機動戦士ガンダム SEED C.E71 連合兵戦記(仮)
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第9話 聖天使出撃
<リヴィングストン> CIC………
「ウーアマン中隊より通信、市内に突入した部隊の内、モビルスーツ数機が損傷、内2機を喪失、歩兵部隊の半数が打撃を受けた模様、また郊外の車両部隊が奇襲攻撃を受けたため一時市外より後退するとのことです…」
オペレーターが報告を終えた時、楽観的空気が支配していたCICの雰囲気は一変した。
「ウーアマン中隊がここまで打撃を受けたのか?」
「無敵の我軍のモビルスーツ部隊が退いただと…?!」
エリクは、目の前のモニターに映し出される情報が信じられなかった。
そしてそれは、他のブリッジのクルーも同じだった。
各部隊合わせてモビルスーツが10体近くも撃破される等参加していたザフト部隊の指揮官にも、兵員にも初めての事であった。
無論、対する地球連合軍も相当の損害を被っており、ハンスや各部隊の指揮官も予想以上の損害に驚き、多くの部隊の再編と再配置を余儀なくされていた。
だが、モビルスーツを複数有する部隊が、少なからず損害を受け、後退を余儀なくされたことは、ザフト兵に衝撃を与えていた。
敵が潜む都市は、要塞化されているのではないか、敵部隊はこの拠点以外にも地下シェルターなどで潜伏しており、この都市は、自分達を釘づけにして消耗させる為の陣地に過ぎないのではないか、そのように考える兵士もいた。
それは、最前線である廃棄された都市の兵士だけでなく、前線から離れた地点にいた<リヴィングストン>のブリッジにいる者たちも同じ状態になっていた。
もはや作戦開始当初の楽観ムードは消え失せ、地球連合軍の増援部隊が今にもここに襲い掛かってくるのではないかという考えさえ、彼らの一部の脳裏には浮かび上がっていた。
「か、艦砲射撃だ!都市は射程圏にある!」
エリクは狼狽気味に叫んだ。
友軍部隊がここまで打撃を受けた以上、艦砲射撃で市内の敵部隊に打撃を与える必要がある…そう彼は判断したのである。
「駄目です!」
その命令に異議を唱えたのは、隣に立つ金髪の美少女…アプフェルバウム隊指揮官 ノーマ・アプフェルバウムであった。
「ノーマ小隊長!なんのつもりだ!」
「市内には、まだ味方部隊が孤立しています!艦砲射撃をしては、味方を巻き込む危険性があります!」
「ではどうしろというんだ?」
エリクは自分が大隊指揮官であり、目の前に立つ少女が小隊指揮官に過ぎないということ等、頭から抜け落ちていた。
「私が出撃します!地上戦の経験は十分にあります」
ノーマは自信に満ちた口調で言った。
それは、まるで映画の主人公の様で、どこか滑稽でもあった。
「なんだと?」
「敵の実数は、そう多くありません!断言できます。」
そう言い切ると、彼女は、背を向けて、軍靴の音を鳴らして、自動ドアへと向かった。
間もなく、自動ドアが閉じる音が静かなブリッジ内に木霊した。
その音は、エリクら内部の人間には嫌に大きく聞こえていた。
「大隊長、どうします?アプフェルバウム小隊長の発進を許可しますか?」
「格納庫に連絡、アプフェルバウム小隊長が出撃する。整備班は準備に取り掛かれ」
「了解」
「ふう、これだから黄道同盟メンバーの関係者は困るな」
冷静さをある程度取り戻したエリクは、軽くため息を吐いた。
この時期、プラント最高評議会議員の1人 ザフト内部にも強い影響力を持つ国防委員長 パトリック・ザラは、プラント最高評議会議員の子弟を集めた部隊を編制、それをザフトの精鋭部隊として前線に投入する案を提案していた。
これは、一見すると多くの地域で、様々な形で行われてきた〝高貴なる者の義務〟の一形態の様に見える。
しかしその裏には、遺伝子操作が能力の全てを決定し、それゆえに遺伝子操作を受けたコーディネイターは、ナチュラルを能力で凌駕し、コーディネイター内部でも、資産家等、富裕層の子弟であり、高度な遺伝子操作を施された者…具体的に言うならば、プラント最高評議会議員やプラント内部の企業の重役、技術者等の層は、他の層に優越する……という遺伝子カースト制とでも形容すべき考えが透け見えていた。
