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真田十勇士

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巻ノ七十四 最後の花見その十二

「太閤様は充分生きられたのじゃ」
「そう言ってよいですか」
「あの方はそうは思われておらぬであろうがな」
 秀吉自身はというのだ。
「やはりな」
「お拾様が、ですな」
「うむ、元服されるまではと思われておるであろう」
「そこまで生きられれば」
「豊臣家は安泰であったが」
「しかしですな」
「これで危うくなった、しかしじゃ」
 ここで昌幸の目が光った、そのうえで幸村に問うた。
「源次郎、御主は次は徳川家だと思っておるな」
「天下人は」
「内府殿と見ておるであろう」
「はい」
 周りの気配を察してからだ、幸村は答えた。彼にしてもそう見ていたし天下の多くがそう見ているであろうと内心考えてもいた。
「それは」
「そうであろうな、しかし」
「それは確実ではない」
「人の見立ては天の動きと比べれば小さなことしかわからぬ」
「見立て通りにはならぬ」
「そうしたこともざらじゃ、わしも内府殿が次の天下人と見ているが」
 昌幸もだ、だがそれでもと言うのだ。
「しかしそれは確実ではない」
「では」
「豊臣家の天下も有り得る、そして次の天下人を決める戦が起これば」
 その時はというのだ。
「わしの星の見立てではすぐに終わるが」
「それもですな」
「御主も同じものを見ていたと思うが」
 だがそれでもというのだ。
「しかしそうなるとは限らぬ」
「所詮人の見立て」
「そうじゃ、所詮はな」
「だからですか」
「戦が起こり長引くやも知れぬし」
「我等の星の見立て通りすぐに終わるやも知れぬ」
「戦にならぬかも知れぬ」
 その可能性もあるというのだ。
「例えばお拾様がな」
「ですな、ご幼少故に」
「そうじゃ」 
 その通りという返事だった。
「それもある」
「そうですか、ではどうしたことになっても」
「真田家が良いようにする」
「ではどうされますか」
「何、既に考えてある」
 ここで昌幸はにやりと笑った、そしてこう幸村に言った。
「その時になれば話す」
「左様ですか」
「あわよくば勢力を大きくする」
 真田家のそれをというのだ。
「しかし基本は生き残ることが第一じゃ」
「当家が」
「そうじゃ、生き残ることじゃ」
 まさにそれだというのだ。
「第一にな」
「その為にですか」
「既に考えてある、しかし御主の話を聞く限り太閤様はな」
「最早」
「お命が尽きる」
 その時が近付いているというのだ。
「だから既に手を打たれているのであろう」
「五大老に五奉行にと」
「天下を治める仕組みをな、この軸はな」
「やはり内府殿ですな」
「天下第一の方じゃ」
 秀吉を置いてはというのだ、それはやはり家康だというのだ。
「あの方が五大老筆頭でな」
「太閤様がおられなくなれば」
「摂政と言っていい立場になられる」
「摂政ですか」
「周公旦と同じ立場となられるが」
 周の武王の弟だ、周が商を倒し周公の家である姫氏が天子となってすぐに王となった武王が崩御したが周公旦は幼い王を摂政として支え天下を治めたのだ。 
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