレはエリオと一緒に食堂に朝飯を食いにきてたんだが…

「もう、肩は大丈夫なんですか?」

大量のパンを大皿に盛ったエリオ。相変わらずの食欲だな。

「あぁ、熱も引いたみたいだし、痛みもないよ。訓練前にシャマル先生に診てもらえば、大丈夫だろ」

パンの壁に若干引きつつ、オレは答えた。

ちなみにオレは、焼き魚と味噌汁という純和風の朝食だ。朝は米でしょ?

そこに、居眠りをしているフリードを抱えたキャロが食堂に入ってくる。

オレが手を上げると、それに気づいたキャロが寄ってきた。

「おはようございます。アスカさん、エリオ君」

「「おはよう」」

オレはフリードを抱えたキャロに席を用意して迎え入れる。

「おーい、フリード。まだ寝てるのかー?」

まだコックリコックリしているフリードをツンツンと突っつくが、全然起きる気配がない。竜って、朝弱いのか?

「アルトさんは、まだ寝てるのか?」

同室のアルトさんが居ないのが気にかかり、オレはキャロに尋ねる。

昨日、相談に乗ってもらったし、改めてお礼を言いたかったんだけどな。

「アルトさんは今朝早くに整備の仕事があるとかで、もう出勤してます」

なんと。今は7時くらいだから…そんなに早いの?

「大変だな、整備班も。オペレーター業務もあるのに」

そんな忙しいのに、オレの相談を聞いてくれたのか。今度、何か奢らないとバチが当たりそうだな。

まあ、とりあえずオレはキャロからフリードを受け取って、朝食を取りに行かせる。

キャロはすぐに、パンと目玉焼きとサラダを持って帰ってくる。

それとは別皿のベーコンの固まりはフリード用か?

「あの、アスカさん。ちょっと気になる事があるんですけど」

席に着いたキャロがオレに聞いてくる。何かあったか?

「ん?なんだ?」

オレは味噌汁に口を付けながら答えた。

「えーと、食堂に来る前にスバルさん達の部屋に寄ったんですけど、返事がなくて」

キャロの言葉に、オレの動きがピタリと止まる。まさか…

「二人は部屋にいたっぽいか?」

「よくわからなかったんですけど、いなかったみたいです」

「そうか…」

ティアナのヤツ、昨日強引に練習を止めさせたから早朝練習をやったんだな。しかも、スバルを巻き込んで…

やっぱ、話し合う必要があるな。朝っぱらから憂鬱になっちまうよ。

「アスカさん?どうかしましたか?」

箸の止まったオレを見て、キャロが聞いてきた。

おっと、マズイ。心配かけないようにしないと。

「なんでもないよ。さぁ、しっかり食べて、今日も一日がんばろうぜ!」

エリオとキャロに、元気に言うオレ。

だが、それはわき上がった不安を隠すだけの物だったのかもしれない。





outside

訓練前にシャマルの診察を受けていたアスカは、少しだけ集合に遅れた。

「すみません!遅れました!」

アスカは急いでエリオの隣に並ぶ。

「おう、もう肩はいいのか?」

「完治のお墨付き、もらってきました。ま、気をつけてねと釘は刺されましたけどね」

ヴィータの問いかけに、アスカはグルグルと右腕を回して見せた。

(よかった…)

それを聞いたティアナは、内心胸を撫で下ろした。誤射した事に罪悪感が無かった訳ではない。

ただ、昨日は感情が先だってしまって言い合ってしまったのだ。

「じゃあ、引き続き個人スキルね。基礎の繰り返しになるけど、ここはしっかり頑張ろう!」

「「「はい!」」」「「はい!!」」

5人がなのはに答える。ティアナとスバルの声は特に大きかった。

「……?」

アスカは訝しげに二人を見る。エリオとキャロもちょっと驚いていた。

「あれ?ティアナとスバルは何だかご機嫌だけど、何か良い事あった?」

なのはも何かを感じたみたいだった。

「い、いえ…」「えへへ、なんにも!」

笑って誤魔化す、ティアナとスバル。

(昨日の失敗をちゃんと消化したんならいいけどよ、違うよな、たぶん)

