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ソードアート・オンライン∼稲妻の狩人と金色の狼∼

作者:村雲恭夜
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第二剣 白の侍の実力

翌日、朝の午前九時。
俺は第七十四層主街区のゲート前にキリトとミザールと共に立っていた。
「まさかアスナも来るとはな......」
俺は呆れながらキリトに言う。戦力が増えるのは喜ばしいが、事前に言って貰えればストレージにある専用の武器や刀は自室に置いてきたと言うのに。ジンオウガ居れば大抵なんとかなるし。
「まぁ、戦力が増えるのは良いことだよ、ライト君にとってもね?」
今日だけ掛けている眼鏡を取りながらミザールは言う。
「止めろ、返せミザール」
俺は額にデコピンすると、眼鏡を取り返して掛ける。普段は掛けてはいるが、昨日は何処に置いたか忘れたので掛けていなかった。何で眼鏡を掛ける必要が在るのかは分からないが、ジンオウガに掛けろと言われたのだ。
まぁそれよりだ。
「来ない......」
「来ないな......」
「来ないねぇ......」
キリトの待ち人、アスナが一向にその姿を現さない。
時計を見ると、すでに九時十分。勤勉な攻略組が次々と転移門から現れ、迷宮区に向かっていっている。
しかも、肩に乗っかっているジンオウガはいつの間にか寝ている。お前重いから肩じゃなく頭の上で寝ろよ。
流石にキリトも帰って寝ようかと考えた思考を読み取ったその瞬間、転移門が発光した。
「きゃああああっ!よ、避けて________!」
「うわぁぁぁぁ!?」
通常ならば転移者はゲート内の地面に現れるのだが、そのプレイヤーは一メートル程空中から実体化し、キリトを巻き込んで地面に着地した。
実体化したプレイヤーはやはりアスナ。キリトはそれを知らず、アスナの身体を退かそうと胸を触った。
「......サイッテー、キリト君」
ミザールは非難する目でそれを見ていた。当然、俺も非難する目で見ていた。
「や、や________っ!!」
アスナはキリトの頭を叩き付け、キリトの身体から降りて、胸の前で腕を交差した。アスナの顔は感情エフェクトのせいで赤くなり、それと同時に殺気のこもった眼でキリトを睨む。
キリトは右手を閉じたり開いたりしながら強張った笑顔と共に口を開いた。
「や......やあ、おはようアスナ」
一際殺気が強まった。多分、アスナは獲物を抜くか抜かないかで迷っているはずだ。
そろそろ止めようかと思った矢先、再び転移門が発光する。アスナははっとした表情で転移門を見ると、慌てた様子で立ち上がりキリトの背後に回り込んだ。
理由がわからぬままキリトは立ち上がり、俺達はキリトの隣に立つ。
光が収まると、そこには純白のマントに赤の紋章。ギルド血盟騎士団のユニフォームを纏い、やや装飾過多気味の鎧と両手剣を装備している。
ゲートから出たその男は俺達を見ると眉間と鼻筋に刻まれた皺をいっそう深くした。恐らく二十代前半だが皺のせいで老けて見える。リアルだとかなりの苦労人か。ギリギリと音がしそうな程歯を噛み締めたあと、憤懣やるかたないといった様子で口を開いた。
「ア......アスナ様、勝手な事をされては困ります......!」
ヒステリックな調子を帯びた甲高い声を聞いて、俺は、これは厄介な事になりそうだと呆れた。落ち窪んだ三白眼をぎらぎらと輝かせ、男は更に言い募る。
「さぁ、ギルド本部に戻りましょう」
「嫌よ、今日活動日じゃないわよ!......大体、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!」
アスナがキレ気味といった様子で言い返した。
「ふふ…、どうせこんなことがあろうかと思いまして、私一ヶ月前からずっとセルムブルクで早朝より監視の任務についておりました」
