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インフィニット・ストラトス 黒龍伝説

作者:ユキアン
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揃う蛇の番




臨海学校が終わり、D×Dはおびただしい数の問い合わせを受けている。無論、万能航行艦オーフィスの問い合わせだ。人類初の万能航行艦であり、ISをIS以外で撃破した兵器でもある。アメリカやロシアなどからの購入したいやライセンス契約をしたいという話はまだ分かるが、お隣の国から意味がわからない要求や日本人からの武装解除しろという意味の分からない問い合わせなど、様々な問い合わせが続いている。とりあえず、うるさい日本人を黙らせるために本社、並びに工場を撤去。会社自体も解体し、アメリカ企業として再建。本社をアラスカに置くことにする。現在、アメリカ政府と交渉し終え、超大型ドッグを建造中だ。それとは別に宇宙にもドッグを建設し、既に廉価版の万能航行艦を製造中だ。

それに加え、ISの欠点を完全に取り払ったパワードスーツの量産も始める。ISコアと同じサイズにまでサイズダウンさせたプラズマリアクターを搭載した全身装甲のパワードスーツだ。これも前世の機動兵器を模して作ってある。パーソナル・トルーパー、略してPTだ。

ISに比べれば生存性は低いが戦車よりは高く、単独飛行距離・稼働可能時間は現行機を大きく上回る。コアをプラズマリアクターに交換して少し弄れば転用も可能だが、バリア系統や絶対防御は使用できないので意味はないだろう。また、ISの武装はエネルギー兵装以外はそのまま流用でき、PICも使用可能だ。PTにはPIC以外の推進システムとしてテスラドライブを搭載してある。

本来ならこんなものを世に出すつもりはなかったのだが、潰すと決めた以上はきっちり潰す。社会的にもだ。徹底的に擂り潰してくれる。そのための尖兵がゲシュペンストだ。前世に合わせればゲシュペンストMK-Ⅱ改・タイプNだが、つけるとややこしいのでゲシュペンストだ。

既にテストも済んで量産中だ。売り込みはまだ先で良い。篠ノ之束が何か大きなことを起こした際に颯爽と登場して華々しいデビューを飾らせる。そしてISを駆逐する。絶対にだ。






お姉ちゃん達の部屋で一般常識の勉強をしている横でお姉ちゃんがカタログを私の方に広げて見せてきた。

「ラウラ、浴衣と帯の生地はどれが良い?」

「浴衣?」

「日本の夏場の伝統衣装だよ。週末に夏祭りがあるからそれに一緒に来て行こう」

「お兄ちゃんも着ていくのか?」

「そうだよ。クラリッサさんも用意しているみたいだからラウラもね」

カタログには赤やらピンクやらの派手な色の生地が多い。

「どれが良いのかさっぱり分からん。流行りはどんな感じなんだ?」

「今年はピンクに金で柄を入れたもので、帯は白と言うか、シルクでレースをあしらった物かな。こんな感じのやつ」

そう言ってカタログを何ページかめくって見せられた流行りの浴衣を見たのだが、何と言うか下品だと思う。お兄ちゃんやお姉ちゃんに教えられた日本の侘寂を溝に捨てたような感じだな。

「お姉ちゃんはどんな感じ?」

「私のは、元士郎が染め上げて刺繍を施してるから。最近のは下品だからね。老舗のは週末までに間に合わせるのが大変だから」

「そんな簡単に作れるものなのか?」

「普通は無理だけど、元士郎、そんじょそこらの職人より職人気質だから洒落にならない品質で仕上げてくれるよ」

ちょうどタイミングよくドアがノックされ、お兄ちゃんが帰ってくる。

「出来上がったぞ」

「ちょうどよかった。ラウラに見せてあげたいんだけど大丈夫かな?」

「問題ないな」

浴衣を預かったお姉ちゃんは脱衣所に向かい、お兄ちゃんはカタログを見て顔を顰める。

「相変わらず派手で下品で値段も高いな。風流も理解していないしな」

「やはりそう思うのか?」

「ISが登場してからはずっとこんな感じだ。別に悪いというわけではないが、金色を使いすぎだ。生地も原色に近いのを使ってるからな。もっと淡い色を使った方が良いのにな。簪の浴衣はこれらの対極を行くから目立つぞ」