アスカの中で不安が大きくなる。

医務室に立ち寄っていた為に、今日はまだティアナと直接話をしていない。

それでも訓練は始まってしまう。

「おし、じゃあティアナはなのは隊長と、スバル、エリオ、キャロはアタシとだ。アスカはシグナムからプログラムを渡されているから、それをやれ、いいな」

ヴィータがその場を仕切って指示を出す。

「了解ッス♪」

今日はシグナムの都合がつかない為に、アスカは自主練用のプログラムをやる事になった。

今日は痛い目に遭わないとご機嫌になるアスカに、ヴィータが有り難くない事を言う。

「午後には、シスターシャッハが来てくれるから、本格的な訓練はそこからだな」

「…居留守使っても…「あ?(-_-#)」ですよね~」

いつもの軽口を叩き、ヴィータに睨まれるアスカ。

そんないつもの感じでバラけたフォワードメンバー。

(そうだ!シスターに相談してみりゃいいじゃん!あの人もシスターなんだし、きっと良い知恵を貸してくれるんじゃないか?)

妙案を思いついたと、アスカはウンウンと何度も頷いた。

(……まさか、殴り合いで解決しろとは言わないよな?)

一抹の不安を覚えるアスカであった。





アスカside

「時として、自らの意志を示すのに武力を用いるという事は、決して間違った事ではありません」

「ダメだこのシスター、早く何とかしないと…」

シスターシャッハに相談すれば良いと考えた午前中のオレをブン殴ってやりたい。

午後からくる予定だったシスターが思ったよりも早く来たので、昼飯の時に思い切って相談したのが、そもそもの間違いだったよ。

相談を持ちかけたので、今オレはシスターと二人っきりでテーブルを囲んでいるんだが…

「で、この有様だよ」

ため息が出ちまうよ。

一応、ティアナの名前は出さないで、こっちの意見を全く聞いてくれない友人に、自分の意志を伝えるにはどうしたらいいかって相談したんだけどね。

こんな事なら、喧嘩になってもティアナと直接話し合うべきだった。

後悔先に立たず。まさかシスターがここまでポンコツとは思わなかった。

「まあ、冗談はさておき、根気強く訴えるしかないでしょう。アスカがご友人の為に行動しているなら、必ずそれは通じます」

コホンと咳払いしてシスターが真面目に答えるけど…本当に冗談か?

