真剣で私に恋しなさい!S~それでも世界は回ってる~
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34部分:第三十話 決死のダウンヒル対決
第三十話です
ではどうぞ〜
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第三十話 決死のダウンヒル対決
山頂に着いた俺達は、それぞれ自分の受け持った地点へと向かう。大和とワン子は最後まで念入りに作戦を確認し合っていたが、クリスと京は少しの話し合いで終わったようだ。恐らく正攻法で行くんだろうな。
「ゲームの進行は私達が責任もって監視してるからな」
「大和の状態がヤバいようなら無理に止めるからな」
「分かった。判断は2人に任せるよ。クリス。これで決着だ」
「受けて立つ!」
2人は互いの拳をぶつけて、お互いの健闘を祈る。
「よし!最終戦!始めっ!」
「そらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
「ついていく!」
「俺も適度に急ぐぜー!」
4人はそれぞれ飛び出していき、俺達はその姿を見送った。
「悠里、どっちが勝つと思う?」
「さぁねぇ?ただまぁ、大和に応援かな」
クリスは自身の価値観を相手に押しつけてる傾向がある。この対決を気に、考え方が少し柔らかくなってもらえば、と思うのだ。
「まあ、審判は公平にするけどな」
「そうだな。だが、私も弟を応援したいな。確かにクリは堅すぎる」
「それはともかく、まずはこの対決の成り行きを見守るとしよう」
俺はモモと共に移動を開始した。
同時刻、近場チェックポイント
「イェーイ!アタシ一番!!」
「うわぁビックリしたぁ!どっから出てくんの!?」
「山はアタシの庭よ。さぁ問題を出しなさいモロ」
「うん、まずジャンルを選んでよ」
「よくわからないけど物理!」
「1モルの理想気体の圧力p、体積v、絶対温度Tはボイルシャルの法則と呼ばれる状態方程式…」
「ちょっと日本語でしゃべりなさいよ!」
「ってか何で物理選ぶのさ!バカでしょ!」
わかりもしない物理を選んだワン子にモロが突っこんだ。それから1分経過。
「……1分。はいじゃあ次。ジャンルは?」
「日本史で!あ、ちょっと待って電話かける。大和に問題そのものを聞いてもらおう。……うわぁあああ圏外になっちゃったぁぁ!?こうなったらアタシがやってやるは!」
「じゃあ問題。江戸幕府13代将軍の名前は?」
「織田信長!!」
「何勝手に改ざんしてんの!徳川は当ててよ!」
結局ワン子はクイズを外してしまいまた1分のインターバルに入ってしまい、その間にクリス達に追いつかれてしまう。
その様子を見ていた悠里は……
「ワン子……後でみっちり勉強な……(ニッコリ)」
「こ、怖いぞ……悠里……(ガタガタ)」
黒い笑顔で言って、横にいる百代は震えていた。
「クリス、ジャンルは?西洋史?」
「当然日本史で行く!」
「江戸幕府8代将軍徳川吉宗は、米相場の安定に頑張った事から何将軍と言われたでしょう」
「これ簡単だね」
「ははは、もらったな、自分に言わせてくれ」
「うん、いいよ」
「暴れん坊将軍!」
「不正解。次まで一分待ってねぇ」
「や、米将軍だから……」
「なんだとっ!?」
間違えてる事を知ったクリスは愕然としてしまった。……てか、なんで安定させたのに暴れん坊将軍なんだよ……
そんな事を思っていると、クリスは自分が向いていないと判断したのか、その場を去った。そこへ遅れて大和も到着。
「大和問題行くよ。日本史?」
「ああ。物理は嫌だがそれ以外なら来い!」
「貞永式目の三条、八条はそれぞれ何の項目?」
「第三条・諸国守護人奉行事。八条・土地占有之事」
「流石だね。大正解!はいサインボール」
大和はクイズに正解して、サインボールを受け取る。そこで京も1分経過し、西洋史を選択する。
「カエサル派に暗殺された共和政末期の政治家は?」
「キケロ」
「はい正解。サインボールどうぞ。京もやるよね」
「さぁ京。競争しましょうか」
「ははは、頼んだぞワン子」
「その余裕が命取りすぎる」
「はい?」
「クリスが行ったのは他のチェックポイントでなく、ここから遙か下の道路。そして、私は……このボールを!」