「そんなにか?」

「赤系の中に青系が混ざるんだからな。それも淡い色で柄もワンポイント。帯も同様に単色の紺色に正面にワンポイントが見える程度だ。渾身の出来だからな、これぞ真の浴衣だ」

お兄ちゃんがそこまで言うのなら本当にすごい出来なのだろう。楽しみにしながら待つこと10分ほど、お姉ちゃんが脱衣所から出てきて声を失う。カタログのものとは違い、淡い水色の生地に左足辺りにが描かれていて、深い紺色の帯には金色の蝶が水仙に誘われるように舞っている。

「綺麗」

「ありがとう、ラウラ」

「サイズの方も大丈夫みたいだったな。やっぱり浴衣は涼しげじゃないとな」

「相変わらずセンスが良いよね、元士郎。大変だったでしょう?」

「簪を綺麗にするためなら苦労でも何でもないさ」

「ありがとう。とっても気に入ったよ。それで、ラウラの分も頼んでいいかな?」

「そう言うと思って用意しておいた。着付けをしてやってくれ。あと、眼帯はこれね」

「それじゃあ着替えてみようか、ラウラ」

「うん」

脱衣所に連れて行かれ、着替えさせてもらいながら着付け方を教わる。

「へぇ~、なるほどね。眼帯も衣装の一部なんだ。なら、髪は結い上げたほうが良いね」

後のお楽しみだと鏡を見せてもらえずにいるが、お姉ちゃんの言葉から中々すごい柄なのだろう。

「はい、出来上がり」

そう言って鏡を隠していたタオルを取り払ってくれて、綺麗だと思える私が立っている。黒地に右足あたりには淡い赤色の紫陽花の隣には緩やかな川が流れ、蛍が舞っている。そして眼帯には風鈴が描かれている。夏の風物詩をこれでもかと盛り込んでいるが、夜を表現する黒地の面のほうが大きいからか、自然と一枚の絵を見ているような感じに囚われる。

「うん、ラウラも綺麗だよ」

「うん」

「やっぱり浴衣はこういうのが華美じゃない方が良いよね。着物はまた別だけど」

「違うのか?」

「着物って一言で纏めてあるけど、やっぱり目的別に避けた方が良い色とか装飾とか柄があるからね。そこは元士郎が詳しいから任せても良いし、一緒に選んだりすると良いよ。今回は急遽用意したからこんな感じだけどね」












『座の貴方、運命の人に出会えるチャンス。今週のラッキーアイテムは浴衣と草履』

「蘭、運命の人に出会えるチャンスですって。ちょうど週末は夏祭りがあることだし、行ってきなさいな」

お母さんがテレビを見ながらそんなことを言うけど、あまり出歩きたくないかな。

「う~ん、生徒会長なのに休み前から謹慎を貰っている身としては自粛した方が良い気がするんだけど。あと、占いってあまり気にしたこと無いんだけど」

「だけど蘭、貴方は間違ったことはしてないと思ってるんでしょう?」

「やりすぎた感はあると思ってるけどね。綺麗に入りすぎて左腕と肋骨を4本も折っちゃったし。いくら相手が強盗でも、ちょっとは罪悪感が」

昔から、蹴りには自信があってお兄を蹴る時は気を使ってたんだけど、相手は強盗で刃物を持っていたから、ついつい本気で蹴っちゃったんだよね。おかげで学校からは無茶をしたことと、一歩間違えれば傷害罪だったことから謹慎処分を受けてしまった。