「だと良いんですけどねぇ」

結局、大した事も得られなかったオレは、ため息をついて昼飯を平らげた。





outside

シャッハとの地獄にようなマンツーマンの訓練は、トップリと日が落ちるまで続いた。

フラフラの状態で訓練終了をなのはに報告し、待機場へ向かうアスカ。

「ティアナ、まだいるよな?」

とにかくティアナと話し合わないといけない。

そう思い、アスカは疲れ切った身体を引きずって待機場の扉を開く。

「あ、アスカさん。お疲れさまです」

中には、二人で訓練日誌を書いているエリオとキャロ。

そして、ソファーでグッタリとしているスバルとティアナがいた。

フリードはまだ余裕があるのか、パタパタとキャロの周りを飛んでいる。

「お疲れさん。今日もキツかったな」

エリオとキャロに声をかけるアスカ。

「アスカさん、大丈夫ですか?シャッハさんと模擬戦してたみたいですけど」

キャロが、泥だらけのアスカを気遣う。

「そのうち、お前達もシスターと模擬戦やるようになるぞ~」

ふっふっふっ、と不気味に笑うアスカ。

「「あ、あはは…」」

あながち冗談とは思わなかったのか、エリオとキャロは引きつった笑いをした。

日誌を書き終え、エリオとキャロが立ち上がった時だった。

「エリオ、キャロ。先に行っててくれないか。オレはティアナとスバルに話がある」

ピクッとティアナが反応する。

「え…でも…」

エリオが戸惑う。

「大丈夫、ちょっと話をするだけだから」

エリオとキャロの頭に手を置き、な?と笑う。

「はい、分かりました。キャロ、行こう」「う、うん」

エリオがキャロの手をとって、待機場から出て行く。

「さて、と」

二人の足音が聞こえなくなるまで待ったアスカは、ティアナとスバルを見る。

「……何よ、話って」

昨日の事もあり、ティアナは警戒しているようだ。

「そうだな…まず、謝っておく」

そう言って、アスカは頭を下げた。

「昨日は悪い事をした。ごめん」

思わぬアスカの行動に、ティアナは唖然とした。まさかアスカが謝ってくるとは思わなかったのだ。

「???」

スバルは訳が分からず、首を傾げてる。

「ティアナの気持ちも考えないで、オレの意見を押しつけた。許して欲しい」

「……別に、いいけど…」

戸惑うティアナ。冷静になれば、あれは自分にも非があった事に気づく。

アスカがここまで頭を下げる必要はない。

「その上で聞きたいんだ。ティアナ、何を焦っているんだ?」

「!」

その言葉に、ティアナの目を見開く。

「オレだって考え無しで言ってる訳じゃないんだ。昨日のうちにアグスタでの戦闘記録を見たよ」

ティアナの様子が変わった事にアスカは気づいていない。そのまま話を続ける。

「オレが抜けて、しばらくしてからクロスシフトAに移行してる。フォーメーションを守っていれば、ヴィータ副隊長が来るまで持ちこたえられた筈なのにな」

そう言ってアスカは頭を掻く。

「誤解しないで欲しいんだけど、別に責めている訳じゃないんだ。ただ、普段のティアナならこの選択はしないと思ったんだ。何か、焦りがあってクロスシフトAを行った。と思ったんだけど…」

そこまで言って、アスカは黙ってしまった。ティアナがアスカを睨んでいたからだ。

「ティアナ?」

「焦ってなんかない。ただの判断ミスよ」

「判断ミスってお前…」

「結果的にミスしたし、アンタにも怪我をさせた。失敗だったのは認めるけど、あの時は正しいって思っていたの」

早口でまくし立てるティアナ。

「……」

アスカは一呼吸おいた。このまま続ければ昨日の二の舞になってしまう。

「でもな、シャーリーやエリオの制止を振り切ってクロスシフトAをやっている訳だろ?反対意見が出てるのに、それを押し通したってのはティアナらしくないって言ってるんだ」

「何よ、アタシらしくないって?」

不機嫌そうにティアナが言う。

「ティアナはちゃんと人の話を聞くじゃん。でも、昨日はそれが無かった。何か焦って行動…」

「焦ってないって言ってるでしょ!」

バン!

テーブルを叩いたティアナが立ち上がった。

ぐっ!

アスカは思わず拳を握る。だが、すぐに緩めた。

(もう少しマイルドに)

昨日のアルトのアドバイスを思い出す。

「落ち着いてくれよ。オレは…」

「もうアンタと話す事なんかないわ!行くわよ、スバル!」

吐き捨てるように言い、ティアナじゃスバルを連れて出て行ってしまった。

それを止める事もできずに、アスカはただ立ち尽くしていた。

「…くそっ!」

ガンッ!

壁を殴りつけるアスカ。

ティアナを止めることができなかったのは、感情的になってしまったから。

あのまま感情に流されてティアナを止めていたら、昨日と同じになってしまうと思って黙ってしまったのだ。

苛立ちと虚しさがアスカを包んだ。

「あの…アスカ」

不意にアスカを呼ぶ声がした。

「え…アルトさん?」

待機場の扉から、アルトが申し訳なさそうにアスカを見ている。

「どうしたんですか?」

突然のアルトの訪問に驚くアスカ。

「その…ちゃんと話し合えたかなって気になって、様子を見にきたんだけど…」

「…どの辺りから見てたんですか?」

「エリオとキャロとすれ違ったから、ほぼ全部」

そう言ってアルトは俯いた。

「ごめんね。盗み聞きしちゃった」

「いいですよ、そんな事は。隠す事でもないんだし、顔を上げてください」

アスカはそう言ったが、アルトは俯いたままだ。

「もう一つゴメン。私が余計な事を言っちゃったから、益々こじれちゃったよね」

「何の事です?」

訳が分からず、アスカは首を捻る。

「昨日、アドバイスのつもりで言ったけど、今日のティアナを見ているととりつく島も無いって感じだったから…優しく言うだけじゃダメかなって…ごめんね。部外者なのに口を挟んじゃって」