流石にこのような考えはプラント内部の社会を階層化させ、分断させてしまいかねない為、誰も公的には肯定していない。
だが、プラントの社会の状況は之を肯定するかのような形態となっているのが、プラント社会の現実であった。
もし遺伝子で全てが決定されるのであれば、我々コーディネイターは、ブルーコスモスの野獣共が言う様に工業部品と何ら変わらない存在ではないか!ふと沸き起こった憤りを彼は自制心で抑え付けた。
エリクは、ユーラシア連邦の勢力圏に位置する小国に新興富裕層の次男として生まれた。
新興富裕層と言っても潤沢な資金があるわけではなかったので、彼は、それ程遺伝子の調整を受けているわけではなかった。
12歳の頃、家族と映画館に行った際にブルーコスモスのテロに巻き込まれ、家族を全て失った。
その2年後、宇宙医学に関する学位を取得したのと同時に多くの地球出身のコーディネイターと同様に当時建設が進められていた産業スペースコロニー群 プラントに入り、以後宇宙での医療機器に関する技術者としてプラントの発展に寄与してきたのであった。
そして多くのプラントの人間と同様に、プラント理事国から課せられるノルマと工場、研究施設として地球経済を牽引しているプラントへの成果に見合わない報酬に反発し、プラントを独立させ、地球の国家と対等の地位にしようと主張する政治団体 黄道同盟に入党した。
黄道同盟のメンバーとなった彼は、その能力を生かして戦闘要員として幾つかの活動に従事した。駐留軍に対するテロ、公園や工業施設に爆弾を仕掛けようとするブルーコスモスの民兵と銃撃戦を演じた経験もある。
ザフト入隊後、モビルスーツパイロットとしての適性は不適格とされた。
だが、指揮官としての適性は、黄道同盟時代に武闘派の戦闘員のリーダーをした経験もあって有りと判断された。
その後の戦功により、ザフト地上軍 ヨーロッパ方面軍所属ファーデン戦闘大隊指揮官として
レセップス級<リヴィングストン>の艦長に任命されるまでになった。
ノーマ・アプフェルバウム…つい先ほどまで彼の隣に立っていた少女は、彼と同じく黄道同盟時代からのメンバーでもあると同時に評議会に名を連ねる者を父親とするプラントのエリートでもあった。
彼にとっては、ある意味で自分の生きてきた全てを否定されているかのような存在であった。
だが、皮肉なことに彼と彼の部下にとって彼女こそが現状を打開できる数少ない要素だった。
――――――――――<リヴィングストン>格納庫―――――――
ザフトのMS部隊の移動基地でもあるレセップス級の格納庫は、元々広かったが、殆どの搭載機が作戦に出撃している現在、この<リヴィングストン>の格納庫は更に広く見えた。
ノーマは、自身の乗機へと向かった。
ノーマが足を止めたMSハンガーには、ザフトの最新鋭機 モビルスーツ シグーがその力強い鋼鉄製の巨体を屹立させていた。シグーは、ザフトの主力MS ジンよりも精悍かつ細みのある外見をしていた。
そしてその精緻な動きを可能とする両腕には、兵器が保持されていた。
右には、ザフト軍のMS用主力火器である重突撃機銃が、左には中世ヨーロッパの騎士が使用していたものを巨大化させた様な円形のシールドとそこからはみ出たガトリング砲の銃口が鈍い光沢を放っていた。
円形の特殊合金製シールドの裏側には、ガトリング砲の機関部と徹甲弾、他数種類の弾頭が装填された弾倉パックがある。
シールドに火器を搭載するというのは、限られたウェポンラックの有効活用という意味では、合理性があったが、敵の攻撃を受けることを考えると衝撃による動作不良や誘爆の危険性を孕んでいた。
シグーは、ジン部隊の指揮官機として開発された機体で、飛行MS ディンのスラスターを改良した2基のメインスラスターによって機動性がジンの2倍近く強化されていた。
ジンをあらゆる性能で上回るシグーは、主力機 ジンの後継機種としてエースパイロットや指揮官を中心に配備が進められていた。