「ほら、弾。貴方も何か言いなさいよ」

「まあ、確かにやりすぎだとは思うけどよ、お前の学校の子達、皆心配してたぜ。その子達にも大丈夫だって顔を見せてやれよ」

「そこまで言うのなら」

「それにほら、一夏の奴とか鈴も来るらしいしさ」

「ああ、織斑先輩と鈴さんか」

鈴さん、なんであんな男のことが好きなんだろう。

「そういやお前、一夏のことはそんなに好きじゃなかったっけ、今まで聞いたことがなかったけどなんでだ?」

お兄が私の機嫌が悪くなったことに気付いたのだろう。親友を悪く言われるのは嫌なのだろう。男同士でもよくつるめるよね。

「まず、私の個人的な好き嫌い。軽くて何も考えてなさそうな所が大っ嫌い。それから他人に興味を持っているのかが怪しい所も嫌い。鈴さんとか、他にも色んな女の子たちがアタックしてるのに、誰に対しても同じ対応なんだよ。相手が誰でも一緒って公平に見えるけど、相手のことを評価しないってことだよ。優しくしているようで、機械的に捌いているだけ。お兄とは兄妹だからこその近親的な嫌悪とかあるけどさ、織斑先輩にはそれ以上の生物的な嫌悪感があるの。一度冷静に考え直してみてよ。感情なんかは全部捨てて、織斑先輩がやってることを紙に書いてみてよ。気持ち悪い人物像にしかならないから」

「お前、そこまで言うか普通!?」

お兄がドン引きするだろうから今まで言わなかっただけ。

「お兄が聞きたいって言うから話してあげたんでしょ」

「じゃあ、逆にどんな奴が好きなんだよ」

「まあ、最低条件として私をちゃんと見てくれる人。物理的に見るじゃなくて心を私に向けてくれる人だよ。他に誰か好きな人が居ても別にかまわないかな。皆まとめて多少の差はあれど愛してくれれば。あと、他の女の子同士でも仲が良ければね。それからしっかりとした現実を見て、将来も見据えていて頼れる人。私も女の子だし、男の人には甘えたいし頼りたいから。容姿は特にどうでもいいや。いや、チャラいのはパス。そんな感じかな。具体的にこれって人は居ないや」

「ハードルが高いような、低いような、良く分かんねえや」

「蘭ならもっと上を狙ってもいいと思うのに」

「お兄がお兄じゃなくて、今よりちょっと真面目になって、私を一人の女の子としてみてくれてればOKかな」

「ハードル低いな!!ってか、オレってそんなふうに見られてたの!?」

「まあ兄妹だからフラグは絶対建たないけどね。残念でした」

「お前をそんな風に見たことねえわ!!」

「あはは、そんな風に見てたら今頃蹴り潰してるって。さてと、折角ラッキーアイテムが浴衣と草履ならちゃんと用意しようかな」

「なんだ、買いに行くのか?」

「お母さんのお古でいいよ。最近のデザインは趣味じゃないの。多少裾を上げたりする必要はあるだろうけどね。あっ、おじいちゃん、物置のアレ、持っていってもいいかな?」

「アレ?ああ、アレか。構わねえが、大分草臥れてるぞ」

「多少の手入れぐらいなら出来そうだから大丈夫だよ。この前見つけてから気に入ってたんだ。こんな時ぐらいじゃないと着けれないしね」

占いって今まであまり信じてなかったけど、今回だけは信じて良いと思うなんて、謹慎でちょっと疲れちゃったのかな?一番良いのを準備してるなんて、普段の私なら考えられないや。










うむ、簪とラウラの浴衣が目立っているな。自分の作品が評価されるのはやはり良い。

「いや、目立っているのは元士郎の腰のそれだと思うよ」

「からからと良い音が鳴っているが、何故よりにもよってそのチョイスなのだ?」

そう言ってラウラが指を差す先にはオレの浴衣の帯に紐で括り付けられている般若面、泣き崩れている翁面、狐面の3つだ。ちなみに頭には珍しい蛇面を斜めに着けている。

「魔除け。霊感が強い所為でよく群がられるからな。雑魚霊が近づけないように威嚇の意味で着けてる。神社とか墓地で写真を取ると必ず写ってるからな。周りの迷惑にならないようにしてる」