いつものアルトとは別人のように、俯いたまま謝る。

「そんな事はないですよ!相談したのはオレなんだし、部外者なんて言わないでください!同じ六課の仲間じゃないですか!」

うなだれているアルトに、アスカはそう言った。

「少なくとも、オレはアルトさんに助けられました。偏った考えをしていたって気づかせてくれたんですから、凄く感謝してます」

アスカの言葉に、アルトは顔を上げた。

「…ありがとう。アスカって、やっぱり優しいね」

ようやく、彼女らしい笑顔を見せた。

「やっぱりって…別にオレは特別優しいって訳じゃないと思いますけど?」

照れたのか、顔を赤らめるアスカ。

「ううん、優しいよ。昨日のシャーリーさんの時だって、慰めていたし。だから、ティアナの事も放っておけないんだよね」

「…ティアナは焦っている。さっきのやりとりでオレは確信しました。でも、何を焦っているのかが、分からないんです」

真顔にもどるアスカ。

「私も調べてみるよ。このままじゃ心配だしね」

アルトが協力を申し出る。

「すみません、アルトさん。なんか、巻き込んじゃって」

「さっきアスカが言ってたでしょ?同じ六課の仲間ってね。遠慮しないの!」

こうして、アスカとアルトは、ティアナの焦りの原因を突き止めるのを誓い合ったのだ。





それからの日々は、ティアナにとって過酷であった。

早朝自主練に始まり、日中のなのはの訓練、それが終わってから深夜にまで及ぶ自主訓練と、寝る間も惜しんで特訓に明け暮れていた。

「無茶な訓練しやがって」

アスカは、そんな二人を苦々しい表情で見ていた。

常軌を逸した訓練をしているティアナとスバルを止めようと、訓練前後で何とかコミュニケーションを取ろうとしたが、全ては無駄に終わった。

最初のうちはティアナも反応していたが、今では無視を決め込んでいる。

強引に話をしようと思っても、ホテルアグスタ警備後の夜の事もあって強く言えずにいた。

「分からねぇ…。ティアナ、お前は今どこを見てるんだ?オレ達は同じ方向を見ていたんじゃないのか?」

なぜそこまで、無茶をするのかが、アスカには理解できなかった。

「付け焼き刃の技なんて、脆いだけだぞ」





朝、昼、夜と訓練漬けのティアナ。疲労度は増すが、充実感はあった。

(まずは急いで技数を増やさないといけないんだ。幻術は切り札にならないし、中間距離から撃っているだけじゃ、それが通用しなくなった時に必ず行き詰まる。アタシのメインはあくまでシャープシュート。兄さんが教えてくれた精密射撃だけど、それしかできないからダメなんだ。行動の選択肢をもっと、もっと増やすんだ!)

脅迫概念に近い感覚でティアナは訓練を続ける。

今日も、スバルと共に早朝から組み手を行っていた。

その様子を、ヴァイスは何も言わずに見守っている。

「しょうがねぇか…気の済むまでやってみろ」

ヴァイスがそう呟いた時だった。

少し離れた場所からアスカが二人を見ている事にヴァイスは気づいた。

厳しい表情で拳を握っている。

一歩、アスカが踏み出す。

「待てよ。やらせてやれ」

二人に近づこうとしたアスカを、ヴァイスが止める。

「陸曹…あれを見て黙ってろって言うんですか」

感情を抑えたようにアスカはヴァイスに詰め寄る。

「納得いくまでやらせてやろうぜ。そこまで行かないと気づかないさ、ティアナは」

「……今ティアナがやってるのは近接戦の訓練だ。高町隊長の教導から外れている。ティアナが今やらなくちゃいけないのは、中距離での精密射撃とフォワードの指揮なんだ。その先はまだやる必要はないのに、なんでアイツは分からないんだよ!」