ノーマにこの機体が引き渡されたことには、
彼女自身が、MA 22機、戦闘機12機、装甲車両29両を撃破し、戦闘艦4隻、輸送艦3隻を撃沈したエースパイロットであることだけでなく、彼女の父親であるヨハン・アプフェルバウムの存在もあった。
ユーラシア連邦 ドイツ州 ケルン出身の第1世代コーディネイターにして、黄道同盟創設メンバーの1人であるこの人物は、現在、同志の大半と共にプラント最高評議会のメンバーに選出され、現在、アプリリウス2の地区代表 プラント最高評議会議長補佐として活動していた。
新兵からエースになったとはいえ、まだ経験が少ないノーマにシグーが引き渡されたのには、実力のみならず評議会議員の縁者子弟に最新鋭の機体を引き渡しておくことで、ザフト内部での立場を良くしておきたい、と考える関係者の配慮が全く無かったとは言えなかった。
「ノーマ小隊長!出撃されるのですか?」
先程まで待機室にいたのであろう。彼女の部下の一人が尋ねた。
「ええ、そうよ」
「修復が完了次第、我々も共に出撃します!」
数時間前に経験した地球連合側戦闘機部隊との戦闘で、ノーマのシグーは殆ど損傷を蒙らず、弾薬と推進剤を消費しただけで済んでいた。
だが、彼女の部下の機体は損傷を蒙り、現在修理中であった。
「今回の戦闘は私だけで十分よ、貴方達は、この艦の直衛に付きなさい。敵がいつ襲撃してきても不思議じゃないわ」
「ここまで、敵襲なんてきませんよ…」
「小隊長1人で市内の地球軍と戦うんですか?」
「そこまで無謀なことを私が考えているわけがないでしょ?私は突破口を開くだけよ、安心して」
「…了解しました。」
次に背後から整備班長が彼女に声をかける。
「小隊長、出撃されるのですか」
「ええ、整備は?」
「シグーは、既に完了しています。」
「グゥルは使用可能?」
「グゥルへの推進剤補給は既に完了しています」
「ありがとう。」
そう言うとノーマは、ハンガーに駐機された愛機の元に向かった。
彼女は、シグーのコックピットに乗り込むと即座に計器類を起動させる。
シグーは、ハンガーから歩き出すと、リニアカタパルト上に置かれた物体の上に足を置いた。
そのエイを思わせる物体は、後部に推進器があった。
シグーは、ジンよりもスラスターの推力はあるものの、飛行モビルスーツ ディンの様に自力で飛行することは不可能であった。
その為、追加装備が必要となる。
それが、このサブフライトシステム グゥルであった。
民間向けに垂直離着陸輸送機として開発されていた機体をベースに開発したこの機体は、MSを搭載し、戦場まで輸送させることを目的に開発された無人航空機である。
その高い推力により、限定的ながらモビルスーツに空戦能力すら持たせることができ、少しの改造で、無人輸送機・爆撃機としての運用も可能な装備である。
現在、ファーデン戦闘大隊の指揮下のモビルスーツ部隊が、地球連合軍の追撃にグゥルを使用していたこともあって、艦内格納庫には、グゥルは、1機しか残されていなかった。
このグゥルも機械故障で出撃不能となり、修理の為艦内に残されていたものである。
ちなみにノーマ小隊が使用していたグゥルは現在補給と修理作業中だった。
「これより出撃する!進路は?」
「進路クリア、発進どうぞ!」
はきはきしたオペレーターの声が彼女の耳を打つ。
彼女は、機体のスロットルを最大にした。
グゥルに乗ったシグーが、リニアカタパルトの力を得て空へと射出される。
「ノーマ・アプフェルバウム シグー出撃する!」
巨大なバッテリー仕掛けの白銀の騎士は、鈍色の空へと駆け上がって行った。
グゥルに乗ったノーマのシグーは、途中までは地を這う様な低空飛行で、市内が見えてきてからは少し高度を上昇させて、敵部隊の潜伏する放棄された都市に接近した。
都市から少し離れた場所には後退してきたウーアマン中隊の姿が確認できた。
先程まで激しい戦闘が繰り広げられていた市内は、銃声一つしない静寂を保っていた。
だが、市内の建築物に開いた大穴や各所からあがる黒煙は、そこが先程まで戦場であったことを雄弁に見る者に教えていた。