得意気な男の返事に、まず俺は呆れた。キリト達は唖然とし、アスナも凍り付いていた。いくらか間を置いて、アスナは硬い声で聞き返した。
「そ......それ、団長の指示じゃないわよね......?」
「私の任務はアスナ様の護衛です!それは当然ご自宅の監視も......」
「ふ......含まれないわよバカ!!」
アスナは憤慨して言う。と、その時俺の脳裏に何かが過った。
それは、キリトと男のデュエルする光景だった。
(なんだ、これ)
「ライト君?」
ミザールの声でそれは無くなり、元の風景に戻っていた。
「悪い、何でもない......」
俺はミザールに言うと、この騒動を止めさせようと割って入る。
「そこまでだ、いくら護衛でもやり過ぎだ。アスナの安全は守るから引いてくれないか?」
俺が割って入ると、男は俺を睨み付けた。
「ふ......ふざけるな!!貴様らの様な雑魚プレイヤーがお二人の護衛が務まるかぁ!!わ......私は栄光ある血盟騎士団の......」
「少なくとも、貴方よりはマトモに務まると思うがね」
正直なところ、この一言は余計だった。
「ガキィ......そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな......」
顔面蒼白になった男は、震える右手でウインドウを呼び出すと素早く操作した。
即座に、俺の視界に半透明のシステムウインドウが出現する。内容は見る前から分かっていた。
【クラディール から1VS1デュエルを申し込まれました。受託しますか?】
発光する文字の下に、yes/NOのボタンと幾つかのオプション。俺はキリトとアスナの方を見る。二人は見えていないが、状況は察してくれているはずだ。当然、止めると思ったがアスナが小さく頷いた。
「......良いのか?問題案件だろどう考えても」
「大丈夫。団長にはわたしから報告する」
きっぱりと返答を頂き俺はyesボタンを押し、《初撃決着モード》を選択した。
これは最初に強攻撃をヒットさせるか、相手の体力を半減させた方が勝利するという条件だ。
メッセージは変わり、60秒のカウントダウンがスタートする。カウントがなくなった瞬間、街区のHP保護がなくなり、勝敗が決まるまで剣を打ち合うことになる。
「ご覧下さいアスナ様!!私以外に護衛が務まる者など居ない事を証明しますぞ!!」
クラディールは狂喜を押し殺した表情で叫び、芝居ががった仕草で大振りの両手剣を引き抜くと、がしゃっと音をたてて構えた。
三人が数歩下がったことを確認すると、俺はウインドウを操作して、自身の得物____〈刀〉を実体化させて、右手の親指で柄を押す。流石に名門ギルドの所属だけあって、向こうの得物の方が格段に見栄えは良い。まぁ、だからといって強いと言われればそうでもない。恐らくは実力的に中層レベルと言ったところか。
俺達が五メートル程の距離を取って向き合い、カウントを待つ間にも、周囲には次々とギャラリーが集まっていた。無理もない、此処は街のど真ん中のゲート広場である上に奴も俺もそこそこ名の通ったプレイヤーなのだ。
「ソロのライトとKOBメンバーがデュエルだとよ!!」
ギャラリーの一人が大声で叫び、ドッと歓声が湧いた。俺はそれを聞くと小さく呟いた。
「......余り目立ちたくはないんだけどなぁ」
カウントが進むにつれ、クラディールの動きをある程度予想しながら、俺は意識を集中させた。
プレイヤーとの戦いは読みあいであり、その読みあいに制したものが勝者になる。読みあいにもし負ければ、そこからはもう勘と経験に任せるしかない。
【DUEL!!】
カウントが0になると同時に俺と奴は動き出した。
クラディールの初動は<アバランシュ>。両手用大剣の上段ダッシュ技だ。それに対し、俺はその場を動かずにその時を待つ。
「確かに、対人戦でのその技のチョイスは良い。高威力、ガードしても反撃させない。生半可のプレイヤーでは確かに良い。が、甘いな」
クラディールの身体が、俺の射程圏内に入る。
「その突進攻撃は、俺には効かない」