苦しそうに顔を歪めて、アスカが吐き出す。

「それでもやらせてやれ」

「……」

ヴァイスを睨むように見たアスカだったが、何も言わずにその場を立ち去った。

「らしくねえな。本当に行っちまったよ」

てっきり反論なり噛みついてくるなりすると思ったが、アスカがアッサリ引き下がったので、ヴァイスは拍子抜けした感じだった。





アスカside

まだ誰もいない休憩室で、オレはアルトさんを待っていた。

まだ暗いうちからティアナ達が訓練を始めているのを見て、内心穏やかじゃない。

でも、今のティアナには、オレのどんな言葉も届かない。どうすればいいのか、全く分からなかった。

「ごめん、アスカ!遅くなっちゃった」

少しだけ待ってたら、アルトさんが休憩室に飛び込んできた。

「いえ、そんなに待ってませんよ。で、何か分かったんですか?」

昨日の夜、見せたい物があるから朝早く休憩室に来てと言われたので、きっと何か掴んでいるんだとは思う。

「うん、これを見て」

アルトさんが、手にしていた紙の資料をオレに渡してくる。

オレはそれをパラッとめくった。

「これは?ティアナの訓練校時代の資料……って、これはマズイでしょ!個人情報じゃないですか!」

オレは慌てて資料を閉じた。アルトさんが持ってきたのは、ティアナの訓練校時代の成績表だったからだ。

これはさすがにマズイだろ?

「分かってる。アスカに迷惑は掛けないよ。これは私が勝手にやった事だから」

何か、覚悟決めたような顔で言ってくるアルトさん。

資料もマズイけど、そこまで覚悟決められてもマズイよ!

「ダメですよ!オレがやらせた事に…」

「いいから見て!ティアナの焦りの原因が分かるかもしれないんだよ!」

「う……」

アルトさんの剣幕に押され、オレは資料を再び開いた。

そして、その中身を見る。

「………」

「アスカはどう思う?」

その資料は、成績を簡素にまとめた物だった。

訓練校の時のティアナのレベルがよくわかるようになっている。

…しかし、人の成績表を見るってのは、居心地が悪いな。

「どうって…最初の方は下から数えた方が早いってのは意外ですけど、コレはたぶんスバルが足を引っ張っていたからでしょうね」

確か、訓練校に入ってすぐにスバルとのコンビを組まされ、以降ずっと一緒にやっていると、だいぶ前に聞いた事がある。

オレはさらに言葉をつなげる。

「スバルは基本的に優秀だけど、不器用な面があるから力を発揮できなかったんでしょう。それをティアナが引き出した」

だから、スバルはティアナに全幅の信頼を寄せている。困ったのは、それが全面依存している所だ。

「うん。それから?」

アルトさんが促してくる。まだ何かあるのか?

「ティアナ自信は、流石に射撃は上手いって感じですね。スバルとのコンビネーションがかみ合ってきたのか、中盤からは常にトップレベルをキープしている。でも、これが何か?」

普通にティアナの優秀さが出ている成績表から、いったい何を見ろって言うんだ?