「はい?」

「口で説明するより体験するほうが早いな」

3つの面をISに収納するように見せて影の中にしまい込み、自前の携帯で自撮りしてラウラに見せる。

「ほれ、こことかこれがそうだな。動物霊だけど写ってるだろう」

「……早く着けなおせ!!そんな簡単に写すな!!」

「勝手に寄って来るんだよ」

面を着けなおして再び自撮りして見せれば何も写っていない。

「いいか、絶対に外すなよ!!フリじゃないからな!!」

「分かってるって。おっ、珍しいな。飴屋があるぞ」

「飴?珍しくも何ともな、何だあれ!?」

「固まる前の飴をああやってハサミで加工して形を作るんだよ。動物が多いな。まだ残ってるんだな」

「おう、坊主。両手に、花ってわけじゃねえな。親子にも見えねえが、眼鏡の嬢ちゃんと夫婦で雰囲気は親子そのものだな」

「よく言われるよ。弟子はいるのか?」

「いいや、儂の代で終わりだな。まあ、最近は洋菓子なんかでも飴の加工は流行っているみたいでな、完全に廃れることはなかろうよ。最も、オレ達飴職人が手先の器用さじゃ負けることはねえよ」

「そうだな。まだまだ頑張ってくれ。3つ貰おう」

「1500円だ」

「ラウラも簪も好きなのを選びな」

代金を支払いながら鷲の形の飴を取る。ラウラは兎で簪は鯉の飴を取る。

「う~む、これで500円は安いな。こんな芸術品が廃れていくのか」

「完全に廃れることはないさ。日本の伝統文化のしぶとさは折り紙付きだ。民族性も特異だしな。国内に入ってきた食べ物は全部原型が壊れるぐらいにアレンジしたり、他国じゃ考えられないような耐久度の工業品を職人技で作ったりする国だからな。あと、宗教観が他国じゃ考えられない。仲の悪い宗教の教徒が同じ飯屋で相席して笑っていても違和感がない国だからな」

「それはそれでちょっと怖いな」

「気楽な国だと思えばいいさ。武器と核以外に関しては寛容な国だ」

「そんなものか、おっ、クラリッサ」

「こちらに居ましたか、隊長方」

「何処に行っていたんだ」

「それはもちろん初めての事をして色々と慌てる隊長の姿を記録に残そうと屋台を見回っていました」

「くっ、またゲームセンターの時みたいに笑い者にする気か」

「まあ、あまり楽しめそうなものはありませんでしたけどね。精々が金魚すくいです」

「ああ、金魚すくいか。風情があっていいなんて言われているが、虐待物だからな。狭い空間で水中の酸素が少なくて追い掛け回され続けて弱っている奴からすくい上げられて、今まで以上に狭い上に酸素の薄い袋に入れられ、挙句の果てに振り回される。そして止めに知識もなく水道水にぶち込まれて死んでいく」

「おい馬鹿止めろ!!なんでそんなことを説明するんだ!!」

「救いとは一体何なんだろうな」

「よりにもよって店の目の前でやるなよ!!子供がドン引きして、店員が睨んでるだろうが」

「業界の方じゃ、弱った奴から押し付けるのが常識でな。あと、この店は不良店だ。ポイの紙が5号しか見当たらん」

「5号?」

「紙の厚さだ。5号が一番薄くて破れやすい。普通は子供や女性用に4号も用意するのが普通だ。それを誤魔化すために普通はポイを背中に隠すんだよ。客によって振り分けているのを気づかれないように。けど、この店、裏に5号のダンボールしか見当たらない。他の店を使ったほうが良いな」

店員の顔が驚愕に染まっていく。

「金魚さん死んじゃうの?」

周りにいた幼い女の子が泣きそうな顔でオレの浴衣を引っ張って問いかけてきた。

「大丈夫だよ。ちゃんと勉強して環境を、お家を作ってあげてお世話をしてあげたら長生きするよ。お父さんかお母さんに調べてもらって、大事に育ててあげるんだよ」

「うん」

女の子が何処かへと行くのを見送るとラウラが訪ねてくる。

「長生きってどれぐらいだ?」

「まずは最初の3日ほどが山場だ。そこをなんとか超えれば5年は余裕だな。あと、水槽のサイズで何故かサイズが変わってくる。サイズ差が大きいと共食いもするからな。2匹ぐらいが手間もかからずに育ててれる」