京は受け取ったボールを大遠投して、下にいるクリスへと投げる。落下地点にはクリスが着いており、ボールをキャッチした。
「見事だ京。お前がパートナーで良かった」
受け取ったクリスそこからゴールに向けて走り出した。
「ほぅ……京も考えたな」
「ワン子とクリスの足はほぼ互角。初めのクイズで正解が無理なら京にクイズを任せて自分は移動、正解した京から遠投でボールを受け取る、か」
「くわえて、大和は風邪で走れない。ワン子との距離はかなり離れてるから、簡単には追い付けないだろう。正攻法だが、それ故に今の大和達にはツラい作戦だな」
その様子を見ていた俺とモモはそのやり取りを見ていて呟いた。けどそこは軍師大和、それの対策を考えていない訳がない。
「お?ワン子が走り出したな。大和も別方向に行ったな」
「……?……おいおい大和、まさか……」
「どうした?悠里?」
「モモ、先にクリスの方からゴール地点に向かってくれ。大和のやつ、かなり危ないかもしれない」
俺はモモを先にゴール地点に向かわせて、大和の監視に向かった。その頃、クリスの方では……
「150メートルは離れているな。余裕だ。お……?なんだ、犬が転んだぞ!大丈夫か。……あれ?立ち上がったが速度が遅すぎる…あの走り方、足を痛めたな。ふふ、これは余裕の勝負になったな。気持ちいいランニングとなりそうだ」
後ろで転んだワン子を見て、クリスは走る速度を落とした。その様子を遠くから見ていた百代は
「なるほどな……。そういうことか、悠里」
その一部始終を見て何かを察したのか、ニヤリと笑った。
まだまだこの勝負、行方がわからない。
大和side
俺は林の中を走り続けていた。さっき、ワン子の貰ったサインボールを服に隠して、チェックポイントから走ってきた。今頃、京はそれに気付いてクリスに連絡しようとしているのだろうが、クリスの番号は知らないままだから、クリスは遅く走ってるだろう。
「はあ——ハァ——負けねぇ!」
正直、かなりやばくなってきた。けど、負けない。俺をどこか侮ってるクリス。その気持ちを粉砕してやりたかった。正直あんな小細工でクリスが走る速度を落とすわけがない。結局は俺の走りに全てかかっている。
「ここだ……」
俺が辿り着いたのは、昨夜に姉さんに川に放り込まれた場所。ここから川へ飛び込めば最速のショートカット。が、かなり高い上に5月の冷たい川。俺は風邪。一瞬だけ戸惑ったが、
「くだらない事でも、俺は負けたくねーんだ!」
意を決して、叫びながら跳んだ。
ゴール地点の近くまで来ていたクリスは、キャップを視認するとそこへ急いだ。
「クリスこっちだ、俺にタッチすればゴールだぜ!」
ゴールは目前、ワン子は遙か後方。自分の勝利を確信した瞬間だった。
「風邪とはいえ、ぬるい勝負だったな。直江大和」
「大和、こっちだ。俺にタッチすれば勝ちだぞー!」
「——!?どこに向かって言ってる」
クリスは周囲を見回すと、大和が上流から走ってくるのを見つけた。
「!?何故?ボールは犬が……」
クリスは後ろを振り返ると、遙か後方でワン子はニヤリと笑った。
「しまった!!!!」
気付いたクリスは全力疾走するが、もう間に合わない。
「俺の、勝ちだぁぁぁー!!!!」
「ええええ飛び込んでくんのかよ!!!」
「キャップ避けるなよ!」
「ちっ、しゃあねぇバッチ来い!」
クリスが手を伸ばしているが、もう遅い。大和はキャップに勢いよく突っこんだ。その勢いでキャップは倒れて服はビチョビチョだった。
「勝者!直江大和!」
モモの声が響く。かくして2人の決闘は、大和の勝利で幕を閉じた。
決闘後、クリスに大和達がどんな作戦をしたかを説明する。
結局のところの敗因はクリス自信にある。普段通りにすればクリスの勝利は確実だった。ワン子の転倒を見て気がゆるんでしまい、それが敗因となった。
「少しは、ゼイ、ハァ、分かったか俺の実力」
「——ああ、許せ。お前は強い男だった。自分自身が未熟。またそれを思い知らされた」
「ふふ、分かればいいんだ!分かれば!——ガクリ」
勝ち誇った後、大和は気絶したやはり限界だったようだ。俺は大和を担いでひとまず旅館に向かった。
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次でラストです
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