「じゃあ、次の情報。ティアナって陸士訓練校に入る前に、士官学校と空士の試験を受けて落ちてるんだよ」

「え?」

初耳だ。

いや、行動としては考えられるか。あれだけ上昇志向の強いティアナだ。

士官になれば、執務官になる近道にもなる。だが、どちらも滑っている。

「ショックだったろうね。当然、受かる気で行ってるわけなんだから」

「……」

オレはもう一度資料を最初から見直した。

「アイツがあそこまでやる原因…焦りの理由って…」

士官学校と空士の試験に落ちてから、陸士訓練校に入った。

訓練校入学当時の成績は良くない。当然、周りから色々言われただろう。

周りの連中は、陸士一本で必死にやろうとしているから、たぶんティアナは腰掛け程度に訓練校に入ったなんて中傷があったかもしれない。

比較もされただろう。成績の良いヤツと、成績の悪い自分とで。

ティアナは常にそれを意識していた…

周りの中傷を原動力として実力を身につけた。結果を出し続けた。

誰にも文句を言われないように。誰にも負けないように。

その根底にある物は…

「まさか…ティアナは劣等感を抱いている?」

負けず嫌いの裏返しが劣等感!?

そう言えば、思い当たる事がある。

今思えば、地球に行った時に前兆はあった。

”でも、それこそ隊長達だったら一瞬で終わらせたいたんだと思うし”

あの時はおこがましいと言ったけど、ティアナは本気だった。

「たぶんだけど、それが正解だと思うよ。劣等感からくる焦りがティアナを突き動かしているんだ」

アルトさんの言葉が、やけに重く感じる。

アルトさんもティアナの事を心配してるんだ。

でも、ちょっと待てよ?そこまで劣等感を抱くか?

「劣等感と言っても、それは訓練校の時であって、六課のフォワードの中じゃ、ティアナがトップですよ」

新人5人の中じゃ、ティアナがダントツで1位だ。

ティアナがいなかったら、オレ達はチームとして成立しないと言ってもいい。

だが、アルトさんは首を横に振った。

「本当にそうかな。例えば、エリオ」

「え?」

急にエリオの名前が出て、オレは驚いてしまう。

「あの歳ですでに魔導師ランクBを取得して、電撃の変換資質を持っている。魔力値も高い」

「……」

確かに、エリオの魔力と才能はオレより上だ。それは認める。

でも…

「それにキャロ。竜召還のレアスキルを持ち、ブースト魔法でバックアップに徹する事も、いざという時は指揮能力を発揮してチームを率いる事もできる」

「…」

確かに…そうだけど、指揮能力はまだまだティアナの足下に及ばない。

ティアナがキャロに対して劣等感を抱くとは思えない。

「そしてスバル。身体能力が段違いに高く、魔力値に至ってはフォワードの中で一番。なにより、ナカジマ三佐と言う家族の後ろ盾もある。でもね…」

そこまで言って、アルトさんはオレを見る。

「一番意識しているのは、アスカだと思うの」

え?オレ?何で?

訳が分からない。自分で言うのも悲しいが、オレには特化した能力なんてない。

「まさか!オレなんて防御がソコソコ硬いのと、少しばかり足が速いくらいですよ」

ちょっとかいかぶり過ぎってもんでしょ?

でも、アルトさんは真剣に言ってくる。

「防御魔法はミッドとベルカのハイブリッド。それを活かす為に【魔力回路の加速】って言う独自理論を実装させて、実戦で使っている。カードリッジシステムで行う事を生身で再現した実績に、対AMFを生み出した発想力。この二つだけで充分意識するよ」