「結構な数が入っていなかったか?」

「半分生き残ればラッキーだな。一番難しいのが袋から水槽に移すときだ。水道水の場合はカルキ抜きのために中和剤を入れるか、一日ほど汲み置いておく必要がある。あとは水温も同じ温度になるように調整してやる必要があるし、エアサーキュレーターの調整も結構面倒だ。酸素は薄くても濃くても駄目だからな。駄目だと3日で全滅だろうな」

「たかが金魚なのにか」

「弱ってるのが一番の問題なんだよ。普通にペットショップなんかで売ってるのは元気だからそこまで気を使わなくても安定して飼える」

って、金魚談義はもういいや。とりあえず、この店はパスだなパス。







久しぶりに会った皆は元気そうでよかった。まあ、注目は頭に斜めにかけてる白蛇のお面に集まってるけど。物置を掃除している時に見つけた物で、昔っから家においてあったそうだ。曰く有りげな雰囲気から捨てられずに、たまに綺麗にされてたみたいだけど、私はそれを気に入った。何処に惹かれたのはわからないけど、綺麗に誇りと汚れを落として、禿げた塗装を塗り直して頭に着けて来ている。縁起物の白蛇だから疑問には思われても受け入れられている。

「そう言えば向こうの方で蘭みたいに凝ったお面を着けてる男の人がいたよ。腰にも3つぐらい着けてたけど」

「そうなんだ。珍しい人ね」

「それに女の子二人と来てるみたいなんだけど、一人は眼帯なんて着けてるんだ。けど、それが浴衣の柄に合わせられてて綺麗だし、もう一人の女の子の浴衣も物凄く綺麗だったな」

「ふ~ん、それって今の流行りとは全く別物だよね」

「そうだけど、今のってほら、派手すぎだし、なんかこれじゃないって感じがね」

「分かる分かる。成金趣味っぽくて可愛いって感じじゃないものね」

「それに高いから、手を出そうとも思わないしね。有名人とかが着て宣伝してるけど、あれって浴衣じゃないよね」

「おかげでお古なんだよね。はぁ~、幼い感じで嫌だけど、成金趣味よりはマシかな」

「う~ん、さっきの子達に何処で買ったのか聞いとけば良かったかな」

そんな話をしながら適当にぶらつきながら出店を冷やかす。そんな風に祭りを楽しんでいると怒鳴り声と女の子の泣いている声が聞こえてきた。そっちに向かって走ると酔っぱらっているおばさんが女の子に向かって怒鳴っていた。よく見てみれば、足元が濡れていて金魚が踏み潰されていた。女の子のお母さんが慌ててやってきて酔っ払っているおばさんに謝っているけど罵詈雑言を浴びせている。そして、遂には女の子のお母さんを殴り飛ばして、女の子を蹴り飛ばした。更にはビール瓶を持って振りかぶる。

「流石にそれはやり過ぎでっしょっと!!」

ビール瓶を握るところを見た時点で走り出していた私は倒れている女の子を庇うように覆い被さる。次の瞬間、背中に強い衝撃と瓶が割れる音とビールが私に掛かる。今のはシャレになってないって。この子の命が本気で危なかった。

「何よアンタは!!私の邪魔をして!!」

「うるさいわよ、おばさん!!こんな小さな子供相手に暴力を振るうどころか、命を奪うようなことまでして!!おばさんこそ皆の邪魔よ!!」

「ただの小娘が!!私を誰だと思っているのよ!!私は女性権利保護団体の理事なのよ!!誰のお陰で今の世の中を暮らせてると思ってるのよ!!」

こんな奴らがいるから女性権利保護団体は嫌いなんだ。あんたらが居なくても女性は強いのよ。

「酔っぱらいのおばさんでしょうが!!おばさんなんかの世話になるなんて人として恥ずかしくてまっぴらゴメンよ!!それにおばさんたちが強気になれるのはISがあるからでしょうが!!なら、今の世の中を作ったのは篠ノ之束で、おばさんたちは虎の威を借る狐でしょうが!!この前もデュノア社の件で不祥事を起こしておいて、小さなことかもしれないけどこんな不祥事を起こして、ただ単に弱い立場の者を食い物にして好き勝手に偉そうにしたいだけじゃない!!おばさんたちが言う傲慢な男たちと一緒じゃない!!」