持ち手を素早く握り、鞘から素早く抜いて構える。そして____。
耳をつんざくような金属音が鳴り響き、ライトエフェクトが散らばる。
無双の狩人、刀・太刀専用ソードスキル《鏡花の構え》。
構えた瞬間に短い無敵時間が付与され、攻撃を受けた瞬間にカウンターの一撃を与える攻防一体の業。
クラディールはそれを受けた瞬間に吹き飛び、剣を取り零した。
暫くの間、沈黙が広場を覆う。見物人は皆口をポカンと開けて立ち尽くしている。だが、俺が刀を仕舞うと、わっと歓声が巻き起こる。
俺はクラディールを見て、わざと音をたてて刀を腰の鞘に落としながら言う。
「アンタが攻撃を当てられる可能性は万にひとつもない。武器種を変えて挑むなら付き合うが......別にもう良いだろ」
クラディールは俺を見ることなく身体を震わせていたが、やがて軋るような声で「アイ・リザイン」と発声した。別に日本語で《降参》や《参った》でもデュエルは終了するのだが。
直後、デュエル終了の合図と勝者の名を告げる紫色の文字列がフラッシュした。再びワッと言う歓声。クラディールはよろけながら立ち上がると、ギャラリーの列に向かって喚いた。
「見世物じゃねぇぞ!散れ!散れ!」
次いで、ゆっくりと俺の方に向き直る。
「貴様......殺す......絶対に殺すぞ......」
その目付きを受け、俺は三人の隣に立つ。何故だか知らないが、この視線は慣れてしまっているらしい。
そして、俺と交代してアスナがクラディールの前に歩み出た。
「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以て護衛役を解任。別命あるまでギルド本部にて待機。以上」
「......なん......何だと......この......」
俺の耳には、辛うじてそれだけが聞こえた。恐らくは百通りの呪詛の言葉を口でぶつぶつと呟きながらクラディールは俺達を見据えた。武器を持って、犯罪防止コードに阻まれるのを承知の上で斬りかかることを考えているに違いない。
だが、辛うじて自制するとマントの内側から転移結晶を掴み出した。腕力で砕かんとばかりに握りしめたそれを掲げ、「転移......グランザム」と呟く。青光に包まれ消え去る最後の瞬間まで、クラディールは俺達に憎悪の視線を向けていた。
クラディールが消えたあとの広場は後味悪い沈黙に包まれたが、やがて三々五々散っていく。残った俺達は暫く立ち尽くしたが、アスナが口を開いた。
「......ごめんなさい、嫌な事に巻き込んじゃって」
「別に気にする必要は無いだろ。なぁ、キリト、ミザール?」
「うん......大丈夫だよ」
「俺も良いけど......そっちの方こそ大丈夫なのか?」
キリトが心配そうな声で言うと、アスナは弱々しい笑みを浮かべた。
「ええ。いまのギルドの空気は、ゲーム攻略だけを優先的に考えてメンバーに規律を押し付けたわたしにも責任があるし......」
「「それはない」」
俺とミザールは声を揃えて言う。
「正直、アスナみたいな奴が居なかったらまだ中層だっただろうよ」
「ライト君の言う通りだよ?だから、たまにキリト君と君で息抜きするくらいは良いんじゃない?」
俺が言おうとしたのに......とキリトがぼやくが知ったことではない。すると、アスナは半分苦笑ではあったが張り詰めていた頬を緩めた。
「......まぁ、ありがとうと言っておくわ。じゃあお言葉に甘えて今日は楽させてもらうわね。前衛よろしく」
そして勢いよく振り向き、街の外へ続く道をすたすた歩き出す。
「いや、ちょっと、前衛は普通交代だろう!」
文句を言いながらキリトがアスナを追いかけ、
「あ、でも交代なしならライト君前衛でよくない?」
笑いながらミザールがその後を追い、
「ちょ、なんでそうなるんだよ!前衛は交代制だ!!」
三人に叫びつつ、刀を仕舞ってその背中を追い掛けた。
そう言うと、俺は街の外に続く道を歩き出した。
 
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