また内部には、孤立しているザフト部隊がいたが、それらを地球連合軍は殲滅することなく、放置しているようであった。
並みの部隊なら孤立している部隊を運用可能な戦力の全力をもって叩き潰すところだろうが、ノーマ達ザフト軍と戦っているこの部隊の指揮官は、孤立させた敵部隊の戦力を殲滅せず、最小限の戦力で監視、包囲することに留めて敵の支援砲撃や空爆を防ぐための盾として利用していた。
相手の指揮官の有能さに彼女は思わず舌を巻いた。
「…」
ノーマはシグーを市内へと向かわせた。
「酷いものね…」
搭乗者たる金髪の美少女は、自機の正面モニターに映る光景を一瞥して言った。
旧世紀に第二次世界大戦を引き起こし、ヨーロッパ全土を地獄に変えたナチス・ドイツの独裁者 アドルフ・ヒトラーとその腹心の部下で公私ともに交流のあった建築家 軍需大臣 アルベルト・シュペーアは、古代ギリシャ・ローマ建築の様に第三帝国が滅亡した遥か未来に廃墟となった後も建造物が美しい姿を留めていられるように、廃墟価値理論というものを考え、それをナチス政権の建設計画での建築物設計に適用した。
今のノーマには、それが痛いほど理解できた。
ギリシャの古代文明の栄華を残すパルテノン神殿やジャングルに呑み込まれても尚、美しさを保つカンボジアのアンコール・ワットが、ロシア正教の伝説にある、死してなお芳香を放ち、不朽を保つ聖人の遺体とするならば、眼の前の放棄された都市は、雑菌と外気に蝕まれ、悪臭を放つ醜い腐乱死体と形容出来た。
目の前の廃墟が、恐らく身体的、精神衛生的にも人の居住には適さないであろうことは明白であった。
ノーマが都市内に展開する地球連合部隊が大規模ではないと推測したのも、都市のインフラが大量の人員の生活に耐えうる状態ではないことを知っていたからである。
墓標の如く聳え立つ灰色の高層建築の中へとグゥルに乗ったノーマのシグーが侵入を図った。
「(どこに敵がいるの…)」
「!!」
彼女が周囲に視線を巡らせようとした次の瞬間、ミサイルアラートがコックピットに響き渡った。
「たった1機で突っ込んでくるとは大した自信の持ち主だ!大歓迎してやれ!ミサイル班、引き寄せてから撃て」
ゲーレンの部隊は、ノーマのシグーの直進ルート上の廃墟に展開していた。
この部隊は、ウーアマン中隊が市内に突入する少し前、航空攻撃を仕掛ける為に先行して低空を進撃していたディン6機を有する対地攻撃部隊エレノア襲撃中隊を、ディン1機を除く全機撃墜という大戦果を挙げていた。
指揮官であるゲーレンはたった1機で向かって来るそのシグーを指揮下の部隊の火力を出来る限り叩き付けて撃破するつもりであった。
「全ミサイル斑ミサイル発射!」
指揮官を務めるゲーレン中尉の声が有線通信機を通じて、各所に潜伏していたミサイル斑に伝達された。
そしてミサイル斑は、命令を実行した。
彼らの部隊は、ミサイルの多くを航空兵力対策に温存していた。
その為ミサイルは、ウーアマン中隊との戦闘後も半数以上が発射可能であった。
廃墟の各地に隠蔽配置されていたミサイル陣地から一斉に、正面から向かって来るたった1機のシグーに向けて数十発のミサイルが発射された。
その中には、対空用ではなく、装甲車両用のミサイルもあった。
白煙を上げて蛇の群れの如くシグーに向かうミサイル群…一見すると1機のモビルスーツを標的にしているものとしては過剰に見える。
しかしこれはゲーレン中尉とその部下が、航空兵力の脅威を正しく認識していたからである。
ノーマのシグーを包み込むように迫るミサイル、全弾を受ければ、シグーと言えど、先程匍匐飛行中にMLRSのロケット弾の雨を受けたエレノア襲撃中隊の所属機の二の舞になるであろうことは間違いなかった。
「!」
ノーマは、自機が確実に回避出来ないミサイルのみを重突撃機銃で撃墜する。
ノーマのシグーは、ビルが森林の木々の様に林立する市内に突入した。
「なんだと!」