「何の苦労も知らない小娘が!!」

そして、ものすごい速度で二本目のビール瓶を投げつけてくる。後で絶対に仕返ししてやる。そう思いながら女の子を守るために覆い被さろうとする前に、誰かが私とおばさんの間に立ちふさがり、ビール瓶を掴み取る。

「中々の啖呵だ。まだまだ世の中、捨てたもんじゃない」

その声に心臓が跳ねる。後ろ姿しか見えない上にお面を着けているはずなのに、その顔が見えるような気さえする。私はこの人を知っている?

「簪、ラウラ、二人を頼むぞ」

「此処を離れるよ。あとは元士郎に任せておけば大丈夫」

いつの間にか傍にやってきていたメガネを掛けた女の子と銀髪で眼帯をした女の子が私と倒れている女の子を連れてあの場から離れさせられる。待って、あの人の傍に居させて。抵抗しようにも背中が結構痛いのと草履で踏ん張りが効かせにくい所為で抵抗が難しい。だから、少しでもその姿を見ようと首だけでもそちらに向ける。そこには割れて殺傷力が上がったビール瓶を持つおばさんに剣を突きつける黒い騎士の姿があった。

「あれは」

その姿に胸が張り裂けそうになる。その背中を、白いマントとそれに刺繍された紋章を何度も見てきた。いつも前に立って私達を守り、誰にも知られない場所で一人孤独に戦い、周りの重圧に耐えながら私達に笑顔を見せ続けてきた騎士。私が、私達が愛した人。黒蛇龍帝、匙元士郎。最後に見た顔は希望が見えずに絶望しきった顔だった。背中しか見えなかったけど、今は笑えているのだろうか?笑えているのなら、私もその隣で一緒に笑いたい。笑えていないのなら、私が笑わせたい。どっちですか、アナタ?






男性適合者の保護条約に基づき、ISを展開してババアを完全に無力化させてから警察に引き渡し、証拠の動画を撮影していた人たちにネット上に掲載してもらって完全に手出しができない状況にする。祭りの参加者には報道関係者も混じっていたらしく、後日インタビューを受けることで正しく報道してくれると保証してくれた。後片付けを祭りのケツ持ちに任せて社務所の方で手当を受けている親子と子供を庇っていた娘の所へと向かう。

「ラウラ、そっちはどうだ」

「クラリッサ達が簡単に診察しているが問題はなさそうです。一応蹴られた子供は念の為に病院でちゃんと検査をした方が良いかも知れないと。そちらは?」

「わざと態度だけで挑発して武器をもたせた。おかげでオレがISを使っても問題ないなかったからな。それでも逆上して襲ってきたから無力化して警察に引き渡した。証人も大量にいるし、既にネット上で証拠の動画が拡散中だ」

「またもや大失態ですね」

「そうだな。中、入っても大丈夫か確認してもらえるか」

「むっ、ああ、そうか」

社務所内に入っていくラウラを見送りながら、まだ微妙に男と女という境界を理解しきれていないのか悩んだのかと頭を抱える。まあ、この調子なら大丈夫だろう。たぶん。

「大丈夫だそうだ。子供の母親と庇っていた子が礼を言いたいそうだ」

「そうか」

社務所の中へと入り、襖をノックする。

「はい」

「オレだ。入っても大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

簪に招かれて入った部屋には簪の他に母親とその膝で眠っている少女とその少女を庇っていた娘がバスタオルを羽織って座っていた。

「そっちは大丈夫だった?」

「それを説明しようと思ってね。とりあえず、あの酔っぱらっていたおばさんは傷害罪に器物破損罪で警察に捕まりました。少し前なら女性権利保護団体の圧力がかかる所ですが、そちらは以前のデュノア社の失態で影響力を減らしていますし、周りの皆さんの協力もありまして動画をアップロードしたりして情報を拡散してもらっています。直接的に手を出されるようなことにはならないでしょうし、狙いは私の方に移ったでしょう」