「で、でも…」

「でもね。これが本命のような気がするんだけど、対AMFの実績をアスカは捨てる事ができた。たぶん、それがティアナには信じられなかったんじゃないかな?」

「あ、あの時は任務前だったし、そんな事でもめたくなかったからですよ」

「アスカはそういうのに拘らないから普通の事だと思ってるかもしれないけど、向上心の強い人は、場合によっては理解できないんだよ」

「…苦労して積み上げた実績を捨てる事が、ですか?」

「うん。必死にやって手に入れた物を手放すって、簡単にはできないよ。あの時は、私もルキノもビックリしたもん」

「オレは別に、気取ってやった訳じゃなかったんですけど…」

「少なくとも、ティアナには理解できなかったんだよ。手柄を簡単に捨てる事のできる天才に見えたんじゃないかな?いま、それを捨てても次がある、みたいに」

「…」

「どうするの?正直、劣等感が理由じゃあ止められないよ。ティアナが認める訳ないよ」

オレは…答えられなかった。

「分かりません…どうすればいいんだ……」

打つ手は無かった。どんなに言葉を並べたって、ティアナが納得しない限り止める事はできない。

「明日は、もう隊長達との模擬戦だよ…どうしよう…」

アルトさんも手詰まりのようだ。休憩室がシンと静まりかえる。

結局、答えは出なかった。

オレはアルトさんに礼を言って別れて、自室に戻る事にした。

足取りは重い。

「オレが、あの時ちゃんと抗議を出しておけばティアナを追いつめる事は無かったんだろうか?」

いや、それだけとは思えない。

オレとティアナとで比べたら、総合的に見てティアナの方が優秀だろう。

ティアナもそう思う筈。

たとえ対AMFの実績を積み上げたとしても、そんなのは一時的な物だ。

「足りない…劣等感だけじゃない?じゃあ、他に何が原因で…」

確かに劣等感はあるだろう。それが焦りの原因になっているのなら。

でも、それだけであそこまで無茶をするだろうか?

「ティアナはセンターガード。将来は執務官を希望している…ん?あれ?」

何気なく呟いた事に、何かが引っかかった。

「センターガードと執務官の違いはなんだ?
センターガードは後方より支援しつつ、全体の状況を把握して指揮をする事が望まれる。
執務官は単独での戦闘が多いので、オールレンジでの対応ができる事が望ましい」

センターガードと執務官じゃ、そもそも比べる物じゃない。けど、いまティアナが力を入れているのは近接戦。

ティアナは射撃型。本格的な近接戦は苦手だ。

「射撃型のティアナが、近接戦の訓練…隊長の教導からは外れている…」

何だ?何に引っかかっているんだ?

不意に、地球でティアナが漏らした言葉を思い出した。

”訓練って言っても、基礎と基本の繰り返しで、本当に強くなっているかイマイチ分かんないし”

強くなりたい…弱点を克服したい思い…基礎と基本ばかりの教導…

つながった…つながってしまった。

「ティアナは高町隊長の教導に不満をもっている?」

言葉にしてみて、オレは確信した。

劣等感と教導への不満。それがティアナを動かしている。

「劣等感がティアナを焦らせ、教導への不満から無茶なトレーニングをする」

おそらく、間違いないだろう。

「なんで…ティアナ、お前頭いいじゃん。隊長の教導を受けて何も感じなかったのかよ…」

基礎と基本を繰り返し教えてくれる隊長は、厳しくもあったが優しかった。

チーム戦にする事によって個々の個性を見極め、ともすれば見失いがちになる目的を示してくれた。

小さい力も、集まれば大きな力になると、教導を通して隊長はオレ達に示してくれていた筈。みんなもそう感じていたと思っていた。

だけど、オレが隊長の教導から感じ取った事は、ティアナには伝わっていない。

それが、オレを虚しい気持ちにさせていた。 
 

 
後書き
16000字オーバーをした大馬鹿者です!誠に申し訳ございません!
まとめる事も、途中で切る事もできませんでした!長文スミマセン!

今回ですが、書いていて苦しかったですね。その割りにティアナの苦悩があまり上手く表現されてません。
上がらない文章力で申し訳ありません。

アスカ自身は、以前も言いましたが、まだまだ未熟な人間です。ティアナが優秀な人間だから、パニックになったりはしないだろうぐらいに、ティアナを信頼している節がありますが、それが間違いの元ですね。

アルトさん、久々登場で存在感を出したと思います。
…なんだろ?この子何気にヒロインゲージ貯めようとしてません?良いキャラではありますよね。

さらに久々シスターシャッハ。ポンコツ扱いされてしまいました。
ドラマCDでも、バイオレンスシスター扱いでしたね。主にロッサにですけど。

今回はティアナ暴走の原因が、劣等感と教導の不満という事になってます。
そしてついに魔王降臨編へ突入となります。
次回はオリジナル回となります。
もし、先にアスカたちが模擬戦をしたら、ってな感じで書きたいと思ってます。
 
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