猛者狩り
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
「それで終わりではあるまい」
「さらに上がありますか」
「私と共に目指すか」
「それでは」
「ではな、御主は私と共に来るのだ」
「そうさせて頂きます」
「私には望みがある」
稚児はここでだ、左の方を見た。その後ろには満月がある。
「その為に今は武芸も兵法も学んでおる」
「それは」
「私の名は牛若丸という」
ここで稚児は自分の名を名乗った。
「源義朝の九男だ」
「では」
「うむ、そなたは平家に恨みはあるか」
「それはないですが」
「それでもか」
「貴方と共に武芸を極めたいと思いました」
こう牛若丸に答えた。
「そしてその大望を聞いたからには」
「是非か」
「それはお一人では無理でしょう」
「そう思うからこそか」
「拙僧でよければ」
「共にだな」
「その背中をお護りします」
僧兵はこのことを誓い牛若丸の前に膝を屈した、牛若丸はその僧兵をすぐに立たせた。そのうえで彼の名を聞いた。
「名は何というか」
「武蔵坊弁慶といいます」
僧兵は牛若丸に自身の名を名乗った。
「かつては比叡山におりました」
「そこで僧兵をしておったか」
「暴れが過ぎて追い出されました」
「ははは、そうであるか」
「はい、ですがこれよりは」
「私の家臣としてだな」
「何処にでも参りましょう、そして」
そのうえでというのだ。
「この武芸を磨き役立つ道を探します」
「ではな、まずは鞍馬山に行こうぞ」
「さすれば」
こうしてだった、弁慶は牛若丸に従い五条大橋を後にした。清盛は翌日橋のところに来たがもう彼はいなかった。
誰もいない夜空の下の橋を見てだ、清盛は残念そうに後ろにいる家臣達に言った。
「もう願掛けは済んだか」
「そうやも知れませぬな」
「どうやら」
「では今宵はこれで」
「帰りますか」
「仕方ない、おらぬのならな」
それならというのだ。
「帰ろうと」
「はい、それでは」
「これで」
「ではな」
清盛は家臣達を連れて彼の屋敷に戻った、そして後にその僧兵の話を聞いてだ。こう言ったのだった。
「僧兵もその稚児も欲しかったな」
「どちらもですか」
「家臣に」
「うむ、その稚児が何処の誰か知らぬが」
それでもというのだ。
「どちらも見事な武芸者、欲しかったわ」
「一日違いで、ですな」
「残念なことをしましたな」
「全くじゃ、しかし何処に行ったかわからぬなら仕方ない」
それならというのだ。
「諦めようぞ」
「果たしてどういった者達だったか」
「気になりますな」
「大層腕のある者達だからこそ」
「それ故に」
「全くじゃ、縁があれば何処のどういった者かだけ知りたい」
清盛は今はこのことを願った、そして彼が今現在やるべきことに考えを向けた。それは宮中の政のことだった。
清盛はこの二人が誰だったか知らなかった、しかし彼は源頼朝が挙兵し彼のところに彼の弟である源義経と弁慶という僧兵が馳せ参じたことを聞いて忌々しげに言った。
「あの赤子の命を救ったことは誤りだったかもな」
頼朝もそうだったが彼を殺さなかったことを後悔した、あの稚児そして僧兵が何処の誰であったか知らないまま。
猛者狩り 完
2016・9・24
ページ上へ戻る