「大丈夫なのでしょうか?」

「何、これでも腕に自信はありますし、2番目の男性適合者ってことで色々と法に守って貰えるので大丈夫ですよ」

「あなたが!?」

「ええ。ですので、私の心配は無用です。お子さんの方は大丈夫でしょうか?」

「え、ええ。クラリッサさんが見てくれましたが、たぶん問題はないだろうと。一応、病院で検査した方がいいからと車で送ってくださるそうで」

「そうですね。ああ、それと、この子が起きたらこれを」

近くで見ていた金魚すくいの屋台の兄ちゃんが持たせてくれた金魚が入ったビニール袋を渡す。

「これは?」

「この子とは金魚すくいの屋台の前で会っていましてね。嬉しそうにしていたのにあんなことがあってかわいそうだと思っていた所に、あの近くに居た屋台の人が持たせてくれまして。ちょっとだけ悪い夢を見ていたんだと。この子にはそれで十分でしょう」

「ありがとうございます」

「私よりも礼はあの娘に。あの娘が居なかったら、もっと酷いことになっていた。怪我はなかったか?」

「うぇぁ!?だ、大丈夫です!!」

「流行物よりは薄いけど生地が若干厚めだったおかげで割れたガラスは薄皮までしか届かなかったみたい。あとは多少の打撲だけど、2日ほどで治ると思う」

「そうか、よかった。もう少し早く駆けつけられれば良かったのだがな」

「いえ、助けていただいてありがとうございます、先輩」

「うん?何処かで会ったことがあったか?」

おかしいな、記憶には引っかからない。

「えっと、その、駒王で」

「「えっ?」」

「えっ?」

少女を庇った娘も驚いているが、これは簪が驚いたことに関してだ。念の為に確認だ。

「黒髪ショート眼鏡をかけた生徒会長にあった時?」

「そ、そうです!!支取生徒会長と会った時です!!」

「そうか。あの時のか。懐かしいな」

丁度タイミングよくクラリッサが入ってきて、少女と母親を部屋から連れ出す。それに合わせて簪も部屋から出ていく。気を使わせてしまったな。念の為に結界も張っておく。

「これ、結界?じゃあ、やっぱり、アナタなの?」

「留流子で間違いないな?」

「はい!!」

留流子が涙を流しながらオレに抱きついてくる。それを優しく抱きしめて髪を手ですいてやる。

「よかった。今年に入ってから運は完全にオレに味方しているようだ。皆とまた出会えた」

「皆、じゃあ、さっきの眼鏡をかけた娘は」

「ソーナだ。今は更識簪であの親子を送ったのはセラ、今はクラリッサ・ハルフォーフだ。そして、オレは今も変わらず匙元士郎」

「ソーナもセラさんも一緒なんだ。だから、アナタは笑えてるんだ」

「そうだな。皆が居なくなった後も長い時間を生きた。辛いことや苦しいことが多かったがそれでもいくらかの楽しみもあった。それでも、何事にも終わりがあって、それなのに何故か続きが存在しているんだ。まだまだ苦しむ必要があるのかと思っていたが、それも15年で済んだ。また、オレの傍にいてくれるか?」

「アナタが望む限りずっと」

「ありがとう。今度は死が別つことすら出来ない力を与えることも出来る。世界の終わりまで共に居て欲しい」





 
 

 
後書き
当初の予定(キャノンボール・ファスト)より早いけど留流子も合流です。高機動で蹴り技主体の専用機も用意します。ついでにエタりそうになってきたので時系列を多少変更して次回は夏休み後半と言う名の留流子専用機紹介、キャノンボール・ファストの準備、本番。その次に学園祭の準備と生徒会主催の劇、大乱闘スマッシュIS。その次にオリジナルの兎狩りでエピローグまで一気に走ります。 
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