ゲーレンは思わず叫んだ。彼の予想では、グゥルに乗ったままでの市内への突入は、危険だと判断してグゥルを放棄して地上に着地するか、ミサイルを迎撃後、高度を上げると考えていたのである。
そしてシグーのパイロットが前者の選択を取った場合は、少し後方にいる機甲歩兵部隊に援護要請を出し、
先程撃破してきたザフトの部隊やモビルスーツと同様に市内でじっくり料理してやるつもりだった。
逆に後者の選択、高度を上げる方を選択した場合は、貴重な航空機用の対空ミサイルやビルに仕掛けられている無人ミサイル陣地の集中攻撃で叩く、
というのが彼の作戦だったのである。
「早すぎる!」
「なんて奴だ!」
ミサイル斑の兵士が、驚愕の余り叫んだ。
ビルの合間から次々とミサイルが、ノーマのシグーに向けて放たれる。
グゥルに乗ったシグーは、ビルの間という航空兵器の動きが制限される状況でも機体の動きを傾け、シールドガトリングの弾幕でミサイルを撃墜するといった方法で突破する。
少しでも操作を間違えれば、周囲の廃墟に衝突して大破することは間違い無かった。
「撤収!ここに残っててもいい的だ。」
一部の陣地は、人員が恐怖の余り逃亡した。
「貴様らは逃げろ!早くしろ!」
第21号陣地と呼称されていたその陣地の班長を務める下士官は、同じ陣地にいる部下、その年齢と容貌は、兵士というよりも学生に近い…を、銃を振りかざして追い出すと自分だけで陣地内のランチャーを操作した。
彼が覗くミサイルランチャーの赤外線誘導装置のモニターの向こうには、両腕の火器を熱で真っ赤に染めた鋼鉄の悪魔が戦友に暴威を振るっていた。
「消えなさい!」
グゥルの下部に搭載された対地ミサイルが発射され、ノーマのシグーの下に存在していたミサイル陣地の1つに着弾した。
対地ミサイルのサーモバリック弾頭が炸裂し、オレンジ色の灼熱の炎が中にいた人員を瞬間的に黒焦げの炭化物に変換した。
その火炎地獄の上をグゥルに乗ったシグーが通過する。
火柱の様な弾頭の爆発を背後に、ノーマのシグーは更に激しい攻撃を叩き付ける。
「そこ!」
ノーマがトリガーを引く。
シグーが、ミサイルの発射された方向に向け、シールドガトリングを連射した。
ガトリング掃射を受け、廃墟に潜伏していたミサイル陣地が3つ破壊された。
ノーマのシグーは、右手の重突撃機銃と左腕のシールドガトリング、両腕にマウントされた火器で、
順調に廃墟に設営されたミサイル陣地を撃破していった。
「撤収!ここに残っててもいい的だぁ!」
一部の陣地は、人員が恐怖の余り逃亡した。
「貴様らは逃げろ!早くしろ!」
第21号陣地と呼称されていたその陣地の班長を務める下士官は、同じ陣地にいる部下、その年齢と容貌は、兵士というよりも学生に近い…を、銃を振りかざして追い出すと自分だけで陣地内のランチャーを操作した。
彼が覗くミサイルランチャーの赤外線誘導装置のモニターの向こうには、両腕の火器を熱で真っ赤に染めた鋼鉄の悪魔が戦友に暴威を振るっていた。
「食らえ!宇宙の化け物!」
陣地から対戦車ミサイルが発射されたのと同時に、シグーから放たれた砲弾数発が直撃した。
「わずかな間に…しかも傷一つつけられないだと!」
巧妙に市内に設営されていたミサイル陣地は、その殆どが壊滅していた。
残されていたのは、指揮官であるゲーレンの陣地のみだった…
「化け物かよ!」
自らのいる建物へと向かって来るシグーを見据え、彼は、肩に背負う対戦車ミサイルのトリガーに指をかけた。
「遅い!」
それよりも早く、シグーの右腕の重突撃機銃が火を噴いた。
重突撃機銃より発射された76㎜弾が大気を引き裂く轟音が、彼が知覚した最後の音であった。
ゲーレンが指揮所としていたビルの12階のフロアの一つに着弾した76㎜弾は、そこにいた人間達を纏めて吹き飛ばした。
辛うじて残っていた窓ガラスは、粉々に砕け、オレンジの爆光の中で、さながら夜の星の様に束の間の間、煌いた。
そこにいた者達は、死体すら残らなかった。
僅かに焦げたタンパク質が、建造物にこびり付いていたのみである。
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